中華料理店店主の証言
「次に、弁護側証人尋問を行ないます。」
「ひとつだけよろしいですか。」
弁護人が、裁判長を制した。
「何でしょうか。」
「検察官が、ご意見を述べましたのでな。次の証人尋問の前に、弁護人として何を証明しようとしているのか、ご説明したいのですがね。」
裁判長は、陪席裁判官の意見を確認する。
「簡潔にお願いします。」
「弁護人は、木暮証人の証言でも明らかになったように、アレルギー物質の侵入経路が曖昧である点を証明しようと思いますわ。」
法廷に軽いざわめきが起こる。
「静粛に」
裁判長は、静かに言った。
「では、証人は入廷してください。」
入ってきた男は、丸い顔をしている。
これといって特徴はない。
警戒心のない笑顔を見せていた。
彼の後ろに控える通訳らしき人物が、彼の国籍が日本ではないことを教えていた。
「証人は氏名を教えてください。」
「ああ、名前ね。名前は陳楽ネ。」
「年齢は。」
「34歳ネ。」
「職業は。」
「料理作るお店、ヤッテいる。」
「宣誓してください。」
陳証人は、中国語で宣誓した。
「ニポン語、聞く、話す、出来るネ。読む、書く
まだまだネ。」
陳はニコニコ笑っていた。
「弁護人、はじめてください。」
弁護人はスッと立ち上がり証言台にサッと歩み寄る。
「陳さん、シェイシェイ。」
「何?」
「ありがとうは、あなたの言葉でと、思いましてな。」
「ああ、中国語のつもりネ。それ通じないネ。中国語、リズム大事。謝謝ネ。」
弁護人は、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「陳さんは、足立区にある中華料理店『麻辣酒家』の店主さんですな。」
「そうダヨ。おいしいよ。また食べに来てネ。」
「株式会社大吉からは、徒歩で2分ぐらいですな。」
「そうダヨ。あそこの社員サン、よく来てくれるネ。お得意サンヨ。ありがとう、ありがとうだネ。」
「社長もよく来られますな。」
「社長サン、いちぱんヨク来るネ。いつも、いぱい食べるネ。」
「社長が最後に来店したのはいつですかな?」
「社長サンがシンダ日ネ。」
法廷に不穏な空気が流れはじめる。
陳証人だけが、ずっと笑顔だった。
「本件当日ですな。」
「そうダヨ。そう言テルネ。」
「何時ごろですか。」
「社長サンが、会社に行く前ダカラ、そのくらいネ。」
「どのくらいお店におられましたかな。」
「どのくらい?うーん、分からナイネ。社長サン、来るのいつもダカラ、いちいち覚えるシナイネ。」
「何を食べてましたかな。」
「うーん、それも覚えてナイネ。いぱい食べてたヨ。」
「ピーナッツ食べてましたかな。」
「うーん、覚えてナイネ。社長サン、いつも、麺、ライス、炒め物、食べるネ。」
「あの日もそうですかな。」
「うーん、それ以外社長サン頼まナイネ。」
「あなたのお店は、落花生油使ってますね。」
「落花生油使ってるヨ。安くておいしいネ。」
「あの日も使ってましたかね。」
「いつも使ってるヨ。うちはそれだけダヨ。」
法廷は、驚愕した。
「以上ですな。」
「検察官、反対尋問をはじめてください。」
検察官は、勢いよく立ち上がり質問する。
「あなた、警察の調べで、ピーナッツは食べていないと言っていますよね。」
「ピーナッツ?食べてナイヨ。私、ピーナッツ嫌いネ。」
「あなたではなく、被害者の話です。」
「ああ、社長サンネ。さっき言うタヨ、分からないネ。」
「あなたのお店は、落花生油使ってるんですよね。」
「そうダヨ。落花生油、安くておいしいネ。」
陳証人はずっとニコニコとしていた。




