まずは婚約破棄だ!!
私はとりあえず、お約束的に婚約破棄に至らせようと思った。
折角なので。
何が折角なのか?
イマジンオールザピーポー
トゥルットゥルの廊下。
そこには……バナナの皮。
こんなフリを受けてスルーしたら、ソイツは芸人として失格である!
『いやお前芸人じゃないだろ』等というツッコミはいらないのだ!!
古くから語り継がれてきた人間の業……
鶴は「私が機を織っているときは開けてはなりません」と言い、乙姫は「決して開けてはなりません」と玉手箱を渡す……しかし好奇心には抗えない。
そう……「絶対押すなよ!」は「押せ」の意なのだから!!
故に私はテンプレ的にバナナの皮を踏む。
転けるのは承知の上だ。むしろ転けなければオイシクない。
婚約者を籠絡せんとするヒロイン男爵令嬢が現れた以上、『婚約破棄される』からの『ざまぁ』は王道テンプレコース……正に足下のバナナの皮である。回避などもっての外。
ざまぁ……はテンプレ的にはいきそうもないが……そもそも婚約破棄自体に、私は一欠片の未練もないのだった。
この婚姻は政略的なモノであるが、それだけが理由ではない。
婚約者である第二王子殿下と私の仲は良いが……ある理由から私は彼に恋愛感情を持てないでいた。
「先ずはヒロインが殿下を夢中にしてくれないと話にならんな……」
だが、それは私が殿下に対し恋愛感情を抱くのと同じ位、難しいことのように思える。
とりあえずヒロインの気持ちを確認したいところ。
「これはあれだ……『誘い受け』だな」
ヒロインは私を罠に嵌めようとしてくるに違いない……
うん、その前に捕縛しよう、そうしよう。
釣りゲーの始まりである。
餌は勿論私。
乙女ゲーで釣りゲーとは片腹痛い。だがこのゲームの主人公は誰がなんと言おうと私である。釣りゲーはミニゲームみたいなモンだ。
キャッチアンドリリース!もしくはキャッチアンドイート!!
「はぁーはっはっは!! チート悪役令嬢の力を見せてくれるわー!!」
私は悪役令嬢よろしく悪役的に盛大な独り言を述べた。『悪役』はフォローしても『令嬢』部分を全く無視してしまったのであんまり『悪役令嬢』っぽくなかったが。
「お……お嬢様」
私が腰に手を当てて高笑っているところに、侍女のライラたんが声を掛けた。
家の者たちには『お嬢様は頭が高熱でヤられてしまった』と些か心配されている。
ちょっとばかりテンションが上がってるだけだから気にしなくていいのになぁ。
実際私は元からこんなであり、記憶が戻る前もテンションが高い日にはライラに壁ドンをぶっかまし、「やあライラ……今日も可愛いね」等というおふざけをしたりしていた。
学校や社交界ではあんまりふざけられないので身内にはいい加減なのだ。
なのにそんな身内にすら心配されている始末。
「なぁに? ライラ」
あんまり心配をかけるのも悪いので、その場を取り繕う為可愛らしくターンしながら答える。しかし、ライラの顔色はよろしくない。
「その……殿下がお見舞いにいらしてるのですが……もう一人……」
「?」
「件の男爵令嬢が……」
キタ────────!!!!
仕掛ける前にキタ────!!
私が喜びのあまりガッツポーズをとりたいのを我慢してプルプルしていると、ライラは何を勘違いしたのか「具合が良くないと断る」などと言う。私は彼女の袖を引っ張って止めた。
「ライラ……」
「お嬢様……」
「具足を持て……じゃなくて、ドレスを」
「……お嬢様?」
「ふっ……くくっ…………飛んで火に入る夏の虫、とはこのことよ! よもや自らテリトリーに入ってくるとは……笑止!!」
「お嬢様っ?!!」
笑止もなにも、笑っているのは私だけだが些細な問題である。
『いざ鎌倉──』
そんな言葉が頭を過る。
身に付けるのは甲冑じゃなく、ドレスだけど。




