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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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104/132

第104話 捨てられたもう一人

「僕は」


目の前の男が。


静かに言った。


「お前が最初に選ぶ前に」


「捨てた」


「もう一人の」


「お前だ」


「……」


俺は。


何も言えなかった。


顔は。


俺と同じ。


声も。


どこか。


俺に似ている。


でも。


決定的に違う。


目だ。


こいつの目には。


怒りがない。


悲しみも。


憎しみも。


ただ。


諦めに近い。


静かな色が。


あった。


「……お前は」


俺が。


ようやく。


口を開く。


「俺なのか?」


「違う」


即答だった。


「……」


「僕は」


「お前にならなかった可能性だ」


「可能性……」


「そう」


そいつは。


椅子から立ち上がる。


そして。


白い部屋を。


ゆっくり歩く。


「お前が」


「世界を一つにするために」


「自分を中心に選んだ」


「その瞬間」


「別の可能性が」


「捨てられた」


「……」


「それが」


「僕」


俺は。


拳を握った。


「つまり」


「俺が」


「世界を選んだことで」


「お前が生まれた?」


「半分正しい」


「半分?」


「僕は」


「お前が選ばなかったから」


「存在した」


「……」


「選ばなかったものが」


「必ず消えるわけじゃない」


その言葉に。


俺は。


顔を上げた。


「……」


男は。


笑う。


「お前たちが」


「今まで何度も」


「証明してきただろ?」


――選ばれなかった未来も。


――存在できる。


――選ばれなかった者も。


――自分で選べる。


「……」


確かに。


そうだった。


俺たちは。


何度も。


それを。


繰り返してきた。


ユラ。


ミライ。


カナ。


ハネ。


リク。


そして。


五人目。


誰も。


最初から。


選ばれていたわけじゃない。


「じゃあ」


俺は。


尋ねる。


「お前は」


「ずっと」


「ここにいたのか?」


男は。


頷いた。


「うん」


「最初の世界が」


「始まる前から」


「ずっと」


「……」


「お前が」


「世界を選ぶのを」


「見ていた」


「俺が」


「何度も世界をやり直したことも?」


「知ってる」


「……」


「百七十二回」


「……」


「いや」


男は。


少しだけ。


首を傾げた。


「もっと前から」


「お前は」


「何度も」


「選んでいた」


俺の胸が。


ざわつく。


「もっと前?」


「世界ができる前にも」


「お前は」


「何度も」


「何かを選んでいた」


「……」


「ただ」


「世界がなかったから」


「記録されなかった」


男は。


胸元に。


手を当てた。


そこには。


何もない。


でも。


薄い光が。


浮かび上がる。


「僕は」


「その中の」


「一つ」


「……」


「お前が」


「一度も」


「選ばなかった可能性」


俺は。


その光を。


見つめた。


「……何の可能性だ?」


「それは」


男が。


俺を見る。


「まだ」


「言えない」


「……」


「なぜ?」


「それを」


「言葉にした瞬間」


「僕は」


「また」


「一つに」


「固定されるから」


「……!」


その言葉に。


俺は。


息を呑んだ。


固定。


それは。


今まで。


何度も。


俺たちが。


拒んできたもの。


「……名前も?」


「うん」


「だから」


「僕には」


「まだ」


「名前がない」


俺は。


少し。


考えた。


「じゃあ」


「お前を」


「どう呼べばいい?」


男は。


困ったように。


笑った。


「呼ばなくていい」


「……」


「僕は」


「まだ」


「僕自身を」


「選んでいないから」


その瞬間。


背後から。


声がした。


「……それ」


「なんか」


「分かる」


ソウだった。


ソウが。


俺の隣まで。


歩いてくる。


「僕も」


「最初は」


「ソウじゃなかった」


「……」


「名前を」


「選んだ時」


「初めて」


「自分が」


「自分になった気がした」


名前のない男は。


ソウを見る。


「君は」


「自分で」


「名前を選んだんだね」


「うん」


「怖くなかった?」


ソウは。


少し。


考える。


「怖かった」


「……」


「でも」


「誰かに決められるより」


「自分で決める方が」


「いいと思った」


男は。


微笑んだ。


「……そう」


「じゃあ」


「お前も」


ソウが。


言う。


「いつか」


「決めればいいよ」


「……」


男は。


何も言わない。


でも。


ほんの少しだけ。


表情が。


柔らかくなった。


「……ありがとう」


その時。


白い部屋が。


揺れた。


――ゴゴゴゴゴ。


「……!」


床に。


亀裂が。


走る。


男が。


顔を上げた。


「時間だ」


「時間?」


「ここは」


「最初の選択が」


「捨てられた場所」


「そして」


「もうすぐ」


「ここも」


「閉じる」


「待て」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「まだ」


「聞きたいことがある」


「……何?」


「俺は」


「どうして」


「お前を」


「捨てた?」


男は。


黙った。


そして。


少しだけ。


悲しそうに。


笑う。


「違う」


「……?」


「お前は」


「僕を」


「捨てたんじゃない」


「……」


「僕を」


「選べなかった」


「……」


「それだけ」


俺は。


言葉を失う。


「世界が」


「一つでなければ」


「成立しなかった」


「だから」


「お前は」


「一つを」


「選んだ」


「……」


「その時」


「僕が」


「選ばれなかった」


「ただ」


「それだけ」


男は。


続ける。


「だから」


「お前を」


「恨んでいない」


「……」


「むしろ」


「僕は」


「お前が」


「何度も」


「やり直してくれたことを」


「知っている」


「……」


「世界を」


「一つにしたことを」


「後悔して」


「何度も」


「壊して」


「作り直して」


「それでも」


「誰も犠牲にしない未来を」


「探した」


「……」


俺の胸が。


熱くなる。


「だから」


「僕は」


「お前を」


「見ていた」


「……ずっと?」


「ずっと」


男は。


頷いた。


「そして」


「分かった」


「何を?」


「お前は」


「昔とは」


「違う」


「……」


「昔のお前は」


「一人で」


「全部を」


「選ぼうとした」


「でも」


「今のお前は」


「みんなに」


「選ばせる」


「……」


「それが」


「僕には」


「嬉しい」


俺は。


しばらく。


何も言えなかった。


そして。


一つだけ。


聞いた。


「……じゃあ」


「お前は」


「これから」


「どうする?」


男は。


空を見る。


白い天井。


その向こうに。


何もない。


「僕も」


「選ぶ」


「……」


「いつか」


「自分の名前を」


「自分の未来を」


「自分の居場所を」


「選ぶ」


「……ああ」


俺は。


頷く。


「待ってる」


男が。


俺を見る。


「……」


「いつか」


「俺たちの世界に」


「来いよ」


「……いいの?」


「もちろん」


「でも」


俺は。


笑う。


「来るかどうかは」


「お前が」


「決めろ」


男は。


しばらく。


俺を見つめた。


そして。


初めて。


心から。


笑った。


「……うん」


「そうする」


――。


その瞬間。


白い部屋が。


崩れ始めた。


「レオン!」


アリアが。


俺の腕を掴む。


「戻るよ!」


「ああ!」


俺たちは。


扉へ。


走る。


最後に。


俺は。


振り返った。


男は。


一人。


白い部屋に。


立っていた。


「……」


その姿が。


少しずつ。


遠ざかる。


「またな」


俺が。


言う。


男は。


頷いた。


「また」


扉が。


閉じる。


――。


目を開けると。


そこは。


世界樹の下だった。


夜。


星空。


いつもの世界。


「……戻ってきた」


ユウトが。


呟く。


「みんな」


「大丈夫?」


アリアが。


確認する。


全員。


いる。


誰も。


消えていない。


「……」


俺は。


安心して。


息を吐いた。


その時。


世界樹の枝が。


揺れる。


一枚の葉が。


落ちてきた。


俺の手のひらに。


乗る。


葉には。


文字が。


刻まれていた。


「選ばれなかったものは、消えない。」


俺は。


その言葉を。


見つめる。


「……」


今まで。


俺は。


ずっと。


そう思っていた。


でも。


本当は。


違った。


消えないだけじゃない。


選ばれなかったものは。


いつか。


自分で。


選べる。


だから。


五人目も。


名前のない彼も。


まだ。


終わっていない。


「……」


その時。


ノアが。


眠そうに。


俺の服を引っ張った。


「お兄ちゃん……」


「ん?」


「お腹すいた……」


「……」


俺は。


思わず。


笑った。


「こんな時でもか?」


「こんな時だから」


ノアは。


真剣な顔で。


言った。


「……そうだな」


俺は。


立ち上がる。


「じゃあ」


「みんなで」


「何か食べよう」


「やった!」


ノアが。


笑う。


ユウトも。


笑う。


アリアも。


笑う。


世界樹の下に。


いつもの。


騒がしい声が。


戻ってくる。


それでいい。


世界が。


どれだけ。


大きな秘密を。


抱えていても。


俺たちは。


飯を食べる。


笑う。


眠る。


明日を迎える。


その積み重ねが。


きっと。


未来になる。


――。


その夜。


誰も。


気づいていなかった。


世界樹の。


一番高い枝。


そこに。


小さな。


新しい葉が。


生まれていたことを。


葉には。


まだ。


文字がない。


名前もない。


ただ。


一つだけ。


小さな光が。


宿っている。


そして。


その光の中から。


声がした。


『……次は』


『私の番』

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