第42話 八つ目の鍵を持つ少女
世界樹の頂上へ。
俺たちは。
ただひたすらに。
走っていた。
「はぁ……はぁ……!」
階段。
また階段。
どこまで続いているのか。
分からない。
世界樹そのものが。
巨大な塔のようになっていた。
しかも。
上へ進むほど。
空気が薄くなっていく。
「レオンさん!」
セレナが。
後ろから叫ぶ。
「少し休んだ方が!」
「大丈夫!」
俺は。
振り返らずに答える。
「でも――」
「大丈夫だ!」
足を止めない。
胸の奥で。
七つの光が。
ずっと脈打っている。
まるで。
何かが。
俺を頂上へ。
引っ張っているようだった。
「……」
ノアが。
俺を見つめている。
「お兄ちゃん」
「何?」
「聞こえる?」
「何が?」
「声」
「……?」
耳を澄ます。
――風。
葉の揺れる音。
仲間たちの足音。
それ以外は。
何も。
「分からない」
「そっか」
ノアは。
少し不安そうに。
空を見上げた。
「私は」
「聞こえる」
「誰の声?」
「……女の子」
「女の子?」
ノアが。
頷く。
「ずっと」
「お兄ちゃんを」
「呼んでる」
その瞬間。
胸の中の光が。
強く輝いた。
――ドクン。
「……!」
俺は。
思わず。
胸を押さえる。
「レオン?」
アリアが。
心配そうに。
俺を見る。
「今」
「何か」
「感じた」
「私も」
ミアが。
言った。
「世界樹が」
「誰かを」
「呼んでる」
「誰か……」
俺は。
上を見る。
頂上。
そこに。
何かがいる。
そんな気がした。
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さらに。
数分。
いや。
数十分。
走り続けた。
ようやく。
階段が。
途切れた。
「……」
目の前に。
巨大な扉。
その向こうから。
眩しい光が。
漏れている。
「ここが」
「頂上……?」
カインが。
扉を見る。
「みたいだな」
リゼが。
頷く。
「気をつけて」
「何かいる」
「分かってる」
カイルが。
剣を抜く。
俺も。
剣を構えた。
「開けるぞ」
全員が。
身構える。
俺が。
扉へ手を伸ばす。
――ギィィィィ……。
ゆっくり。
扉が。
開いた。
光。
眩しい。
一瞬。
何も見えなかった。
そして。
光が落ち着いたとき。
そこに。
少女が立っていた。
「……」
銀色の髪。
白い服。
細い身体。
年齢は。
俺たちより少し下。
十六。
いや。
十五くらいだろうか。
少女は。
こちらを見ている。
その瞳は。
透き通るような。
紫色だった。
「……」
誰も。
動かない。
少女も。
動かない。
ただ。
俺だけを。
見ていた。
そして。
少女が。
口を開く。
「――レオン」
「……!」
名前を。
呼ばれた。
「お前は」
「誰だ?」
少女は。
微笑んだ。
「やっと」
「会えた」
「……」
「ずっと」
「あなたを」
「待ってた」
「俺を?」
「うん」
少女が。
一歩。
近づく。
「私は」
「あなたのことを」
「ずっと知ってる」
「……どうして?」
「一度目の世界から」
「……!」
その言葉に。
全員が。
警戒した。
「一度目……」
アリアが。
剣に手をかける。
「あなたは」
「何者?」
少女は。
アリアを見る。
「アリア」
「……!」
「ノア」
「……!」
「セレナ」
「……!」
「エリス」
「カイン」
「リナ」
「ミア」
一人ずつ。
名前を。
呼んでいく。
「そして」
最後に。
俺を見る。
「レオン」
「……」
「全部」
「知ってるのか?」
「うん」
「どうして?」
少女は。
胸元の黒い結晶へ。
手を当てる。
「私は」
「一度目の世界の」
「記憶を」
「全部」
「持っているから」
「……!」
ユウト。
そして。
もう一人の俺。
そして。
この少女。
俺は。
少しずつ。
理解し始めていた。
「お前も」
「一度目の世界に」
「いたのか?」
「いたよ」
「誰として?」
少女は。
少し。
悲しそうに笑った。
「あなたの」
「妹」
「……!」
アリアが。
驚く。
「また……?」
「うん」
「でも」
少女は。
首を振る。
「あなたたちが知っている」
「妹じゃない」
「……どういう意味?」
少女は。
俺の前へ。
立った。
「私の名前は」
「セリア」
「セリア……」
「一度目の世界では」
「私は」
「あなたたちの」
「一番下の妹だった」
「……」
「でも」
「世界が終わるとき」
「私は」
「死ななかった」
俺は。
息を呑んだ。
「……どうして?」
セリアは。
自分の胸元を指す。
「八つ目の鍵」
「……」
「私が」
「それを持っていたから」
「じゃあ」
ノアが。
呟く。
「ユウトが」
「魂の鍵で」
「セリアが」
「世界選択の鍵……」
「そう」
セリアが。
頷く。
「だから」
「私は」
「一度目の世界から」
「二度目の世界へ」
「記憶を持ったまま」
「渡ってきた」
「……」
「でも」
「二度目の世界では」
「私という存在は」
「最初から」
「消されていた」
アリアが。
目を伏せる。
「……だから」
「私たちは」
「あなたを知らない」
「うん」
セリアは。
笑った。
「寂しかったよ」
その言葉に。
アリアが。
唇を噛む。
「ごめん……」
「お姉ちゃんが」
「謝ることじゃないよ」
セリアは。
優しく。
首を振った。
「私が」
「選んだことだから」
「選んだ?」
「うん」
セリアが。
空を見上げる。
「二度目の世界を」
「作るとき」
「私は」
「この世界に」
「残ることを選んだ」
「どうして?」
「あなたたちを」
「見守るため」
「……」
「そして」
セリアが。
俺を見る。
「いつか」
「あなたが」
「もう一度」
「ここへ来ると」
「知っていたから」
俺は。
言葉が出なかった。
「でも」
セリアの表情が。
変わる。
「一つだけ」
「予定と違うことが起きた」
「何?」
「原初」
「……」
「本来なら」
「原初は」
「目覚めることがなかった」
「……!」
カイルが。
反応する。
「どういうことだ?」
「一度目の世界では」
「原初は」
「眠ったままだった」
「じゃあ」
リゼが。
尋ねる。
「なぜ今回は」
「目覚めた?」
セリアは。
俺を見る。
「あなたが」
「世界を作り直したから」
「……俺が?」
「そう」
「一度目の世界で」
「レオンは」
「終焉王と戦った」
「そのとき」
「世界樹を使って」
「世界そのものを」
「再構築した」
「……」
「その結果」
「眠っていた原初まで」
「目を覚ました」
俺は。
拳を握る。
「じゃあ」
「俺のせいで……」
「違う」
セリアが。
即座に。
否定した。
「あなた一人のせいじゃない」
「でも」
「むしろ」
セリアは。
微笑んだ。
「あなたが」
「世界を作り直したから」
「今の世界がある」
「……」
「私も」
「ここにいる」
「ユウトも」
「いる」
「母さんも」
「いる」
「だから」
「後悔しないで」
「……」
セリアが。
一歩。
俺に近づく。
そして。
右手を。
俺の胸へ。
当てた。
「あなたは」
「もう」
「七つの鍵を」
「持ってる」
「……」
「でも」
「それだけじゃ」
「原初には」
「勝てない」
「やっぱり」
俺は。
息を吐く。
「八つ目が」
「必要なんだな」
「うん」
セリアが。
頷く。
「だから」
「私の力を」
「あなたに渡す」
「……!」
「待って」
俺は。
首を振る。
「渡したら」
「お前は?」
セリアが。
笑う。
「消える」
「……!」
「そんなの」
「駄目だ」
「でも」
「これしか」
「方法がない」
「駄目だ!」
俺は。
強く。
言った。
「また」
「同じことをするのか?」
「……」
「ユウトも」
「母さんも」
「一度目の俺も」
「みんな」
「犠牲になって」
「ようやく」
「ここまで来たんだ」
俺は。
セリアの肩を掴む。
「俺は」
「もう」
「誰かを犠牲にして」
「未来を作らない」
セリアの目が。
揺れる。
「でも……」
「別の方法を探す」
「……」
「絶対に」
「ある」
「レオン……」
俺は。
仲間を見る。
「そうだろ?」
アリアが。
笑う。
「当然」
セレナも。
頷く。
「はい」
エリスが。
剣を抜く。
「探しましょう」
カインが。
拳を握る。
「全員でな」
リナが。
笑う。
「私も!」
ミアも。
世界樹へ。
手を伸ばす。
「世界樹も」
「手伝うよ」
ノアが。
微笑む。
「私たち」
「もう」
「誰も」
「置いていかない」
セリアは。
目を潤ませた。
「……そっか」
「うん」
「あなたは」
「本当に」
「変わったんだね」
「俺が?」
「うん」
セリアが。
笑う。
「一度目のあなたは」
「全部を」
「自分一人で」
「背負おうとしてた」
「……」
「でも」
「今のあなたは」
「違う」
「仲間に」
「頼ることを」
「覚えた」
「……」
「だから」
セリアは。
胸元の結晶を。
握った。
「私も」
「あなたたちを」
「信じる」
その瞬間。
黒い結晶が。
砕けた。
――パキィィィン!!
「……!」
黒い光が。
セリアの身体を包む。
そして。
世界樹そのものが。
巨大な光を放った。
「何だ!?」
カインが。
叫ぶ。
セリアの背後に。
巨大な紋章が。
浮かび上がる。
八つの光。
七つは。
俺の剣へ。
そして。
最後の一つは。
セリアの胸へ。
「これ……」
ノアが。
目を見開く。
「鍵を」
「渡すんじゃない」
「……?」
「繋ぐんだ」
「……!」
セリアが。
俺を見る。
「レオン」
「何?」
「私の力を」
「借りて」
「一緒に」
「戦おう」
俺は。
笑った。
「ああ」
「一緒に」
その瞬間。
八つの光が。
一つになった。
――ドォォォォン!!
世界樹の頂上から。
巨大な光の柱が。
空へ。
突き抜ける。
そして。
空を覆っていた。
異世界との裂け目が。
一瞬。
閉じた。
「……!」
カイルが。
驚く。
「止まった?」
リゼが。
首を振る。
「違う」
「何?」
「一時的に」
「押し返しただけ」
「……」
セリアが。
空を見る。
「原初は」
「もう」
「こちらへ来る」
俺は。
剣を握る。
「だったら」
「待ってればいい」
「……?」
「ここで」
「迎え撃つ」
その瞬間。
空から。
声が響いた。
『――面白い』
全員が。
空を見る。
巨大な白い目。
それが。
裂け目の向こうに。
浮かんでいた。
『八つ目の鍵』
『お前まで』
『こちら側につくか』
セリアは。
俺の隣へ立つ。
「うん」
『なぜ?』
「この世界が」
「好きだから」
『……理解できない』
「なら」
セリアが。
微笑む。
「これから」
「理解すればいい」
原初が。
沈黙する。
そして。
巨大な裂け目の奥から。
何かが。
こちらへ。
ゆっくり。
姿を現した。
巨大な腕。
白い身体。
無数の目。
「……」
俺は。
息を呑む。
「これが」
「原初の本体……?」
セリアが。
小さく。
呟く。
「違う」
「え?」
「あれは」
「本体じゃない」
「……!」
「ただの」
「手」
空が。
震える。
そして。
原初の声が。
響いた。
『――さあ』
『始めよう』
『最後の世界戦争を』
その瞬間。
帝都全体に。
無数の魔法陣が。
浮かび上がった。
――戦争が。
始まった。




