コンビニ店員の証言
「証人は入廷してください。」
無地のトレーナーとズボンを履いた、東南アジア風の男性が入廷してきた。
誠実さが顔にでた青年だった。
何度も廷吏に確認しながら、証言台に歩み寄った。
「証人は名前を言ってください。」
「名前は、グエン・ヴァン・ドゥン、です。」
「年齢を言ってください。」
「ネンレイは、25サイです。」
「職業を言ってください。」
「ショクギョウ?」
「仕事は何ですか。」
「あ、仕事は、コンビニエンスストア、で仕事してます。」
「宣誓をお願いします。」
「リョウシンに従ってシンジツを述べ、何事も隠さず、また何事もツケクワエナイことをチカイます。」
グエン証人は、ふりがなのつけられた宣誓書を懸命に読み上げた。
「弁護人は、はじめてください。」
「ベンゴニンハ?」
グエンが自分に話しかけられたと思い、きょろきょろとする。
弁護人はスッと立ち上がり、グエンの元に歩み寄る。
「グエンさん。キャム、オン、エン。」
弁護人は優しく、グエンに微笑んだ。
「すごい、ベトナム語、話せる?」
「ありがとうくらい、相手の言葉で言いたいですな。」
グエンは、『よく分かりません』というような顔をした。
「あなたの国はベトナムですな。」
「はい。ベトナムです。」
「日本に来たのは何年前ですか。」
「あー、日本来るしたのは、3年ヨンカゲツ、前です。」
グエンは時おり通訳を振り返りながら、懸命に質問に答えていく。
「もう、日本語はだいぶ話せるようですな。」
「あー、ありがとうございます。」
「店長が被告人に告白するのを見ましたな。」
通訳が、話す言葉を聞きながら、グエンは頷いた。
「あー、はい。見るしました。店長、女の子、好き、言うしました。オトコノヤクソク?私、シー、言われました。」
グエンは、指を口に当てて、秘密だよの合図をする。
「あなたは、直接、それを見たんですな。」
「あー、はい。見るしました。」
「本件の被害者のことも、よくご覧になっていましたわな。」
「あー、はい。見るしてました。」
「常連客だったわけですな。」
「ジョーレンキャク? あー、はい。お得意さんです。店長、いつもお得意さん、言うしてました。」
「被告人との関係はどうでしたかな。」
「あー、はい。彼は、いつもひとり来るしてました。女の子もひとり来るしてました。」
「2人で来たことはありましたかな。」
「あー、はい。ふたりで来る、いちかいありました。店長、好き言うあと、ふたり来る、ありました。」
「なるほど、ありがとうございます。キャム、オン、エン。」
グエンは苦笑いする。
「以上です。」
弁護人は静かに着席した。
「検察官、反対尋問をはじめてください。」
検察官は無言で立ち上がる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「グエンさん。あなたは、被告人と被害者の関係は、無いとおっしゃりたいわけですね。」
「あー、はい。私は、見るした、言っただけです。」
「ほう、つまり分からないわけですね。」
「あー、はい。分からないです。」
「異議ですな。検察官は目撃証言を軽視しており、客観的な目撃証言を語る証人を愚弄しておりますな。」
「異議を認めます。検察官は、客観的事実を語るように。」
「客観的に、分からないことを尋ねただけですけどね。まあ、質問を変えます。証人、あなたが働いていない時間でも、2人は来店するかもしれない。その時のことは分かりませんね。」
通訳の言葉を聞いて、グエンは苦笑いした。
「私、分からない時、分からない。」
「そうですよね。これは、証人ではなく、みなさんにお話しします。関係があることの証明は簡単ですが、ないことの証明は難しいのです。」
検察官はグエンの方に向き直った。
「グエンさん。あなたが見たのは、2人で来ないこと、岡田店長の告白。この2点だけですね。」
「あー、違うです。」
法廷の空気が一瞬凍りつく。
「他に、何かご覧になった?」
「あー、はい。女の子、涙しました。」
「被告人のことですか。」
「あー、はい。女の子です。私、大丈夫、聞くしました。女の子、こうしました。」
グエンは頷くジェスチャーをする。
「私、店長、悪いした、思うしました。『店長?』言うしました。女の子、こうしました。」
グエンは首を横に振るジェスチャーをした。
「女の子、シャチョー、言うしました。シャチョー、知ってます。会社、いちばんの人ですね?」
通訳がグエンの質問に頷きを返す
「シャチョー、キスする。女の子、言うしました。」
「正確に、お聞きしたい。社長が女の子にキスをする。と、女の子が言ったのですか。」
グエンは通訳の言葉に、真剣に耳を傾ける。
「あー、はい。シャチョー“が”、女の子“に”キスする。言う、女の子、涙。」
法廷は騒然とする。
「静粛に!」
裁判長の鋭い声が響く
「大事なことなので、私からもお聞きします。被告人は被害者である社長にキスをされた、またはキスをされている。と言っていたのですね。」
グエンは、何度も通訳に聞き直す。
「シャチョー、“が”キスする。言うしてました。私、分かる、それだけ。」
「女の子、言うしたあと、涙。日本、キスする、涙?」
グエンは不思議そうな顔をしている。
法廷は、グエンから目が離せなくなっていた。




