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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第59話 未来を選ぶ者

――扉を開いた。


その瞬間。


冷たい風が。


俺の頬を撫でた。


「……」


扉の向こうにあったのは。


世界樹の内部ではなかった。


空だった。


どこまでも広がる。


青い空。


白い雲。


そして。


遠くに見える街。


「……ここは?」


アリアが。


俺の後ろから覗き込む。


「世界樹の中……だよね?」


「たぶん」


俺は。


一歩。


踏み出した。


地面がある。


土がある。


草がある。


風が吹いている。


まるで。


普通の世界だった。


いや。


普通すぎた。


「……人がいる」


セリアが。


遠くを指差す。


街道を。


人々が歩いている。


子供たちが走っている。


店から。


パンの焼ける匂いがする。


鳥が飛んでいる。


太陽が輝いている。


「……平和」


ミアが。


小さく呟いた。


俺は。


周囲を見る。


どこにも。


争いはない。


魔物も。


災害も。


病気も。


飢えも。


ない。


誰もが。


笑っている。


「……」


なのに。


俺の胸は。


嫌な予感で。


いっぱいだった。


その時。


後ろから。


声がした。


「ようこそ」


俺は。


振り返った。


そこに。


もう一人の俺が。


立っていた。


世界樹と融合した。


あのレオン。


だが。


今は。


普通の人間の姿をしている。


傷もない。


疲れもない。


ただ。


静かに笑っていた。


「ここは」


「俺が作った未来だ」


「……」


俺は。


彼を見る。


「お前が?」


「ああ」


「どうやって?」


「全部の願いを」


「叶えた」


「……」


「誰も苦しまない」


「誰も死なない」


「誰も悲しまない」


「争いもない」


「病気もない」


「貧困もない」


「魔物もいない」


「失うものなんて」


「何もない」


アリアが。


街を見る。


「……本当に?」


「本当だ」


彼は。


答える。


「この世界には」


「悲しみがない」


「……」


俺は。


街を眺めた。


確かに。


誰も泣いていない。


誰も怒っていない。


誰も苦しんでいない。


完璧だった。


あまりにも。


完璧すぎた。


「……それで?」


俺は。


もう一人の自分を見る。


「どうして」


「俺を呼んだ?」


彼は。


笑った。


「決まってる」


「……」


「この世界を」


「お前に渡すためだ」


「……は?」


「俺は」


「もう必要ない」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥が。


冷たくなった。


「待て」


俺は。


彼の胸ぐらを掴む。


「どういう意味だ」


「そのままの意味だ」


「お前が」


「この世界の核になる」


「……」


「そうすれば」


「世界は永遠に続く」


「俺は」


「消える」


「……ふざけるな」


俺は。


拳を握った。


「またそれか」


「何が?」


「また」


「自分一人が犠牲になればいいって」


「……」


「何度」


「同じことを繰り返すつもりだ!」


俺が。


怒鳴る。


もう一人の俺は。


静かに。


俺を見る。


「だって」


「俺が一番」


「この世界に必要ないから」


「……!」


「みんなには」


「未来がある」


「家族がいる」


「友達がいる」


「夢がある」


「この世界で」


「生きていける」


「でも」


彼は。


自分の胸に。


手を当てた。


「俺には」


「もう」


「何もない」


「……」


「俺は」


「世界樹になった」


「みんなの願いを」


「全部受け取った」


「だから」


「俺自身の願いなんて」


「もう残ってない」


俺は。


何も言えなかった。


「……嘘だ」


「何?」


「お前にもある」


「ない」


「ある」


「ない」


「じゃあ」


俺は。


彼を睨む。


「どうして」


「俺を呼んだ?」


「……」


「どうして」


「俺に」


「選ばせようとする?」


彼は。


黙った。


そして。


小さく。


笑った。


「……お前なら」


「気づくと思ってた」


「何に?」


「俺が」


「本当は」


「怖いだけだってことに」


「……」


風が。


吹いた。


もう一人の俺が。


空を見上げる。


「俺は」


「怖い」


「世界樹から」


「離れたら」


「全部が消えるかもしれない」


「みんなが」


「死ぬかもしれない」


「だから」


「自分が残れば」


「いいと思った」


「……」


「俺一人なら」


「怖くない」


「そう思い込もうとした」


俺は。


ゆっくり。


手を離した。


「……馬鹿だな」


「……ああ」


「本当に」


「馬鹿だ」


彼は。


苦笑した。


「だから」


「俺を選べ」


「嫌だ」


「……即答かよ」


「当たり前だ」


俺は。


みんなを見る。


アリアが。


頷く。


セリアも。


セレナも。


ノアも。


エリスも。


カインも。


リナも。


ミアも。


ユナも。


ユウトも。


全員が。


そこにいる。


「俺たちは」


「もう」


「一人を犠牲にして」


「世界を救う方法を」


「選ばない」


「……」


「お前も」


「俺たちの仲間だ」


もう一人の俺が。


目を見開いた。


「……俺が?」


「ああ」


「俺は」


「お前だ」


「……」


「だったら」


「お前を犠牲にするなんて」


「選択肢に入るわけないだろ」


「……」


彼の目に。


涙が浮かんだ。


「……俺」


「泣いてる?」


「泣いてない」


「泣いてるぞ」


「……うるさい」


俺たちは。


少しだけ。


笑った。


その時だった。


空に。


巨大な文字が。


浮かび上がった。


『第五の選択』


『条件を変更する』


「……?」


世界が。


突然。


暗くなる。


街から。


人々の姿が。


消えていく。


建物が。


崩れていく。


空が。


赤く染まる。


「何だ……!」


地面が。


揺れる。


世界樹の根が。


地面を突き破って。


伸びてくる。


もう一人の俺が。


叫んだ。


「違う!」


「何が?」


「この世界は」


「俺が作ったんじゃない!」


「……!」


彼が。


空を見上げる。


「これは」


「俺が望んだ未来じゃない!」


その瞬間。


空に。


観測者が現れた。


赤い瞳。


銀色の髪。


黒い服。


だが。


今までとは違う。


その身体は。


巨大な光の鎖に。


縛られていた。


「観測者……?」


「違う」


もう一人の俺が。


首を横に振る。


「操られてる」


「……!」


観測者が。


苦しそうに。


顔を歪める。


「逃げろ」


「……!」


「レオン」


「ここから」


「逃げろ!」


「お前は?」


「俺は」


観測者が。


叫ぶ。


「こいつらを」


「止める!」


空の向こうから。


無数の黒い手が。


伸びてくる。


観測者の身体を。


さらに締め付ける。


「ぐっ……!」


「観測者!」


俺が。


駆け出そうとした。


しかし。


もう一人の俺が。


腕を掴んだ。


「待て!」


「離せ!」


「違う!」


「何が!」


「これは」


「罠だ!」


「……!」


彼は。


空を指差す。


黒い手の向こう。


そこに。


巨大な目が。


一つ。


開いていた。


「……あれ」


ユナが。


震える。


「知ってる」


「……?」


「あれは」


「観測者じゃない」


「じゃあ」


「もっと上の存在」


俺たちが。


見上げる。


巨大な目が。


ゆっくり。


こちらを見る。


そして。


声が響いた。


『第百七十三番目の選択』


『確認』


『対象――レオン』


『不適格』


「……不適格?」


『理由』


『世界を選ばない』


『犠牲を選ばない』


『管理を拒絶する』


『未来を共有する』


『よって』


『選択者として不適格』


俺は。


怒りを覚えた。


「誰が」


「そんなことを」


「決める」


巨大な目が。


俺を見る。


『我々だ』


「……」


『世界は』


『選ばれるもの』


『未来は』


『与えられるもの』


『人間が決めるものではない』


「ふざけるな」


俺は。


叫んだ。


「俺たちの未来を」


「お前らが決めるな!」


『反論を確認』


『ならば』


『最後の条件を提示する』


空に。


一つの文字が。


浮かんだ。


『未来を一つ選べ』


その下に。


無数の未来が。


現れた。


幸せな未来。


戦争の未来。


貧しい未来。


豊かな未来。


レオンが王になる未来。


アリアと二人で暮らす未来。


ユウトと平穏に生きる未来。


仲間たちが。


それぞれ別々の人生を送る未来。


そして。


最後に。


一つ。


俺が。


世界そのものになる未来。


「……」


俺は。


言葉を失った。


『一つだけ』


『選べ』


『それ以外は』


『消去する』


「……」


アリアが。


俺の隣に立つ。


「レオン」


「……ああ」


「選ばなくていいよ」


「……」


「だって」


アリアは。


笑った。


「未来は」


「一つじゃないから」


セリアが。


続く。


「私たちは」


「それぞれ違う未来を」


「生きたい」


セレナ。


「でも」


「それは」


「離れるという意味ではありません」


ノア。


「同じ場所にいなくても」


「一緒にいられる」


カイン。


「それが」


「未来ってもんだろ」


リナ。


「一つに決める必要なんて」


「ないじゃん!」


ミア。


「……うん」


ユナが。


俺の手を握る。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「私」


「自分の未来を」


「自分で選びたい」


「……」


ユウトが。


笑う。


「俺も」


そして。


もう一人の俺が。


俺を見る。


「俺も」


「……」


俺は。


全員を見る。


その瞬間。


分かった。


俺たちは。


未来を一つにする必要なんてない。


世界を。


一つの形にする必要もない。


みんなが。


違う未来を選んでもいい。


それでも。


互いに。


手を伸ばせるなら。


それでいい。


俺は。


空を見上げた。


「答えは」


『……』


「一つじゃない」


巨大な目が。


揺れた。


『拒否を確認』


「違う」


俺は。


笑った。


「拒否じゃない」


「これは」


「選択だ」


「俺は」


「俺たちは」


「未来を一つにしない未来を選ぶ」


『……』


「誰か一人の未来を」


「世界の未来にしない」


「誰か一人の犠牲を」


「みんなの幸せにしない」


「そして」


俺は。


拳を握った。


「自分の未来は」


「自分で選ぶ」


その瞬間。


五つの核が。


一斉に。


輝いた。


――世界。


――存在。


――願い。


――約束。


――自由。


五つの光が。


巨大な一本の柱となる。


世界樹を。


貫いた。


「うおおおおおおっ!」


世界が。


震える。


空の巨大な目に。


亀裂が走る。


『不可能』


『その選択は』


『世界構造に存在しない』


「だったら!」


俺は。


叫ぶ。


「今から作る!」


五つの核が。


さらに輝く。


すると。


俺の胸の奥に。


今までなかった光が。


生まれた。


「……?」


それは。


鍵ではなかった。


剣でも。


核でも。


扉でもない。


小さな。


暖かな光。


アリアが。


それを見つめる。


「それは……?」


俺にも。


分からなかった。


ただ。


なぜか。


懐かしかった。


そして。


その光から。


声が聞こえた。


――『選んでいいよ』


「……」


――『失敗してもいい』


「……」


――『間違えてもいい』


「……」


――『生きている限り』


――『また選べるから』


俺は。


目を見開いた。


「……」


それは。


今まで探していたもの。


願いでも。


約束でも。


自由でもない。


その全部を。


支えるもの。


俺は。


その言葉を。


口にした。


「――可能性」


光が。


爆発した。


そして。


世界樹の頂上に。


新たな扉が。


現れる。


今度の扉は。


何も刻まれていない。


ただ。


真っ白だった。


観測者が。


遠くから。


それを見つめる。


「……第六の選択」


俺が。


呟く。


だが。


その直後。


白い扉に。


文字が浮かび上がった。


『第六の選択――可能性』


そして。


扉の向こうから。


無数の声が。


聞こえてきた。


『もし』


『あの時』


『別の道を選んでいたら――』


俺は。


その声を聞きながら。


扉へ向かって。


歩き出した。


アリアが。


隣に並ぶ。


「行こう」


「ああ」


ユウトも。


続く。


「今度は」


「どんな未来かな」


俺は。


扉に手を置いた。


そして。


思った。


――俺たちが。


これまで。


失敗だと思っていた。


百七十二の世界。


あの世界にも。


もしかしたら。


別の意味があったのではないか。


失敗したから。


今がある。


間違えたから。


選び直せる。


失ったから。


大切なものに気づける。


もし。


そうなら。


俺たちの過去は。


消すべきものじゃない。


受け入れるものだ。


俺は。


白い扉を。


開いた。


その向こうには――


百七十二の世界が。


全部。


並んでいた。


そして。


その中心に。


幼い頃の俺が。


立っていた。


だが。


その隣には。


見覚えのない少女がいた。


銀色の髪。


赤い瞳。


そして。


俺と同じ。


十個の鍵を。


持っている。


少女は。


俺を見ると。


微笑んだ。


「やっと」


「来たね」


俺は。


息を呑んだ。


「……お前」


少女は。


首を傾げる。


「私は」


「あなたが」


「選ばなかった未来」


「……!」


そして。


少女は。


静かに。


言った。


「――あなたの」


「もう一つの可能性だよ」

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