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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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112/132

第112話 生まれなかった俺

「やっと」


少年は。


泣きながら。


笑っていた。


「僕を」


「迎えに来たんだね」


「……」


俺は。


何も言えなかった。


目の前にいる。


少年。


顔は。


俺と同じ。


声も。


俺と同じ。


でも。


俺じゃない。


「……お前」


「俺なのか?」


少年は。


少しだけ。


首を傾げた。


「うん」


「でも」


「君じゃない」


「……」


その言葉に。


胸が。


ざわついた。


「どういう意味だ?」


「僕は」


「君になる前の君」


「……」


「君が」


「レオンになる前に」


「選ばなかった可能性」


少年は。


自分の胸に。


手を当てる。


そこには。


何もない。


光も。


傷も。


鍵も。


記憶も。


何も。


「僕には」


「何もない」


「……」


「だから」


「誰にも」


「見つけてもらえなかった」


俺は。


一歩。


近づく。


「じゃあ」


「ずっと」


「ここにいたのか?」


「うん」


「どれくらい?」


少年は。


笑った。


「分からない」


「時間が」


「なかったから」


「……」


「一日目より前」


「零日目より前」


「世界より前」


「選択より前」


「ずっと」


「ここ」


「……」


俺は。


胸が。


苦しくなった。


俺が。


知らない間に。


俺と同じ顔をした存在が。


ずっと。


暗闇の中にいた。


「どうして」


「呼ばなかった?」


少年は。


少し。


考えた。


「呼んだよ」


「……」


「何度も」


「でも」


「君には」


「聞こえなかった」


「……」


「世界を」


「やり直すたびに」


「僕は」


「もっと遠くに」


「なった」


俺は。


拳を。


握った。


百七十二回。


世界を。


やり直した。


そのたびに。


誰かを救おうとした。


誰かを残そうとした。


誰かを。


失わないように。


でも。


そのたびに。


俺の中から。


何かが。


こぼれていた。


「……」


少年は。


笑う。


「だから」


「僕は」


「もう」


「諦めた」


「……」


「君が」


「僕を」


「迎えに来ることも」


「ないと思ってた」


「でも」


少年は。


涙を拭う。


「来た」


「……」


「やっと」


「来た」


俺は。


少年の前に。


立った。


「……ごめん」


「……」


「遅くなった」


少年は。


目を見開いた。


そして。


初めて。


怒った顔をした。


「遅いよ」


「……」


「すごく」


「遅い」


「うん」


「ずっと」


「待ってた」


「うん」


「何度も」


「呼んだ」


「うん」


「なのに」


「君は」


「誰かを助けることばかり」


「考えてた」


「……」


「僕を」


「助けることなんて」


「一度も」


「考えなかった」


俺は。


答えられなかった。


その通りだった。


俺は。


ずっと。


誰かを救おうとした。


ユウト。


アリア。


セリア。


みんな。


世界。


未来。


過去。


選ばれなかった存在。


消えてしまった可能性。


でも。


自分自身のことは。


最後だった。


いつも。


最後。


だから。


この少年は。


ずっと。


後回しだった。


「……」


俺は。


膝をついた。


少年と。


目線を合わせる。


「じゃあ」


「今」


「俺が」


「迎えに来た」


「……」


「遅すぎたかもしれない」


「でも」


「もう」


「置いていかない」


少年は。


黙っている。


「ただ」


俺は。


続けた。


「俺の中に」


「入ってくれとは」


「言わない」


「……」


「俺になれとも」


「言わない」


「君は」


「君だから」


少年の目に。


涙が。


浮かぶ。


「……」


「名前も」


「君が決めればいい」


「……」


「ここにいるのか」


「俺たちと行くのか」


「別の場所へ行くのか」


「それも」


「君が決めていい」


「……」


少年は。


しばらく。


黙っていた。


そして。


小さく。


聞いた。


「もし」


「僕が」


「君のことを」


「嫌いだったら?」


「……」


「それでも」


「連れていってくれる?」


俺は。


少しだけ。


笑った。


「連れていく」


「……」


「でも」


「無理やりはしない」


「……」


「一緒に来るかどうかは」


「君が決める」


少年は。


目を閉じた。


「……」


長い。


長い沈黙。


そして。


少年は。


ゆっくり。


俺の手を取った。


「……」


「一緒に」


「行きたい」


「……」


「でも」


「一つだけ」


「お願いがある」


「何?」


少年は。


俺を見る。


「僕を」


「君の過去に」


「しないで」


「……」


「僕を」


「未来にも」


「しないで」


「……」


「今の」


「僕にして」


俺は。


その言葉に。


笑った。


「分かった」


「今の」


「お前を」


「一緒に生きよう」


少年も。


笑った。


その瞬間。


世界樹の根元から。


強い光が。


溢れた。


――。


地上に。


戻る。


俺たちが。


階段を上がると。


みんなが。


待っていた。


ノアが。


真っ先に。


走ってくる。


「お兄ちゃん!」


「ん?」


ノアは。


俺の隣にいる少年を見る。


「……」


少年も。


ノアを見る。


「誰?」


ノアが。


聞く。


少年は。


少し。


困った顔をした。


「……まだ」


「名前がない」


「そっか」


ノアは。


頷いた。


そして。


手を差し出す。


「じゃあ」


「名前が決まるまで」


「一緒に遊ぼう」


「……」


少年は。


目を丸くする。


「僕と?」


「うん」


「どうして?」


「だって」


ノアは。


笑った。


「名前がなくても」


「遊べるよ?」


「……」


少年の目から。


また。


涙が落ちた。


「……うん」


「遊ぶ」


ノアが。


少年の手を取る。


「じゃあ」


「行こう!」


「ちょっと待て」


俺が。


呼び止める。


「どこへ行くんだ?」


「ご飯!」


「……」


「さっき」


「ご飯食べたばかりだろ」


「おやつ!」


「なるほど」


「お兄ちゃんも!」


「はいはい」


みんなが。


笑う。


その光景を。


少年は。


呆然と。


見ていた。


「……」


アリアが。


近づく。


「どうしたの?」


少年は。


小さく。


言った。


「これが」


「一緒にいるってこと?」


「うん」


アリアは。


笑う。


「たぶん」


少年は。


笑った。


「……いいね」


――。


夕方。


俺たちは。


世界樹の下で。


お茶を飲んでいた。


少年は。


まだ。


名前を決めていない。


「名前」


ユウトが。


言う。


「そろそろ」


「考えてみたら?」


少年は。


首を振る。


「まだ」


「……」


「急いで」


「決めたくない」


俺は。


頷いた。


「それでいい」


すると。


時間の外側の少女が。


本を閉じた。


「私も」


「最初は」


「名前を決めたくなかった」


「……」


少年が。


彼女を見る。


「どうして?」


「名前を決めたら」


「何者かを」


「決めることになる気がしたから」


「……」


「でも」


彼女は。


雨の空を。


見上げる。


「今は」


「名前がなくても」


「自分でいられるって」


「分かった」


少年は。


少し。


考える。


「……」


「じゃあ」


「僕も」


「もう少し」


「このままでいる」


「うん」


「それでいい」


――。


その夜。


俺は。


一人で。


世界樹の下にいた。


眠れなかった。


少年。


生まれなかった俺。


選ばれなかった俺。


いや。


正確には。


「俺になる前の俺」。


今まで。


俺は。


自分を。


一つの存在だと。


思っていた。


でも。


違った。


俺の中には。


たくさんの。


「俺」がいる。


犠牲を選んだ俺。


世界樹になった俺。


誰かを救えなかった俺。


自分を消そうとした俺。


何も選びたくなかった俺。


そして。


まだ。


生まれていない俺。


「……」


俺は。


空を見る。


「俺は」


「一人じゃなかったんだな」


その時。


後ろから。


声がした。


「うん」


振り返る。


少年。


「……起きてたのか?」


「眠れなかった」


「俺も」


「……」


少年が。


隣に座る。


しばらく。


二人で。


黙っていた。


「レオン」


「ん?」


「僕」


「名前を」


「考えてみた」


「……!」


「まだ」


「決めてはいない」


「でも」


「一つ」


「候補がある」


「何?」


少年は。


空を見る。


「……」


「『ハジメ』」


「……」


俺は。


その言葉を。


繰り返す。


「ハジメ」


「うん」


「最初の」


「一日」


「最初の」


「存在」


「……」


「でも」


少年は。


笑った。


「始まりだけじゃない」


「僕は」


「ここから」


「始めたい」


俺は。


少し。


笑った。


「いい名前だな」


「まだ」


「決めてないよ」


「分かってる」


「でも」


「似合ってる」


少年は。


嬉しそうに。


笑った。


「……ありがとう」


――。


その瞬間。


世界樹の葉が。


一枚。


俺たちの間に。


落ちた。


そこには。


新しい文字。


「第二十四原則――始まりを自分で選ぶ自由。」


俺は。


その文字を。


見つめる。


始まり。


それも。


誰かに。


決められるものじゃない。


生まれた日。


名前をもらった日。


世界が始まった日。


そんなものだけが。


始まりじゃない。


自分で。


「ここから始める」


そう決めた瞬間も。


始まりなんだ。


ハジメが。


葉に触れる。


「……」


すると。


世界樹が。


小さく。


揺れた。


――カサ。


そして。


どこからともなく。


声がした。


『始まりが』


『自分で選べるなら』


『終わりも』


『自分で選べるの?』


「……」


俺たちは。


顔を上げた。


空。


そこに。


黒い扉が。


浮かんでいる。


また。


あの扉。


最後の日


でも。


今回は。


違った。


扉の前に。


一人。


立っている。


黒い髪。


赤い瞳。


白い服。


五人目。


彼は。


こちらを見ていた。


「……」


俺は。


立ち上がる。


「お前」


五人目は。


何も言わない。


ただ。


扉に。


手を置く。


そして。


初めて。


自分から。


口を開いた。


「僕も」


「名前を」


「選ぶ」


「……!」


その瞬間。


世界中に。


声が響いた。


『最後の日を選ぶ前に』


『まず』


『自分を選べ』


黒い扉が。


ゆっくり。


開き始める。


その向こうには。


何もない。


ただ。


真っ白な光。


五人目が。


その中へ。


一歩。


踏み出す。


そして。


振り返る。


「レオン」


「……」


「僕が」


「戻ってきたら」


「その時」


「名前を」


「呼んでくれる?」


俺は。


頷いた。


「ああ」


「何て名前でも」


「呼ぶ」


五人目は。


笑った。


「……じゃあ」


「行ってくる」


扉が。


閉じる。


その直前。


俺は。


聞いた。


彼の声。


「僕は――」


「まだ」


「何者でもない」


「だから」


「これから」


「決める」


扉が。


完全に。


閉じた。


そして。


世界樹の時計が。


一度だけ。


鳴った。


――カン。


表示されたのは。


「二日目」


俺は。


空を見上げる。


一日目が。


終わった。


でも。


それは。


終わりじゃない。


むしろ。


ここから。


新しい時間が。


始まる。


俺たちは。


まだ。


何も。


決めていない。


だからこそ。


明日がある。

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