第39話 終焉王の中にある世界
音がない。
風もない。
足音すら。
何も聞こえない。
ただ。
真っ暗な空間が。
どこまでも続いていた。
「……ここが」
「終焉王の中?」
カインが。
周囲を見回す。
「気味悪いな」
「本当に」
リナも。
カインの服の袖を。
ぎゅっと掴んでいた。
「何もないよ?」
ミアが。
首を傾げる。
「ううん」
「何もないんじゃない」
ノアが。
静かに答えた。
「全部ある」
「……?」
「ここには」
「終焉王が」
「今まで終わらせたものが」
「全部」
ノアが。
手を伸ばす。
すると。
指先に。
小さな光が現れた。
その光の中に。
一つの光景が映る。
――村。
平和な村だった。
子供たちが走り。
大人たちが笑っている。
「……」
俺は。
言葉を失った。
「これは……?」
「過去」
ノアが。
答える。
「終焉王が」
「まだ生まれていなかった頃の」
「世界」
「……」
突然。
村が。
黒い炎に包まれた。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
そして。
すべてが。
消えた。
「……!」
リナが。
目を逸らす。
「これを」
「全部……?」
「うん」
ノアが。
頷く。
「終焉王は」
「終わったものを」
「自分の中に」
「取り込んでる」
「だから」
セレナが。
周囲を見る。
「ここは」
「世界の墓場……」
「そう」
「そして」
ノアは。
俺を見る。
「お母さんも」
「ここにいる」
「……!」
俺は。
すぐに。
前へ走り出した。
「レオン!」
アリアが。
追いかける。
「待って!」
「母さんがいる!」
「分かってる!」
「でも!」
「……」
俺は。
足を止めた。
アリアが。
息を切らしながら。
追いついてくる。
「焦っちゃ駄目」
「罠かもしれない」
「……そうだな」
俺は。
深呼吸する。
「ごめん」
「ううん」
アリアは。
微笑んだ。
「私も」
「早く会いたい」
「……」
その言葉に。
胸が痛んだ。
俺たちは。
ずっと。
母さんを探していた。
いや。
正確には。
母さんがどこにいるのか。
知らなかった。
ただ。
父さんが死んだあと。
母さんまで。
突然。
いなくなった。
それだけだった。
「……」
俺は。
拳を握る。
「今度こそ」
「絶対に」
「母さんを連れて帰る」
「うん」
アリアが。
頷いた。
---
「……道が」
エリスが。
前方を見る。
真っ暗だった空間に。
一本の道が。
突然。
現れた。
白い石畳。
その両側に。
無数の扉。
「扉……?」
セレナが。
近づく。
一枚。
二枚。
三枚。
いや。
数え切れない。
無数の扉が。
並んでいる。
「これ」
カインが。
一つの扉に触れる。
――ドクン。
扉が。
鼓動した。
「うわっ!」
カインが。
手を引っ込める。
「何だこれ!」
ノアが。
言う。
「記憶の扉」
「記憶?」
「そう」
「この扉の向こうには」
「誰かの」
「一番大切な記憶がある」
「……」
「そして」
ノアが。
真剣な顔になる。
「終焉王は」
「そこを壊すことで」
「魂を弱らせる」
「じゃあ」
セレナが。
尋ねる。
「この扉を」
「守ればいいのですか?」
「違う」
ノアは。
首を振る。
「開ける」
「……?」
「大切な記憶を」
「最後まで」
「受け入れる」
「そうすれば」
「魂が」
「終焉王から」
「離れる」
「……」
俺は。
一番近い扉を見る。
そこには。
名前が刻まれていた。
――レオン。
「俺の?」
「うん」
「開けてみる」
「待って」
アリアが。
俺の手を掴む。
「一人で入らないで」
「……」
「私も行く」
「分かった」
俺たちは。
二人で。
扉を開いた。
---
そこには。
小さな家があった。
見覚えがある。
「……ここ」
俺の。
子供の頃の家だった。
庭では。
父さんが。
剣を振っている。
そして。
その隣に。
母さん。
「レオン」
「剣を持つなら」
「まず」
「人を傷つけないために」
「力を使うのよ」
幼い俺が。
頷く。
「うん!」
父さんが。
笑う。
「強くなれよ」
「でも」
「優しくな」
「うん!」
「……」
胸が。
締め付けられる。
「懐かしい……」
アリアが。
小さく呟く。
「私も」
「覚えてる」
突然。
映像が。
変わった。
夜。
父さんと母さんが。
真剣な顔で。
話している。
「アルベルト」
「もう時間がない」
「分かってる」
「子供たちを」
「どうするの?」
「俺が」
「守る」
「あなた一人では」
「無理よ」
「だから」
父さんが。
何かを。
母さんへ渡す。
白い結晶。
「これを」
「レオンに」
「いつか」
「必要になる」
母さんが。
結晶を握る。
「……この子に」
「全部背負わせるの?」
「違う」
父さんが。
首を振る。
「この子には」
「背負わせない」
「みんなで」
「支えるんだ」
「……」
俺は。
その言葉を聞いて。
胸が。
熱くなった。
「父さん……」
そのとき。
映像の中の母さんが。
突然。
こちらを見る。
「……?」
俺は。
息を呑んだ。
母さんの目が。
まっすぐ。
俺を見ている。
「レオン」
「……!」
「もし」
「この記憶を」
「あなたが見ているなら」
「私は」
「もう」
「あなたのそばにいないのでしょうね」
「母さん……」
アリアが。
隣で。
泣いている。
「でも」
母さんは。
笑った。
「覚えておいて」
「あなたは」
「何かを選ぶために」
「生まれたんじゃない」
「……」
「自分で」
「未来を作るために」
「生まれたのよ」
その瞬間。
家が。
崩れ始めた。
「レオン!」
アリアが。
俺の腕を掴む。
「出よう!」
「待って!」
俺は。
振り返る。
「母さん!」
母さんの姿が。
消えていく。
それでも。
最後まで。
笑っていた。
『――愛してるわ』
「母さん……!」
俺が。
手を伸ばした瞬間。
世界が。
真っ白になった。
---
「――レオン!」
目を開ける。
セレナが。
俺の肩を。
揺さぶっていた。
「大丈夫ですか!?」
「……ああ」
俺は。
ゆっくり。
起き上がる。
「どれくらい」
「数秒です」
「……そうか」
俺は。
周囲を見る。
みんな。
無事だった。
そして。
俺の剣が。
変化していた。
刃の中心に。
小さな白い光が。
浮かんでいる。
「これ……」
ミアが。
驚く。
「お母さんの」
「記憶?」
「たぶん」
俺は。
その光を見る。
不思議と。
温かかった。
「一歩」
「進めたね」
ノアが。
微笑む。
「でも」
エリスが。
周囲を見る。
「まだ」
「何かいる」
「……」
その瞬間。
背後の扉が。
一斉に。
開いた。
――ギィィィィ……。
無数の扉。
その奥から。
黒い影が。
這い出してくる。
「……!」
カインが。
拳を構える。
「敵か!」
ノアが。
首を振る。
「違う」
「これは」
「壊された記憶」
「……」
黒い影が。
次々と。
人の形へ。
変わっていく。
兵士。
魔物。
老人。
子供。
そして。
最後に。
一人の男が。
姿を現した。
「……」
俺は。
その顔を見て。
固まった。
「……父さん?」
違う。
父さんではない。
父さんに。
よく似た。
別の男。
その男が。
剣を抜く。
「――レオン」
「……誰だ」
「お前の」
「もう一つの可能性だ」
「……?」
男が。
笑う。
「もし」
「お前が」
「終焉を選んでいたら」
「……」
「お前は」
「こうなっていた」
黒い魔力が。
男を包む。
「……!」
「レオン」
セレナが。
警戒する。
「気をつけてください」
俺は。
剣を握る。
「分かってる」
男が。
ゆっくり。
歩いてくる。
「お前は」
「甘すぎる」
「……」
「家族も」
「仲間も」
「世界も」
「全部救おうとする」
「そんなこと」
「できるわけがない」
「……」
「だから」
男が。
剣を構える。
「俺がお前を」
「終わらせる」
――ドンッ!!
一瞬で。
間合いを詰められた。
「――!」
俺は。
剣で受け止める。
ガキィィン!!
「くっ……!」
重い。
俺と。
同じ力。
いや。
それ以上。
「これが」
「俺の可能性……?」
「違う」
ノアが。
叫ぶ。
「これは」
「終焉王が作った」
「偽物!」
「……!」
俺は。
剣を押し返す。
「だったら」
「簡単だ」
「何?」
「偽物なら」
「俺は」
「本物の未来を選ぶ!」
六つの光が。
剣へ集まる。
「――《可能性断ち》!」
――ズバァァァァン!!
黒い影が。
真っ二つに。
切り裂かれた。
「……!」
影が。
崩れる。
だが。
消える直前。
男は。
笑った。
「そうか」
「お前は」
「まだ知らないんだな」
「……何を?」
「お前自身が」
「すでに」
「一度」
「世界を」
「終わらせていることを」
「……!」
影が。
完全に。
消えた。
そして。
その言葉だけが。
暗闇に。
残った。
『――レオン』
『お前は』
『二度目の人生を』
『生きている』
「……」
俺は。
動けなかった。
二度目の人生。
そんな記憶は。
俺にはない。
なのに。
なぜだろう。
胸の奥で。
何かが。
確かに。
反応していた。
「レオン?」
アリアが。
心配そうに。
俺を見る。
俺は。
自分の胸に。
手を当てる。
――ドクン。
また。
鼓動。
そして。
聞こえた。
今度は。
母さんでも。
終焉王でもない。
俺自身の声。
『――一度目の世界では』
『お前は』
『すべてを失った』
「……!」
『だから』
『二度目の世界では』
『すべてを救え』
俺は。
息を呑んだ。
そして。
暗闇の奥。
巨大な扉が。
ゆっくりと。
開き始めた。
その向こうから。
母さんの声が。
聞こえた。
『レオン』
『やっと』
『ここまで来たのね』
「母さん!」
俺は。
走り出す。
だが。
扉の向こうにいたのは。
母さんだけではなかった。
その隣に。
もう一人。
小さな少年が。
立っていた。
少年は。
俺を見ると。
静かに。
笑った。
「――兄さん」
「……誰だ?」
少年が。
答える。
「僕は」
「あなたが」
「一度目の世界で」
「守れなかった」
「最後の家族だよ」
そして。
少年の瞳が。
赤く輝いた。
「――魂の鍵」




