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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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105/132

第105話 私の番

朝。


俺は。


世界樹の下で。


目を覚ました。


「……」


最初に。


空を見た。


青い。


昨日までと。


何も変わらない。


鳥の声。


風の音。


遠くから。


ノアの声。


「お兄ちゃーん!」


「……」


俺は。


ゆっくり。


起き上がる。


「どうした?」


「朝ごはん!」


「早いな」


「お腹すいた!」


「……昨日も聞いたぞ」


「今日も!」


ノアは。


胸を張った。


俺は。


笑う。


「分かった」


「すぐ行く」


いつもの朝。


いつもの世界。


でも。


俺は。


昨日のことを。


思い出していた。


――最初の選択。


――もう一人の俺。


――五人目。


そして。


世界樹に生まれた。


新しい葉。


「……」


俺は。


立ち上がる前に。


世界樹を。


見上げた。


一番高い枝。


そこに。


小さな葉がある。


まだ。


名前がない。


文字もない。


ただ。


淡い光だけが。


宿っている。


「……お前は」


「何を選ぶんだ?」


当然。


返事はない。


……と思った。


『……』


「……?」


一瞬。


風が。


止まった。


そして。


ほんの小さな声。


『……朝』


「……!」


俺は。


顔を上げる。


でも。


葉は。


静かに揺れているだけだった。


「今」


「何か言った?」


ノアが。


俺の横に来る。


「うん」


「葉っぱ?」


「たぶん」


ノアは。


じっと。


葉を見る。


そして。


笑った。


「朝って」


「いいね」


「……ああ」


俺は。


頷いた。


「いいと思う」


でも。


その瞬間。


世界樹の葉に。


小さな文字が。


浮かんだ。


朝。


「……」


文字は。


すぐに。


消えた。


ノアが。


目を丸くする。


「今の」


「見た?」


「ああ」


「お名前?」


「……まだ」


俺は。


少し。


考える。


名前。


それは。


本人が。


選ぶもの。


だから。


俺たちが。


決める必要はない。


「自分で」


「選ぶまで」


「待とう」


「うん!」


ノアは。


嬉しそうに。


笑った。


――。


朝食の場所へ。


向かう。


すると。


すでに。


みんなが。


集まっていた。


「遅いぞ」


ユウトが。


言う。


「ノアに呼ばれてな」


「またか」


「また!」


ノアが。


元気に。


手を上げる。


アリアが。


笑う。


「今日は何にする?」


「パン!」


ノアが。


即答する。


「スープも」


「卵も」


「果物も」


「全部!」


「朝から食べすぎだろ」


ユウトが。


呆れる。


「でも」


ミナが。


小さく笑う。


「みんなで食べると」


「美味しいよ」


「……」


俺は。


その言葉を。


聞いて。


ふと。


思った。


最初の世界。


何もなかった場所。


一人だった俺。


そして。


「誰かと一緒にいたい」


と。


願った俺。


あの願いは。


今。


こういう形に。


なっている。


「レオン?」


アリアが。


俺を見る。


「どうしたの?」


「いや」


俺は。


笑った。


「なんでもない」


「……?」


「ただ」


「朝ごはんって」


「いいなと思って」


「ふふ」


アリアも。


笑った。


「そうだね」


――。


食事が終わった頃。


世界樹の方から。


音がした。


――カン。


「……?」


――カン。


金属のような。


時計の音。


全員が。


振り返る。


「また時間の変化?」


エレナが。


言う。


俺は。


立ち上がる。


「見に行こう」


世界樹の下へ。


戻る。


すると。


根元に。


小さな。


時計があった。


昨日までは。


なかったものだ。


時計の針は。


進んでいる。


一秒。


また一秒。


でも。


普通の時計と。


少し違う。


文字盤には。


数字ではなく。


言葉が。


書かれている。


昨日


今日


明日


その三つだけ。


そして。


針は。


「今日」を。


指している。


「……」


時間の外側の少女が。


時計を見つめる。


「時間が」


「選ばれている」


「……?」


俺が。


聞く。


「どういう意味?」


少女は。


少し。


考える。


「前は」


「時間そのものが」


「流れていた」


「うん」


「でも」


「今は」


「この世界が」


「どの時間を」


「大切にするか」


「選んでる」


「……」


「昨日を」


「消さずに」


「今日を生きて」


「明日を待つ」


俺は。


頷く。


「なるほど」


すると。


少女は。


時計に。


そっと触れた。


「……」


針が。


止まる。


「え?」


全員が。


驚く。


少女が。


手を離す。


「……」


針は。


動かない。


「止めた?」


アリアが。


聞く。


少女は。


首を振る。


「違う」


「……?」


「この時計が」


「止まりたいと」


「言った」


「……」


俺は。


時計を見る。


「時計自身が?」


「うん」


「……」


世界が。


また。


変わり始めている。


時間さえ。


自分で。


意思を持ち始めた。


「でも」


ユウトが。


言う。


「止まったら」


「困らないか?」


「……」


確かに。


そうだ。


時間が。


止まれば。


明日も。


来ない。


でも。


少女は。


静かに。


言った。


「止まることも」


「時間の一部」


「……」


「ずっと」


「進み続ける必要はない」


その言葉に。


俺は。


少し。


救われた気がした。


俺たちは。


ずっと。


前へ。


進もうとしていた。


未来へ。


明日へ。


でも。


本当は。


立ち止まっても。


いい。


振り返っても。


いい。


誰かを。


待っても。


いい。


「……」


俺は。


時計に。


手を伸ばした。


「分かった」


「……?」


「少し」


「止まってみよう」


針が。


淡く。


光った。


――カチ。


一度だけ。


音がして。


止まる。


世界から。


時間の音が。


消えた。


「……」


不思議だった。


風は。


吹いている。


鳥も。


飛んでいる。


ノアも。


動いている。


なのに。


時間だけが。


静かだった。


「これが」


「止まるってこと?」


ノアが。


首を傾げる。


「たぶん」


「変なの」


「そうだな」


俺は。


笑う。


その時。


世界樹の上から。


声がした。


『……待って』


「……!」


全員が。


上を見る。


あの。


名前のない光。


「どうした?」


俺が。


聞く。


『……まだ』


『私は』


『選びたくない』


「……」


時間の外側の少女が。


優しく。


言う。


「いいよ」


『……』


「選ばなくていい」


『……本当に?』


「ああ」


俺も。


言う。


「選ばないことも」


「選択だから」


『……』


光が。


揺れる。


そして。


小さく。


「……ありがとう」


その声は。


昨日まで。


存在しなかった。


でも。


今日。


確かに。


ここにある。


「……」


俺は。


笑った。


「じゃあ」


「名前も」


「まだ」


「待とう」


『うん』


その時。


世界樹の葉が。


一枚。


落ちた。


地面に。


触れる。


そこには。


文字が。


浮かんでいた。


「待つ。」


少女が。


息を呑む。


「……」


俺は。


その文字を見る。


それは。


彼女が。


最初に。


自分で選んだ言葉。


以前。


時間の外で。


彼女が。


本に書いた言葉。


「待つ」。


それが。


今。


世界に。


刻まれた。


「……」


少女は。


自分の胸に。


手を当てる。


「私の」


「選んだ言葉が」


「ここに……」


「うん」


俺は。


頷く。


「ちゃんと」


「残ってる」


少女の目に。


涙が。


浮かんだ。


「……嬉しい」


――。


その日の昼。


世界樹の周りで。


少しだけ。


不思議なことが。


起き始めた。


花が。


昨日とは。


違う色に。


咲いた。


川の流れが。


一瞬だけ。


逆になった。


空に。


夕焼けが。


二つ。


現れた。


そして。


遠くの丘に。


昨日まで。


なかった。


小さな家が。


建っていた。


「……」


俺たちは。


みんなで。


丘へ向かった。


扉には。


何も。


書かれていない。


「入ってみる?」


ユウトが。


聞く。


「うん」


俺は。


扉を開ける。


中には。


何もない。


机。


椅子。


ベッド。


そして。


壁に。


一枚の絵。


「……」


絵には。


五人の子供が。


描かれていた。


一人。


二人。


三人。


四人。


そして。


五人目。


でも。


五人目の顔だけが。


描かれていない。


「……」


俺は。


絵に。


近づく。


その瞬間。


絵の中の。


五人目が。


動いた。


「……!」


顔のない子供が。


こちらを見る。


そして。


小さく。


口を開いた。


『僕は』


『まだ』


『決めない』


「……」


俺は。


驚かなかった。


むしろ。


自然に。


思えた。


「それでいい」


『……』


「お前の顔も」


「名前も」


「未来も」


「お前が」


「決めればいい」


顔のない子供は。


少し。


笑った。


そして。


絵の中から。


一枚の紙を。


こちらへ。


差し出した。


俺は。


受け取る。


紙には。


一行だけ。


書かれていた。


「最初の選択は、まだ終わっていない。」


「……」


ユウトが。


呟く。


「どういうことだ?」


俺は。


紙を。


見つめる。


その時。


家の奥から。


声がした。


『違う』


「……?」


『最初の選択は』


『終わっていないんじゃない』


『まだ』


『始まっていない』


「……!」


家の中の空気が。


変わる。


壁。


床。


天井。


全部が。


白くなる。


そして。


俺たちの前に。


一つの。


小さな扉が。


現れた。


扉には。


数字がない。


名前もない。


ただ。


一つの文字。


「0」


「……零日目」


俺が。


呟く。


でも。


その扉の向こうから。


聞こえてきた声は。


今までとは。


違っていた。


『これは』


『お前たちが』


『見た零日目じゃない』


「……」


『そのさらに前』


『何も選ばれていない』


『完全な』


『最初』


俺の胸が。


大きく。


鳴った。


そして。


扉の向こうから。


もう一つ。


声がした。


『レオン』


「……誰だ?」


『私は』


『お前が』


『最初に』


『選ぶより前から』


『ずっと』


『お前の隣にいた』


「……!」


その声を。


聞いた瞬間。


俺は。


分かった。


これは。


ルナでも。


ユウトでも。


イオでもない。


五人目でも。


もう一人の俺でもない。


もっと。


もっと。


古い。


そして。


懐かしい。


何故か。


涙が出そうになる。


『お前は』


『私を』


『一度も』


『名前で呼ばなかった』


「……」


『だって』


『私には』


『まだ』


『名前がなかったから』


扉が。


ゆっくり。


開いていく。


その向こうに。


一人の。


小さな子供が。


立っていた。


黒い髪。


白い服。


赤い瞳。


そして。


その手には。


一本の。


小さな枝。


俺は。


息を止めた。


その子供は。


俺を見て。


笑った。


「やっと」


「会えたね」

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