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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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110/132

第110話 最初の一日

「君が」


少年は。


俺を見ながら。


もう一度言った。


「最初の世界で」


「一番最初に」


「選ばなかったもの」


「……」


俺は。


階段の上で。


動けなかった。


少年の顔は。


俺と同じ。


声も。


どこか。


俺に似ている。


けれど。


俺じゃない。


「……お前は」


「誰なんだ?」


少年は。


首を傾げた。


「それが」


「分からない」


「……」


「名前もない」


「役割もない」


「記憶も」


「全部はない」


「でも」


少年は。


胸に手を当てる。


「一つだけ」


「覚えてる」


「何を?」


「最初の日」


「……」


俺は。


後ろを見る。


時間の外側の少女。


彼女も。


驚いていた。


「最初の日……」


「そう」


少年は。


頷く。


「零日目より」


「前」


「世界が始まるより」


「前」


「最初の選択より」


「前」


そして。


静かに。


言った。


「誰も」


「まだ」


「何も選んでいなかった日」


「……」


失われた時間の男が。


階段の横で。


笑った。


「それが」


「本当の一日目だ」


「零日目より」


「前なのか?」


俺が聞く。


「そうだ」


男は。


答える。


「お前たちは」


「世界がない場所を」


「零日目と呼んだ」


「でも」


「その前には」


「世界が始まることすら」


「まだ決まっていなかった時間がある」


「……」


「それが」


「一日目だ」


「でも」


アリアが。


口を挟む。


「どうして」


「誰も知らなかったの?」


男は。


笑わなかった。


「知らないんじゃない」


「忘れたんだ」


「……」


「正確には」


「忘れるしかなかった」


俺の胸が。


ざわつく。


「誰が?」


男は。


俺を見る。


「お前たち全員だ」


「……」


「最初の世界を」


「始めるために」


「必要だった」


「……」


俺は。


階段を。


一段。


降りた。


「俺たちは」


「何を忘れた?」


少年が。


答える。


「僕」


「……」


「僕の存在を」


空気が。


止まった。


「……」


俺は。


少年を見る。


「お前を?」


「うん」


「でも」


少年は。


悲しそうには。


言わなかった。


ただ。


事実を。


話しているだけだった。


「僕は」


「世界を作る前に」


「いた」


「レオンよりも?」


「ううん」


「レオンと一緒」


「……」


「ルナも」


「ユウトも」


「イオも」


「五人目も」


「みんな」


「最初の一日には」


「いた」


「……!」


俺は。


息を呑む。


「じゃあ」


「五人目は」


「最初の一日から」


「いたのか?」


少年は。


頷く。


「いたよ」


「でも」


「五人目だけじゃない」


「……」


「僕も」


「選ばれなかった」


「……」


「ただ」


「五人目とは」


「少し違う」


「どう違う?」


少年は。


空を見上げる。


そこには。


太陽も。


月も。


星もない。


ただ。


真っ白な空間。


「五人目は」


「選ばせてもらえなかった」


「僕は」


「選ばれなかった」


「……」


その違いは。


小さいようで。


大きかった。


「つまり」


「お前は」


「選択肢には」


「入っていた」


「でも」


「選ばれなかった」


「うん」


「誰が選んだ?」


少年は。


少し。


考えた。


「……」


「分からない」


「分からない?」


「うん」


「最初の日には」


「選ぶ人が」


「いなかったから」


「……」


俺は。


眉を寄せる。


「じゃあ」


「誰が」


「お前を選ばなかったんだ?」


少年は。


俺を指差した。


「君」


「……」


俺は。


固まった。


「俺が?」


「うん」


「俺が」


「お前を」


「選ばなかった?」


「そう」


「でも」


「どうして?」


少年は。


笑った。


「知らない」


「……」


「それを」


「知りたくて」


「ここにいる」


――。


階段を。


さらに。


降りた。


一歩。


また一歩。


世界樹の根元から。


どんどん。


遠ざかっていく。


不思議だった。


地下へ。


降りているはずなのに。


空が。


近づいてくる。


やがて。


階段の先に。


小さな広場が。


現れた。


そこには。


何もない。


建物も。


木も。


地面すら。


ない。


ただ。


五つの光が。


浮かんでいる。


「……」


俺は。


それを見た。


一つ。


赤。


一つ。


青。


一つ。


黄色。


一つ。


黒。


そして。


もう一つ。


白。


「五つ……」


アリアが。


呟く。


少年が。


言った。


「最初の日」


「僕たちは」


「五人じゃなかった」


「……?」


「六人」


「……!」


俺は。


目を見開いた。


「六人?」


「うん」


少年は。


白い光を見る。


「一つは」


「まだ」


「誰にも」


「見えていなかった」


「それが」


「僕?」


「違う」


「……」


少年は。


首を振る。


「僕は」


「見えていた」


「じゃあ」


「六人目は?」


少年は。


答えなかった。


代わりに。


白い光の横に。


小さな影が。


現れた。


それは。


人の形をしていない。


丸い。


小さな光。


まるで。


生まれる前の。


赤ん坊のようだった。


「……」


ノアが。


息を呑む。


「赤ちゃん?」


「違う」


少年が。


言う。


「まだ」


「赤ちゃんですらない」


「……」


「生まれるということも」


「選ばれていない」


「名前も」


「役割も」


「未来も」


「何もない」


その小さな光は。


ゆっくり。


揺れた。


そして。


声がした。


『……』


聞き取れない。


でも。


確かに。


声だった。


『……いたい』


「……!」


俺の胸が。


痛くなった。


『ここに』


『いたい』


「……」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「お前は」


「何なんだ?」


小さな光は。


答えない。


ただ。


俺を見る。


「……」


その瞬間。


俺の胸の中の。


光たちが。


一斉に。


震えた。


「――っ!」


膝が。


崩れる。


「レオン!」


アリアが。


駆け寄る。


「大丈夫!?」


「……ああ」


俺は。


胸を押さえる。


そこに。


知らない記憶が。


流れ込んでくる。


――。


最初の日。


まだ。


何もない。


俺が。


座っている。


隣に。


ルナ。


その向こうに。


ユウト。


イオ。


五人目。


そして。


白い光。


「……」


俺は。


それを。


見ている。


『この子』


ルナの声。


『どうする?』


俺は。


答える。


『分からない』


『名前は?』


『まだ』


『じゃあ』


『何になりたい?』


『……』


白い光は。


揺れる。


俺は。


笑う。


『いつか』


『自分で』


『決めればいい』


『うん』


『そうだね』


――。


記憶が。


途切れる。


「……」


俺は。


目を開ける。


少年が。


俺を見ていた。


「思い出した?」


「……少し」


「そう」


「でも」


俺は。


白い光を見る。


「俺は」


「こいつを」


「選ばなかったんじゃない」


「……」


「選ぶ必要がないと」


「思った」


少年が。


頷く。


「そう」


「最初の日の君は」


「そう言った」


「……」


「だから」


「僕は」


「消えなかった」


「え?」


「選ばれなかったけど」


「消える必要も」


「なかったから」


「……」


俺は。


息を呑む。


それは。


今まで。


俺たちが。


何度も。


繰り返してきた。


答えだった。


選ばれなくても。


消える必要はない。


「じゃあ」


俺は。


少年を見る。


「お前は」


「何を望んでる?」


少年は。


しばらく。


黙っていた。


「……」


そして。


言った。


「僕は」


「まだ」


「決めてない」


「……」


「何になりたいか」


「どこにいたいか」


「誰といたいか」


「何も」


「……」


俺は。


笑った。


「それでいい」


「……」


「決めなくていい」


「今は」


「……」


少年は。


少し。


驚いた顔をした。


「本当に?」


「ああ」


「……」


「俺たちは」


「もう」


「知ってる」


「選ばないことも」


「選択だって」


少年の瞳が。


揺れる。


「……」


「だから」


俺は。


手を差し出した。


「一緒に」


「考えよう」


少年は。


俺の手を見る。


そして。


ゆっくり。


手を伸ばす。


――。


その瞬間。


白い光が。


大きく。


輝いた。


世界全体が。


震える。


「……!」


地上から。


世界樹の音が。


響く。


――ゴォォォォ……!


時間の外側の少女が。


本を開く。


そこに。


新しい文字が。


浮かんでいた。


第二十三原則――選ばれなくても、存在していい。


「……」


俺は。


その文字を。


見つめた。


そして。


思った。


また。


一つ。


世界が。


広がった。


――。


しかし。


その直後だった。


白い光の奥。


まだ誰も。


気づいていなかった場所に。


もう一つ。


小さな影が。


立っていた。


「……?」


俺は。


振り返る。


そこには。


誰もいない。


でも。


確かに。


声がした。


『……やっと』


『僕も』


『見つけてもらえた』


「……!」


少年が。


振り返る。


「……え?」


「どうした?」


少年は。


震えていた。


「今」


「誰か」


「いた」


「……」


俺たちは。


周囲を見る。


何もない。


ただ。


暗闇。


その暗闇の奥から。


もう一度。


声がする。


『僕は』


『君たちより』


『もっと前から』


『ここにいた』


「……」


『そして』


『君たちが』


『最初の日を』


『選んだ時』


『僕だけは』


『選択肢にすら』


『入れてもらえなかった』


俺の背中に。


冷たいものが。


走る。


五人目とは違う。


選ばれなかった存在とも。


違う。


選ばせてもらえなかった存在とも。


違う。


もっと。


もっと前。


「お前は」


「誰だ?」


暗闇の中で。


小さな声が。


笑った。


『それを』


『思い出すのが』


『君の』


『最後の宿題だよ』


――そして。


世界樹の時計が。


初めて。


「一日目」


を示した。

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