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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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27/132

第27話 父の日記と赤髪の少女

帝都を出て。


三日目の朝。


俺たちは。


深い森の中を進んでいた。


「……」


「……」


「……」


馬車の中は。


妙に静かだった。


理由は。


昨日からずっと。


俺が読んでいるもの。


――父さんの日記。


『息子へ』


最初のページに。


そう書かれていた。


俺は。


何度もその文字を見つめた。


父さんの字。


当然。


実物を見るのは初めてだ。


なのに。


なぜか。


胸の奥が温かくなった。


「……」


ページをめくる。


最初の日付。


二十一年前。


俺が生まれる一年前だった。


『今日、ミレイアと世界樹へ向かった』


『世界樹の根には、古代文明の遺跡があるらしい』


『帝国は、そこに始祖の力が眠っていると考えている』


そこから。


何ページかは。


研究について書かれていた。


難しい魔法理論。


古代文字。


始祖の力。


正直。


半分くらいしか理解できない。


だが。


あるページで。


俺の手が止まった。


『今日、ミレイアから子供ができたと告げられた』


「……」


俺は。


息を止めた。


『嬉しい』


たった二文字。


それだけだった。


けれど。


それが。


父さんの本当の気持ちだった。


『名前はまだ決めていない』


『男の子なら――』


そこで。


文章が途切れている。


「……」


俺は。


しばらく。


そのページを見つめていた。


「何て書いてあるんですか?」


隣から。


セレナが覗き込む。


「……俺が生まれる前の話」


「お父様の日記ですか?」


「ああ」


「読んでも?」


「いいよ」


セレナは。


少しだけ。


申し訳なさそうに日記を見る。


「……」


「どうした?」


「いえ」


セレナは。


微笑んだ。


「素敵な方だったんですね」


「……」


「文章から分かります」


「父さんが?」


「はい」


「とても」


「あなたのことを大切に思っていた」


俺は。


少しだけ笑った。


「そうかな」


「ええ」


そのとき。


前方から。


大きな声がした。


「おーい!」


リナだ。


「ちょっと!」


「早く来て!」


俺たちは。


馬車を止めた。


「どうした?」


リナが。


森の奥を指差している。


「これ!」


そこには。


巨大な木があった。


普通の木じゃない。


幹に。


青白い光が流れている。


「……魔力樹」


エリスが。


呟いた。


「世界樹の近くにしか生えない」


「じゃあ」


俺は。


周囲を見る。


「もう近いのか?」


「はい」


カインが。


頷いた。


「ここから北へ二日」


「世界樹です」


二日。


父さんのいる場所まで。


あと二日。


俺は。


自然と拳を握った。


---


昼。


森の中で。


休憩する。


俺は。


日記の続きを読んでいた。


『子供の名前を決めた』


次のページ。


そこには。


一つの名前が書かれていた。


『レオン』


「……」


俺の名前。


『勇敢な獅子になってほしい』


『世界がどれだけ恐ろしくても』


『誰かを守れる人間になってほしい』


「……父さん」


胸が。


熱くなった。


だが。


次の文章を読んだ瞬間。


空気が変わった。


『今日、始祖の声を聞いた』


『世界樹の根の奥から』


『私を呼んでいる』


『――アルベルト』


『――お前の息子を見せろ』


「……」


俺は。


眉をひそめた。


「始祖が」


俺の名前を。


知っていた?


さらに。


ページをめくる。


『私は恐ろしい』


『始祖は、未来を知っている』


『そして』


『レオンが生まれた日に』


『世界が終わると言った』


「……!」


「どうしました?」


セレナが。


俺の顔を見る。


俺は。


日記を見せる。


「……世界が終わる?」


セレナの顔が。


青ざめた。


「始祖がそう言ったんですか?」


「ああ」


「そんな……」


エリスも。


日記を覗き込む。


「続きを」


「まだある」


ページをめくる。


『だが』


『私は諦めない』


『この子を守る』


『たとえ』


『世界そのものを敵に回しても』


俺は。


日記を閉じた。


「……」


父さん。


ずっと。


俺を守ろうとしていた。


そして。


世界の終わりを知っていた。


「レオン」


母さんが。


静かに言う。


「あなたのお父様は」


「最後まで」


「あなたのことを考えていました」


「……うん」


俺は。


日記を胸にしまった。


そのとき。


「――来る」


エリスが。


立ち上がった。


「何が?」


「魔物」


森の奥。


ガサッ。


ガサガサッ。


「何匹?」


カインが。


剣に手をかける。


「……多い」


エリスが。


目を細める。


「二十」


「三十」


「いや」


俺が。


魔力を探る。


「五十以上いる」


「……」


カインが。


笑った。


「面白い」


「面白くない」


俺は。


立ち上がる。


「リナ」


「うん!」


「後ろにいて」


「分かった!」


「セレナ」


「はい」


「結界を頼む」


「任せてください」


エリスが。


剣を抜く。


「私とカインが前」


「俺も行く」


「あなたは中央」


「了解」


森の奥から。


魔物が。


一斉に飛び出してきた。


「――来る!」


「《聖光壁》!」


セレナの結界が。


展開される。


「《銀閃》!」


エリスが。


突っ込む。


「《烈火斬》!」


カインの剣が。


炎を纏う。


俺も。


剣を構える。


「――《双極斬》!」


白と黒の斬撃が。


森を駆け抜ける。


魔物たちが。


次々と倒れていく。


「……」


戦いは。


あっという間に終わった。


だが。


エリスが。


倒れた魔物を見る。


「おかしい」


「何が?」


「こいつら」


エリスが。


魔物の身体を調べる。


「魔力が」


「異常に濃い」


カインも。


頷く。


「誰かに」


「操られていた可能性がある」


「……」


俺は。


嫌な予感がした。


「黒冠教団?」


「おそらく」


その瞬間。


遠くから。


声が聞こえた。


「――レオン」


「……!」


女性の声。


森の奥。


誰かが立っている。


赤い髪。


白い服。


そして。


俺を見つめる。


「……誰だ?」


少女は。


微笑んだ。


「久しぶり」


「……?」


「レオン」


「あなたは」


「私を忘れたの?」


「会ったことない」


「……そう」


少女の表情が。


少し悲しそうになる。


「そうだよね」


「あなたは」


「全部忘れてる」


俺は。


剣を構える。


「名前は?」


少女は。


少し考えてから。


答えた。


「アリア」


「アリア……」


「うん」


「私は」


少女が。


胸元へ手を当てる。


「あなたの」


「姉」


「……」


「……は?」


俺は。


固まった。


セレナも。


固まっている。


リナは。


目を丸くしている。


カインは。


無言。


エリスだけが。


剣を構えた。


「エリス?」


「……敵」


「え?」


「その女」


エリスが。


鋭く睨む。


「帝国の記録に」


「存在しない」


「……」


アリアが。


笑う。


「さすが」


「帝国騎士」


「調べたんだね」


「何者?」


「私は」


アリアが。


右手を上げる。


その手の甲には。


黒い紋様。


俺と同じ。


「あなたと同じ」


「終焉の器」


「……!」


俺の中の存在が。


初めて。


激しく反応した。


『……こいつだ』


「何?」


『我の記憶にある』


『この女を』


「知ってるのか?」


『ああ』


『そして』


『こいつは――』


声が。


途切れる。


「どうした?」


『……危険だ』


アリアが。


笑う。


「ねえ」


「レオン」


「一緒に来ない?」


「嫌だ」


即答した。


「そう」


アリアは。


少し笑った。


「じゃあ」


「次に会ったときは」


「敵だね」


「……」


アリアの身体が。


黒い霧に包まれる。


「待て!」


俺が。


走り出す。


だが。


霧が消えたあと。


彼女の姿は。


もうなかった。


「……姉」


俺は。


呟く。


母さんを見る。


「母さん」


「……」


母さんは。


何も言わない。


「本当に」


「俺に姉がいるの?」


「……」


母さんは。


目を閉じた。


そして。


静かに答えた。


「います」


「……!」


「あなたには」


「一人」


「姉がいます」


「名前は?」


「アリア」


「……」


「あなたより」


「三歳年上」


俺は。


言葉を失った。


「でも」


母さんが。


続ける。


「アリアは」


「人間ではありません」


「……え?」


「彼女は」


母さんが。


震える声で言った。


「あなたより先に作られた」


「最初の」


「終焉の器です」


「……!」


そして。


母さんは。


最後に。


とても小さな声で。


こう言った。


「私は」


「あの子を」


「殺したはずなのです」


「――!」


俺の背筋に。


冷たいものが走った。


「じゃあ」


俺が聞く。


「今のアリアは」


「誰なんだ?」


母さんは。


答えられなかった。


その夜。


俺は眠れなかった。


焚き火の前で。


一人。


父さんの日記を開く。


最後のページ。


そこには。


俺がまだ読んでいなかった。


一行があった。


『もしアリアが生きているのなら』


『レオン』


『絶対に』


『あの子を殺すな』


俺は。


その文字を。


何度も見つめた。


「……父さん」


なぜ。


父さんは。


姉さんを殺すなと書いた?


そして。


なぜ母さんは。


姉さんを殺したと言った?


答えは。


まだ分からない。


ただ一つ。


確かなことがある。


世界樹へ行けば。


父さんに会える。


そして。


父さんなら。


すべてを知っている。


俺は。


日記を閉じた。


「……明日」


「世界樹へ行こう」


だが。


その夜。


森の遥か彼方。


赤い髪の少女――アリアは。


一人。


月を見上げていた。


「……お父さん」


彼女が。


小さく呟く。


「約束」


「覚えてるよ」


その手には。


古びた写真があった。


そこに写っていたのは。


若き日のアルベルト。


ミレイア。


そして――。


幼いアリアと。


赤ん坊のレオン。


アリアは。


写真を胸に抱く。


「今度こそ」


「家族に」


「戻れるかな」


だが。


その背後から。


黒いローブの男が現れた。


「残念ですが」


「それは無理でしょう」


「……ヴァルガス」


「はい」


ヴァルガスが。


静かに笑う。


「あなたには」


「別の役目があります」


アリアは。


振り返らない。


「分かってる」


「第三封印を」


「開けるんでしょう?」


「ええ」


「そして」


アリアが。


目を閉じる。


「レオンを」


「器にする」


「……その通り」


アリアの手が。


震える。


「でも」


「私は」


「弟を」


「殺したくない」


ヴァルガスが。


笑う。


「ならば」


「あなた自身が」


「弟に殺されればいい」


アリアは。


黙っていた。


やがて。


夜空を見上げる。


「……レオン」


「ごめんね」


「次に会うときは」


「ちゃんと」


「お姉ちゃんになるから」


その瞳には。


一筋の涙が。


流れていた。

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