最大の危機
海斗が目を覚ますとそこには豪華絢爛な部屋が広がっていた。海斗は昨夜の記憶を絞り出しながら、なぜ自分がここで寝ているかを思い返す。
「そうだ、昨日は100階まで到達して、疲れ果てた場所がここだったんだ」
海斗は起き上がり、テーブルに置かれている葡萄を一粒摘む。
「なんだこれ、美味すぎる」
海斗はあまりの美味しさに目が覚めた。【農業】ファームがきっとどこかに農園を作っているのだろうと想像した。
海斗はテーブルの上に呼び鈴があったことに気づいた。試しに押してみると、すぐにノックの音が聞こえた。海斗が返事するとガチャと扉を上げて入ってきたのは【執事】セバスチャンだった。
「セバスチャン!来てくれてたんだな!会えて嬉しいよ!」
シルバーフレームの眼鏡をずり上げる。オールバックの黒髪に燕尾服がよく似合っていた。鋭い眼光で海斗に告げる。
「海斗様、来てくれてたんだな!ではございません。百匹の珍獣を誰が面倒見ていると思ってるのですか?」
「す、すまない」
「まったく、ほっといたらすぐ服を脱ぎっぱなしにするんですから」
セバスチャンはどこからか取り出した洗濯籠に海斗の服を拾って入れた。
「はい、海斗様!顔を洗ったら一階の食堂で朝ご飯用意してますから、早く来てくださいね!」
セバスチャンはそう言って洗濯物籠を抱えて部屋を出ていった。海斗はアイテムボックスから新しい冒険者風の格好を取り出し、顔を洗って、着替えてから、一階に向かった。
一階ではウェンズデイがパンケーキを食べていた。セバスチャンは海斗が来たことを確認すると、和食の朝ごはんを配膳した。
「おはよう、ウェンズデイ」
「おはよう、海斗。ヴラトとエドモンドは自分の家に帰っちゃったよ」
「そうか、それならいいんだ」
海斗は大きく伸びをする。いただきますと唱えてから朝ご飯に取り掛かった。ご飯はどこから入手したのか分からない新鮮な鮭の塩焼きに、味噌汁、納豆とご機嫌な朝ご飯だった。
海斗は考える。【深緑】オウバがこのアイテムボックスに独自の生態系を作り上げているのではないかと疑った。
ウェンズデイが尋ねる。
「海斗。今日はどうするつもりなの?」
「今日はなんか嫌な予感するからアイテムボックス内を見て回ろう」
ごちそうさまでしたと、言ってセバスチャンに挨拶してから、海斗は外に出た。
「ウェンズデイ!ちょっと高いところに行きたいんだが、魔法でなんとかできないか?」
「できるわよ。水魔級魔法ウォーターステップ!」
ウェンズデイの周りに螺旋階段が出来上がる。海斗はしっかりと反発する水の階段を登っていって、上空からウェンズデイと共にアイテムボックス内を眺めた。
南からの海風が海斗達の肌に心地よく吹く。
「ん?海風?」
海斗が南の方向に目をやると、そこには海ができていた。
「えええええええええええ!」
海斗は顎が外れるほど驚き叫んだ。海斗の目は限界まで見開かれて、目の前の現実を理解するのに脳の全ての容量を使用しているようだった。
ウェンズデイが楽しげに笑う。
「【分裂】ガイルの仕事かしら、どこまでも続いてるわ」
周囲を見渡すと、遠くには山があり、反対側には海があった。
もう既にキャパオーバーな海斗を鳥たちが横切る。海斗はたまりかねて腕輪に大声で呼びかけた。
「一旦全員、集合!」
海斗達は初めの【百蓮】設立パーティーを行った会場にきた。その場所は【叡智】ペンデュラムのオートマトンによって清潔に保たれていた。
転移魔法陣からぞろぞろと【百蓮】のメンバー達が出てきた。
海斗はメンバーを睥睨し、特定のメンバーを前に呼び出した。
「【深緑】オウバ!【海王】ポセイドン!【分裂】ガイル!前に出てきなさい」
海藻のような緑色の髪をした女であるオウバとトライデントを持った足が魚の男に、タンクトップの筋骨隆々な男が前に出てきた。
海斗は宣言する。
「今、ここに第一回【百蓮】会議を行う!」
FOOOOOOOOOO!
【晩王】ヴラトが指笛を鳴らす。
「静粛に!」
海斗がそう告げると会場は静まり返った。
「今、【百蓮】に未曾有の危機が訪れている!」
「なんだ?」
「何かあったのか?」
【百蓮】のメンバーがどよめく。
「【魔眼】イビルアイ!今の状況を説明してくれ!」
「はーい!お兄ちゃん!スクリーンに表示するよ!」
溌剌とした声の目に包帯を巻いた少女が手を挙げて、目の包帯を解く。金色の瞳が衆目に晒された。
「【千里眼】発動!」
プロジェクターと魔眼が魔力で接続されて、イビルアイの見ているものがスクリーンに写される。
それは衛生写真のようだった。小さな惑星に緑と青が物凄いスピードで侵略していく様子が映し出されていた。
「このアイテムボックス内は今!分裂する海と緑に滅ぼされかけている!」
【百蓮】のメンバーはとんでもないスピードで増殖する植生と海をみて戦慄した。
「【深緑】オウバ!【海王】ポセイドン!【分裂】ガイル!これらは君たちの仕業だな」
「ひっ!そ、そうです...私たちがやりました」
オウバが悲鳴を漏らしながら答える。ポセイドンは堂々とした様子で告げる。
「なにか?問題でも?なぁガイル」
ガイルはうんうんと頷いている。海斗が頭を抱えながら言った。
「大問題だ!ポセイドン!」
ポセイドンは頭にハテナマークを浮かべる。
「我らはただこのアイテムボックスに自然の豊かさを持ち込んで増やしただけであるぞ」
海斗が反駁する。
「モノには限度ってものがあるだろう!このままのペースで海と植生が増殖すると、【叡智】ペンデュラムが分析したのだが、あと三時間ほどでアイテムボックス内は海と緑に沈むらしい!」
「「「えええええええええええ!」」」
【百蓮】のメンバーはことの重要性が分かったのか、皆目を見開いて絶叫した。
「この危機が分かったのなら、皆この広範囲消滅銃を持ってくれ!これは【創造】、【消滅】、【全能】がこの日のために作り出した。緑と海を消滅させる銃になっている!」
「お、おう。海斗。すまねぇ。俺全力出せるのが嬉しくてつい全力出しちまったんだ」
ガイルは手首で溢れ出る涙を拭いながら海斗に謝る。
「謝るのは、後だよ。ガイル、今は分裂して増える海と緑をこの銃で消すんだ」
「お、おう!」
【百蓮】は急いで広範囲消滅銃を手に取り、転移魔法陣の作成を待った。【瞬身】ミナトが海と植生が増殖するスピードを超えて、球体のようになっているアイテムボックスの裏側にたどり着いた。
ミナトが転移魔法陣を設置する。
「みんな!来てくれ!」
転移魔法陣が光り、【百蓮】のメンバーが飛び出てくる。迫り来る海と緑を前に【百蓮】のメンバーは懸命に戦った。
「ちっ!ちまちまとこれじゃあ拉致があかねぇ!」
【一撃】ワッパが広範囲拡散銃を後ろに放り捨てて、マントをたなびかせた。
ワッパが拳を構える。それを見た海斗は慌ててワッパを止めようとしたが間に合わない。
ドッゴォォォォォーン!
ワッパの放った一撃は海を割った。海底が陽の光に晒される。だが次の瞬間、飛び散った海水はその場で分裂を始めた。
「なに!?」
「ワッパ!その水には【海王】の加護に、【分裂】がついている!存在そのものを消滅させないとダメなんだ!」
海斗の真横に突然、赤髪で長髪の男が現れた。
「海斗!ようやく俺の出番ってわけだな!」
赤髪の男の身体は膨張し、服が張り裂ける。
ミチミチッミチミチッ
何かが強引に膨らむ音が響き渡り、赤髪の男から翼が生える。歯は尖り始めて男の瞳孔が開いた。
GYOOOOOOOOOO!
赤髪の男は体表が赤いドラゴンに変化した。ドラゴンは生い茂る緑に向かって勢いよく炎を吐く。緑は消し炭に変わり、分裂をやめた。
「【赤燐】ニュート!」
海斗が思わず叫んだ。だが、分裂の勢いは止まらない。本来、分裂は分裂できないものをその性能の二分の一にすることで、無理矢理分裂させる能力だが、【深緑】と【海王】の加護で二分の一になったはずの緑は生い茂り、海は膨張している。
消滅の作業は分裂のペースとの戦いだった。
これだけFOOOOOOO!を多用するのはハードゲイか僕だけです
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