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硝子玉の宇宙、箱庭の娘たち【新版】  作者: 硝子玉の宇宙
硝子の箱庭、おでかけ日和

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第24話-もっとかわいくする作戦!

挿絵(By みてみん)

惑星監理局の廊下で、レトとロジーがはしゃいでいた。


明日、三人で出かけるからである。


行き先は、商業惑星の小さな雑貨街。


レトが前から行きたがっていた硝子細工の店。

ロジーが記録したがっていた映えるカフェ。

そしてエルが、店先に吊られた星型の飾りを見て、


「これ、近くで見たい」


と言った場所。


三人から外出申請が出され、外務班の職員が同行することになった。

移動経路も決まり、魔法行使の制限も確認された。


ただし、それは明日の話である。



エルは自分の部屋で一人、鏡の前に立っていた。


白髪の毛先は、いつものように淡いピンクに染まっている。

小柄な身体。

淡々とした顔。

ふわふわした空気。


いつものエル。


けれど、今日は少し違った。


エルは、机の上に並べたものをじっと見ていた。


リボン。

髪留め。

小さな星形のピン。

月や花、丸い形のいろんなブローチ。

淡い色の靴下。

ふわふわした上着。

職員さんにもらった小さな花飾り。

ロジーが以前くれたかわいいシール。

レトが作った、硝子細工の飾り。


エルはそれらを見て、ぽつりと言った。


「おでかけは、かわいくする日」


レトはいつも、淡緑の長い髪を左側のワンサイドテールにまとめている。

青いキューブの髪飾りが揺れると、レト自身が嬉しそうにする。


ロジーはいつも、ピンクのツインおさげをふわふわ揺らしながら、厚い服やマフラーや小物を楽しそうに選んでいる。

頭上のデバイスにも、気分に合わせてホログラム表示を出す。


二人は、お洒落をしている。


たぶん、楽しいから。

たぶん、かわいいから。

たぶん、一緒に出かけるのが嬉しいから。


エルは、少しだけ鏡を見上げた。


「あたしも、する」


そして、試した。


まず髪を結ぼうとした。


レトの真似をして、片側でまとめようと考えた。


けれどエルの髪は長さが足りなかった。


結ぶと、髪がぴょこっと立つ。


エルはしばらく考えたあと、そこへリボンを結んだ。


結べた。


ただし、リボンの方がまとめた髪より大きかった。


鏡の中のエルは、頭の片側に大きなリボンの塊を乗せたようになった。


エルは首を傾げる。


「レトっぽい?」


やっぱり、ロジーの真似もしたい。


エルはもう片方の髪も結びはじめた。


結果、片側に大きなリボン、反対側に小さな毛束がぴょこんと立った。


エルは鏡を見た。


「ロジーっぽい」


二人分になった。


エルは満足した。


次に、髪飾りをつけた。


星形のピンを一つ。

花飾りを一つ。

硝子飾りを一つ。

ロジーがくれたシールを、なぜか髪留めに貼ったものを一つ。


まだ置いてある。


かわいいものが、まだある。


エルは考えた。


かわいいものをつけると、かわいくなる。


つまり、たくさんつけると、もっとかわいくなる。


エルは全部つけた。


髪の上で、星と花と硝子とリボンとシールがぶつかりあって、エルが動く度にカチャカチャと音が鳴る。


次に服。


いつもの服に、ふわふわした上着を羽織った。

そこに丸いブローチをつけた。

さらに別のブローチもつけた。

花飾りの余りもつけた。


それから靴下を履いた。


片方は淡い青。

片方は淡いピンク。


エルは足元を見た。


「レトとロジー」


一緒にいる感じがして、すこし嬉しくなった。


最後に、鞄を持った。


鞄には、念のための小物を入れる。


小さな鈴。

折りたたみ式の星型飾り。

透明な鳥。

なぜか小さいスプーン。

ため息を吸うクッションの試作品。

あと、かわいい石。


鞄がものすごく重くなった。


エルは鏡の前に立つ。


沈黙。


かわいい要素が多い。でも、多すぎた。


エルは鏡の中の自分を眺めた。


そして、小さく頷いた。


「できた」


その時、部屋の扉が叩かれた。


「エルー! 明日の持ち物確認しにきたよ!」


レトの声だった。


続いて、ロジーの声。


「おでかけ前日チェック! 記録と準備と浮かれ具合の確認に来た!」


エルは扉を開けた。


レトとロジーは、そこで固まった。


レトは両手に持っていた小さな確認リストを落としかけた。


ロジーは頭上デバイスの記録ランプを点滅させたまま、口を半開きにした。


エルは二人を見上げる。


「あたし、かわいくした」


レトの目が、まん丸になった。


ロジーのデバイスに、勝手に文字が出た。


記録対象:エルのおめかし初挑戦。

分類:非常に重要。

状態:情報過多。


ロジーは小さく息を吸った。


「エル」


「うん」


「すごい」


「かわいい?」


ロジーは止まった。


レトも止まった。


二人は、エルを見た。


リボンが大きい。

髪の片側がぴょこんとしている。

花が多い。

ブローチも多い。

鞄が重そう。

靴下は左右で別。


でも、エルが自分でやった。


いつもお洒落する二人を見ていた。


そして、自分もやってみたくなって初めて試した。


レトとロジーには、それがあまりにも愛しく思えた。


レトはぱっと顔を輝かせた。


「かわいい!」


エルは瞬きした。


「ほんと?」


「うん! エルが、自分でおめかししてる!」


ロジーも大きく頷いた。


「かわいい! すごくかわいい! ただし!」


レトがロジーを見た。


「ただし?」


ロジーは真剣な顔で言った。


「改善の余地がある!」


エルは首を傾げた。


「改善」


「そう! これはね、素材が全部かわいい! 方向性もかわいい! でも、全部のかわいいが同時に自己主張してる!」


レトは大きく頷いた。


「みんなが一斉にお話してる感じ!」


エルは自分の髪飾りに触れた。


「うるさい?」


「うるさくはないよ!」


レトは慌てて手を振った。


「でもね、エルが真ん中だから、飾りたちはエルをもっと見せるためにいた方がいいと思う!」


ロジーが指を立てる。


「そう! 今日の議題はこれです!」


デバイスがぱっと光った。


作戦名:エルもっとかわいくする作戦。


レトが即座に硝子の短い指示棒を作った。


「作戦開始!」


「記録開始!」


エルは二人を見た。


「作戦にされた」


ロジーは胸を張った。


「ここ最近で最高の記録になる予感がする!」


レトも胸を張った。


「エルをもっとかわいくする、大事な任務です!」


エルは少し考えた。


それから、こくんと頷いた。


「じゃあ、お願い」


レトの表情が一気に緩んだ。


「まかせて!」


ロジーの目が輝いた。


「まず第一工程! 現状記録!」


「撮る?」


エルが聞くと、ロジーはすぐに止まった。


「撮っていい?」


「いいよ」


「公開範囲は?」


「レトとロジーと、あたし」


「完璧!」


ロジーはすぐに数枚撮影した。


全身。

胸から上。

エルがカメラを意識して、両手でピースした瞬間。

鞄の重さで重心がもっていかれる様子。


レトが覗き込む。


「エル、ちょっと斜めになってる」


「鞄が重い」


「何入ってるの?」


エルは鞄を開けた。


鈴。

星型飾り。

透明な鳥。

スプーン。

クッション。

石。


レトは小さく口を開けた。


「おでかけに、いる?」


エルは真剣に言った。


「わからない。だから持った」


ロジーは親指を立てた。


「気持ちは分かる! でも鞄の中身もお洒落の一部! 持つものが多すぎると、歩くエルがたいへん!」


レトは石を手に取った。


「これは?」


「かわいい石」


「それは分かる」


「分かるんだ」


ロジーが笑った。


レトは石をそっと置いた。


「でも、明日はいっぱい歩くから、かわいい石はお留守番がいいかも」


エルは石を見た。


「お留守番」


「うん。帰ってきたら、ただいまって言う」


エルは少しだけ納得した顔になった。


「じゃあ、石は待つ」


ロジーが記録する。


鞄軽量化:成功。

かわいい石:自室待機。


次は髪だった。


ロジーはエルの髪をじっと見た。


「まず、この大きいリボン!」


「レトっぽい」


レトは胸を押さえた。


「わたしっぽいの!?」


エルは頷いた。


「レト、横で結んでるから」


レトは感動した。


「エル、かわいくなるためにわたしを参考にしたの……!」


「レト、いつもかわいいから」


その一言で、レトは少し照れた。


ロジーが黙っている。


録画しているときの沈黙だということが、二人にははっきり分かった。


「ロジー、照れてるとこ撮らないで!」


「えー、かわいいのに」


「だめ!」


「はいはい、非公開! 記憶に永久保存する!」


ロジーは笑いながら、エルのリボンをほどいた。


「エルは髪が短いから、レトみたいに大きく結ぶより、小さいリボンを横につける方が似合うかも」


レトが手伝う。


「ここ? このへん?」


「そうそう。毛先がピンクだから、近くに小さい飾りを置くとかわいい」


エルはじっと鏡を見ていた。


ロジーが小さな淡いリボンを選び、片側に留める。

レトが、硝子飾りを一つだけ添える。


青白く光る、小さな星の欠片のような飾り。


エルの白髪と淡いピンクの毛先に、すっと馴染んだ。


レトは息を呑んだ。


「かわいい……!」


ロジーも頷いた。


「これはいい! ちゃんとエルっぽい! ふわふわで、でもちょっと星!」


エルは鏡を見た。


さっきより、頭が静かだった。


「減ったのに、かわいい」


ロジーはびしっと指を立てた。


「そう! かわいいは足し算だけじゃない!」


エルは真剣に聞いていた。


「引き算?」


「そう! 引き算のかわいい!」


レトも真剣に頷いた。


「エルがちゃんと見えるかわいい!」


エルは自分の髪飾りに触れた。


「あたしが見える」


「うん!」


レトは笑った。


「飾りもかわいいけど、エルはもっとかわいいから!」


エルは瞬きした。


「あたし、かわいい?」


「うん!」


レトは当然のように言った。


「エルがかわいいの!」


エルは少しだけ黙った。


ロジーが、珍しく茶化さずに見ていた。


エルは鏡の中の自分を見て、ぽつりと言った。


「そっか」


次は服だった。


ロジーはブローチを三つ外した。


エルが少し不安そうに見る。


「それも、だめ?」


「だめじゃないよ。全部かわいい。でも一緒につけると、どれを見ればいいか迷っちゃう!」


レトはブローチを並べた。


丸いもの。

花のもの。

小さな月。


「明日は星飾り見にいくでしょ!? だから、月の感じがいいんじゃないかな」


「理由があるといいね!」


ロジーは月のブローチを選んだ。


「髪飾りが星っぽいから、胸元は月!」


レトが両手を合わせる。


「星と月のエル!」


エルは月のブローチを見た。


「夜?」


「夜も似合うし、エルのふわふわした感じにも合う!」


ロジーは慣れた手つきで位置を調整した。


「ただし、真ん中よりちょっと横。エル、まっすぐより少しずれてる方が似合う」


エルは首を傾げた。


「あたし、ずれてる?」


レトが慌てた。


「変って意味じゃないよ!」


ロジーが笑う。


「エルは左右対称ぴしっと! より、ちょっと自由な方がエルっぽいってこと!」


エルは納得した。


「自由」


「そう、自由!」


次に、エルは左右で色が違う靴下を見せた。


「これは、レトとロジー」


レトとロジーは止まった。


「右がわたし?」


「うん。青」


「左が私?」


「うん。ピンク」


ロジーは胸を押さえた。


「これはぜったい外したくない……!」


レトも小さく震えていた。


「エル、そんなこと考えてくれてたの……?」


エルは淡々と頷く。


「明日、三人で行くから」


ロジーは少し考えた。


「じゃあ、靴下はそのまま!」


レトも頷いた。


「そのまま!」


「ただし!」


ロジーは靴を持ってきた。


「靴は同じ色でまとめる! 靴下が左右違う分、靴で落ち着かせる!」


レトは感心した。


「ロジー、すごい!」


「お洒落記録は大量にあるからね!」


エルは足元を見る。


左右違う靴下。

同じ靴。

少し落ち着いた。


「まとまった」


「まとまりました!」


ロジーは満足げに頷く。


「最後、全体確認!」


エルは鏡の前に立った。


髪には、小さな淡いリボンと硝子の星飾り。

服には月のブローチが一つ。

ふわふわした上着はそのまま。

鞄は軽くなり、中には本当に必要なものだけ。

靴下は左右でレトとロジーの色。

靴は同じ色で揃えた。


さっきのような、賑わう宇宙ステーションみたいな姿ではない。


でも、エルらしかった。


レトは両手を握りしめた。


「エル、すっごくかわいい!」


ロジーはデバイスをぱっと光らせた。


「完成! エルもっとかわいくする作戦、大成功!」


エルは鏡を見ていた。


少しだけ、長く。


それから、レトとロジーを振り返る。


「これ、あたし?」


レトは頷いた。


「うん。エルだよ」


ロジーも頷いた。


「エルがやりたかったかわいいを、もっとエルっぽくしたやつ!」


エルは自分の胸元の月に触れた。


「そっか」


声はいつも通り淡々としていた。


でも、毛先の淡いピンクが、少しだけ嬉しそうに揺れた気がした。


レトとロジーが、だめと言わずに直してくれた。


エルは、少しだけ二人の方へ寄った。


「明日、これで行く」


レトはエルの手を取った。


「うん! 三人でおでかけ!」


ロジーも反対側から手を取る。


「写真いっぱい撮る!」


「うん」


「カフェも行く!」


「うん」


「雑貨も見る!」


「うん」


「最後は、三人で星飾りを見る! そこでも写真撮る!」


「うん、見る」


エルは鏡の中の三人を見た。


それから、二人の手を少しだけ強く握った。


「明日、たのしみ」

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