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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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130/132

第130話 選ばれなかった弟

「僕は」


少年は。


俺を見たまま。


もう一度。


言った。


「君が、最初に選ばなかった、もう一人の弟だよ」


「……」


俺は。


言葉が出なかった。


隣では。


ユウも。


同じように。


少年を見つめている。


「……もう一人?」


ユウが。


小さく聞いた。


少年は。


頷いた。


「うん」


「じゃあ」


ユウが。


俺を見る。


「僕とは」


「違うの?」


「……」


少年は。


少し困ったように。


笑った。


「違うよ」


「僕は」


「君より前に」


「選ばれなかった」


「……」


「そして」


「君より後にも」


「選ばれなかった」


俺は。


眉を寄せる。


「どういう意味だ?」


少年は。


椅子を見る。


「僕には」


「始まりがないんだ」


「……」


「君たちには」


「最初の日がある」


「ゼロ日目がある」


「-一日目も」


「-二日目もある」


「でも」


少年は。


自分の胸に。


手を当てた。


「僕には」


「日付がない」


「……」


ゼロが。


小さく。


呟いた。


『……そうだった』


俺は。


ゼロを見る。


「知ってたのか?」


『忘れてた』


「……」


『ううん』


『忘れたというより』


『思い出すことを』


『避けてた』


少年が。


ゼロを見る。


「ありがとう」


『……何が?』


「覚えていてくれたこと」


ゼロは。


何も。


答えなかった。


ただ。


少しだけ。


俯いた。


――。


俺は。


少年に向き直る。


「名前は?」


少年は。


首を振る。


「ない」


「……」


「まだ」


「誰にも」


「呼ばれたことがないから」


「じゃあ」


「自分で選べばいい」


そう言った瞬間。


少年の表情が。


変わった。


「……」


「どうした?」


「それ」


少年は。


俺を見る。


「君が」


「言ってくれると思ってた」


「……俺を知ってるのか?」


「うん」


「ずっと」


「見てた」


「……」


「君が」


「最初の日を選んだ時も」


「世界を作った時も」


「何度も」


「やり直した時も」


「全部」


「見てた」


俺の背中に。


冷たいものが走った。


「じゃあ」


「どうして」


「何もしてくれなかった?」


少年は。


黙った。


しばらくして。


答える。


「できなかったんだ」


「……」


「僕は」


「選択肢に」


「入れてもらえなかった」


「誰に?」


少年は。


俺を見る。


そして。


静かに。


答えた。


「君に」


「……!」


胸の奥が。


痛んだ。


「俺が?」


「うん」


「でも」


「俺は」


「お前の存在を」


「知らなかった」


「そう」


「だから」


「選ばなかった」


「……」


少年は。


悲しそうには。


笑わなかった。


怒っても。


いなかった。


ただ。


事実を。


話しているだけだった。


「君は」


「僕を」


「嫌ったわけじゃない」


「僕を」


「捨てたわけでもない」


「ただ」


「知らなかった」


「……」


「だから」


「僕は」


「君を」


「恨めなかった」


その言葉が。


一番。


苦しかった。


「……」


俺は。


拳を握る。


「それでも」


「お前は」


「ずっと」


「ここにいたのか?」


「うん」


「何のために?」


少年は。


椅子を。


撫でる。


「待つため」


「……」


「君が」


「いつか」


「ここへ来るのを」


「ずっと」


「待ってた」


「……」


俺は。


言葉を失った。


――。


ルナが。


ゆっくり。


少年に近づく。


「あなたは」


「私のことも」


「知ってる?」


少年は。


ルナを見る。


「知ってる」


「……」


「君が」


「最初のレオンと」


「一緒にいたことも」


「別れたことも」


「また会う約束をしたことも」


ルナの目が。


揺れた。


「じゃあ」


「どうして」


「私の前には」


「現れなかったの?」


少年は。


少し。


笑った。


「君たちが」


「二人で」


「選ぶ必要があったから」


「……」


「僕が入ったら」


「三人になってしまう」


「それが」


「悪いのか?」


「悪くないよ」


「じゃあ」


「なぜ?」


少年は。


少しだけ。


目を伏せた。


「最初の日は」


「二人で」


「選ぶ日だったから」


「……」


「だから」


「僕は」


「選ばなかった」


「……違う」


少年は。


首を振る。


「選べなかった」


――。


その言葉に。


ゼロが。


反応した。


『……』


俺は。


ゼロを見る。


「どうした?」


『僕も』


『同じだった』


「……」


『選べなかった』


『でも』


『僕は』


『残った』


「……」


『この子は』


『残ることすら』


『許されなかった』


少年は。


静かに。


頷く。


「そう」


「……」


「僕は」


「存在することも」


「消えることも」


「選べなかった」


「じゃあ」


俺は。


少年を見る。


「どうして」


「今」


「ここにいる?」


少年は。


少し。


笑った。


「君が」


「来たから」


「……」


「選ばれなかった僕を」


「君が」


「見つけたから」


その瞬間。


世界が。


小さく。


震えた。


――。


椅子の前に。


文字が。


浮かび上がる。


「未選択者――発見。」


「……」


続いて。


文字が。


変わる。


「存在条件――成立。」


「……」


さらに。


一行。


「選択権――返還。」


俺は。


目を見開く。


「返還?」


少年は。


椅子を見る。


「僕の選択権は」


「最初から」


「ここに」


「置かれてた」


「……」


「誰かに」


「取られていたわけじゃない」


「ただ」


「僕が」


「取りに来られなかった」


「……」


俺は。


一歩。


少年に近づく。


「じゃあ」


「今」


「お前は」


「選べるのか?」


「……」


少年は。


頷く。


「うん」


「何を?」


「まず」


「名前」


「……」


ユウが。


笑った。


「僕と同じだ」


少年も。


笑う。


「うん」


「じゃあ」


俺は。


少し離れて。


待つ。


「ゆっくりでいい」


少年は。


目を閉じる。


白い空間。


何もない場所。


その中央で。


一人の少年が。


初めて。


自分の未来を。


考えている。


――。


長い。


沈黙。


そして。


少年が。


目を開けた。


「……決めた」


「名前?」


「うん」


「何にする?」


少年は。


俺を見る。


そして。


少し。


恥ずかしそうに。


言った。


「ハジメ」


「……」


俺は。


息を呑んだ。


その名前を。


知っている。


いや。


違う。


俺たちの世界に。


すでに。


同じ名前を持つ者がいる。


「……ハジメ?」


少年は。


頷いた。


「うん」


「でも」


「ハジメは」


「もう」


「いる」


俺は。


答える。


この世界には。


生まれなかったレオン。


“まだ一度も世界に生まれたことのなかった俺”。


その彼が。


ハジメという名を。


選んだ。


少年は。


首を振る。


「知ってる」


「……」


「だから」


「僕は」


「同じ名前を」


「選びたい」


「どうして?」


「始まりって」


「一つじゃないから」


「……」


少年は。


笑った。


「君のハジメも」


「僕のハジメも」


「どっちも」


「本当の始まりになれる」


「……」


俺は。


しばらく。


何も。


言えなかった。


そして。


後ろから。


声がした。


「……そうだね」


振り返る。


そこに。


ハジメがいた。


今まで。


俺たちと一緒にいた。


“生まれなかったレオン”。


彼は。


新しく現れた少年を。


じっと見つめていた。


「僕は」


「自分が」


「最初だと」


「思ってた」


「……」


「でも」


彼は。


笑う。


「始まりが」


「一つじゃないなら」


「僕は」


「嬉しい」


新しい少年も。


笑った。


「僕も」


「嬉しい」


二人の。


“ハジメ”。


それを見て。


ルナが。


小さく。


笑った。


「……名前は」


「同じでも」


「人は」


「同じじゃない」


「うん」


俺は。


頷いた。


「それでいい」


――。


世界樹が。


揺れる。


白い光が。


降りてくる。


そして。


空に。


新しい文字が。


浮かんだ。


「第37原則――始まりは、一つでなくていい。」


「……」


その文字が。


消える。


そして。


今度は。


椅子が。


消えた。


「……」


何も。


なくなった。


ずっと。


そこにあった。


“選ばれなかった者の席”。


それが。


消えた。


俺は。


胸が。


少し。


痛くなる。


「……もう」


「座る必要が」


「ないんだな」


少年――新しいハジメが。


頷く。


「うん」


「僕は」


「もう」


「待つだけじゃない」


「……」


「歩ける」


「どこへ?」


「分からない」


「でも」


「自分で」


「決める」


俺は。


笑った。


「それが」


「一番だ」


――。


その瞬間。


白い空間に。


大きな音が。


響いた。


――ゴォォォン。


世界樹の時計。


十三日目。


残り。


八。


七。


六。


「……」


時間が。


また。


進んでいく。


未来の俺が。


空を見る。


「残り六」


「……」


「十三日目が」


「終わるまで」


「あと六つの選択」


「そうだな」


「でも」


未来の俺は。


首を振った。


「違う」


「え?」


「今」


「選択肢が」


「増えた」


「……?」


俺は。


空を見る。


そこには。


今まで。


なかった。


新しい文字が。


一つ。


浮かんでいた。


「第二の選択者――不在」


その下。


「第三の選択者――二人」


「……」


二人。


俺は。


隣を見る。


二人のハジメ。


「まさか」


未来の俺が。


頷く。


「世界が」


「一人に」


「決めることを」


「やめたんだ」


「……」


「だから」


「一つの役割に」


「複数の人間が」


「入れるようになった」


「……」


俺は。


笑う。


「それ」


「いいな」


「ああ」


未来の俺も。


笑った。


けれど。


その時。


新しいハジメが。


突然。


空を見上げた。


「……待って」


「どうした?」


「誰か」


「来る」


「……?」


彼が。


指を差した先。


白い空間の。


さらに奥。


何もない場所から。


一つの。


小さな扉が。


現れた。


今までの扉とは。


違う。


黒い。


完全な黒。


文字はない。


取っ手もない。


ただ。


中央に。


小さな。


赤い点。


それが。


心臓のように。


脈打っている。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


俺の胸も。


同じように。


痛んだ。


「……」


ルナが。


顔を強張らせる。


「この扉……」


「知ってるのか?」


「ううん」


「でも」


「怖い」


――。


黒い扉から。


声がした。


『レオン』


「……」


『今度は』


『君が』


『選ばれる番だよ』


「……誰だ?」


『ずっと』


『君の』


『すぐ隣にいた』


「……」


『君が』


『自分を選ぶたびに』


『僕は』


『一つずつ』


『消えていった』


「……」


俺は。


息を呑む。


その声。


どこかで。


聞いたことがある。


いや。


聞いたことがあるどころじゃない。


何度も。


何度も。


俺の中で。


聞いてきた。


『だから』


『今度こそ』


『僕を』


『選んで』


黒い扉が。


ゆっくり。


開いていく。


その向こうに。


立っていたのは――。


俺だった。


でも。


今の俺でも。


未来の俺でもない。


もっと。


幼い。


もっと。


何も知らない。


まだ。


「レオン」という名前すら。


持っていない。


少年。


その少年は。


俺を見る。


そして。


言った。


「ねえ」


「僕を」


「置いていかないで」

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