朧月
「くそっ!こんなの無理だろ!」
【百蓮】のメンバーが消しても消しても押し寄せてくる自然に悪態をついた。
白髪で何束にも髪を分けている小柄な女【消滅】ディスミスと【歌姫】アリーナが協力して【分裂】のみを消滅させる歌を作る。
響いた歌の音の粒子は海や木々に浸透すると分裂を消滅させた。【叡智】ペンデュラムが拡声器をアリーナに渡すと、消滅の歌の効果は何十倍にもなった。
【全能】アウラ・デウス・マキナが唱えた。
「アイテムボックスの分裂を消す魔法」
しかし、アウラのキャパシティを超えた魔法は発動が許されなかった。それほどまでに海斗のアイテムボックスは広い。
【叡智】ペンデュラムのオートマトンまで繰り出された。【水帝】ウェンズデイが海の勢いを止めて、海から分裂の要素を消し去る。
【怠惰】ゴルフェゴーラが心底だるそうに、海水に手をやった。
「憂鬱の棺」
すると、海水は凍りつき辺り一面が氷の世界となった。
「はぁ、憂鬱だ」
ゴルフェゴーラが呟いた。
それでもなお、海は押し寄せて、緑は芽吹いた。
【百蓮】の面々が諦めかけたその時、海斗の頭にある考えがよぎる。
「みんな、一箇所に集まってくれ!」
満身創痍な【百蓮】達はなんとか海斗の周りに集まる。海斗は声を張り上げた。
「みんな!エネルギーを一箇所に集まるんだ!それに【消滅】ディスミスと【封印】シールを付与してこの惨状を止めるんだ!」
【百蓮】のメンバーは自身のエネルギーを全体へのエネルギーに渡していった。ワッパが一撃を溜めて撃つような時の音が周囲に響く。
キィーーーーーーーーーン!
「行くぞ!【百蓮】砲!」
海斗がそう叫ぶと、エネルギーは空に打ち上がり、アイテムボックス中に雨のように降り注いだ。海や木々にじんわりと浸透していくエネルギーには【封印】と【消滅】が込められており、分裂を止めた。
海斗が分裂の終了を確認すると、【百蓮】のみんながその場にへたり込んだ。口々に今回の出来事についてぼやく。
「これはもう無理だと思ったぜ」
「流石にもうこりごりだわ」
【深緑】、【海王】、【分裂】の三人は全員の前で土下座する。
「「「申し訳ございませんでしたぁ!」」」
海斗が制裁を下す。
「まったくもう。君たちにはこれからこんだけ広まった自然を管理してもらう刑に処すことにした」
「海斗ぉ!そんな罰でいいのか?」
「あと、ポセイドンは試練のダンジョン攻略参加ね」
ポセイドンは諦めた顔で頷いた。
「じゃあというわけで、みんなお疲れ様!今日は解散にしよう。連絡事項として終末の日が近づいているようだから、各自研鑽を積むようにね!」
ウェンズデイがツッコミを入れる。
「終わりの会で伝えるみたいにしてそんな大事な情報を伝えたらダメでしょ」
【百蓮】のメンバー達は次々に転移魔法陣に戻っていく。
「あー疲れた」
「この後飲むやついるか?」
「さーんせーい」
海斗とウェンズデイは唯一残った緑と海に侵略されていない床に倒れ込んだ。アイテムボックス内の既に四十パーセントは海で二十パーセントが緑になっていた。
海斗はなんとか残ったアイテムボックスの真っ白な床を愛おしそうに撫でる。ウェンズデイが告げた。
「【百蓮】のリーダー様も大変ね」
「あぁ、じゃじゃ馬達だらけでまったく参ってるよ」
海斗は手で目を覆った。ウェンズデイが指摘する。
「でも、海斗笑ってるわ」
海斗が口元を触ると確かに笑っていた。パッと上体を起こして気持ちを切り替える。
「さて、試練のダンジョンはどこまで進んだかな」
「次のローテーションは?」
「【全能】アウラ・デウス・マキナと、【雲水】寂蓮、【神喰】エーデルハイム、【嫉妬】サディだな」
「じゃあ二日くらいゆっくりしてから、試練のダンジョンに向かいましょうか」
海斗はゆっくりと頷いた。
「色々と【百蓮】の間でルールを決めないといけないな」
〜二日後〜
海斗は巨大な城の玉座に座らされていた。赤いカーペットがひかれて、シャンデリアがキラキラと光を反射する王の間だった。海斗は似合わない大きな王冠と赤いマントをつけさせられて、困惑していた。
(なんでこんなことになったんだ!?)
広々とした王の間が【百蓮】のメンバー達で埋め尽くされる。代表として【剣神】ガーフィールが座っている海斗の前で跪く。海斗は剣を抜いて、ガーフィールの肩に置いた。
無言のまま海斗が突っ立っていると、群衆がプレッシャーをかけてくる。海斗は仕方なく宣言した。
「今ここに、【百蓮】王国を立ち上げる!」
FOOOOOOOOOOO!
「【百蓮】のリーダーはこの【騎士】小林海斗が務め、実質的な政治は【賢王】ギルガメスが務める!」
【賢王】ギルガメスが前に出てきた。ギルガメスはぴんと背筋を張って歩いた。顔の片目に大きな傷があって、髭を生やした壮年の男性だった。
ギルガメスが拳を突き上げて海斗の代わりに玉座に座る。海斗は玉座の横に座って訴えた。
「我々の力を外に誇示する為にまずは試練のダンジョン1000階までノンストップで行くぞ!」
【百蓮】のメンバーは賛同するかのように声を上げた。それと同じタイミングで時空の裂け目からアウラ達が転がり込む。アウラが息も絶え絶えに言った。
「海斗。300階まで到達したわ」
「よくやったアウラ!【魔王】カルラと【魔眼】イビルアイ、【水帝】ウェンズデイは一緒に来てくれ!」
そう言って海斗達は時空の裂け目に入っていった。時空の裂け目から宇宙空間のような試練のダンジョンに着くと、木の立て札に300階と書かれていた。
海斗達は勇み足で301階に進もうとしたその時、301階の方から灰色のローブをした男二人が海斗の前に立ちはだかった。男の片割れが言う。
「お前の名は小林海斗だな?」
海斗が答える。
「ああ、そうだが何者だ?」
「俺達は【朧月】のメンバーだ」
【朧月】と聞いてウェンズデイと海斗に緊張が走る。黒いローブの男に警戒するよう言われていた団体だった。
「アンタらが世界最大の犯罪者集団だな」
海斗は【叡智】ペンデュラムに尋ねた記憶を引っ張り出す。朧月のメンバーは十人でその一人一人が国一個分の軍事力を持つと言われているらしい。彼らの活動は残虐非道で目当てのものを手に入れるまで手段は問わない。多くの人が彼らの手によって犠牲になったと言う。
「そうだ。今日は小林海斗、お前を暗殺しに来た」
「フッフッフッ、泣き叫んでも遅いですよ」
二人が口々に言って、武器を構える。灰色のローブから赤褐色の目の光が怪しく光る。もう片方の男は腕が筋肉を纏い巨大化している。
【魔眼】イビルアイが信じられないようなものを見るような目で赤褐色の目の男を見る。
「信じられない...アンタは死んだはずじゃ!お兄ちゃん!」
「沙紀、いや、今はイビルアイと名乗っているのだったな。小林海斗共々死ぬがいい」
イビルアイは目の包帯を取って海斗達に注意した。
「あの男の目を見てはダメ!幻術にかけられるよ!」
ウェンズデイが魔法を放つ。
「水王級魔法アクア・ピストル」
圧縮された水が赤褐色の目をした男を貫いた、かと思いきや男の身体は泥のように溶けて、海斗の後ろに男が現れる。【魔王】カルラがカバーに入る
「海斗!魔王の軍勢」
魔物の軍勢が赤褐色の目の男に襲いかかった。男はそれを片手で払い除ける。
「嘘でしょ!?」
カルラが驚愕に目を見開く。海斗はカルラが作ってくれた隙をついて、アイテムボックス内に一時避難してすぐに外に出た。
赤褐色の目の男から距離を取る。男は告げた。
「小林海斗、お前はもう既に幻術の中にいる」
「なに?」
男が海斗の腹に薔薇を刺した。海斗は歯を食いしばって耐える。海斗は反撃しようとするが、悠々と避けられて薔薇を刺される。
「お前が敗北を認めるまで俺は薔薇を刺し続けるぞ」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
イビルアイの金色の瞳を見て、海斗は正気に戻る。赤褐色の目の男は感嘆する。
「ほぅ、幻術を上書きしたか」
腕が巨大化した男はカルラとウェンズデイが相手どっていた。向こうも中々苦戦しているようだ。海斗が尋ねる。
「アンタ、イビルアイと何か関係がありそうだけど、名前は?」
「今は【幻術】サクモと名乗っている。相方は【剛力】キジンだ」
海斗が小声でイビルアイに隙を作ってくれるよう頼む。イビルアイは小さく頷いてウェンズデイ達に駆け寄る。海斗が指示した。
「ウェンズデイ、奥の手を!カルラは詠唱に入るウェンズデイの防御を!イビルアイは時間稼ぎを!」
ウェンズデイが水神級魔法の詠唱に入った。カルラが体から闇の塊を放つ。
「魔王の影」
イビルアイが金色の瞳を敵に向けた。
「行くよ!【圧縮眼】!」
そう言い放つとイビルアイは目からビームを放った。赤褐色の目の男はそれを避ける。巨大化した腕を持つ男がカルラに肉薄する。
男は巨大な腕を振るうが今のカルラには物理攻撃が通用しない。カルラは男の身体を闇に絡ませて動きを封じた。
ウェンズデイが詠唱を終える。
「みんな下がって!水神級魔法アクア・ドラゴン!」
水の形をした龍が二人の男を捉えて拘束した。巨大化した腕を持つ男が苦し紛れに言う。
「なんの...これしき!」
水の拘束に囚われている二人に向かって海斗はアイテムボックスを開けた。アイテムボックスの中には【一撃】ワッパがパワーを貯めて待っていた。
「撃て!」
ワッパは込められた一撃を二人の男に喰らわせる。轟音が鳴り響いて試練のダンジョン自体が揺れるほどの騒ぎになった。
「アイテムボックス闘法、その三、一撃」
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