被告人質問、裁判官たち
「私から質問します。」
裁判長は静かに、真っ直ぐ被告人を見つめた。
被告人は一瞬だけ、裁判長に視線を向けて、そしてすぐに下を向いた。
「本件では、あなたの行動に関わりなく、ひとりの人間がお亡くなりになっています。そのことについて何かありますか。」
被告人は下を向いたまま黙っていた。
「あなたの同僚である、木暮真奈さんは性被害を訴えています。あなたはそのことについて何か感じることがありますか。」
被告人は下を向いたまま黙っていた。
「高校卒業以来、真面目に働き続けてきたにもかかわらず、法廷で裁かれている自分に対して、何か感じることがありますか。」
被告人は下を向いたまま黙っていた。
裁判長は、しばらく被告人を見つめていた。
「では、次にーー」
「裁判長。」
裁判長は、左に視線を移した。
左陪席裁判官の女性が、真っ直ぐ上に手を挙げていた。
「私からひとつ質問してもよろしいでしょうか。」
「お願いします。」
「被告人。」
左陪席裁判官の女性は、被告人にゆっくりと呼びかける。とても穏やかな、透き通るような声だった。
被告人は顔を上げて、陪席裁判官の顔を見た。
「わたしから、ひとつだけあなたに質問があるの、聞いてくれる?」
被告人は、小さく頷いた。
「本件当日の防犯カメラ映像で、あなた少しも笑ってなかったですね。最初は気にしてなかったんですが、普段のあなたはとてもかわいらしい笑顔でした。本件当日の朝は、なぜ笑えなかったの?」
被告人は長い間、陪席裁判官を見つめていた。
陪席裁判官も黙って見つめていた。
被告人は、ゆっくりと笑みを浮かべた。
陪席裁判官の女性も、ゆっくりと微笑みを返した。
「以上です。」




