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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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60/132

第60話 選ばなかった未来

「――あなたの、もう一つの可能性だよ」


少女は。


そう言って笑った。


「……俺の?」


「うん」


銀色の髪が。


風もないのに揺れている。


赤い瞳。


そこには。


どこか。


俺と同じものがあった。


怒り。


悲しみ。


寂しさ。


そして。


強い意志。


「お前は……誰だ?」


俺が尋ねる。


少女は。


少し考えてから。


答えた。


「名前はないよ」


「名前がない?」


「だって」


少女は。


自分の胸に手を当てた。


「私は」


「選ばれなかったから」


「……」


「あなたが」


「違う未来を選んだ時」


「私は」


「ここに残った」


俺は。


周囲を見た。


そこには。


百七十二の世界。


俺が見てきた。


失敗した世界。


犠牲を選んだ世界。


誰かを救えなかった世界。


そして。


そのすべての世界に。


人がいる。


「……みんな」


アリアが。


小さく呟いた。


「生きてる……?」


「あれは」


少女が。


答える。


「生きてる未来」


「……未来?」


「うん」


「過去じゃない」


「全部」


「可能性」


俺は。


一つの世界を見る。


そこには。


幼い俺がいた。


ユウトもいる。


でも。


俺たちの知っている世界とは。


少し違う。


ユウトは。


病気になっていない。


俺も。


普通に学校へ行っている。


二人で笑っている。


「……」


胸が。


痛くなった。


「これが」


「俺が選ばなかった未来?」


「そう」


「じゃあ」


俺は。


少女を見る。


「どうして」


「俺たちは」


「この世界に来た?」


少女は。


少しだけ。


寂しそうに笑った。


「あなたが」


「未来を選ぼうとしたから」


「……」


「今まで」


「あなたは」


「過去を変えようとした」


「誰かを救おうとした」


「犠牲をなくそうとした」


「世界を作り直そうとした」


「でも」


少女は。


俺を真っ直ぐ見る。


「今は」


「未来そのものを」


「選ぼうとしている」


「……」


「だから」


「ここに来た」


俺は。


少女に近づく。


「それで」


「お前は」


「俺に何をさせたい?」


少女は。


答えなかった。


代わりに。


手を伸ばした。


「触って」


「……?」


「私の手に」


俺は。


少し迷った。


だが。


手を伸ばす。


――触れた。


その瞬間。


世界が。


反転した。


「――っ!」


頭の中に。


大量の映像が。


流れ込んでくる。


一つ。


また一つ。


世界。


世界。


世界。


百七十二。


いや。


それ以上。


数え切れないほどの未来。


笑っている俺。


泣いている俺。


怒っている俺。


一人で立っている俺。


誰かと手を繋いでいる俺。


王になった俺。


冒険者になった俺。


村で暮らす俺。


世界樹になった俺。


そして――


誰も救えなかった俺。


「……!」


俺は。


膝をついた。


「レオン!」


アリアの声。


「大丈夫!?」


「……大丈夫」


息を整える。


少女を見る。


「今のは……」


「あなたが」


「選ばなかった可能性」


「全部?」


「全部」


「……多すぎるだろ」


少女は。


笑った。


「可能性って」


「そういうものだよ」


「一つじゃない」


「無限にある」


「じゃあ」


俺は。


立ち上がる。


「その中から」


「一つだけを」


「選ぶのか?」


「そう」


「でも」


俺は。


首を横に振った。


「嫌だ」


少女の表情が。


変わった。


「……どうして?」


「俺は」


「もう」


「一つだけを選ぶことが」


「正しいとは思わない」


「……」


「誰かを選べば」


「他の誰かを」


「捨てることになる」


「でも」


少女は。


静かに言った。


「何も選ばなければ」


「何も始まらない」


「……」


「未来って」


「選ぶことでしか」


「生まれないんだよ」


「それは」


「分かってる」


俺は。


拳を握った。


「だから」


「俺は」


「選ぶ」


少女が。


少し驚く。


「何を?」


俺は。


仲間を見る。


アリア。


セリア。


セレナ。


ノア。


エリス。


カイン。


リナ。


ミア。


ユナ。


ユウト。


そして。


もう一人の俺。


全員。


ここにいる。


「俺は」


「一人の未来を」


「選ばない」


「……」


「みんなが」


「それぞれ」


「自分の未来を選べる世界を」


「選ぶ」


少女は。


しばらく。


俺を見つめていた。


そして。


笑った。


「やっぱり」


「そう言うと思った」


「……」


「あなたは」


「私とは違う」


「お前とは?」


「私は」


「ずっと」


「選ばれなかった」


「だから」


少女は。


胸に手を置いた。


「選ばれることを」


「待ってた」


「……」


「誰かに」


「私を選んでほしかった」


「だから」


「あなたを」


「ずっと待ってた」


俺は。


その言葉を聞いて。


胸が痛くなった。


「……悪かった」


「え?」


「俺が」


「お前を」


「見つけられなかった」


少女が。


目を見開く。


「……」


「お前も」


「俺の一部なんだろ?」


「……うん」


「だったら」


俺は。


手を差し出す。


「一緒に来い」


少女が。


固まる。


「……え?」


「俺たちの世界に」


「でも」


「私は」


「選ばれなかった未来」


「だから」


「関係ない」


俺は。


笑った。


「今」


「俺が選ぶ」


「……」


「お前を」


「俺たちの仲間として」


少女の瞳から。


涙が。


一粒。


落ちた。


「……ずるいよ」


「何が?」


「そんなこと」


「言われたら」


「……」


少女は。


俺の手を握った。


「断れないじゃん」


その瞬間。


銀色の光が。


少女の身体から。


溢れた。


そして。


少女の姿が。


少しずつ。


変わっていく。


銀色の髪。


赤い瞳は。


そのまま。


だが。


胸元に。


一つの鍵が。


現れた。


「……鍵?」


ユウトが。


驚く。


少女は。


自分の胸を見た。


「これは……」


鍵には。


文字が刻まれていた。


『可能性』


「……」


俺は。


五つの核を見る。


世界。


存在。


願い。


約束。


自由。


そして。


新たな鍵。


可能性。


「六つ目……」


セリアが。


呟く。


だが。


少女は。


首を振った。


「違うよ」


「え?」


「これは」


「六つ目じゃない」


「じゃあ?」


少女は。


俺を見る。


「あなたたちが」


「忘れていたもの」


「……?」


「可能性は」


「鍵じゃない」


「未来そのもの」


その瞬間。


百七十二の世界が。


一斉に。


輝いた。


「……!」


無数の世界から。


光が。


こちらへ流れてくる。


一つ。


また一つ。


俺の胸へ。


ではない。


みんなの胸へ。


アリア。


セリア。


セレナ。


ノア。


エリス。


カイン。


リナ。


ミア。


ユナ。


ユウト。


そして。


もう一人のレオン。


全員に。


光が宿る。


「……これは」


アリアが。


胸元を見る。


「私にも」


「うん」


少女が。


頷く。


「あなたたちが」


「自分の未来を」


「選ぶための力」


「……」


俺は。


その光を見つめる。


不思議だった。


今まで。


鍵は。


俺だけが持っていた。


俺だけが。


世界の答えを背負っていた。


でも。


今は違う。


全員が。


光を持っている。


「……これなら」


俺は。


呟く。


「一人で」


「世界を変えなくていい」


ユウトが。


笑う。


「最初から」


「そうだったんじゃない?」


「……」


「兄ちゃんが」


「一人で背負ってただけ」


俺は。


苦笑した。


「そうかもな」


その時。


突然。


世界が。


大きく揺れた。


――ドンッ!


「きゃっ!」


「何!?」


少女が。


空を見上げる。


「……来た」


「何が?」


「最後の」


「観測」


「……?」


空が。


割れる。


黒い亀裂。


その向こうから。


巨大な赤い瞳が。


現れる。


観測者。


いや。


それよりも。


さらに大きい。


「……」


俺たちは。


息を呑む。


巨大な瞳の周囲には。


無数の鎖。


そして。


その鎖に。


縛られているのは。


観測者だった。


「……!」


観測者が。


苦しそうに。


顔を上げる。


「レオン……」


「観測者!」


「聞け」


「……」


「奴らは」


「この世界を」


「壊すつもりだ」


「なぜ?」


「お前たちが」


「選択を」


「変えてしまったからだ」


「……」


「管理できない未来は」


「彼らにとって」


「存在してはいけない」


巨大な目が。


こちらを見る。


『可能性を確認』


『世界構造の逸脱を確認』


『選択システムの破損を確認』


『よって』


『第百七十三番目の世界を』


『完全消去する』


「……!」


ユナが。


俺の服を掴む。


「お兄ちゃん……」


「大丈夫」


俺は。


言った。


だが。


巨大な目の下に。


さらに。


無数の光が。


浮かんだ。


それぞれ。


一つの世界。


そして。


その世界の中に。


人々がいる。


「……あれ」


俺は。


息を呑む。


百七十二の世界。


その全部。


まだ。


完全には消えていなかった。


「……生きてる」


少女が。


頷く。


「うん」


「みんな」


「まだ」


「可能性として」


「残ってる」


「……」


なら。


答えは。


一つ。


俺は。


剣を抜いた。


「だったら」


「やることは」


「決まってる」


アリアが。


隣に立つ。


「世界を」


「救う?」


「いや」


俺は。


首を横に振る。


「世界を」


「選ぶんじゃない」


「……?」


俺は。


百七十二の世界を見る。


そして。


今いる世界を見る。


「全部の世界に」


「選ぶ権利を」


「返す」


巨大な目が。


初めて。


大きく揺れた。


『それは』


『不可能』


「何度も聞いた」


俺は。


笑う。


「でも」


「不可能だったことが」


「可能になった瞬間を」


俺は。


何度も見てきた。


「だから」


「もう一度」


「やってみる」


その瞬間。


少女が。


俺の隣に並んだ。


「私も」


「……」


「今度は」


「選ばれるのを」


「待つんじゃない」


少女は。


自分の鍵を。


握った。


「私も」


「選ぶ」


ユウトが。


笑う。


「俺も」


アリア。


「私も」


セリア。


「私も」


一人。


また一人。


全員が。


光を掲げる。


そして。


百七十二の世界から。


無数の声が。


響いた。


『私も』


『俺も』


『僕も』


『私たちも』


『自分で選びたい』


『自分の未来を』


『自分の世界を』


『自分の明日を』


世界が。


震える。


巨大な目が。


赤く輝く。


『拒絶』


『拒絶』


『拒絶』


「……」


俺は。


静かに。


剣を構えた。


「じゃあ」


「最後まで」


「拒絶してみろ」


巨大な光が。


空を覆う。


その中心で。


観測者が。


叫んだ。


「レオン!」


「何だ!」


「私を」


「切れ!」


「……!」


「この鎖ごと!」


「私を」


「切れ!」


「でも!」


「私を犠牲にするんじゃない!」


観測者が。


叫ぶ。


「私を」


「自由にしろ!」


俺は。


目を見開いた。


そうか。


こいつも。


選ぼうとしている。


誰かに。


選ばれるのではなく。


自分で。


未来を。


「……分かった」


俺は。


剣を。


構え直す。


そして。


空へ。


飛び上がった。


「――観測者!」


「ここから」


「自分で選べ!」


剣が。


鎖に触れる。


――キィィィィン!


世界中に。


眩い光が。


広がった。


鎖に。


亀裂が走る。


一本。


二本。


三本。


そして――


最後の一本が。


砕けた。


「――――ッ!」


観測者の身体が。


光に包まれる。


巨大な赤い瞳が。


悲鳴を上げる。


『不可能』


『観測者は』


『世界から』


『離脱できない』


「違う!」


観測者が。


叫んだ。


「俺は」


「もう」


「観測者じゃない!」


「……!」


「俺は」


「俺自身の未来を」


「選ぶ!」


光が。


爆発した。


巨大な目が。


一瞬。


消える。


世界が。


静かになる。


俺は。


地面へ。


落ちていく。


「レオン!」


アリアが。


俺を受け止める。


「……痛っ」


「大丈夫!?」


「ああ」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶんって!」


俺は。


笑った。


その時。


目の前に。


観測者が。


降りてきた。


銀色の髪。


赤い瞳。


でも。


もう。


あの時の。


冷たい目ではない。


「……」


彼は。


俺を見る。


「ありがとう」


「……」


「初めて」


「自分で」


「未来を選べた」


俺は。


笑う。


「だったら」


「これからは」


「観測するだけじゃなく」


「生きろ」


観測者は。


少しだけ。


笑った。


「ああ」


「そうする」


だが。


その直後。


世界樹の中心から。


最後の扉が。


現れた。


――巨大な白い扉。


その表面には。


今までとは違う。


一つの文字。


『最終選択』


「……」


全員が。


黙った。


俺は。


その扉を見つめる。


観測者が。


静かに言った。


「レオン」


「ん?」


「その扉の向こうには」


「すべての答えがある」


「……」


「だが」


彼は。


真剣な顔で。


続けた。


「一つだけ」


「覚えておけ」


「何?」


「最後の選択は」


「世界を救うかどうかじゃない」


「……」


「お前自身が」


「どんな未来を」


「生きたいのか」


俺は。


白い扉を見る。


そして。


ゆっくり。


手を伸ばした。


――最後の選択。


その先に。


俺たちが探し続けた。


本当の未来が。


待っている。


俺は。


みんなを見る。


アリアが。


笑う。


ユウトも。


笑う。


みんなが。


頷く。


「行こう」


俺は。


そう言った。


「全員で」


そして。


最後の扉へ。


手をかけた。


――。


その瞬間。


扉の向こうから。


声が聞こえた。


『レオン』


「……」


『今度は』


『お前自身の願いを』


『答えて』


『世界ではなく』


『誰かではなく』


『仲間でもなく』


『ユウトでもなく』


『アリアでもなく』


『――お前自身は』


『何を望む?』


俺は。


立ち止まった。


「……俺自身?」


そう呟いた瞬間。


胸の中で。


十個の鍵が。


一斉に。


輝いた。

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