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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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111/132

第111話 選択肢の外側

「一日目……」


俺は。


世界樹の時計を見上げていた。


針は。


確かに。


一日目を指している。


今まで。


俺たちが知っていた時間は。


零日目からだった。


世界が生まれる前。


名前もなく。


未来もなく。


何も選ばれていなかった時間。


それが。


零日目。


その前には。


何もなかったと思っていた。


でも。


違った。


「一日目が……あった」


アリアが。


呟く。


「ああ」


俺は。


答えた。


「俺たちは」


「忘れていた」


いや。


正確には。


忘れていたというより。


――忘れさせられていた。


そんな気がする。


「……」


俺は。


暗闇を見る。


さっき。


そこから聞こえた声。


『君たちより、もっと前からここにいた』


その言葉が。


頭から離れない。


「お兄ちゃん」


ノアが。


俺の服を引っ張る。


「どうした?」


「怖い?」


「……」


俺は。


少しだけ。


考えた。


「怖いな」


正直に答える。


ノアは。


驚いた顔をした。


「お兄ちゃんも?」


「ああ」


「そっか」


ノアは。


俺の手を握る。


「じゃあ」


「一緒に怖がる」


「……」


俺は。


思わず笑った。


「それなら」


「怖くないかもな」


「うん!」


ノアは。


満足そうに笑う。


その様子を見て。


ユウトも。


笑った。


「兄貴」


「ん?」


「昔より」


「ずっと素直になったな」


「……そうか?」


「うん」


「前なら」


「絶対に怖いなんて言わなかった」


「……」


確かに。


そうだった。


昔の俺なら。


何があっても。


「大丈夫」


そう言っていた。


自分が壊れても。


誰かが傷ついても。


最後まで。


自分だけで。


背負おうとしていた。


でも。


今は違う。


怖いなら。


怖いと言える。


分からないなら。


分からないと言える。


一人では。


決めない。


それだけでも。


俺は。


少し変われたのかもしれない。


――。


その時。


「レオン」


声がした。


振り返る。


未来から来た。


名前のない人物。


彼女は。


暗闇を見つめていた。


「……あそこ」


「何?」


「何かいる」


「見えるのか?」


「……ううん」


彼女は。


首を振る。


「見えない」


「でも」


「時間が」


「そこだけ」


「動いていない」


「……」


時間が。


動いていない。


俺は。


すぐに。


階段を見る。


確かに。


さっきまで。


小さく揺れていた時計の音が。


止まっている。


カチ。


カチ。


カチ。


――。


静寂。


「……」


時間の外側の少女も。


本を閉じる。


「私にも」


「分からない」


「こんな場所」


「本に」


「書かれていない」


「……」


俺たちは。


暗闇へ。


近づいた。


一歩。


また一歩。


何もない。


なのに。


近づくほど。


胸が。


苦しくなる。


「……」


俺の胸の光が。


一つ。


また一つ。


弱くなる。


「レオン!」


アリアが。


腕を掴む。


「大丈夫か?」


「ああ」


俺は。


膝をつく。


「ただ」


「何か」


「知ってる」


「……」


「この場所を」


俺の中に。


記憶が。


流れ込む。


――白い空間。


――まだ名前のない俺。


――ルナ。


――ユウト。


――イオ。


――五人目。


そして。


そのさらに前。


誰もいない場所。


そこに。


俺が。


一人で。


座っていた。


『どうする?』


声がする。


『何を?』


俺が。


答える。


『世界を』


『……』


『作る?』


俺は。


首を振った。


『分からない』


『じゃあ』


『選ぶ?』


『……』


『何を?』


『君自身を』


「……!」


俺は。


目を開いた。


「俺自身……?」


アリアが。


俺を見る。


「何を思い出したの?」


「……分からない」


「でも」


「俺は」


「世界を作る前に」


「自分を選べと」


「言われていた」


ユウトが。


眉を寄せる。


「誰に?」


「……」


分からない。


でも。


確かに。


声がした。


そして。


その声は。


今。


目の前にいる。


「お前か?」


暗闇に向かって。


俺は。


問いかけた。


返事は。


なかった。


代わりに。


小さな光が。


一つ。


浮かんだ。


白い光。


さっきの。


六人目の光とは。


違う。


もっと。


小さい。


もっと。


古い。


「……」


光が。


俺の前まで。


やってくる。


そして。


一言。


『違う』


「……?」


『私は』


『君が選ぶ前の』


『さらに前』


「……」


『君が』


『自分というものを』


『決める前から』


『いた』


俺は。


息を呑む。


「それって」


「どういう……」


『君には』


『まだ』


『自分自身が』


『なかった』


「……」


『だから』


『私は』


『君の外側にいた』


「俺の……外側?」


『そう』


『君が』


『レオンになる前』


『君が』


『誰かを救う者になる前』


『君が』


『世界の中心になる前』


『君が』


『何者でもなかった頃』


光が。


揺れる。


『私は』


『君と一緒にいた』


「……」


その言葉に。


胸が。


締め付けられる。


俺は。


今まで。


何度も。


自分自身の過去を。


見てきた。


零日目。


最初の日。


最初の選択。


百七十三の世界。


その全てに。


レオンという俺がいた。


でも。


それより前。


「……」


レオンになる前の俺。


そこには。


何があった?


「名前は?」


俺は。


聞いた。


『ない』


「じゃあ」


「何て呼べばいい?」


『呼ばなくていい』


「……」


『私は』


『呼ばれるために』


『いたんじゃない』


『ただ』


『そこにいた』


俺は。


その言葉を聞いて。


ふと思った。


それは。


俺たちが。


何度も。


繰り返してきた存在と。


同じだった。


選ばれなくても。


存在していい。


名前がなくても。


存在していい。


役割がなくても。


存在していい。


なら。


この存在も。


そうなのか?


「……」


俺は。


手を伸ばした。


「なら」


「ここにいろよ」


光が。


止まった。


『……』


「選ばない」


「消さない」


「決めつけない」


「ただ」


「ここにいる」


「それでいい」


長い沈黙。


そして。


光が。


俺の手に。


触れた。


『……』


その瞬間。


俺の頭の中に。


声が響いた。


『ありがとう』


そして。


一枚の。


記憶が。


開いた。


――。


まだ。


世界がない。


俺も。


ルナも。


ユウトも。


イオも。


五人目も。


存在していない。


ただ。


何もない場所。


その中心に。


一つの。


小さな光がある。


俺は。


その光を。


見ていた。


『これ』


俺が。


言う。


『何?』


隣から。


ルナの声。


まだ。


名前を持つ前の。


ルナ。


『分からない』


俺が。


答える。


『じゃあ』


ルナが。


笑う。


『一緒に見よう』


俺は。


頷く。


二人で。


光を見る。


その光は。


少しずつ。


大きくなっていく。


やがて。


そこから。


たくさんの。


小さな光が。


生まれた。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


五つ。


六つ。


そして。


さらに。


その外側に。


無数の光。


俺は。


それを見て。


言った。


『全部』


『一緒にいられたらいいな』


ルナが。


笑った。


『うん』


『でも』


『どうやって?』


俺は。


考える。


そして。


答えた。


『選ばなければいい』


『……』


『誰も』


『誰かを』


『選ばなければ』


『みんな』


『一緒にいられる』


――。


記憶が。


途切れた。


「……」


俺は。


目を開く。


涙が。


頬を伝っていた。


「……そうだった」


アリアが。


何も言わず。


隣に立つ。


俺は。


呟く。


「俺は」


「最初から」


「世界を一つに」


「したかったわけじゃない」


「……」


「誰か一人を」


「選びたかったわけでもない」


「ただ」


「全部」


「一緒にいたかった」


その時。


暗闇から。


声がした。


『だから』


『最初の世界は』


『始まらなかった』


「……」


『君は』


『選べなかった』


『選びたくなかった』


『だから』


『世界は』


『止まった』


「……」


『そして』


『誰かが』


『君の代わりに』


『選んだ』


俺の胸に。


怒りが。


湧く。


「誰だ」


『……』


「誰が」


「俺の代わりに」


「選んだ?」


声は。


しばらく。


答えなかった。


そして。


やがて。


一言。


『世界』


「……」


『最初の世界そのもの』


「世界が?」


『そう』


『世界は』


『存在するために』


『一つを』


『選ばなければならなかった』


『だから』


『君を』


『中心にした』


「……」


『そして』


『中心になれなかったものを』


『外へ出した』


五人目。


最初の選択者。


選択そのもの。


これまで。


俺たちが。


出会ってきた存在たち。


全部。


一つの問題から。


始まっていた。


――。


「……じゃあ」


俺は。


静かに。


聞いた。


「俺たちは」


「今まで」


「ずっと」


「同じことを」


「やり直していたのか?」


『違う』


「……?」


『今は』


『もう』


『同じ世界ではない』


『君たちは』


『選び方そのものを』


『変えた』


「……」


『だから』


『最後の日も』


『変えられる』


その瞬間。


遠くで。


巨大な黒い扉が。


一瞬だけ。


姿を現した。


最後の日


その文字の下に。


新しい文字が。


浮かぶ。


「選択者――不在」


「……!」


誰も。


選んでいない。


誰も。


最後の日を。


決めていない。


だから。


まだ。


終わらない。


俺は。


そう理解した。


でも。


その瞬間。


黒い扉の横に。


もう一つ。


小さな扉が。


現れた。


そこには。


文字がない。


ただ。


小さな。


白い手形だけが。


残っている。


「……」


俺は。


その扉を見る。


すると。


隣が。


突然。


震えた。


「……どうした?」


「分からない」


「でも」


隣は。


胸を押さえる。


「この扉」


「僕」


「知ってる」


「……!」


「昔」


「この扉の向こうに」


「僕は」


「いた」


「いつ?」


隣は。


答える。


「レオンが」


「まだ」


「レオンじゃなかった頃」


「……」


「そして」


隣は。


ゆっくり。


扉へ。


歩いていく。


「ここには」


「君が」


「最初に」


「選ばなかったものが」


「ある」


俺は。


その言葉を。


聞いて。


背筋が。


凍った。


――最初の一日。


――六人目。


――選択肢の外側。


そして。


俺が。


レオンになる前。


まだ。


何者でもなかった頃。


その全部が。


一つに。


繋がろうとしていた。


隣が。


扉に。


手を置く。


そして。


振り返る。


「レオン」


「ん?」


「一緒に」


「開ける?」


俺は。


頷いた。


「ああ」


二人で。


扉に。


手を置く。


――。


ギィィィ……。


扉が。


ゆっくり。


開く。


その向こうに。


いたのは。


少年でも。


少女でも。


怪物でもなかった。


そこにいたのは――


まだ一度も、世界に生まれたことのない「レオン」だった。


そして。


その存在は。


俺を見るなり。


泣きながら。


笑った。


「やっと」


「僕を」


「迎えに来たんだね」

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