第41話 もう一人の俺
――キィィィィン!!
剣と剣が。
真正面からぶつかった。
「……っ!」
重い。
俺と同じ顔。
俺と同じ構え。
俺と同じ剣。
なのに。
目の前にいる「俺」は。
明らかに。
俺より強かった。
「くっ……!」
弾かれる。
身体が。
後ろへ飛ばされる。
足を踏ん張る。
白い床を。
靴底が削った。
「……」
目の前の俺は。
無言で。
剣を構えている。
その目には。
迷いがない。
「お前は……」
俺は。
息を整える。
「一度目の俺なんだな」
『そうだ』
「だったら」
「どうして戦う?」
『お前を超えるためだ』
「……逆じゃないか?」
『何が?』
「俺が」
「お前を超えるんだろ」
『違う』
もう一人の俺が。
剣先を。
こちらへ向ける。
『お前が』
『俺を受け入れるんだ』
「……!」
『一度目の俺を』
『二度目の俺が』
『否定している限り』
『お前は』
『本当の意味で』
『前へ進めない』
「……」
言葉が。
胸に刺さった。
一度目の俺。
世界を救えなかった俺。
家族を守れなかった俺。
ユウトを失った俺。
世界を壊した俺。
俺は。
ずっと。
その自分を。
「失敗した過去」だと思っていた。
『だから』
もう一人の俺が。
踏み込む。
『お前を』
『殺す』
「……!」
――ガキィン!!
受け止める。
だが。
力負けする。
「ぐっ……!」
『弱いな』
「……!」
『仲間に頼り』
『家族に頼り』
『可能性という言葉に』
『逃げている』
「違う!」
『なら』
剣が。
さらに重くなる。
『一人で』
『俺に勝ってみろ』
――ドンッ!!
俺は。
吹き飛ばされた。
背中から。
白い床へ叩きつけられる。
「……っ!」
痛い。
身体が。
動かない。
もう一人の俺が。
ゆっくり近づいてくる。
『お前は』
『何も分かっていない』
「……何を」
『世界を救うということが』
『どういうことなのか』
「……」
『誰かを救えば』
『誰かが犠牲になる』
『誰かを守れば』
『別の誰かが傷つく』
『そんな世界で』
『全員を救うなど』
『不可能だ』
俺は。
黙っていた。
『一度目の俺も』
『同じことを言った』
『全部救う』
『誰も死なせない』
『誰も失わない』
『そして』
もう一人の俺が。
剣を振り上げる。
『全部』
『失った』
「……」
剣が。
振り下ろされる。
――ドンッ!!
俺は。
ギリギリで。
転がった。
「……はぁ……」
立ち上がる。
膝が。
震えている。
『なぜ逃げる?』
「……」
『戦え』
「……違う」
『何?』
俺は。
ゆっくり。
剣を構える。
「俺は」
「お前を倒すために」
「ここに来たんじゃない」
『……』
「俺は」
「お前を」
「救うために来たんだ」
初めて。
もう一人の俺の表情が。
変わった。
『……何?』
「一度目のお前は」
「全部失った」
「でも」
「それで終わりじゃない」
『……』
「お前がいたから」
「俺がいる」
「お前が失敗したから」
「俺は」
「同じ失敗をしない」
『……』
「お前が」
「世界を守ろうとしてくれたから」
「今の俺は」
「仲間を守れる」
俺は。
剣を下ろした。
「だから」
「もう」
「自分を責めるな」
『……』
「お前は」
「俺の敵じゃない」
『……馬鹿な』
もう一人の俺が。
震える。
『そんな言葉で』
『俺の罪が消えると思うのか』
「消えない」
『……』
「でも」
「背負うことはできる」
俺は。
胸に手を当てる。
「お前の後悔も」
「悲しみも」
「全部」
「俺が引き継ぐ」
『……』
「それが」
「二度目の俺の役目だ」
長い。
長い沈黙。
やがて。
もう一人の俺が。
剣を下ろした。
『……そうか』
「……」
『お前は』
『俺を否定しないのか』
「ああ」
『失敗した俺を』
「失敗したからこそ」
「今の俺がいる」
もう一人の俺は。
小さく笑った。
『……なら』
『俺の最後の力を』
『お前にやる』
「……!」
もう一人の俺の身体が。
光になっていく。
『可能性とは』
『無限にある未来ではない』
『過去を』
『受け入れた上で』
『それでも』
『未来を選ぶ力だ』
光が。
俺の胸へ。
流れ込んでくる。
――ドクン。
心臓が。
大きく鳴った。
その瞬間。
俺の脳裏に。
一度目の世界の記憶が。
一気に流れ込んできた。
父さん。
母さん。
アリア。
ノア。
ユウト。
そして。
俺。
楽しかった日々。
笑った日々。
喧嘩した日。
泣いた日。
そして。
世界が終わった日。
「……」
涙が。
頬を伝った。
『忘れないで』
もう一人の俺の声が。
遠ざかっていく。
『俺たちは』
『失敗したんじゃない』
『途中だったんだ』
「……」
『だから』
『今度こそ』
『最後まで行け』
「……ああ」
俺は。
頷いた。
「約束する」
光が。
消える。
そして。
白い世界に。
俺一人だけが残った。
……いや。
違う。
もう。
一人ではない。
胸の奥に。
一度目の俺がいる。
家族の記憶がある。
ユウトの声がある。
母さんの笑顔がある。
「……戻ろう」
俺が。
そう呟いた瞬間。
目の前に。
巨大な扉が現れた。
その扉には。
七つの鍵穴。
そして。
中央に。
一つの文字が刻まれている。
――《未来》。
俺は。
剣を。
鍵穴へ差し込んだ。
――カチッ。
七つの鍵穴が。
一斉に光る。
そして。
扉が。
開いた。
---
「――レオン!!」
聞き覚えのある声。
目を開ける。
「……セレナ?」
そこには。
仲間たちがいた。
「レオンさん!」
セレナが。
駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「ああ」
「本当に?」
「大丈夫」
アリアが。
俺の顔を覗き込む。
「……何か」
「変わった?」
「分からない」
「でも」
俺は。
胸に手を当てる。
「少しだけ」
「強くなった気がする」
ノアが。
俺を見る。
そして。
微笑んだ。
「違うよ」
「何が?」
「強くなったんじゃない」
「……?」
「強くなったんじゃなくて」
「本当の意味で」
「一つになったんだよ」
「……」
一度目の俺と。
二度目の俺。
その二つが。
ようやく。
一つになった。
「……そうか」
俺は。
小さく笑った。
そのとき。
――ドォォォォン!!
巨大な爆発音。
全員が。
振り返る。
「何だ!?」
空が。
割れていた。
世界樹の上空。
そこに。
巨大な裂け目が。
広がっている。
「原初……」
カイルが。
呟く。
「始めやがった」
「何が?」
リゼが。
険しい表情で。
空を見る。
「世界融合」
「……!」
裂け目の向こうから。
別の景色が。
見える。
見たことのない街。
巨大な建物。
空を飛ぶ乗り物。
そして。
俺たちとは違う服装の人々。
「異世界……?」
リナが。
呟く。
「そう」
ノアが。
頷く。
「原初が」
「別の世界を」
「こっちへ引き寄せてる」
「止められないのか?」
「今なら」
「まだ」
ノアが。
俺を見る。
「可能性の鍵が」
「完全に目覚めたなら」
「止められるかもしれない」
「だったら」
俺は。
剣を握る。
「行こう」
「どこへ?」
「世界樹の頂上」
ミアが。
目を見開く。
「頂上?」
「ああ」
「原初が」
「世界の外と繋がっているなら」
「そこが」
「一番近い」
カインが。
拳を鳴らす。
「いいね」
「ようやく」
「本当の敵と戦えるってわけか」
「ただし」
リゼが。
言った。
「一つ」
「問題がある」
「何?」
「世界融合が始まったことで」
「終焉王の力も」
「一時的に」
「完全復活する」
「……」
「つまり」
カイルが。
続ける。
「原初と」
「終焉王」
「二つを」
「同時に相手にすることになる」
「……」
全員が。
黙った。
普通なら。
絶望する状況だ。
でも。
俺は。
不思議と。
怖くなかった。
「なら」
「二つとも」
「止めればいい」
アリアが。
笑う。
「やっぱり」
「そう言うと思った」
セレナも。
微笑む。
「はい」
「それが」
「レオンさんですから」
俺たちは。
走り出した。
世界樹へ。
---
その頃。
世界樹の頂上。
誰もいない場所で。
一人の少女が。
目を覚ました。
長い銀髪。
白い服。
そして。
胸元には。
小さな黒い結晶。
少女は。
ゆっくり。
目を開ける。
「……ここは?」
誰も。
答えない。
少女は。
空を見る。
そこには。
巨大な裂け目。
二つの世界が。
重なり始めている。
そして。
少女の背後に。
白い目が。
浮かんだ。
『目覚めたか』
少女が。
振り返る。
「あなたは?」
『私は原初』
「……原初?」
『そう』
少女は。
少し考え。
首を傾げる。
「あなたが」
「私を」
「呼んだの?」
『違う』
『お前は』
『自ら』
『ここへ来た』
「……?」
少女が。
胸元の結晶を見る。
その瞬間。
結晶が。
強く輝いた。
『お前は』
『最後の可能性』
「最後の……?」
『そう』
『レオンが』
『まだ知らない』
『八つ目の鍵』
少女の瞳が。
大きく開く。
「……八つ目?」
『魂の鍵でも』
『可能性の鍵でもない』
『お前は』
『世界そのものを』
『選択する鍵』
「……」
『名は』
『――■■■』
その名前は。
世界そのものに。
飲み込まれた。
そして。
少女は。
静かに。
微笑んだ。
「……レオン」
「早く来て」
「私」
「ずっと」
「あなたを待ってた」
その瞬間。
世界樹の頂上から。
巨大な光が。
空へ向かって。
放たれた。
――そして。
レオンたちは。
まだ。
それが何を意味するのか。
知らなかった。




