第24話 二つの力を持つ者
「来い」
俺がそう言った瞬間。
ヴァルガスの口元が。
ゆっくりと歪んだ。
「……いいでしょう」
男が右手を上げる。
「あなたがどこまで成長したのか」
「この私が確かめてあげます」
パチン。
指が鳴った。
その瞬間。
背後にいた黒冠教団の兵士たちが。
一斉に動き出した。
「来るぞ!」
エリスが叫ぶ。
「セレナ!」
「はい!」
俺たちは。
同時に魔力を解放した。
「《聖光壁》!」
セレナの前に。
巨大な光の壁が生まれる。
ガガガガガッ!!
黒い魔法が。
次々と壁へぶつかる。
「リナ!」
「分かってる!」
リナが。
小さな手を前へ突き出した。
「《雷撃》!」
バチィィッ!!
雷が走る。
黒冠教団の兵士たちが。
一斉に吹き飛んだ。
「すごい!」
「やった!」
「まだです!」
セレナが叫ぶ。
「右から来ます!」
「任せろ!」
エリスが。
一瞬で駆ける。
「――《銀閃》!」
ザシュッ!
一人。
二人。
三人。
まるで踊るように。
敵を倒していく。
「……強い」
思わず呟く。
「当然」
エリスが。
敵を斬りながら答える。
「第三騎士団だから」
「それ、関係あるのか?」
「ある」
「そうかよ!」
俺は。
目の前のヴァルガスを見る。
「……」
ヴァルガスだけは。
動いていない。
「どうした?」
「来ないのか?」
「ふふ」
ヴァルガスは。
笑った。
「あなたと戦う必要などありません」
「何?」
「私は」
指を鳴らす。
「あなた自身に戦わせればいい」
「……!」
俺の足元に。
黒い魔法陣が現れた。
「なっ――」
身体が。
突然重くなる。
「レオン!」
セレナが叫ぶ。
「大丈夫!」
俺は。
剣を握る。
「こんなもの!」
魔力を込める。
だが。
魔法陣は消えない。
「……っ!」
「無駄ですよ」
ヴァルガスが。
静かに言う。
「それは外からの魔法ではない」
「あなたの中にある」
「終焉石そのものを利用している」
「……!」
黒い紋様が。
右腕を這っていく。
「ぐっ……!」
頭が痛い。
視界が。
歪む。
そして。
頭の中に。
あの声が響いた。
『……我に任せろ』
「……!」
『身体を貸せ』
「嫌だ」
『このままでは殺されるぞ』
「……それでも」
俺は。
歯を食いしばる。
『ならば死ね』
「それも嫌だ!」
『ならば我を使え』
「……」
『お前は我を恐れている』
「当たり前だろ」
『ならば』
怪物の声が。
少しだけ。
笑ったように聞こえた。
『恐れながら使え』
『それが力というものだ』
「……」
俺は。
目を閉じる。
そして。
一度だけ。
深く息を吸った。
「……分かった」
右手に。
黒い光が集まる。
「力を貸せ」
『よかろう』
ドクン。
心臓が。
大きく鳴った。
次の瞬間。
黒い魔力が。
身体から溢れ出した。
「――!」
セレナが。
驚いて俺を見る。
「レオン……?」
「大丈夫」
俺は。
ゆっくり目を開ける。
「今度は」
「俺が使う」
黒い魔法陣が。
一瞬で砕けた。
「な――」
ヴァルガスの顔から。
初めて余裕が消えた。
「そんな……」
俺は。
剣を構える。
「終焉の力ってのは」
「こういうものか」
剣を振る。
「――《終焉斬》!」
ズンッ!!
空間そのものが。
切り裂かれた。
ヴァルガスが。
咄嗟に防御魔法を展開する。
だが。
黒い斬撃は。
魔法をすり抜けた。
「――っ!」
ヴァルガスの肩から。
血が噴き出す。
「ぐっ……!」
「当たった……」
俺自身が。
驚いていた。
これまでとは。
全く違う。
魔法を破壊した。
防御を無視した。
それどころか。
空間まで。
斬った。
「素晴らしい……!」
ヴァルガスが。
血を流しながら笑う。
「やはり!」
「あなたは最高傑作だ!」
「黙れ!」
俺は。
再び踏み込む。
「《終焉斬》!」
「《黒雷》!」
二つの攻撃が。
同時にぶつかる。
ドォォォン!!
研究室全体が。
激しく揺れる。
「レオン!」
「大丈夫!」
「ですが――」
セレナが。
何かに気づいた。
「その力……」
「少しずつ」
「あなたの身体を侵食しています!」
「……!」
見ると。
右腕の半分が。
黒く変色していた。
「なんだ……これ」
「終焉の力が強すぎます!」
「このままでは!」
セレナが。
駆け寄ろうとする。
だが。
ヴァルガスが。
笑う。
「そう」
「それでいい」
「……?」
「終焉の力を使えば使うほど」
「あなたは人間ではなくなる」
「そして」
ヴァルガスが。
両手を広げる。
「最後には」
「完全な終焉の器になる」
「……」
「そうなれば」
「世界樹の第三封印など」
「簡単に破壊できる」
俺は。
ヴァルガスを睨む。
「だったら」
「そんな力」
俺は。
左手を開いた。
白い光が生まれる。
「創造で上書きする」
「……何?」
白い光が。
黒い右腕を包み込む。
ジュウゥゥッ!
「ぐっ……!」
激痛。
身体の中で。
二つの力がぶつかる。
『何をしている』
「俺の身体を」
「俺のものに戻してる」
『無茶をするな』
「お前が言うなよ!」
白い光が。
さらに強くなる。
「――《創造》!」
黒い侵食が。
少しずつ消えていく。
「……!」
セレナが。
目を見開く。
「消えていく……」
エリスも。
戦う手を止めている。
「創造で終焉を抑えている?」
俺は。
息を荒くしながら。
右腕を見る。
完全ではない。
だが。
黒い部分は。
消えていた。
「……できた」
ヴァルガスは。
呆然としている。
「ありえない」
「創造と終焉は」
「相反する力だ」
「同時には扱えない」
「じゃあ」
俺は。
剣を握る。
「俺が最初の一人ってことだな」
「……」
ヴァルガスの顔が。
歪む。
「違う」
「何?」
「あなたが最初ではない」
「……?」
「二十年前」
ヴァルガスが。
呟く。
「一人だけ」
「両方の力を持った人間がいた」
「誰だ?」
「あなたの父親ですよ」
「……!」
「アルベルト・アストリア」
その名前を聞いた瞬間。
俺の中で。
何かが弾けた。
父さん。
創造の力だけだと。
母さんは言っていた。
でも。
ヴァルガスは違うと言う。
「父さんも……」
「創造と終焉を?」
「ええ」
「ただし」
ヴァルガスが。
笑う。
「彼は制御できなかった」
「……」
「だから」
「あなたが生まれた」
「父さんの代わりに?」
「そう」
「より完全な器として」
ヴァルガスが。
俺を指差す。
「あなたは」
「アルベルトを超えるために作られた」
「……」
胸の奥が。
ざわつく。
俺は。
誰かを超えるために生まれた?
違う。
そんなの。
俺じゃない。
「ふざけるな」
俺は。
剣を構える。
「俺が何のために生まれたかなんて」
「俺が決める」
ヴァルガスが。
目を見開く。
「……!」
「俺は」
「父さんの代わりでもない」
「母さんの作品でもない」
「お前たちの実験体でもない」
俺は。
セレナを見る。
リナを見る。
そして。
母さんを見る。
「俺は」
「レオン・アストリアだ」
白と黒。
二つの魔力が。
剣に集まる。
「それだけだ!」
「――《双極斬》!!」
白と黒の斬撃が。
一本の線となって。
ヴァルガスへ走った。
「ぐあああああっ!!」
ヴァルガスの身体が。
吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられる。
ドォン!!
黒冠教団の兵士たちが。
一斉に動きを止めた。
「ヴァルガス様!」
「撤退だ!」
「急げ!」
兵士たちが。
逃げ始める。
エリスが。
追おうとする。
「待て!」
だが。
俺は。
手を上げた。
「追わなくていい」
「なぜ?」
「……」
俺は。
倒れたヴァルガスを見る。
「こいつは」
「また来る」
その言葉通り。
ヴァルガスは。
瓦礫の中から。
ゆっくり立ち上がった。
口元から。
血を流している。
「……ふふ」
「素晴らしい」
「本当に」
「素晴らしいですよ、レオン」
「次に会うときは」
黒い煙が。
ヴァルガスの身体を包む。
「あなたの父親の真実を」
「すべて教えてあげましょう」
「待て!」
俺が走る。
だが。
煙が消えたあと。
ヴァルガスの姿は。
もうなかった。
「……逃げられた」
エリスが。
剣を収める。
「でも」
彼女は。
俺を見る。
「あなたは勝った」
「……」
俺は。
自分の両手を見る。
白。
黒。
二つの力。
「レオン」
母さんが。
俺の名前を呼ぶ。
俺は。
母さんを見る。
「母さん」
「……はい」
「一つだけ」
「聞きたい」
母さんが。
頷く。
「何?」
「父さんは」
俺は。
拳を握る。
「本当に」
「第三封印の中にいるの?」
母さんは。
静かに目を閉じた。
そして。
「……ええ」
「でも」
「それだけじゃない」
「……?」
母さんが。
涙を浮かべる。
「アルベルトは」
「第三封印の中で」
「ずっと」
「何かを押さえている」
「何を?」
母さんは。
答えなかった。
ただ。
一言だけ。
「世界そのものを」
そう言った。
---
その頃。
世界樹の遥か北。
巨大な地下神殿。
そこには。
一人の男が。
鎖に繋がれていた。
白銀の髪。
傷だらけの身体。
そして。
両手には。
白と黒。
二つの鎖。
男が。
ゆっくり目を開ける。
「……レオン」
アルベルトだった。
「ようやく」
「ここまで来たか」
その目の前には。
巨大な黒い扉。
その向こうから。
何かが。
何度も。
扉を叩いている。
ドン。
ドン。
ドン。
アルベルトは。
静かに呟いた。
「まだ来るな」
「レオン」
「第三封印を開ければ」
「お前は」
「俺と一緒に――」
扉の向こうから。
低い声が響く。
『……アルベルト』
『息子が来たぞ』
アルベルトの表情が。
凍りついた。
『次は』
『お前の番だ』
巨大な扉が。
少しだけ。
開いた。
そして。
その隙間から。
赤い瞳が。
二つ。
覗いた。




