第一臨場巡査の証言
休廷後
「証人は入廷してください。」
入ってきたのは、動きがキビキビとした男だった。
「氏名は。」
「鈴木基弘であります。」
「年齢は。」
「齢55であります。」
「職業は。」
「警視庁千住署地域課所属巡査であります。」
「宣誓を。」
鈴木巡査は書類も見ずに宣誓した。
「検察官、はじめてください。」
検察官は立ち上がりもせずに話し始めた。
「第一臨場しましたね。」
「はい。」
「その時の被告人の様子はどうでしたか。」
「呆然と立ち尽くしておりました。」
「その時、変わったことはありましたか。」
「被告人が、任意同行される時に、被告人のバッグから、ピーナッツパンの空袋が落ちました。」
「被告人はそれをどうしましたか。」
「すぐに拾ってバッグに大切そうにしまいました。」
「異議ですな。今のは証人の主観であり、大切かどうかはわからないはずですな。」
「異議を認めます。」
「なぜ大切にしまったと思ったのですか。」
「ただのゴミだと思ったので、本官が『捨てておいてあげる』と声をかけたのですが、頑なに拒否されたからであります。」
検察官は、立ち上がり裁判長を真っ直ぐに見る。
「被告人は明らかにピーナッツパンに固執しており、それに重要な意味を持っていることは明らかです。」
「以上です。」
「弁護人、反対尋問をはじめてください。」
弁護人はゆっくりと立ち上がる。
「鈴木巡査、あなただいぶベテランですな。」
「いえ。」
「地域課が長いのですかな。」
「入庁以来、地域課です。」
「現場臨場も数多く行われたのですかな。」
「まあ、それなりには。」
「初動捜査のミスをしたことはありますかな。」
鈴木巡査は憮然とした表情を浮かべる。
「ありません。」
「これは失礼。なら、そうとうな凄腕ですな。」
「普通です。」
「本件の臨場について、ベテランである鈴木巡査の観察をお聞かせ願いたいのですがなーー」
鈴木巡査の顔が少しだけ綻ぶ。
「ーー通常と何か変わった事はありましたかな。」
「特にありません。」
「些細なことでも結構なんですがな。」
「特にありません。」
「被告人に不利な情報でも構わないんですわ。」
それまで、真っ直ぐ前に向けられていた鈴木巡査の視線が、チラッと弁護人に向けられる。それから、チラッと検察官を見た。
「……唐揚げちゃん。」
「え?」
「コンビニの『唐揚げちゃん』が捨てられてました。」
「『唐揚げちゃん』というと、コンビニエンスストアにこにこマートのオリジナル商品ですな。」
「はい。」
「どこに捨ててあったのですかな。」
「株式会社大吉のゴミ箱です。」
「どんな状態で、ですかな。」
「手をつけずに捨てられていました。」
弁護人は、ゆっくりと自分の頭をかいた。
「まさかな。そうだったのか。」
裁判長が、訝しげに弁護人に声をかけた。
「弁護人?」
「裁判長、至急証人の再尋問を請求したい。木暮証人と……」
弁護人は傍聴席を見渡して、座っている村島を見つけた。
「村島証人をお願いしたい。」
「検察官は何かありますか。」
「特に異論はありません。」
裁判長は陪席裁判官の意見を確認する。
「まず、どちらから尋問しますか。」
「木暮証人をお願いします。」
「分かりました。」
廷吏が木暮を呼びに行く。
「弁護人、鈴木証人にはもうよろしいですか。」
「あ、以上ですな。」
「証人は退廷してください。」
しばらくの間、存在を忘れられていた鈴木巡査だったが、その間も直立不動で立つ姿は、警官というより軍人のようだった。




