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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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120/132

第120話 待つという選択

第二日目。


世界樹の時計に。


そう表示されていた。


その下には。


昨日までなかった文字。


「次の再会まで――残り一日。」


「……」


俺は。


しばらく。


その文字を見上げていた。


「誰なんだろう」


ユウトが。


隣で呟く。


「さあ」


「分からない」


「兄貴でも?」


「ああ」


「珍しいな」


「最近は」


「分からないことばっかりだよ」


俺が。


そう言うと。


ユウトは。


笑った。


「でも」


「悪くないだろ?」


「……」


「ああ」


俺も。


笑う。


昔なら。


分からないことがあると。


すぐに。


答えを探した。


未来を覗いた。


可能性を調べた。


扉を開けた。


世界を。


作り直した。


でも。


今は。


違う。


分からないなら。


分からないまま。


待つこともできる。


それだけで。


少し。


世界が。


広くなった気がした。


――。


朝食の時間。


ノアが。


パンを持って。


走ってくる。


「レオンお兄ちゃん!」


「どうした?」


「今日は」


「何か起こる?」


「……」


俺は。


パンを。


一口食べる。


「分からない」


「えー」


「なんで?」


「分からないから」


「つまんない!」


「お前な……」


ノアは。


頬を膨らませる。


「だって」


「昨日も」


「今日も」


「何かすごいことが起きそうなのに」


「何も起きない!」


「……」


アリアが。


笑う。


「それは」


「良いことじゃない?」


「えー?」


「何も起きない日って」


「結構、大切だよ」


「……」


ノアは。


少し。


考える。


「じゃあ」


「今日は」


「何もしない日?」


「そういう日があってもいい」


「……」


ノアは。


パンを見る。


「じゃあ」


「パン食べる」


「それはいつもだろ」


みんなが。


笑った。


――。


昼。


何も起きなかった。


本当に。


何も。


誰も。


現れない。


新しい扉も。


開かない。


世界樹の時計も。


二日目のまま。


俺たちは。


畑を耕して。


川の水を汲んで。


壊れた家を直して。


夕食の準備をした。


そんな。


普通の日。


でも。


俺は。


妙に。


落ち着かなかった。


「……」


何度も。


空を見る。


「レオン」


アリアが。


呼ぶ。


「ん?」


「待ってる?」


「……」


「うん」


俺は。


頷く。


「誰が来るのか」


「気になる?」


「ああ」


「でも」


「来るかどうかを」


「俺たちが」


「決めることじゃない」


「うん」


アリアは。


微笑んだ。


「じゃあ」


「待とう」


「ああ」


――。


夕方。


世界樹の根元で。


ソウマが。


座っていた。


隣には。


ハジメ。


二人とも。


空を見ている。


「何してるんだ?」


俺が。


聞く。


「待ってる」


ソウマが。


答える。


「……」


「誰を?」


「分からない」


ハジメが。


笑った。


「それでも」


「待ってるんだって」


「そっか」


俺も。


二人の隣に。


座った。


しばらく。


誰も。


喋らなかった。


風だけが。


吹いている。


「……」


やがて。


ソウマが。


口を開いた。


「レオン」


「ん?」


「僕」


「昨日まで」


「自分で選ぶって」


「分かった気になってた」


「……」


「でも」


「今日」


「分かった」


「何が?」


「選ぶって」


「決めることだけじゃないんだね」


俺は。


ソウマを見る。


「……」


「待つことも」


「選べる」


「そうだな」


「来てほしいからって」


「無理やり」


「連れてきちゃったら」


「その人が」


「自分で選んだことに」


「ならない」


「……」


俺は。


頷いた。


「その通りだ」


ソウマは。


少し。


笑った。


「だから」


「僕は」


「待つ」


「うん」


――。


夜。


星が。


空いっぱいに。


広がった。


みんなが。


眠った後。


俺は。


一人。


世界樹の下に。


残っていた。


「……」


時計を見る。


二日目。


残り時間。


あと少し。


明日。


何かが。


起きる。


でも。


誰なのか。


分からない。


俺は。


空を見上げた。


「……」


「誰でもいい」


小さく。


呟く。


「来たいと思ったら」


「来てくれ」


「でも」


「来たくないなら」


「それでもいい」


「俺たちは」


「待ってる」


――。


その時。


風が。


止まった。


「……?」


世界樹の葉が。


一枚も。


揺れていない。


完全な静寂。


そして。


時計が。


鳴った。


――カン。


「……!」


針が。


動く。


二日目。


から。


三日目へ。


「……」


だが。


数字が。


変わった瞬間。


世界樹の根元に。


小さな光が。


生まれた。


「誰?」


俺は。


立ち上がる。


光は。


少しずつ。


大きくなる。


白い。


小さな光。


でも。


昨日までの光とは。


違う。


それは。


俺たちの世界へ。


入ろうとしている。


けれど。


入ってこない。


世界の境界で。


止まっている。


『……』


声は。


ない。


ただ。


そこにいる。


俺は。


一歩。


近づいた。


「入ってきてもいいぞ」


光が。


揺れる。


「……」


「でも」


俺は。


続けた。


「入らなくても」


「いい」


光が。


さらに。


揺れる。


その時。


背後から。


アリアが。


来た。


「レオン」


「起こした?」


「ううん」


「なんとなく」


「……」


アリアも。


光を見る。


「誰かな」


「分からない」


「そっか」


「でも」


「待ってる」


アリアは。


頷いた。


「うん」


――。


しばらくして。


光から。


声がした。


『……怖い』


「……」


幼い声。


女の子か。


男の子か。


分からない。


「何が?」


『ここに入ったら』


『何かを』


『選ばなきゃいけない?』


「……」


俺は。


首を振った。


「選ばなくていい」


『名前は?』


「なくてもいい」


『役割は?』


「なくてもいい」


『誰かのために』


『何かしなきゃいけない?』


「しなくていい」


光が。


震える。


『……本当に?』


「ああ」


「ここでは」


「自分で決めていい」


「決めなくてもいい」


「誰かに」


「決められる必要もない」


『……』


長い沈黙。


そして。


小さな声。


『じゃあ』


『一つだけ』


「何?」


『入っても』


『いい?』


俺は。


笑った。


「ああ」


「もちろん」


光が。


初めて。


世界の中へ。


入ってきた。


――。


眩しい。


一瞬。


辺りが。


真っ白になる。


そして。


光の中から。


一人の少女が。


現れた。


白い髪。


薄い青の瞳。


年齢は。


十歳くらい。


でも。


エレナとも。


ユナとも。


ミナとも。


違う。


少女は。


自分の両手を。


見つめている。


「……」


そして。


足元を見る。


「地面」


小さく。


呟く。


「地面が」


「ある」


俺は。


微笑んだ。


「ああ」


「空も」


少女が。


見上げる。


「……空」


「うん」


「風」


少女が。


手を。


広げる。


「風も」


「ある」


「……」


その顔に。


初めて。


笑顔が。


浮かんだ。


「……すごい」


俺は。


その姿を。


見ていた。


すると。


少女が。


俺を見る。


「あなた」


「レオン?」


「……」


俺は。


少し。


驚いた。


「知ってるのか?」


少女は。


首を振る。


「知らない」


「じゃあ」


「どうして?」


少女は。


胸に。


手を当てた。


「ここが」


「知ってるって」


「……」


胸の奥。


魂。


記憶。


それとも。


もっと別のもの。


俺には。


分からない。


「名前は?」


少女は。


黙る。


「……」


そして。


首を振った。


「ない」


「じゃあ」


「どうする?」


少女は。


しばらく。


考える。


「……」


「今は」


「まだ」


「いらない」


「……」


俺は。


笑った。


「分かった」


少女も。


笑う。


――。


その瞬間。


世界樹が。


光った。


葉が。


一枚。


少女の頭上へ。


落ちてくる。


葉には。


文字が。


浮かんでいた。


「第三十一原則――名を持たない自由。」


「……」


少女は。


その文字を。


見上げる。


「名前」


「なくても」


「いいんだ」


「ああ」


「自分で」


「必要だと思った時に」


「選べばいい」


少女は。


小さく。


頷いた。


「うん」


その時。


世界樹の時計が。


一度だけ。


鳴った。


――カン。


そして。


文字が。


変わった。


「第三日目。」


その下に。


新しい文章。


「再会した者は、まだ一人ではない。」


「……?」


俺は。


眉をひそめる。


すると。


世界樹の向こうから。


別の声が。


聞こえた。


『……いた』


「!」


誰かが。


いる。


森の向こう。


木々の間。


人影。


一人。


二人。


三人。


いや。


もっと。


たくさん。


「……」


俺は。


目を凝らす。


そこにいるのは。


知らない人たち。


けれど。


その顔を見た瞬間。


胸が。


痛くなった。


「……」


知らない。


なのに。


知っている。


そんな。


矛盾した感覚。


一人の青年が。


前へ出る。


黒い髪。


赤い瞳。


そして。


俺と。


よく似た顔。


「……レオン」


青年が。


俺の名前を。


呼ぶ。


俺は。


息を呑んだ。


「誰だ?」


青年は。


少し。


笑った。


「やっぱり」


「覚えてないんだ」


「……」


「でも」


青年は。


胸に。


手を当てた。


「僕は」


「君のことを」


「ずっと」


「知ってる」


「……」


「君が」


「最初の世界を」


「選ぶ前から」


俺の心臓が。


強く。


鳴った。


「お前は」


「誰なんだ?」


青年は。


すぐには。


答えなかった。


代わりに。


後ろにいる。


人々を。


振り返る。


「僕だけじゃない」


「……」


「この人たちも」


「みんな」


「君を知ってる」


「……!」


「でも」


青年は。


続ける。


「誰も」


「君に」


「選ばれたくない」


「……」


「僕たちは」


「君に」


「救われたいんじゃない」


「……」


「自分で」


「ここへ来たかった」


その言葉に。


俺は。


黙ってしまった。


――。


そうだ。


それでいい。


それが。


今の俺たちが。


積み重ねてきた。


答えだ。


「……」


俺は。


彼らへ。


向き直る。


「なら」


俺は。


笑った。


「ここにいていい」


青年が。


驚いた顔をする。


「それだけ?」


「ああ」


「何もしなくていい?」


「うん」


「僕たちが」


「君を選ばなくても?」


「それでも」


「いい」


「……」


青年の目に。


涙が浮かんだ。


「そっか」


「うん」


「じゃあ」


青年は。


一歩。


こちらへ。


歩いてくる。


「僕も」


「自分で」


「名前を」


「選んでいい?」


「もちろん」


青年は。


空を見る。


長い間。


考える。


そして。


ようやく。


口を開いた。


「……僕は」


「『ユイ』がいい」


「ユイ?」


「うん」


「意味は?」


青年は。


少し。


笑う。


「結ぶ」


「……」


「でも」


「誰かと」


「誰かを」


「縛るんじゃない」


「……」


「離れていても」


「また」


「つながれるように」


俺は。


その名前を。


聞いた瞬間。


胸が。


熱くなった。


「いい名前だ」


「ありがとう」


その瞬間。


世界樹に。


新しい葉が。


生まれた。


「第三十二原則――つながり方を自分で選ぶ自由。」


ユイは。


その文字を。


見上げた。


そして。


静かに。


笑った。


――。


その夜。


俺たちは。


新しく来た者たちと。


同じ食卓を囲んだ。


名前のない少女。


ユイ。


そして。


まだ名前を選んでいない者たち。


誰も。


急かさない。


誰も。


無理に。


問いたださない。


ただ。


一緒に。


食べる。


それだけ。


「……」


名前のない少女が。


スープを。


一口飲む。


「……温かい」


「うん」


「美味しい」


「よかった」


少女は。


しばらく。


スープを。


見つめていた。


そして。


小さく。


言った。


「名前」


「……」


「明日」


「選んでもいい?」


俺は。


笑った。


「ああ」


「明日でも」


「十年後でも」


「千年後でも」


「いい」


少女は。


嬉しそうに。


笑った。


――。


その夜遅く。


みんなが。


眠った頃。


世界樹の時計が。


静かに。


動いた。


第三日目。


その下に。


新しい文字。


「第四日目――再会予定。」


俺は。


その文字を。


見つめた。


「……」


また。


誰かが。


来る。


でも。


今度は。


怖くなかった。


誰が来るのか。


分からなくても。


いい。


その人が。


自分で。


ここへ来るなら。


俺は。


ここで。


待っていればいい。


――。


そして。


時計の針が。


進んだ瞬間。


世界樹の最上部。


誰にも。


見えない場所で。


一つの。


古い文字が。


ゆっくり。


消えた。


「選ばれる者」


その代わりに。


新しい文字が。


浮かぶ。


「帰ってくる者」

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