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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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102/132

第102話 最初に選ばれたもの

「本当の始まりが……選択?」


俺は。


目の前の存在を見つめていた。


黒い髪。


赤い瞳。


胸には。


古い時計。


でも。


さっきまでの「失われた時間」とは。


何かが違う。


同じように。


時間を知っている。


同じように。


最初の世界を知っている。


それなのに。


この存在には。


時間そのものよりも。


もっと深いものを。


感じる。


「お前は」


「最初の選択者なのか?」


そう聞いた。


男は。


少しだけ。


笑った。


「違う」


「……」


「私は」


「選択そのものだ」


「……!」


アリアが。


息を呑む。


「選択……そのもの?」


男は。


頷いた。


「誰かが」


「何かを選ぶ時」


「必ず」


「その選択の前に」


「私は存在する」


「……」


「名前を持つ前」


「時間を持つ前」


「世界を持つ前」


「存在を持つ前」


「選ぶという可能性だけが」


「そこにあった」


俺は。


黙っていた。


――選択。


それは。


俺たちが。


何度も。


繰り返してきたもの。


自分で選ぶ。


相手に選ばせる。


選び直す。


選ばない。


自分自身を選ぶ。


未来を選ぶ。


明日を選ぶ。


今まで。


俺たちは。


何度も。


それを。


原則として。


世界に刻んできた。


でも。


そのさらに前に。


「選択そのもの」が。


存在していた。


「じゃあ」


俺は。


聞く。


「最初の選択で」


「何を選んだ?」


男は。


答えない。


「……」


しばらく。


俺を見ていた。


そして。


胸の時計を。


開く。


中には。


一本の針。


その針の先に。


小さな光。


「これだ」


「……?」


「最初に」


「選ばれたもの」


俺は。


光を見る。


小さい。


あまりにも。


小さい。


でも。


その光を。


見た瞬間。


胸が。


痛くなった。


「……これ」


「知ってる」


男が。


頷く。


「そうだろう」


「これは」


「お前が」


「最初に」


「選んだものだ」


「……」


「何?」


男は。


静かに。


言った。


「――誰かと一緒にいたいという願い」


「……!」


世界が。


静かになる。


アリアが。


俺を見る。


ユウトも。


黙っている。


ソウも。


じっと。


光を見ている。


俺は。


思い出す。


世界が。


始まる前。


何もなかった場所。


俺。


ルナ。


ユウト。


そして。


まだ。


名前すらなかった存在たち。


あの時。


俺は。


「世界を作ろう」と。


願ったわけじゃなかった。


もっと。


単純だった。


一人が。


嫌だった。


誰かと。


一緒にいたかった。


それだけ。


「……」


俺は。


小さく。


呟く。


「最初の願いは」


「世界じゃなかった」


「ああ」


「命でもない」


「ああ」


「未来でもない」


「ああ」


「……一緒にいたい」


「そうだ」


男が。


頷く。


「それが」


「最初の選択だった」


――。


その時。


世界樹の葉が。


一斉に。


揺れた。


ざわ。


ざわざわ。


葉の一枚一枚に。


違う光景が。


浮かび上がる。


ルナ。


ユウト。


ソウ。


イオ。


そして。


五人目。


「……!」


俺は。


息を呑む。


五人目だけ。


映像が。


途中で。


途切れている。


まるで。


そこから先が。


最初から。


切り取られていたように。


「……五人目」


俺が。


呟く。


男は。


答える。


「そう」


「彼も」


「最初の願いを」


「持っていた」


「……」


「一緒にいたい」


「自分で選びたい」


「誰かに決められたくない」


「それは」


「他の者たちと」


「同じだった」


「だったら」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「どうして」


「五人目だけ」


「外へ出された?」


男は。


目を伏せた。


「……」


「答えろ」


「それは」


「私ではない」


「……!」


「最初の選択は」


「私一人が」


「決めたものではない」


「じゃあ」


「誰が?」


男は。


しばらく。


黙っていた。


そして。


世界樹を。


見上げる。


「世界だ」


「……」


「世界そのものが」


「最初に」


「一つを」


「選んだ」


俺は。


眉を寄せる。


「世界が?」


「ああ」


「でも」


「世界は」


「まだ」


「始まったばかりだったんだろ?」


「だからだ」


「……」


「始まったばかりの世界は」


「不安定だった」


「多すぎる可能性を」


「抱えられなかった」


「……」


「だから」


「世界は」


「中心を」


「一つ」


「選んだ」


俺の胸が。


ざわつく。


「中心?」


男は。


俺を見る。


「お前だ」


「……」


「レオン」


「最初の世界は」


「お前を」


「中心にした」


「……」


俺は。


何も。


言えなかった。


俺が。


世界の中心。


それは。


何度も。


聞いてきた話だった。


でも。


今まで。


その意味を。


ちゃんと。


考えたことがなかった。


「……だから」


俺は。


言う。


「五人目が」


「外へ?」


男は。


頷く。


「中心に」


「選ばれなかった存在は」


「世界の外へ」


「押し出された」


「……」


「それが」


「五人目だ」


俺は。


拳を握る。


「……違う」


男が。


俺を見る。


「何が?」


「それは」


「選択じゃない」


「……」


「それは」


「排除だ」


静寂。


誰も。


口を挟まない。


俺は。


続ける。


「五人目は」


「選ばれなかったんじゃない」


「選ぶ場所そのものから」


「外へ出された」


「……」


「だから」


「五人目は」


「言ったんだ」


――選ばれなかったんじゃない。


――選ばせてもらえなかった。


男は。


目を閉じる。


「その通りだ」


「……」


「だから」


「彼の怒りは」


「間違いではない」


俺は。


息を呑んだ。


「……」


「五人目は」


「世界を憎んでいるわけじゃない」


「……」


「選ぶ権利を」


「奪われたことを」


「憎んでいる」


「……」


その言葉を。


聞いた瞬間。


俺は。


五人目の姿を。


思い出した。


あの時。


あいつは。


俺たちを。


責めていた。


「私を忘れた」


「お前たちは私を選ばなかった」


そう。


言っていた。


でも。


本当は。


もっと深い。


「選ばれたかった」のではない。


「自分で選びたかった」。


それだけ。


「……」


俺は。


顔を上げる。


「五人目は」


「今」


「どこにいる?」


男は。


答えない。


その代わり。


空を指差す。


「……?」


空に。


小さな。


黒い点が。


浮かぶ。


それが。


ゆっくり。


大きくなる。


「……!」


黒い裂け目。


世界と。


世界の間。


時間と。


時間の間。


その向こうに。


誰かが。


立っている。


「……」


黒い髪。


黒い瞳。


白い服。


見覚えのある姿。


「五人目……」


俺が。


呼ぶ。


黒い影は。


こちらを見る。


でも。


以前とは。


違う。


怒っていない。


ただ。


悲しそうに。


こちらを。


見ている。


「……」


そして。


口を開く。


『レオン』


「……ああ」


『私は』


『まだ』


『名前を』


『決めていない』


「……」


『でも』


『一つだけ』


『決めた』


「何を?」


五人目は。


自分の胸に。


手を当てる。


『私は』


『もう』


『誰かに』


『選ばせない』


「……」


『私自身が』


『私を』


『選ぶ』


俺は。


小さく。


笑った。


「ああ」


『……』


「それでいい」


五人目の目に。


小さな光が。


灯る。


でも。


その瞬間。


別の声が。


響いた。


『それは』


『許可されていない』


「……!」


空間が。


凍る。


黒い裂け目の向こう。


さらに。


巨大な。


白い目が。


開いた。


「……!」


見覚えがある。


最初の選択者。


それとも。


もっと。


古いもの。


白い目は。


五人目を。


見つめている。


『選ばれなかった存在は』


『選び直してはならない』


俺は。


前へ出る。


「誰が決めた?」


『……』


「誰が」


「そんなルールを」


「決めたんだ?」


白い目は。


俺を見る。


『最初の世界だ』


「……」


「じゃあ」


俺は。


言う。


「最初の世界より」


「今の世界が」


「新しいルールを」


「選んだら?」


沈黙。


白い目が。


細くなる。


「俺たちは」


「もう」


「昔の世界じゃない」


「……」


「第十七原則」


「変化する自由」


「世界だって」


「変わっていい」


白い目が。


揺れる。


「第十九原則」


「時間を選ぶ自由」


「第二十原則」


「同じ時間を共有する自由」


俺は。


一つずつ。


言葉にする。


「そして」


「第一原則」


「自己選択」


「……」


「五人目が」


「自分を選ぶことを」


「誰にも」


「止めさせない」


その瞬間。


世界樹が。


光った。


――ドンッ!


枝が。


大きく。


広がる。


葉が。


一斉に。


空へ舞う。


五人目の周囲にも。


光が。


生まれる。


『……』


白い目が。


初めて。


揺らいだ。


『……理解できない』


「何が?」


『世界は』


『一つであるべきだ』


「違う」


俺は。


答える。


「世界は」


「一つじゃなくていい」


「……」


「未来も」


「時間も」


「存在も」


「一つじゃなくていい」


「それぞれが」


「自分で」


「選べばいい」


白い目が。


ゆっくり。


閉じていく。


『……』


最後に。


声が。


聞こえた。


『ならば』


『次は』


『世界そのものに』


『選ばせる』


「……?」


『お前たちが』


『本当に』


『一つの世界を』


『選ばないというなら』


『世界自身に』


『問おう』


黒い裂け目が。


閉じる。


五人目の姿も。


消える。


「待て!」


俺は。


叫ぶ。


でも。


もう。


何もない。


「……」


アリアが。


隣に来る。


「レオン」


「……」


「大丈夫?」


「ああ」


俺は。


頷く。


でも。


胸の奥には。


新しい不安が。


生まれていた。


世界自身に。


選ばせる。


それは。


どういう意味なのか。


「……」


その時。


世界樹の根元。


地面に。


一つの。


新しい芽が。


生まれた。


エレナが。


近づく。


「これは……」


芽には。


数字が。


ない。


名前も。


ない。


ただ。


一つの文字だけが。


刻まれていた。


選択。


「……」


俺は。


その文字を。


見つめる。


すると。


芽の中から。


小さな声が。


した。


『私は』


『何を』


『選べばいい?』


俺たちは。


顔を見合わせる。


ミライが。


静かに。


言った。


「……世界自身が」


「迷ってる」


「……」


アリアが。


俺を見る。


「どうする?」


俺は。


すぐには。


答えなかった。


今までなら。


俺が。


決めていた。


でも。


今は。


違う。


「……みんな」


俺は。


言う。


「一緒に」


「考えよう」


誰も。


反対しなかった。


世界樹の芽は。


小さく。


揺れている。


まだ。


何も。


決まっていない。


それでいい。


決めることを。


急がなくてもいい。


そして。


俺は。


ようやく。


気づいた。


最初の世界が。


間違っていたから。


今の世界が。


正しいわけじゃない。


大切なのは。


正解を。


一つに。


固定することじゃない。


間違えたら。


選び直す。


迷ったら。


待つ。


誰かが。


苦しんでいたら。


一緒に。


考える。


それが。


俺たちが。


ここまで。


歩いてきた。


意味なのだ。


――。


その夜。


俺は。


一人で。


世界樹の下にいた。


空には。


星。


そして。


その中に。


一つだけ。


赤い星。


五人目が。


いるのだろうか。


「……」


俺は。


小さく。


呟く。


「お前も」


「いつか」


「一緒に」


「食べような」


返事は。


ない。


でも。


赤い星が。


一度だけ。


瞬いた。


「……」


俺は。


笑った。


その時。


背後から。


声。


「兄ちゃん」


振り返る。


ソウだった。


「どうした?」


「……」


ソウは。


しばらく。


空を見る。


そして。


言った。


「僕」


「少し」


「思い出した」


「……何を?」


ソウは。


胸を押さえる。


「僕が」


「生まれる前に」


「誰かが」


「言ってた」


「何て?」


ソウは。


目を閉じる。


そして。


小さく。


呟いた。


「――五人目を」


「忘れないで」


「……!」


俺の背筋に。


冷たいものが。


走る。


「誰が」


「そんなことを?」


ソウは。


首を振る。


「分からない」


「でも」


「その人は」


「兄ちゃんを」


「知ってた」


「……」


「そして」


ソウが。


ゆっくり。


目を開ける。


「兄ちゃんが」


「最初の世界を」


「始める前から」


「ずっと」


「見てた」


「……誰だ?」


ソウは。


答えない。


ただ。


空を指差す。


赤い星とは。


違う。


その隣。


何もないはずの場所に。


小さな。


黒い星が。


一つ。


浮かんでいた。


そして。


その黒い星から。


声がした。


『――次は』


『私が』


『最初の選択を』


『見せる』


「……!」


黒い星が。


開く。


まるで。


巨大な。


目のように。


俺は。


息を呑んだ。


その目の中に。


映ったのは――


俺だった。


まだ。


名前すら。


持っていない。


「……」


零日目。


本当の始まり。


そこに。


まだ。


一つ。


隠された選択が。


残っていた。

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