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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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123/132

第123話 レオンになる前

『やっと』


『帰ってきたね』


その声は。


俺の声だった。


でも。


俺じゃない。


「……」


俺は。


階段の先にある扉を。


見つめていた。


隣では。


ルナが。


俺の手を握っている。


「レオン」


「分かってる」


「……怖い?」


「少し」


「私も」


「そうか」


「うん」


ルナは。


小さく笑った。


「でも」


「一緒なら」


「大丈夫かな」


「……」


その言葉を。


聞いた瞬間。


胸の奥が。


痛んだ。


懐かしい。


ずっと昔。


何度も。


何度も。


聞いた言葉。


――一緒なら。


大丈夫。


それは。


俺たちが。


最初に。


信じていた言葉だった。


俺は。


扉に。


手を置く。


「開けるぞ」


ルナが。


頷く。


「うん」


――ギィ。


古い扉が。


開いた。


その向こうには。


部屋があった。


小さい。


何もない部屋。


椅子が二つ。


机が一つ。


窓が一つ。


窓の外には。


何もない。


空も。


大地も。


星も。


存在しない。


ただ。


真っ白な空間。


「……」


俺は。


部屋へ入る。


ルナも。


続く。


扉が。


ゆっくり。


閉まった。


――。


その瞬間。


部屋の中央に。


光が生まれた。


そして。


一人の少年が。


現れた。


黒い髪。


普通の服。


赤くもない。


青くもない。


普通の瞳。


どこにでもいるような。


少年。


ただ。


その顔だけは。


俺と。


同じだった。


「……」


俺は。


息を呑む。


少年は。


俺を見る。


そして。


笑った。


「久しぶり」


「……」


「レオン」


「お前は」


「誰だ?」


少年は。


首を傾げる。


「僕?」


「そう」


「まだ」


「名前がない」


「……」


ルナが。


小さく。


呟いた。


「あなた」


「知ってる」


少年が。


ルナを見る。


「うん」


「ずっと」


「知ってる」


「……」


ルナの顔が。


少し。


寂しそうになる。


「でも」


「あなたは」


「私のことを」


「名前で呼べない」


「うん」


少年は。


頷く。


「だって」


「君にも」


「まだ」


「名前がなかったから」


「……」


俺は。


二人を見る。


そうだ。


ここにいる二人は。


俺が知っている。


レオンと。


ルナになる前。


もっと前。


名前を持つ前。


世界を作る前。


選択という言葉さえ。


知らなかった頃。


「……」


少年が。


俺を見る。


「君は」


「どうして」


「ここへ帰ってきたの?」


「……」


俺は。


答えられなかった。


少年が。


続ける。


「君は」


「ずっと」


「ここから」


「離れていた」


「世界を作って」


「何度も」


「壊して」


「何度も」


「選び直した」


「……」


「どうして?」


俺は。


拳を握る。


「……みんなを」


「救いたかった」


「そう」


「でも」


「それだけじゃなかった」


「……」


「一緒にいたかった」


少年は。


黙った。


「誰も」


「失いたくなかった」


「だから」


「俺が」


「全部決めればいいと思った」


「……」


「俺が犠牲になれば」


「みんなが生きられると思った」


「……」


少年は。


悲しそうに。


笑った。


「それで」


「君は」


「何度も」


「自分を」


「消した」


「……ああ」


「どうだった?」


「苦しかった」


「……」


「怖かった」


「……」


「でも」


俺は。


少年を見る。


「今は」


「違う」


「何が?」


「俺だけが」


「全部を決めなくても」


「世界は」


「続いていく」


少年は。


静かに。


頷いた。


「そう」


「だから」


「帰ってきたんだね」


「……」


俺は。


周囲を見る。


「ここは」


「何なんだ?」


少年は。


椅子の一つに。


座った。


「始まり」


「……」


「でも」


「世界の始まりじゃない」


「じゃあ」


「何の?」


少年は。


少し。


考える。


「君が」


「君になる前の」


「始まり」


「……」


俺の胸が。


ざわつく。


「俺になる前?」


「うん」


「まだ」


「自分が」


「一人だと思っていなかった頃」


「……?」


少年は。


窓の外を。


見る。


「ここには」


「まだ」


「誰もいなかった」


「でも」


「二つだけ」


「存在していた」


「二つ?」


少年は。


ルナを見る。


そして。


俺を見る。


「君と」


「彼女」


「……」


ルナが。


小さく。


息を呑む。


「私たち?」


「うん」


「でも」


「私」


「ここに来た記憶」


「ないよ」


「だから」


「ここに来る前の場所なんだ」


少年は。


笑った。


「記憶が」


「生まれる前」


「……」


俺は。


頭を抱える。


「じゃあ」


「俺たちは」


「どこから」


「来た?」


「それを」


「知りに来たんじゃない?」


「……」


確かに。


そうだった。


俺は。


ずっと。


世界の始まりを。


探してきた。


第一の世界。


第零日目。


最初の一日。


五つの光。


六つ目の光。


名前を持つ前。


そして。


そのさらに前。


「……」


全部。


ここへ。


繋がっている。


少年が。


机の上に。


手を置いた。


すると。


何もなかった机の上に。


一枚の紙が。


現れた。


古い紙。


そこには。


たった一行。


「最初に選んだものを、忘れないこと。」


「……」


俺は。


その文字を見る。


「俺が」


「最初に選んだもの?」


少年は。


頷く。


「そう」


「何だった?」


「それを」


「君自身に」


「思い出してほしい」


「……」


俺は。


目を閉じる。


世界。


力。


願い。


ユウト。


家族。


アリア。


みんな。


違う。


もっと。


もっと前。


何もない場所。


まだ。


俺が。


レオンですらなかった時。


「……」


何かが。


浮かぶ。


白い空間。


隣に。


誰かがいる。


小さな光。


俺は。


その光を。


見ている。


『どこに行く?』


声がする。


俺の声。


『分からない』


別の声。


ルナだ。


『じゃあ』


『一緒に行こう』


『うん』


――。


俺は。


目を開いた。


「……」


「思い出した」


ルナが。


俺を見る。


「何を?」


俺は。


ゆっくり。


答える。


「最初に」


「俺が選んだのは」


「世界じゃない」


「……」


「力でも」


「願いでも」


「誰かを救うことでもない」


俺は。


ルナを見る。


「一緒に」


「行くこと」


「……」


ルナの目から。


涙が。


落ちた。


「うん」


「それが」


「最初だった」


少年が。


笑う。


「そう」


「君は」


「最初から」


「一人で」


「生きることを」


「選ばなかった」


「……」


「なのに」


少年の声が。


少しだけ。


寂しくなる。


「いつからか」


「君は」


「一人で」


「全部を」


「背負おうとした」


「……」


何も。


言えない。


その通りだった。


俺は。


ずっと。


誰かを守るために。


一人になろうとした。


「でも」


ルナが。


俺の手を握る。


「レオン」


「ん?」


「最初の選択」


「まだ」


「なくなってないよ」


「……」


「だって」


ルナは。


笑った。


「今も」


「一緒にいる」


「……」


胸が。


熱くなる。


少年が。


静かに。


立ち上がった。


「じゃあ」


「次」


「何を選ぶ?」


「……」


「今度は」


「昔の答えじゃない」


「今の君が」


「選んで」


俺は。


考える。


今。


俺が。


選びたいもの。


世界を救う。


違う。


未来を固定する。


違う。


誰も離さない。


それも。


違う。


「……」


俺は。


ルナを見る。


そして。


後ろを見る。


扉の向こうには。


みんながいる。


アリア。


ユウト。


セリア。


ノア。


ユナ。


ハジメ。


ソウマ。


ハル。


カエデ。


ミライ。


名前のない者たち。


そして。


ここには。


まだ。


来ていない者たちも。


きっといる。


俺は。


言った。


「俺は」


「一緒に」


「選び続けたい」


少年は。


黙って。


俺を見る。


「それは」


「誰かを」


「選び続けること?」


「違う」


「……」


「誰かの代わりに」


「選ばないこと」


「……」


「それぞれが」


「自分で選ぶのを」


「隣で」


「見ていたい」


「……」


「必要なら」


「手を貸す」


「必要なら」


「手を借りる」


「でも」


「その人の未来を」


「奪わない」


少年は。


長い間。


俺を見ていた。


そして。


笑った。


「それが」


「君の」


「今の答えなんだね」


「ああ」


その瞬間。


部屋が。


揺れた。


壁が。


光に変わる。


床が。


消えていく。


「……!」


ルナが。


俺の腕を掴む。


「レオン!」


「大丈夫!」


少年は。


立ったまま。


消えていく。


「待って!」


俺が。


叫ぶ。


「お前は!」


「誰なんだ!」


少年は。


笑う。


「まだ」


「名前は」


「いらない」


「……!」


「でも」


最後に。


一言。


言った。


「君が」


「最初に」


「僕を」


「呼んだ名前だけは」


「覚えてる」


「……」


「何て」


「呼んだ?」


少年は。


答えなかった。


ただ。


手を振った。


そして。


消えた。


――。


次の瞬間。


俺とルナは。


世界樹の下に。


立っていた。


「……戻ってきた?」


俺が。


周囲を見る。


アリアたちが。


駆け寄ってくる。


「レオン!」


「大丈夫!?」


「ああ」


「ルナも?」


「うん」


ルナが。


頷く。


その時。


世界樹の時計が。


鳴った。


――カン。


文字が。


一つずつ。


消えていく。


第五日目。


第四日目。


第三日目。


第二日目。


第一日目。


第零日目。


そして。


最後に。


一文字。


「始」


「……」


世界樹の葉が。


止まる。


世界全体が。


静まり返る。


すると。


俺の胸の奥。


一番深いところから。


今まで。


聞いたことのない声が。


聞こえた。


『思い出したね』


「……誰だ?」


『君が』


『最初に』


『呼んだ者』


「……」


俺は。


息を呑む。


『君は』


『僕を』


『なんと呼んだ?』


「……」


思い出せない。


でも。


確かに。


知っている。


俺が。


まだ。


レオンじゃなかった頃。


何もない場所で。


初めて。


誰かに。


名前を与えた。


それは。


ルナでもない。


アサでもない。


ユウトでもない。


もっと。


もっと。


最初。


俺は。


口を開いた。


「……」


名前を。


言おうとした。


その瞬間。


世界樹の根元に。


新しい扉が。


現れた。


今までとは。


違う。


扉には。


名前がない。


代わりに。


一つだけ。


文字が刻まれていた。


「呼ばれた者」


そして。


扉の向こうから。


小さな声。


『やっと』


『僕の番だ』

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