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追放された無能魔術師、実は世界で唯一「魔法を創れる」男でした  作者: ななほし


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100/132

第100話 もう一人のユウト

『やっと』


『見つけた』


『僕の』


『六日目を』


白い扉の向こう。


そこに立っていた少年を。


俺は。


じっと見つめていた。


「……」


黒い髪。


俺と同じくらいの背丈。


そして。


俺が何度も見てきた。


その顔。


「……ユウト」


俺の隣にいるユウトが。


低い声で呟いた。


「……俺?」


「違う」


すぐに。


俺は答えた。


「……」


ユウトが。


俺を見る。


「じゃあ」


「誰だよ」


俺は。


答えられなかった。


目の前の少年も。


俺たちを見ている。


そして。


少しだけ。


困ったように笑った。


「……やっぱり」


「兄ちゃんは」


「僕を知らないんだね」


「……」


その言葉。


胸に刺さる。


知らない。


確かに。


俺は。


この少年を。


知らない。


でも。


どこかで。


知っている気もする。


初めて会ったはずなのに。


懐かしい。


ずっと昔から。


知っていたような。


そんな感覚。


「君は」


「誰なんだ?」


少年は。


少し考えた。


「僕は」


「……」


「まだ」


「名前がない」


「……」


「六日目も」


「まだ」


「終わってないから」


俺は。


眉を寄せる。


「どういう意味だ?」


少年は。


白い扉の向こうを。


振り返る。


そこには。


何もない。


ただ。


真っ白な世界。


「ここは」


「六日目が」


「始まる前の場所」


「……」


「五日目から」


「六日目になる間に」


「生まれた」


「……」


俺は。


黙る。


「つまり」


「お前は」


「六日目そのもの?」


少年は。


首を振る。


「違う」


「じゃあ」


「六日目に」


「生まれるはずだった未来?」


「……」


今度は。


頷いた。


「たぶん」


「たぶん?」


「僕自身も」


「よく分からない」


「……」


少年は。


胸に手を当てる。


「でも」


「一つだけ」


「分かる」


「何?」


「僕は」


「兄ちゃんに」


「会うために」


「ここにいた」


「……」


俺の胸が。


締めつけられる。


「どうして」


「俺に?」


少年は。


笑った。


「僕も」


「ユウトだから」


「……!」


隣のユウトが。


一歩。


前へ出た。


「おい」


「……」


「俺と同じ名前を」


「勝手に名乗るな」


少年は。


驚いた顔をした。


「……」


ユウトは。


拳を握っている。


怒っている。


当然だ。


自分と同じ姿。


自分と同じ声。


自分と同じ名前を。


目の前の存在が。


持とうとしている。


でも。


少年は。


何も言い返さない。


ただ。


ユウトを見る。


そして。


静かに言った。


「……ごめん」


「……」


「でも」


「僕は」


「君になりたいわけじゃない」


ユウトが。


顔を上げる。


「……何?」


「僕は」


「僕だから」


「……」


「だから」


「まだ」


「名前を決めてない」


その言葉に。


ユウトの表情が。


少し変わった。


「……」


少年は。


続ける。


「僕は」


「君が生きてることを」


「知ってる」


「兄ちゃんが」


「君を守ったことも」


「知ってる」


「だから」


「君の代わりに」


「なりたいわけじゃない」


「……」


「ただ」


少年は。


俺を見る。


「僕も」


「兄ちゃんの弟だった」


「……」


その瞬間。


胸の奥が。


痛んだ。


――弟。


その言葉。


俺は。


何度も。


聞いてきた。


本物のユウト。


最初のユウト。


世界が始まる前のユウト。


選ばれなかったユウト。


俺が救えなかったユウト。


俺が救ったユウト。


いくつもの。


「ユウト」。


でも。


今。


目の前にいる少年は。


そのどれとも。


違う。


「……」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「君は」


「俺のことを」


「兄ちゃんと呼ぶ」


「うん」


「でも」


「俺は」


「君を知らない」


「……」


「それでも」


「俺の弟なのか?」


少年は。


少し考えた。


そして。


首を横に振った。


「……分からない」


「……」


「だから」


「決めてほしくない」


俺は。


目を見開く。


「……」


少年が。


笑う。


「僕自身が」


「決めたい」


その言葉を。


聞いた瞬間。


俺の中で。


何かが。


繋がった。


そうだ。


それでいい。


「分かった」


俺は。


頷く。


「じゃあ」


「君は」


「君自身で」


「決めればいい」


「……」


「俺が」


「君を」


「ユウトにすることも」


「別の誰かにすることも」


「しない」


「……」


少年は。


少しだけ。


目を潤ませた。


「ありがとう」


「……」


「兄ちゃん」


「……」


その呼び方を。


否定する気には。


なれなかった。


だから。


俺は。


笑った。


「……今は」


「それでいい」


少年も。


笑った。


――。


その時だった。


世界樹が。


大きく。


揺れた。


「……!」


空が。


暗くなる。


星が。


一つずつ。


消えていく。


アリアたちが。


外へ出てくる。


「レオン!」


「どうしたの?」


「空が……!」


俺は。


空を見る。


星が。


消えている。


でも。


夜が。


暗くなっているわけじゃない。


逆だ。


白い。


巨大な光が。


空を覆っている。


「……」


その中心。


そこに。


時計がある。


巨大な。


時計。


針は。


六日目を。


指している。


そして。


その針が。


突然。


逆回転を始めた。


――カチ。


――カチ。


――カチ。


「……!」


名前のない少女が。


震える。


「時間が」


「戻ってる」


「……!」


俺は。


空を睨む。


「またか」


すると。


白い扉の少年が。


小さく。


呟いた。


「違う」


「……?」


「戻ってるんじゃない」


「……」


「迎えに来てる」


「誰を?」


少年は。


時計を見る。


そして。


初めて。


怯えた顔をした。


「僕を」


「……!」


時計の針が。


止まる。


次の瞬間。


空に。


一本の黒い線が。


走った。


その線が。


ゆっくり。


人の形になる。


黒い髪。


白い服。


古い時計。


折れた針。


そして。


あの男。


第97話で現れた。


「失われた時間」。


「……」


男は。


空中に立っていた。


「久しぶりだな」


俺を見る。


「……」


「いや」


男は。


首を振る。


「お前にとっては」


「初めてか」


「どういう意味だ?」


男は。


笑った。


「時間は」


「一度しか」


「流れないと思っているか?」


「……」


「違う」


「時間は」


「何度でも」


「同じ場所を」


「通る」


俺は。


黙る。


「だから」


男は。


白い扉の少年を見る。


「こいつは」


「何度も」


「生まれかけた」


「……!」


少年が。


震える。


「……嘘」


「嘘じゃない」


男は。


淡々と。


言う。


「六日目は」


「何度も」


「作られた」


「でも」


「そのたびに」


「捨てられた」


「……」


俺は。


拳を握る。


「誰が?」


男は。


俺を見る。


「お前だ」


「……!」


「違う」


俺は。


すぐに。


否定した。


「俺は」


「この世界を」


「捨ててない」


「今の」


「お前はな」


男は。


言う。


「だが」


「最初のお前は」


「違った」


「……」


「世界を」


「一つにするため」


「必要のない日を」


「捨てた」


「……」


俺は。


息を呑む。


「必要のない日?」


男は。


頷く。


「一日目」


「二日目」


「三日目」


「四日目」


「五日目」


「その前にも」


「無数の」


「存在しなかった日がある」


「……」


「お前は」


「世界を」


「完成させるために」


「余分な時間を」


「捨てた」


「……」


俺は。


言葉を失った。


そんな記憶は。


ない。


でも。


胸の奥。


どこか。


深い場所で。


何かが。


震えている。


「……俺が」


「捨てた?」


「そうだ」


男が。


手を上げる。


すると。


空に。


無数の。


映像が。


浮かんだ。


世界。


世界。


世界。


何度も。


何度も。


繰り返される。


俺が。


何かを選ぶ。


何かを捨てる。


誰かが。


消える。


世界が。


壊れる。


また。


始まる。


「……」


「これ」


アリアが。


呟く。


「レオンの」


「過去……?」


「違う」


男が。


言った。


「過去ですらない」


「……」


「選ばれなかった時間だ」


「……」


俺は。


映像を見る。


その中に。


一人の。


小さな少年が。


いた。


白い服。


黒い髪。


まだ。


名前を持っていない。


その少年が。


何度も。


俺を見る。


何度も。


手を伸ばす。


そして。


毎回。


届かない。


「……」


少年が。


泣いている。


俺は。


拳を握る。


「……やめろ」


「なぜ?」


「もう」


「見せるな」


「……」


「俺は」


「もう」


「誰かを」


「捨てる選択を」


「しない」


男は。


黙った。


そして。


静かに。


言った。


「なら」


「証明しろ」


「……何を?」


「こいつを」


「選べ」


男が。


少年を。


指差す。


「こいつは」


「存在するために」


「誰かの時間を」


「奪わなければならない」


「……」


「六日目を」


「成立させるには」


「五日目を」


「消す必要がある」


「……!」


アリアが。


叫ぶ。


「そんな……!」


男は。


続ける。


「五日目か」


「六日目か」


「どちらか一つだ」


「……」


「両方は」


「存在できない」


「……」


世界が。


静まり返る。


俺は。


少年を見る。


少年も。


俺を見ている。


「……」


その目には。


恐怖がある。


でも。


それ以上に。


諦めがあった。


「……分かった」


少年が。


言う。


「僕」


「戻る」


「……!」


「五日目に」


「戻れば」


「みんな」


「困らない」


「……」


「僕は」


「まだ」


「生まれてないことに」


「すればいい」


「……」


少年は。


笑った。


「それなら」


「兄ちゃんたちが」


「困らない」


「……」


俺の胸が。


締めつけられる。


また。


同じだ。


また。


誰かが。


自分を。


消そうとしている。


「……ふざけるな」


俺は。


立ち上がった。


「え……?」


少年が。


俺を見る。


「またかよ」


俺は。


拳を握る。


「また」


「お前が」


「消えれば」


「みんな助かるのか?」


「……」


「そんな未来」


「俺は」


「もう」


「選ばない」


男が。


笑う。


「では」


「どうする?」


「五日目も」


「六日目も」


「残すというのか?」


「ああ」


「不可能だ」


「……」


「時間には」


「限界がある」


俺は。


空を見上げる。


世界樹。


みんな。


五日目。


六日目。


そして。


まだ。


存在していない。


未来。


「……」


俺は。


ゆっくり。


手を伸ばす。


胸の中の光が。


一つ。


二つ。


三つ。


次々と。


輝いていく。


リオ。


ミナ。


ミライ。


ハル。


カナ。


ソア。


ユラ。


ノア。


ユウト。


そして。


名前のない存在。


全部。


一つずつ。


違う光。


「俺は」


言う。


「時間を」


「一つに」


「しない」


男が。


目を細める。


「……」


「五日目も」


「六日目も」


「その先も」


「全部」


「それぞれ」


「存在していい」


「それでは」


「時間が」


「無限になる」


「……」


「だったら」


「無限でいい」


男が。


初めて。


黙った。


俺は。


続ける。


「世界が」


「一つじゃなきゃ」


「いけない理由なんて」


「ない」


「時間も」


「一つじゃない」


「昨日と今日が」


「両方」


「俺たちの時間だ」


「……」


その瞬間。


世界樹が。


強く。


光った。


――ドンッ!


根が。


大地を走る。


枝が。


空へ伸びる。


無数の芽が。


一斉に。


開いていく。


六日目。


七日目。


八日目。


その先。


まだ。


名前すらない日々。


全部が。


光になって。


空へ。


広がっていく。


男が。


目を見開く。


「……」


「そんなことが」


「……」


俺は。


言った。


「できる」


「俺たちなら」


その瞬間。


名前のない少年の胸に。


光が灯った。


少年は。


自分の胸を見る。


「……」


そして。


初めて。


自分から。


笑った。


「……僕」


「ここにいても」


「いいんだ」


「ああ」


「……」


少年は。


空を見る。


そして。


小さな声で。


言った。


「じゃあ」


「僕も」


「選びたい」


「何を?」


少年は。


少しだけ。


考える。


「……名前」


「……!」


「僕」


「名前を」


「自分で」


「選びたい」


俺は。


笑った。


「うん」


「好きな名前を」


「選べばいい」


少年は。


空を見上げる。


しばらく。


考えて。


そして。


一つの言葉を。


口にした。


「……ソウ」


「ソウ?」


「うん」


「どうして?」


少年は。


笑った。


「空を」


「見てたら」


「思いついた」


「……」


空。


ソウ。


まだ。


完全には。


決まっていない。


でも。


少年自身が。


選んだ。


だから。


俺は。


その名前を。


受け入れる。


「よろしくな」


「ソウ」


少年は。


笑った。


「うん」


「よろしく」


その瞬間。


世界樹の葉に。


新しい文字が。


刻まれた。


第十九原則――時間を選ぶ自由


その下に。


もう一つ。


新しい文字が。


現れる。


第二十原則――同じ時間を共有する自由


昨日も。


今日も。


明日も。


一つに。


しなくていい。


違う時間を。


同時に。


大切にしていい。


「……」


男は。


その文字を。


見上げていた。


そして。


ゆっくり。


笑った。


「……なるほど」


「何が?」


「お前は」


「時間そのものを」


「変え始めた」


「……」


「なら」


男は。


古い時計を。


胸元から。


取り出す。


「次は」


「もっと」


「古い時間を」


「見せてやる」


「……」


「お前が」


「世界を始める前」


「まだ」


「一日すら」


「存在しなかった頃の」


「本当の時間を」


時計の針が。


動く。


――カチ。


――カチ。


――カチ。


そして。


最後に。


男は。


俺を見て。


言った。


「そこには」


「お前が」


「まだ」


「レオンですらなかった頃の」


「お前がいる」


「……!」


時計の針が。


止まる。


空が。


また。


白くなる。


ソウが。


俺の手を。


握る。


「兄ちゃん」


「……」


「行く?」


俺は。


頷いた。


「ああ」


でも。


胸の奥では。


別の声が。


聞こえていた。


――本当に。


――そこへ行っていいのか。


――まだ名前を持たなかった頃の俺。


――まだ世界を作っていなかった頃の俺。


――そして。


まだ。


何も失っていなかった頃の俺。


そこには。


きっと。


俺自身も。


知らない。


「最初の時間」が。


眠っている。


俺たちは。


その場所へ。


向かうことになる。


そして。


その瞬間。


世界樹の根元。


誰にも見えない場所で。


一つの小さな時計が。


逆さまに。


動き始めた。


――カチ。


――カチ。


――カチ。


時計の文字盤に。


一つだけ。


文字が浮かぶ。


零日目。


そして。


その下に。


こう書かれていた。


まだ、誰も生まれていない。

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