第43話 最後の世界戦争
――空が、割れた。
それは。
比喩なんかではなかった。
本当に。
空そのものが。
巨大な亀裂となって。
左右へ開いていく。
「……何だよ、これ」
カインが。
空を見上げたまま。
呆然と呟いた。
無数の魔法陣。
帝都の上空。
世界樹の周囲。
そして。
地平線の向こうまで。
まるで。
世界そのものが。
何か巨大な魔法を。
発動しているようだった。
「全員!」
カイルが叫ぶ。
「防御陣を張れ!」
「了解!」
セレナが。
杖を掲げる。
「――《広域結界》!」
――ズンッ!!
巨大な半透明の結界が。
帝都全体を包み込む。
その直後。
空から。
光が降ってきた。
――ドドドドドドドッ!!
「うわぁぁぁっ!」
無数の光弾。
魔法。
炎。
雷。
見たこともない異世界の武器。
それらが。
一斉に。
結界へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
セレナが。
顔を歪める。
「数が……多すぎます!」
「セレナ!」
俺が。
駆け寄ろうとした。
しかし。
その前に。
アリアが。
俺の腕を掴む。
「レオン!」
「何!?」
「あれ!」
アリアが。
指を差す。
帝都の外。
そこに。
大量の影が。
見えていた。
人間。
魔族。
獣人。
そして。
見たこともない生物。
異なる世界から。
呼び寄せられた者たち。
その数。
数万。
いや。
それ以上。
「……」
俺は。
息を呑んだ。
これが。
原初の言っていた。
世界融合。
「異世界の軍隊……」
ノアが。
震える声で。
言った。
「違う」
セリアが。
静かに。
答える。
「軍隊じゃない」
「……?」
「彼らは」
「それぞれの世界で」
「生きていた人たち」
「……!」
「原初は」
「彼らを」
「無理やり」
「ここへ引きずり込んだ」
俺は。
歯を食いしばる。
「……最低だ」
空から。
声が響いた。
『――違う』
「……!」
原初。
『私は』
『彼らに』
『新しい可能性を』
『与えている』
「ふざけるな!」
俺は。
空へ向かって。
叫んだ。
「自分の世界から」
「無理やり連れてきて」
「戦わせることの」
「どこが可能性だ!」
『彼らは』
『元の世界では』
『すでに』
『終わりへ向かっていた』
『ならば』
『別の世界へ』
『移ればいい』
「本人たちが」
「望んでないだろ!」
『望む?』
原初の声には。
本当に。
理解できない。
という響きがあった。
『なぜ』
『生き残れる可能性を』
『拒む?』
「それは――」
俺は。
言葉を止めた。
そして。
すぐに。
答えた。
「自分の人生を」
「自分で選ぶ権利が」
「あるからだ」
『……』
「たとえ」
「間違った選択でも」
「後悔する選択でも」
「自分で決める」
「それが」
「生きるってことだ」
原初は。
しばらく。
黙っていた。
そして。
『ならば』
『選ばせよう』
「……?」
『お前たちに』
『最後の選択を』
空に。
巨大な魔法陣が。
浮かぶ。
その中心に。
二つの光が。
現れた。
一つは。
白。
もう一つは。
黒。
『白を選べば』
『この世界は』
『完全な世界になる』
『争いも』
『死も』
『悲しみも』
『失うことも』
『存在しない』
「……」
『黒を選べば』
『今の世界を』
『維持する』
『だが』
『この世界は』
『永遠に』
『終焉から逃れられない』
「……」
どちらも。
魅力的に聞こえる。
だが。
どちらも。
俺には。
間違っている。
「第三の選択肢は?」
俺が。
聞いた。
『存在しない』
「嘘だ」
『……』
「俺は」
「そんな二択」
「認めない」
アリアが。
笑った。
「そうよ」
セレナも。
頷く。
「レオンさんらしいです」
カインが。
拳を鳴らす。
「二択しかねえなら」
「三つ目を作ればいい」
「……」
俺は。
笑った。
「そうだな」
その瞬間。
――ドォォォン!!
結界が。
大きく揺れた。
「きゃあっ!」
セレナが。
膝をつく。
「セレナ!」
「大丈夫です!」
だが。
結界には。
巨大な亀裂が。
入っていた。
「まずい……」
カイルが。
呟く。
「このままじゃ」
「十分も持たない」
「なら」
俺は。
前へ出る。
「俺が」
「外へ出る」
「レオン!」
アリアが。
叫ぶ。
「何をする気!?」
「原初の手を」
「直接」
「止める」
「無茶よ!」
「分かってる」
俺は。
剣を見る。
七つの光。
そして。
セリアの八つ目の光。
「でも」
「俺一人じゃない」
セリアが。
俺の隣に立つ。
「私も行く」
「……」
「八つ目の鍵は」
「世界を選ぶ力」
「だったら」
セリアが。
手を差し出す。
「一緒に」
「新しい選択肢を」
「作ろう」
俺は。
その手を握った。
「……ああ」
---
――帝都外。
大地が。
震えている。
無数の異世界兵が。
こちらへ。
進んでくる。
「来るぞ!」
カインが。
叫ぶ。
「全員!」
カイルが。
剣を掲げる。
「帝都を守れ!」
――ウォォォォォ!!
帝国兵。
冒険者。
魔族。
獣人。
世界樹の守護者。
それぞれが。
武器を構える。
俺は。
その光景を見た。
一つの世界だけではない。
いくつもの世界の人々が。
今。
ここで。
ぶつかろうとしている。
「……」
俺は。
拳を握る。
「こんなの」
「絶対に」
「終わらせる」
セリアが。
頷く。
「行こう」
「ああ」
俺たちは。
空へ飛び上がった。
---
「――《飛翔》!」
セレナの魔法で。
俺とセリアの身体が。
一気に。
空へ。
上昇する。
下を見る。
帝都が。
どんどん。
小さくなっていく。
さらに上。
さらに。
そして。
雲を。
突き抜ける。
「……」
そこで。
俺は。
初めて見た。
世界樹の頂上。
その上に。
巨大な。
白い腕が。
伸びていた。
山よりも。
大きい。
いや。
比較するものが。
ない。
それほど。
巨大だった。
「……これが」
「原初の手」
セリアが。
頷く。
「うん」
「本体は」
「さらに向こう」
「……」
白い腕が。
こちらへ。
向かってくる。
「来る!」
――ズォォォォォン!!
空間そのものが。
押し潰される。
俺は。
剣を構えた。
「セリア!」
「分かってる!」
八つの光が。
一つになる。
――キィィィィン!!
剣が。
巨大な光を。
纏った。
「――《可能性剣》!」
俺は。
白い腕へ。
突っ込む。
「うおおおおおおおっ!!」
――ズバァァァァン!!
斬撃が。
白い腕を。
切り裂いた。
「……!」
しかし。
切った瞬間。
腕が。
二つに分かれた。
そして。
それぞれが。
別の腕へ。
変化する。
「増えた!?」
セリアが。
叫ぶ。
「原初は」
「倒すほど」
「可能性を増やす!」
「……!」
「だから」
「普通に攻撃しちゃ」
「駄目!」
「だったら」
俺は。
剣を下ろす。
「攻撃するんじゃなくて」
「選ばせる」
「……!」
セリアが。
俺を見る。
「そう」
「それが」
「八つ目の鍵」
俺は。
白い腕へ。
手を伸ばす。
「原初!」
空間が。
静かになる。
『何だ』
「お前に」
「選択肢をやる」
『……』
「俺たちを」
「消すか」
「この世界を」
「消すか」
「それとも」
俺は。
剣を。
地面へ突き立てる。
「俺たちと」
「一緒に」
「新しい世界を」
「作るか」
『……』
原初が。
初めて。
沈黙した。
「お前は」
「終わりしか」
「知らない」
「だから」
「俺たちが」
「教えてやる」
「始まりも」
「終わりも」
「その途中にある」
「全部」
「ひっくるめて」
「世界なんだって」
『……』
白い腕が。
止まる。
そして。
巨大な白い目が。
空に。
現れた。
『……愚かな』
「そうかもな」
『だが』
原初の声が。
少しだけ。
変わった。
『お前の選択は』
『興味深い』
「……!」
『ならば』
『最後の鍵を』
『開けてみろ』
セリアが。
目を見開く。
「最後の鍵……?」
俺の胸の奥で。
八つの光が。
突然。
一つの形へ。
変わっていく。
それは。
鍵ではなかった。
「……剣?」
違う。
それは。
小さな。
光の扉だった。
その扉の向こうに。
一つの景色が見える。
「……あれは」
俺は。
息を呑んだ。
そこに。
いたのは。
「父さん……?」
一度目の世界で。
死んだはずの父。
そして。
その隣には。
母さん。
ユウト。
さらに。
俺が知らない。
もう一人の人物。
「誰だ……?」
セリアが。
青ざめる。
「……そんな」
「知ってるのか?」
セリアは。
震えながら。
答えた。
「うん」
「あの人は」
「私たちの」
「祖父……」
「……!」
その瞬間。
原初の声が。
響いた。
『――これが』
『本当の始まりだ』
光の扉が。
ゆっくりと。
開いていく。
そして。
その向こうから。
老人の声が。
聞こえた。
『ようやく来たか』
『我が子孫よ』
――俺たちは。
まだ。
知らなかった。
この世界の秘密が。
原初よりも。
さらに古い場所に。
隠されていることを。




