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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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第46話 生まれる前の俺

「――僕は」


「お前が」


「生まれる前のレオンだ」


その言葉が。


頭の中で。


何度も響いた。


「……生まれる前?」


俺は。


目の前の男を見つめる。


顔は。


俺と同じ。


声も。


俺と同じ。


けれど。


どこか違う。


俺よりも。


ずっと静かで。


ずっと。


古い。


そんな印象だった。


「どういう意味だ?」


男は。


笑った。


『そのままの意味だよ』


「……」


『お前が生まれるより前』


『まだ人間という形すら』


『持っていなかった頃の』


『お前』


「……」


『正確には』


『お前の魂になる前の存在』


「魂……?」


男が。


胸へ手を当てる。


『そう』


『お前たち人間は』


『自分のことを』


『一人の存在だと思っている』


『でも』


『魂は』


『最初から一人じゃない』


俺は。


何も言えなかった。


男は。


続ける。


『お前には』


『始まりがある』


『終わりもある』


『そして』


『その間に』


『無数の選択がある』


『だが』


『魂そのものには』


『始まりも終わりもない』


「……じゃあ」


俺は。


ゆっくり聞いた。


「お前は」


「俺の魂そのものなのか?」


『半分正解』


「半分?」


『僕は』


『お前の魂が』


『最初に分かれたときの』


『もう一つの可能性』


「……」


『つまり』


『お前が』


『レオンになる前の』


『レオン』


「意味が分からない」


『だろうね』


男は。


苦笑した。


『だから』


『今から』


『見せてあげる』


――パチン。


男が。


指を鳴らした。


瞬間。


世界が。


真っ白になった。


「――!」


足元が。


消える。


身体が。


浮く。


「レオン!」


アリアの声。


「お兄ちゃん!」


ノアの声。


「待って!」


セリアの声。


全てが。


遠ざかっていく。


「――っ!」


手を伸ばす。


だが。


誰にも。


届かない。


そして。


俺は。


完全な暗闇へ。


落ちていった。


---


どれくらい。


落ちていたのか。


分からない。


時間というものが。


存在しない場所だった。


音も。


光も。


何もない。


ただ。


俺だけが。


そこにいた。


「……ここは?」


『始まりの前』


声が。


響く。


「……お前か」


『そう』


目の前に。


あの男が。


現れる。


ただし。


今度は。


人間の姿ではない。


光。


いや。


魂。


巨大な。


光の塊。


その中に。


俺と同じ顔が。


浮かんでいる。


『ここには』


『まだ世界がない』


『時間もない』


『命もない』


『だから』


『すべての可能性が』


『同時に存在する』


「……」


『お前が』


『最初に生まれた場所だ』


「俺は」


「ここから生まれた?」


『そう』


『だが』


『最初は』


『お前じゃなかった』


「……?」


光の中に。


映像が浮かぶ。


一つ目。


二つ目。


三つ目。


無数の光。


それぞれが。


別々の世界を。


作っていく。


「……これ」


『すべて』


『お前の可能性だ』


「俺の……?」


『そう』


『勇者になる未来』


『魔王になる未来』


『普通の人間になる未来』


『何も選ばない未来』


『誰かを救う未来』


『誰かを殺す未来』


『世界を作る未来』


『世界を壊す未来』


無数。


無限。


その全てが。


俺だった。


「……」


『その中で』


『最初に』


『人間として』


『生まれたのが』


『レオン』


「……」


『だけど』


『その前に』


『一つだけ』


『消えなかった可能性がある』


男が。


こちらを見る。


『それが』


『僕だ』


「……」


「じゃあ」


「お前は」


「ずっと」


「俺の中にいたのか?」


『そう』


『けれど』


『お前が成長するたび』


『僕は』


『眠っていった』


『だから』


『お前は』


『僕の存在を』


『知らなかった』


「……」


『だけど』


『百七十二回』


『世界が終わるたび』


『僕は』


『少しずつ』


『目を覚ました』


「……じゃあ」


「原初は」


「お前のことを」


「知っていた?」


『もちろん』


「なら」


「どうして」


「今まで」


「何も言わなかった?」


男は。


初めて。


悲しそうな顔をした。


『怖かったからだ』


「……?」


『お前が』


『僕を知れば』


『必ず』


『僕を選ぶと思った』


「……」


『僕を選べば』


『今の世界は』


『消える』


「……!」


『だから』


『ずっと』


『隠れていた』


「でも」


俺は。


男を見る。


「今」


「出てきた」


『そう』


「どうして?」


男が。


静かに。


答える。


『もう』


『隠れていられないから』


その瞬間。


暗闇の奥から。


巨大な音がした。


――ドクン。


「……?」


もう一度。


――ドクン。


心臓。


いや。


世界そのものが。


鼓動している。


『始まる』


男が。


呟く。


「何が?」


『最後の世界』


「……」


『百七十三番目の世界が』


『終わる』


「……!」


『そして』


『次の世界が』


『生まれる』


「待て!」


俺は。


男の肩を掴もうとする。


「そんなこと」


「させない!」


『なら』


男が。


笑う。


『お前が』


『選べ』


「……何を?」


『この世界を』


『終わらせるか』


『それとも』


『僕を』


『消すか』


「……!」


『どちらかを選べば』


『世界は』


『救われる』


「……」


『お前が』


『僕を消せば』


『お前は』


『完全な存在になる』


『九つの鍵も』


『十個目の鍵も』


『すべて』


『一つになる』


『原初にも』


『勝てる』


「じゃあ」


「それでいい」


俺は。


即答した。


『……』


「お前を」


「消す」


「それで」


「みんなが助かるなら」


男は。


悲しそうに。


笑った。


『そう言うと思った』


「……」


『だから』


『僕は』


『お前に』


『もう一つの未来を』


『見せる』


――世界が。


また。


変わった。


---


そこには。


穏やかな街があった。


帝都ではない。


戦争もない。


魔物もいない。


世界樹もない。


人々が。


普通に暮らしている。


そして。


その街を。


歩いている人たち。


「……!」


俺は。


目を見開いた。


アリア。


セレナ。


ノア。


エリス。


カイン。


リナ。


ミア。


セリア。


みんなが。


いる。


笑っている。


幸せそうに。


暮らしている。


「……」


俺は。


胸が。


締め付けられる。


「ここは?」


『お前が』


『僕を消した未来』


「……」


『世界から』


『すべての力が』


『失われた』


『魔法も』


『魔物も』


『世界樹も』


『鍵も』


『原初も』


『終焉王も』


『全部』


『なくなった』


「……」


『そして』


『みんな』


『普通の人間として』


『生きている』


アリアが。


街角で。


笑っている。


セレナが。


パン屋で。


働いている。


ノアが。


小さな子供たちに。


魔法ではなく。


本を教えている。


カインは。


鍛冶屋で。


働いていた。


エリスは。


騎士ではなく。


教師になっている。


リナは。


商人。


ミアは。


花屋。


そして。


セリアは。


――俺の隣にいた。


「……」


「俺は?」


『いない』


「……」


『お前だけが』


『この世界には』


『存在しない』


「……」


俺は。


街を歩く。


みんな。


幸せそうだった。


誰も。


俺を知らない。


誰も。


俺を必要としていない。


それなのに。


なぜか。


胸が。


苦しかった。


「……これで」


「いいのか?」


男が。


隣に立つ。


『いい』


「……」


『お前がいなくても』


『世界は続く』


『みんなは』


『幸せになれる』


「……」


『それが』


『お前の望みだっただろう?』


俺は。


答えられなかった。


確かに。


望んでいた。


誰も死なない世界。


誰も傷つかない世界。


俺が犠牲になれば。


それが叶う。


なら。


それでいいはずだった。


――なのに。


「……嫌だ」


男が。


俺を見る。


『なぜ?』


「嫌だ」


『どうして?』


「……分からない」


『本当に?』


俺は。


街を見る。


アリアが。


笑っている。


セリアが。


空を見ている。


セレナが。


パンを焼いている。


みんな。


幸せだ。


それなのに。


俺は。


涙を流していた。


「……俺」


「みんなと」


「一緒にいたい」


『……』


「俺が」


「いなくなることで」


「みんなが幸せになるなら」


「それでも」


「俺は」


「一緒に」


「笑いたい」


男は。


何も言わない。


「俺は」


「英雄になりたいんじゃない」


「世界を救いたいだけでもない」


「ただ」


「みんなと」


「生きたい」


「……」


「それだけなんだ」


長い沈黙。


やがて。


男が。


微笑んだ。


『やっと』


『答えが出たね』


「……え?」


『お前が』


『今まで』


『ずっと探していた答え』


『それは』


『世界を救うことでも』


『誰かを犠牲にすることでもない』


『自分自身の人生を』


『自分で選ぶこと』


「……」


『お前は』


『ようやく』


『僕を選ばなかった』


「……」


『僕を』


『消す必要もない』


「じゃあ」


『一緒に』


『生きればいい』


「……!」


男が。


手を差し出す。


『僕も』


『お前だから』


「……」


俺は。


その手を。


握った。


その瞬間。


――ドクン!!


世界が。


爆発した。


無数の光が。


俺たちを包む。


そして。


俺の身体へ。


何かが。


流れ込んでくる。


百七十三。


いや。


もっと。


数え切れないほどの。


可能性。


未来。


過去。


記憶。


全部が。


俺の中へ。


入ってくる。


「――――っ!!」


頭が。


割れる。


身体が。


壊れそうになる。


だが。


俺は。


手を離さなかった。


『レオン』


「……!」


『これで』


『僕たちは』


『一つだ』


「……ああ」


『でも』


『忘れないで』


『一つになるというのは』


『どちらかが』


『消えることじゃない』


『互いを』


『認めることだ』


「分かった」


そして。


光が。


弾けた。


---


「――レオン!!」


誰かが。


俺を呼んでいる。


「レオンさん!」


「お兄ちゃん!」


「レオン!」


目を開ける。


「……」


目の前に。


アリアがいた。


セレナ。


ノア。


エリス。


カイン。


リナ。


ミア。


セリア。


そして。


祖父。


全員が。


俺を見ている。


「……戻った」


セリアが。


泣きながら。


笑った。


「おかえり」


「……ただいま」


俺は。


立ち上がる。


身体が。


以前とは。


全く違う。


九つの鍵。


十個目の鍵。


そして。


俺自身の。


最初の可能性。


全部が。


一つになっている。


原初が。


静かに。


俺を見る。


『……なるほど』


「原初」


『ようやく』


『理解した』


「何を?」


『お前が』


『何度』


『世界を作り直しても』


『決して』


『消えなかった理由』


「……」


『お前は』


『世界を救おうとしていたのではない』


『誰かと』


『生きようとしていた』


「そうだ」


『……』


原初の巨大な目が。


初めて。


揺れた。


『ならば』


『最後の問いだ』


「何?」


『お前は』


『世界を救うために』


『何を犠牲にする?』


俺は。


迷わなかった。


「――何も」


『……』


「誰も」


「犠牲にしない」


「この世界も」


「仲間も」


「家族も」


「そして」


「俺自身も」


俺は。


剣を構えた。


「全部」


「持っていく」


原初が。


沈黙する。


そして。


初めて。


その巨大な目から。


一滴の光が。


落ちた。


『……それが』


『人間の』


『選択か』


「そうだ」


『理解した』


空が。


震える。


世界樹が。


輝く。


そして。


原初の身体に。


巨大な亀裂が。


走った。


――ピシッ。


『ならば』


『最後の戦いを』


『始めよう』


その瞬間。


世界樹の遥か上空。


巨大な扉が。


開いた。


その向こうには。


何もない。


ただ。


完全な。


「無」が。


広がっていた。


祖父が。


青ざめる。


『……まさか』


「どうした?」


『あれは』


『世界の外だ』


「……!」


『原初は』


『もう』


『世界を壊すつもりではない』


『世界そのものを』


『外へ』


『引きずり出そうとしている』


「……」


原初の声が。


響いた。


『世界の外側へ』


『来い』


『レオン』


『そこで』


『最後の答えを』


『決めよう』


俺は。


仲間を見る。


アリアが。


頷く。


セレナも。


ノアも。


全員が。


俺を見る。


俺は。


笑った。


「行こう」


「みんなで」


そして。


俺たちは。


世界の外へ。


足を踏み出した。


――最後の戦いが。


始まる。

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