コンビニ店長の証言
「次に検察官は、被告人と被害者の関係を知る証人を呼び、尋問したいと考えております。」
「予定されていた証人でよろしいですね。」
「はい。」
「では、証人は入廷してください。」
法廷に入ってきたのは、どこにでもいそうな普通の中年男だった。
法廷の空気は、なんとなく冷めていた。
本人だけは、やたらと気合いが入っているのか、証言台を真っ直ぐ見つめて、ズカズカと歩いていった。
「証人は氏名を述べてください。」
「岡田直也。」
「年齢は。」
「46。」
「職業は。」
「コンビニエンスストアを経営しております。」
「証人は宣誓してください。」
岡田は宣誓書を読み上げる。
「では検察官、はじめてください。」
検察官はゆっくりと立ち上がる。
「岡田さん、本日は証言に応じていただきありがとうございます。」
「いえ、国民の義務です。」
「あなたの経営するコンビニに、被告人が通われていたそうですね。」
「はい。常連さんです。」
「被害者が亡くなられた日の朝もコンビニにーー」
「異議ですな。被告人が本件当日朝にコンビニにいたことは、すでに証明されており、そのことは争点になっておりませんわ。これは無駄な尋問ですな。」
「異議を認めます。検察官は不必要な尋問をしないよう努めてください。」
「簡潔にお聞きします。あなたは、被告人と被害者が一緒に来店しているのを目撃していますね。」
「はい。」
「いつごろですか。」
「事件のあった日の、1週間くらい前です。」
「2人はどんな様子でしたか。」
「仲が良さそうでした。」
「なぜそう思われたのか、教えていただきたい。」
「男性がレジで支払いをしている間、女性はすぐ後ろに立っていました。ただの知り合いというには、かなり近い距離でした。私の視線に気づいて、女性は男性の後ろに隠れました。その時、男性の上着の裾を掴んでいました。男性も何も気にしていない様子でした。いつもこんな感じなんだと、私は思いました。」
「ありがとうございます。」
「見たままを言っただけです。」
岡田はなぜか得意そうだった。
「最後に、彼らを一言で表すと。」
「カップルです。」
「ありがとうございました。以上です。」
「弁護人、反対尋問をお願いします。」
弁護人はスッと立ち上がる。
「証人、あなた、コンビニを経営しておられるとおっしゃいましたな。」
「はい。」
「だが、実態は雇われているだけですな。」
岡田は顔を真っ赤にする。
「異議を申します。弁護人は、不当に証人の評判を貶めてきます。」
「弁護人、質問の意図を明かしてください。」
「証人は、少し物事をオーバーに、もしくは独自の見方で捉える癖がありますな。そのことをお聞きしたいんですわ。」
裁判長は陪席裁判官の意見を確認する。
「異議を認めます。弁護人は、証人の名誉を不当に害する発言に注意してください。」
「分かりました……では、率直にお聞きして申し訳ないんですがね。あなた、被告人に告白して振られてますね。」
弁護人は全く表情を変えず聞いた。
検察官の顔には、困惑と焦りが浮かんでいる。
裁判長でさえ、少しだけ顔を歪めた。
岡田はさらに顔を赤くして、縮こまった。
「弁護人としましては、この事実により、証人の証言には、私怨が含まれていると考えざるをえませんな。」
「異議を申します。えー、そうですね。そのことは証明されていません。」
「弁護人は、そのことを証明できますか。」
「証人の姿を見れば明らかですがな。そのことを証言してくださる方を呼んでありますわ。」
「異議を却下します。弁護人は、次の証人尋問に移られますか。それとも、まだ何か岡田証人にお聞きすることがありますか。」
「ありませんな。」
「検察官は何かありますか。」
「えー、……ありません。」
「証人は退廷してください。」
岡田は、来た時とは全く違う態度で、小さくなりながら法廷を後にする。そして、一度も振り返らなかった。




