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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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55/132

第55話 第四の鍵と、弟の願い

空が。


赤く染まっていた。


雲の向こう。


巨大な瞳が。


こちらを見ている。


そして。


その視線の中心に。


ユウトが立っていた。


「……ユウト」


俺は。


一歩前へ出る。


「下がって」


「兄ちゃん」


「そこから動くな」


「……うん」


ユウトは。


素直に頷いた。


だが。


その顔には。


いつもの笑顔がなかった。


「兄ちゃん」


「何だ?」


「俺の後ろにいるもの」


「……観測者?」


「そう」


ユウトは。


ゆっくり頷く。


「でも」


「さっきまでとは」


「少し違う」


「どういう意味だ?」


「今は」


「見てるだけじゃない」


その瞬間。


空から。


一本の赤い光が。


落ちてきた。


――ズドォォォォン!!


「全員、散れ!」


俺が叫ぶ。


地面が。


爆発する。


アリアが。


ユナを抱えて飛び退く。


カインが。


セリアを庇う。


セレナたちは。


それぞれ魔法を展開する。


俺は。


ユウトの前に立った。


「大丈夫か?」


「うん」


「怪我は?」


「ない」


「なら」


俺は。


空を睨む。


「そこを動くな」


「兄ちゃんは?」


「俺は」


剣を抜く。


「お前の兄ちゃんだからな」


「……」


「弟を置いて逃げるわけないだろ」


ユウトが。


少しだけ笑った。


「……やっぱり」


「何だ?」


「兄ちゃんだ」


「だから何だよ」


「ううん」


ユウトは。


首を振った。


「何でもない」


その瞬間。


赤い光が。


再び。


空から降ってくる。


「――来る!」


セレナが叫ぶ。


俺は。


剣を振った。


――ザンッ!!


赤い光を。


真っ二つに切り裂く。


だが。


切り裂いたはずの光が。


左右から。


俺へ向かってくる。


「っ!」


アリアが。


俺の腕を掴んだ。


「レオン!」


俺たちは。


同時に。


横へ飛ぶ。


直後。


地面が。


大きく抉れた。


「……何だ」


俺は。


攻撃の跡を見る。


黒く。


焼け焦げている。


だが。


そこから。


何かが。


生えてきた。


「……木?」


小さな芽。


そして。


一瞬で。


巨大な木へ。


成長していく。


しかし。


その木には。


顔があった。


人間の顔。


苦しそうな顔。


泣いている顔。


怒っている顔。


無数の顔。


「……!」


ユナが。


震える。


「これ……」


「知ってるのか?」


「うん」


「昔」


「この世界で」


「何度も」


「見た」


「何なんだ?」


「願いを」


「食べる木」


「……願いを?」


「うん」


「人の願いを」


「吸い取って」


「大きくなる」


「そして」


「願いがなくなった人は」


「生きる理由を」


「失う」


「……」


俺は。


木を見る。


確かに。


ただの魔物じゃない。


その幹から。


無数の声が聞こえている。


『もう疲れた』


『何もしたくない』


『どうでもいい』


『諦めたい』


「……」


胸が。


締め付けられる。


こいつは。


人を殺すんじゃない。


願うことを。


奪っている。


そして。


願いを失った人間は。


自分から。


生きることを。


諦める。


「観測者……」


俺は。


空を見る。


「お前が」


「作ったのか?」


『いいえ』


声が。


響く。


『私は』


『ただ』


『可能性を』


『示しただけ』


「……何?」


『この世界に』


『もし』


『絶望だけを』


『与えたら』


『人は』


『何を選ぶのか』


「……」


『それを』


『観測している』


「ふざけるな」


『あなたは』


『怒っている』


「ああ」


『なぜ?』


「決まってる」


俺は。


剣を握る。


「人の心を」


「実験に使ってるからだ」


『実験ではない』


「なら何だ?」


『観測』


「同じだ」


『違う』


「俺にとっては」


「同じだ」


俺は。


魔力を。


剣に込める。


「俺たちは」


「お前の記録じゃない」


「生きてる」


「願ってる」


「だから」


「勝手に」


「結末を決めるな」


赤い瞳が。


ゆっくり。


細くなる。


『……興味深い』


「何が」


『あなたは』


『以前より』


『さらに』


『強くなった』


「力の話か?」


『違う』


『意思の話だ』


「……」


『だから』


『第四の鍵を』


『与えた』


俺は。


ユウトを見る。


「……お前が?」


ユウトは。


首を振った。


「俺じゃない」


「じゃあ」


「誰が?」


「……兄ちゃん自身」


「俺?」


ユウトが。


胸元を指差す。


「第四の鍵は」


「俺じゃない」


「兄ちゃんの中に」


「ずっと」


「あった」


「……」


十個の鍵。


俺の中に。


存在している鍵。


世界を選ぶ鍵。


願いを繋ぐ鍵。


そのうちの。


第四。


俺は。


無意識に。


胸へ手を当てた。


「……何なんだ」


ユウトが。


笑った。


「兄ちゃんが」


「最初に」


「俺を救おうとした時」


「生まれたもの」


「……」


「それは」


「力じゃない」


「魔法でもない」


「名前がある」


「何て名前だ?」


ユウトは。


答えた。


「――約束」


「……約束?」


「うん」


「兄ちゃんが」


「俺にした約束」


俺は。


息を呑む。


「覚えてる?」


「……」


分からない。


記憶には。


ない。


だけど。


胸の奥に。


確かに。


何かがある。


小さな。


温かい光。


「……何て」


「約束したんだ?」


ユウトは。


微笑んだ。


「『一緒に生きよう』」


その瞬間。


世界が。


止まったように。


感じた。


――ドクン。


胸の中で。


何かが。


鳴った。


十個の鍵。


その一つが。


強く。


輝く。


「……」


俺の目の前に。


文字が。


浮かぶ。


第四の鍵


――約束


その文字が。


光へ変わる。


そして。


俺の手の中に。


一本の鍵が。


現れた。


今までの鍵とは。


違う。


金属ではない。


光そのもの。


小さな。


銀色の鍵。


ユウトが。


それを見て。


笑った。


「それ」


「兄ちゃんが」


「ずっと」


「持ってたものだよ」


「……」


俺は。


鍵を握る。


すると。


世界樹の内部から。


無数の光が。


浮かび上がった。


眠っている人々。


一人一人の。


胸から。


小さな光が。


出てくる。


「これは……?」


セリアが。


驚く。


「願い?」


セレナが。


呟く。


「違う」


俺は。


鍵を見つめる。


「これは」


「約束だ」


「約束?」


アリアが。


聞き返す。


「誰かと」


「一緒に生きる」


「そのための」


「意思」


「……」


「だから」


俺は。


鍵を。


空へ掲げた。


「世界核には」


「これが必要なんだ」


『……正解』


観測者の声。


「……」


『第一核――世界』


世界樹が。


輝く。


『第二核――存在』


俺自身が。


輝く。


『第三核――願い』


ユナの黒い石が。


輝く。


『そして』


赤い瞳が。


大きく。


開く。


『第四核――約束』


ユウトが。


笑う。


「兄ちゃん」


「ああ」


「これで」


「世界を」


「作れる」


「……」


俺は。


頷く。


「いや」


「作るんじゃない」


「育てる」


ユウトが。


目を見開く。


「……育てる?」


「ああ」


「世界は」


「誰か一人が」


「作るものじゃない」


「生きてる人たちが」


「一緒に」


「作っていくものだ」


ユウトが。


笑う。


「……うん」


その瞬間。


世界樹が。


大きく。


揺れた。


――ドォォォォォン!!


眠っていた人々の。


光が。


一斉に。


空へ昇っていく。


一つ。


二つ。


十。


百。


千。


無数の光。


それが。


世界樹の中心へ。


集まっていく。


そして。


一つの。


巨大な球体になる。


「世界核……」


セリアが。


呟く。


だが。


その直後。


空が。


真っ赤に染まった。


『――まだ』


観測者の声。


「……!」


『足りない』


「何が?」


『第五の条件』


俺は。


空を見る。


「第五……?」


赤い瞳が。


笑ったように。


細くなる。


『世界核を』


『完成させるためには』


『もう一つ』


『必要だ』


「……何だ?」


『――選択』


「……」


『あなた自身が』


『何を選ぶのか』


『決めなければならない』


俺は。


黙った。


「……」


『世界か』


『弟か』


『仲間か』


『それとも』


『自分自身か』


「……」


『何か一つを』


『捨てなさい』


まただ。


また。


同じ問い。


犠牲。


選択。


一つを選び。


一つを捨てる。


俺は。


ゆっくり。


首を横に振った。


「……違う」


『?』


「お前は」


「まだ」


「分かってない」


俺は。


仲間を見る。


アリア。


セリア。


セレナ。


ノア。


エリス。


カイン。


リナ。


ミア。


そして。


ユナ。


ユウト。


もう一人の俺。


「俺は」


「一人で」


「選ばない」


『……』


「みんなで」


「選ぶ」


『愚かな』


「そうかもしれない」


「でも」


「俺たちは」


「もう」


「知ってる」


俺は。


第四の鍵を。


握りしめた。


「一人の願いを」


「一人で叶えようとしたら」


「必ず」


「誰かが犠牲になる」


「だから」


「今度は」


「みんなで」


「決める」


『……』


「それが」


「俺たちの」


「答えだ」


その瞬間。


アリアが。


一歩前へ出た。


「私は」


「レオンと一緒に」


「未来を選ぶ」


セリアも。


続く。


「私も」


セレナ。


「私もです」


ノア。


「もちろん」


カイン。


「俺もだ」


エリス。


「私も」


リナ。


「私も!」


ミア。


「私も!」


ユナ。


「私も」


ユウト。


「俺も」


そして。


もう一人の俺が。


静かに。


笑った。


「……俺も」


光が。


強くなる。


世界核が。


脈打つ。


――ドクン。


――ドクン。


――ドクン。


そして。


初めて。


世界が。


自分自身で。


鼓動した。


「……」


俺は。


その光を。


見つめる。


「これが」


「世界の」


「心臓……」


だが。


その瞬間。


赤い瞳が。


突然。


消えた。


「……?」


静寂。


観測者の気配が。


完全に。


なくなる。


「レオン」


アリアが。


不安そうに。


俺を見る。


「何だ?」


「終わったの?」


「……分からない」


すると。


ユウトが。


突然。


顔を上げた。


「兄ちゃん」


「どうした?」


「違う」


「何が?」


ユウトの顔から。


血の気が引いていく。


「観測者は」


「いなくなったんじゃない」


「……」


「こっちに」


「来たんだ」


「……どこへ?」


ユウトは。


俺の背後を。


指差した。


俺が。


振り返る。


そこには。


誰もいない。


ただ。


暗闇。


しかし。


その暗闇の中から。


一つの。


足音。


――コツ。


また。


一歩。


――コツ。


そして。


闇の中から。


一人の男が。


姿を現した。


黒い服。


銀色の髪。


赤い瞳。


人間と。


変わらない姿。


その男は。


俺を見ると。


静かに。


微笑んだ。


「……初めまして」


俺は。


剣を構える。


「お前が」


「観測者か」


男は。


頷いた。


「そうだ」


「……」


「だが」


「一つだけ」


「訂正しよう」


男は。


自分の胸に。


手を当てる。


「私は」


「世界を観測する者ではない」


「……」


「私は」


「世界を」


「選ぶ者だ」


そして。


男の背後に。


無数の世界が。


浮かび上がった。


百七十二。


いや。


それ以上。


無限に近い世界。


その一つ一つに。


俺がいる。


アリアがいる。


ユウトがいる。


仲間たちがいる。


そして。


全ての世界で。


誰かが。


泣いている。


男が。


言った。


「レオン」


「君は」


「まだ」


「世界の本当の意味を」


「知らない」


「……何?」


男は。


笑った。


「この世界は」


「百七十三番目ではない」


「……」


「これは」


「――百七十三番目の『選択』だ」


その言葉と共に。


世界核が。


大きく。


揺れた。


そして。


俺たちの足元に。


新しい扉が。


現れた。


その扉には。


こう刻まれていた。


『第百七十三番目の選択』


俺は。


その文字を見つめる。


そして。


ゆっくり。


剣を握り直した。


まだ。


終わっていない。


むしろ。


ここからが。


本当の戦いだった。

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