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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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109/132

第109話 幸せの答え

『もし、幸せじゃなかったら?』


その言葉が。


ずっと。


頭から離れなかった。


――千年後。


俺たちの世界。


そこに立つ。


もう一人の俺。


そして。


「幸せだったら、最後の日を選ばない」


そう言った。


なら。


幸せじゃなかったら。


どうする?


「……」


俺は。


目の前の暗闇を。


見つめていた。


千年後の映像は。


もう消えている。


残っているのは。


静かな世界だけ。


「レオン」


アリアの声。


俺は。


振り返る。


「大丈夫?」


「ああ」


そう答えた。


でも。


本当は。


分からない。


「……」


ミナも。


黙っていた。


未来の自分。


千年後の自分。


そして。


最後の日。


「ねえ」


ミナが。


小さく言う。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「未来の私」


「幸せじゃないのかな」


「……」


俺は。


すぐには。


答えられなかった。


「分からない」


「……そっか」


「でも」


俺は。


続けた。


「幸せじゃないって」


「決まったわけじゃない」


「うん」


「未来の映像は」


「一瞬しか」


「見てない」


「……」


「笑ってる人も」


「悲しんでる人も」


「全部」


「見えてない」


ミナは。


頷いた。


「そうだよね」


その時。


隣が。


口を開いた。


「僕」


「……?」


「一つだけ」


「気になる」


「何?」


「未来のレオン」


「どうして」


「今のレオンに」


「幸せかどうか」


「聞いたんだろう」


「……」


確かに。


そうだ。


未来の俺が。


千年前の俺に。


「幸せ?」


と聞いた。


未来の自分なら。


自分が幸せかどうか。


自分で分かるはずだ。


なのに。


俺に聞いた。


「……」


俺は。


考える。


そして。


一つの答えに。


たどり着く。


「未来の俺は」


「自分じゃ」


「決められないんだ」


「……」


アリアが。


目を見開く。


「どういうこと?」


「未来の俺は」


「千年後の世界を」


「見てる」


「でも」


「そこにいる自分が」


「本当に幸せなのか」


「分からない」


「……」


「だから」


「今の俺に」


「聞いた」


ユウトが。


腕を組む。


「つまり」


「未来の兄貴が知りたいのは」


「千年後の未来じゃない」


「ああ」


「今の兄貴が」


「どう生きているか」


「……」


その時。


胸の奥に。


小さな光が。


灯った。


「……」


俺は。


それを見る。


可能性。


記憶。


未来。


選択。


いろんな光が。


重なっている。


その中心に。


一つだけ。


新しい光が。


あった。


「……これは?」


俺が。


触れる。


すると。


声がした。


『幸せは』


『結果じゃない』


「……」


『選び続けた時間そのもの』


俺は。


息を呑む。


「誰だ?」


返事は。


ない。


光だけが。


消える。


「……」


ミナが。


俺を見る。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「私」


「千年後の私が」


「幸せかどうか」


「知りたい」


「……」


「でも」


「未来を変えたくない」


「うん」


「だから」


ミナは。


胸に。


手を当てた。


「今の私が」


「幸せになれば」


「いいんだよね?」


「……」


俺は。


笑った。


「ああ」


「それでいい」


「千年後の私に」


「幸せになれって」


「命令しなくていい」


「……うん」


「今のミナが」


「今日を選べばいい」


ミナは。


笑った。


「じゃあ」


「今日」


「お兄ちゃんと」


「一緒に」


「ご飯食べる」


「……」


「それでいい?」


「最高だ」


「ふふ」


――。


その日の夕方。


俺たちは。


いつものように。


夕食を作った。


野菜を切る。


火を起こす。


パンを焼く。


ノアが。


つまみ食いをする。


「ノア」


「……」


「食べただろ」


「味見」


「さっきも味見してたぞ」


「二回目の味見」


「それはもう」


「普通に食べてるだけだろ」


「えへへ」


笑い声。


アリアも。


笑っている。


セリアも。


笑っている。


ユウトが。


呆れている。


「相変わらずだな」


「何が?」


「兄貴の周り」


「うるさい」


「はは」


俺も。


笑う。


――幸せ。


その言葉は。


大きすぎる。


俺には。


少し。


怖い言葉だった。


幸せだと。


言った瞬間。


失う気がする。


昔の俺は。


そうだった。


幸せになった。


だから。


怖くなった。


大切になった。


だから。


失いたくなくなった。


そして。


失わないために。


世界を。


やり直した。


何度も。


何度も。


「……」


俺は。


箸を。


置く。


「レオン?」


アリアが。


心配そうに。


見る。


「……昔の俺は」


「うん」


「幸せになるのが」


「怖かった」


アリアは。


黙って。


聞いている。


「幸せって」


「いつか」


「終わるだろ」


「……」


「だから」


「幸せになるほど」


「終わりが」


「怖くなった」


「……」


アリアが。


静かに。


笑う。


「でも」


「今は?」


「……」


俺は。


みんなを見る。


「今は」


「終わっても」


「また」


「始まると思える」


ユラが。


頷いた。


「終わりの後には」


「何かが残る」


「……ああ」


「だから」


「幸せが」


「終わっても」


「それまでの幸せが」


「消えるわけじゃない」


「……」


俺は。


笑った。


「そうだな」


その時。


名前のない未来の人物が。


初めて。


食卓に座った。


「……」


ノアが。


その人物を見る。


「あなた」


「ご飯」


「食べる?」


「……」


未来の人物は。


少し。


困った顔をした。


「私は」


「未来の存在だから」


「食べられるか」


「分からない」


「やってみれば?」


ノアが。


パンを。


差し出す。


「……」


未来の人物は。


受け取る。


一口。


食べる。


「……」


全員が。


見ている。


「……どう?」


ミナが。


聞く。


未来の人物は。


目を丸くした。


「……美味しい」


ノアが。


笑った。


「でしょ!」


未来の人物は。


パンを。


もう一口。


食べた。


「……」


そして。


少しだけ。


涙を流した。


「……どうした?」


俺が。


聞く。


「分からない」


「……」


「こんなこと」


「千年後には」


「忘れていた」


「何を?」


「普通の味」


「……」


俺は。


何も。


言えなかった。


ただ。


パンを。


もう一つ。


渡した。


「食べろ」


「……ありがとう」


その夜。


未来の人物は。


初めて。


笑った。


――。


翌朝。


世界樹に。


異変が起きた。


「……?」


葉が。


全部。


白くなっている。


「何だ?」


俺たちは。


世界樹の前へ。


集まった。


白い葉。


一枚。


また一枚。


そして。


幹に。


文字が。


浮かぶ。


「千年後の未来を、現在に持ち込むことはできない。」


「……」


さらに。


文字が。


浮かぶ。


「ただし、千年後から来た者が現在を生きることはできる。」


未来の人物が。


息を呑む。


「……」


「つまり」


エレナが。


言う。


「未来そのものを」


「こちらへ」


「持ってくることはできない」


「でも」


俺が。


続ける。


「未来から来た人は」


「ここで」


「今を生きられる」


「……」


未来の人物が。


自分の手を見る。


「私は」


「帰らなきゃ」


「いけない?」


「分からない」


俺は。


答えた。


「お前が」


「どうしたいかだ」


「……」


「帰るなら」


「帰ればいい」


「ここにいたいなら」


「いてもいい」


「……」


「未来だから」


「今を」


「諦める必要はない」


未来の人物は。


黙っていた。


そして。


ゆっくり。


口を開く。


「……」


「私は」


「もう少し」


「ここにいたい」


「……」


ミナが。


笑う。


「じゃあ」


「一緒にいよう」


未来の人物が。


驚く。


「いいの?」


「うん」


「……」


「名前がないなら」


「名前も」


「後でいいよ」


「……」


「私も」


「未来の私だけど」


「今の私だから」


「一緒にいていいよ」


未来の人物は。


ミナを見る。


そして。


小さく。


頷いた。


「……ありがとう」


――。


昼。


世界樹の白い葉が。


一枚。


俺の手に。


落ちた。


そこに。


新しい文字が。


刻まれていた。


「第二十二原則――未来を知っていても、現在を選ぶ自由。」


俺は。


その言葉を。


静かに。


読んだ。


未来を知っていても。


未来のために。


今を犠牲にしない。


未来を守るために。


今日を捨てない。


それも。


俺たちが。


選んだものだった。


「……」


その時。


遠くから。


鐘の音が。


聞こえた。


――カン。


一度。


――カン。


二度。


――カン。


三度。


エレナが。


振り返る。


「鐘?」


「この世界に」


「鐘なんて」


「なかったよね?」


「ああ」


四度。


五度。


六度。


鐘は。


鳴り続ける。


そして。


七度目。


――カン。


世界樹の根元に。


黒い線が。


走った。


「……!」


地面が。


開く。


そこから。


階段が。


現れた。


下へ。


下へ。


どこまでも。


続いている。


「地下?」


カイが。


覗き込む。


「違う」


時間の外側の少女が。


呟いた。


「これは」


「地下じゃない」


「……?」


「過去」


「……!」


彼女は。


白い本を。


開く。


ページが。


勝手に。


めくられていく。


そして。


一つのページで。


止まった。


そこには。


たった一行。


「世界が始まる前に、最初の時間を食べた場所。」


「……時間を」


「食べた?」


ユウトが。


眉を寄せる。


その時。


階段の下から。


声がした。


『そう』


『私は』


『時間を食べた』


「……!」


「誰だ?」


俺が。


叫ぶ。


暗闇の中。


何かが。


動く。


カチ。


カチ。


カチ。


時計の音。


そして。


一人の男が。


階段を。


上がってくる。


黒い髪。


古い服。


壊れた時計。


あの。


「失われた時間」の男。


「……お前」


男は。


俺を見る。


そして。


笑った。


「久しぶりだな」


「お前が」


「時間を食べたって」


「どういう意味だ?」


男は。


壊れた時計を。


開く。


中には。


針がない。


「時間は」


「流れるものじゃない」


「……」


「誰かが」


「持っていくものだ」


「何を?」


男は。


俺の胸を見る。


「お前たちが」


「最初の世界を」


「始めた時」


「一つだけ」


「持っていかなかったものがある」


「……」


「だから」


「私は」


「それを」


「食べた」


俺は。


拳を握る。


「何をだ?」


男は。


答えた。


「――最初の一日」


「……!」


「零日目の前にあった」


「本当の一日目」


「それを」


「お前たちは」


「存在しないことにした」


「……」


「だから」


男は。


笑う。


「今」


「それが」


「戻ってきた」


階段の奥から。


光が。


差し込む。


その光の中に。


小さな町が。


見えた。


誰も。


まだ。


名前を持っていない。


世界樹も。


まだ。


芽吹いていない。


そして。


その町の中央に。


一人の少年が。


立っている。


黒い髪。


赤い瞳。


俺と。


同じ顔。


少年は。


こちらを見る。


そして。


言った。


「やっと」


「僕の番だ」


俺は。


息を呑んだ。


「……誰だ?」


少年は。


笑った。


「君が」


「最初の世界で」


「一番最初に」


「選ばなかったもの」

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