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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第8話 Lv1魔法使いも普通ではありませんでした

『《ホーンラビット》を討伐しました』


『クエスト進行:1/5』


 俺――《ミナト》の目の前で、倒したホーンラビットが淡い光の粒となって消えていく。


 あとに残ったのは、小さな角と素材らしきアイテムだった。


ミナト「倒した魔物は残らないのか」


ユウキ「そこ?」


ミナト「ん?」


ユウキ「もっとほかにあるでしょ!」


 振り返ると、《ユウキ》が俺を指差していた。


ユウキ「今の何!?」


ミナト「だから、避けて斬った」


ユウキ「それはさっきも聞いた!」


 どうやら説明が足りないらしい。


 俺は先ほどのホーンラビットの動きを思い返す。


ミナト「跳ぶ前に後ろ脚へ力を入れていただろ?」


ユウキ「……そんなの見てたの?」


ミナト「ああ。あとは角の向きと視線を見れば、どこを狙ってくるかは大体分かる」


ユウキ「分からないよ!?」


ミナト「そうか?」


ユウキ「普通は分からないの!」


 そう言われても困る。


 異世界で魔物と戦うとき、相手の動きを観察するのは基本だった。


 何も考えずに攻撃を受けていたら、命がいくつあっても足りない。


シルフィー「ユウキ。諦めた方がよろしいかもしれません」


ユウキ「シルフィーちゃん?」


シルフィー「ミナトにとって、今の程度は本当に普通なのです」


ユウキ「……魔王を倒した勇者の普通って怖い」


ミナト「俺だって最初からできたわけじゃないぞ」


ユウキ「二十年かけてこうなったんでしょ?」


ミナト「まあな」


ユウキ「じゃあ私には無理!」


 ずいぶん早い諦めだった。


 とはいえ、ユウキが俺と同じことをする必要はない。


 彼女は《僧侶》だ。


 役割が違う。


ミナト「ユウキはユウキのできることを覚えればいい」


ユウキ「私のできること?」


ミナト「回復とか支援だな。パーティーじゃ重要だぞ」


シルフィー「はい。回復役がいるだけで、前衛と後衛は大きく動きやすくなります」


ユウキ「そうなの?」


ミナト「本物の戦場じゃ、回復魔法を使える仲間がいるかどうかで生存率が全然違ったからな」


ユウキ「急に話が重いよ」


 事実なのだから仕方がない。


 そのときだった。


 シルフィーが静かに右側へ顔を向けた。


シルフィー「ミナト」


ミナト「ああ」


ユウキ「え?」


 草が揺れる。


 一か所ではない。


 右前方。


 左奥。


 さらに正面。


ミナト「三体だな」


ユウキ「分かるの!?」


シルフィー「音が異なりますから」


ユウキ「シルフィーちゃんまで!?」


 次の瞬間。


 三匹のホーンラビットが草むらから姿を現した。


『《ホーンラビット Lv1》』


『《ホーンラビット Lv1》』


『《ホーンラビット Lv1》』


 ユウキが慌てて杖を構える。


ユウキ「三匹もいるよ!」


ミナト「ちょうどいい」


ユウキ「何が!?」


ミナト「あと四匹だからな」


ユウキ「そういう問題!?」


 俺は剣へ手をかける。


 だが。


シルフィー「ミナト」


ミナト「ん?」


シルフィー「一体、私に任せていただけますか?」


 シルフィーが杖を構えていた。


 その目は、さっきまで街を楽しそうに眺めていた少女のものではない。


 静かで。


 冷静で。


 敵との距離を測っている。


 何度も見た目だった。


 魔王軍との戦い。


 ダンジョン。


 野営中の奇襲。


 シルフィアは俺の隣で、何度もその目をしていた。


ミナト「分かった」


ユウキ「えっ、いいの?」


ミナト「シルフィーも魔法を試したいだろ」


シルフィー「ありがとうございます」


 シルフィーが一歩前へ出る。


 ゲーム上ではLv1の魔法使い。


 装備も初心者用。


 当然、使える魔法も限られている。


 シルフィーがメニューを確認する。


シルフィー「使用可能なのは……《ファイアボール》《ウォーターボール》《ウィンドカッター》《ストーンバレット》ですか」


ユウキ「四属性使えるんだ」


シルフィー「初級魔法ですね」


 シルフィーはそう言った。


 俺には分かる。


 彼女が言う「初級魔法」と、ゲーム側が設定している「初級魔法」では意味が違う。


シルフィー「では、《ウィンドカッター》を使用してみます」


 シルフィーが杖を向ける。


 正面のホーンラビットが動いた。


 普通なら、ここで魔法を撃つのだろう。


 しかし。


 シルフィーは撃たない。


ユウキ「シルフィーちゃん?」


シルフィー「まだです」


 ホーンラビットが左右へ動く。


 シルフィーの杖先が、わずかにその動きを追う。


 いや。


 追っているわけではない。


 先を見ている。


 俺には分かった。


ミナト「相変わらずだな」


ユウキ「何が?」


ミナト「敵じゃなくて、敵が行く場所を狙ってる」


ユウキ「え?」


 直後。


 ホーンラビットが地面を蹴った。


 シルフィーから見て斜め右。


 跳躍する。


 その瞬間。


シルフィー「《ウィンドカッター》」


 杖の先に風が集まった。


 透明に近い風の刃が放たれる。


 だが、撃った瞬間にはホーンラビットはそこにいなかった。


ユウキ「あっ、外れ――」


 違う。


 ホーンラビットが自分から風の刃の軌道へ飛び込んだ。


 ザシュッ!


 風の刃が胴体へ直撃する。


『CRITICAL』


『WEAK POINT』


 ホーンラビットが地面へ落ちる。


『《ホーンラビット》を討伐しました』


『クエスト進行:2/5』


ユウキ「…………」


シルフィー「なるほど」


 シルフィーは倒した魔物ではなく、自分の杖を見ていた。


シルフィー「発動そのものは簡単ですね」


ミナト「向こうとは違う?」


シルフィー「かなり違います。魔力を自分で組み上げる感覚がほとんどありません。魔法名と発動意思に対して、システム側が術式を完成させているようです」


ミナト「威力は?」


シルフィー「弱いです」


ユウキ「え?」


 ユウキが倒れたホーンラビットを見る。


ユウキ「一発だったよ?」


シルフィー「私はLv1ですから。以前の私の魔法とは比べものになりません」


ミナト「ステータスに制限されてるんだろうな」


シルフィー「おそらくは」


 それなら分かりやすい。


 俺も同じだ。


 技術は持ち込める。


 経験も持ち込める。


 だが、身体能力そのものはLv1のステータスに従う。


 シルフィーも魔法の扱い方は知っているが、MPやINTによって威力の上限が決まっている。


 それならゲームとして破綻はしない。


 ただし。


 威力がLv1でも。


 当て方まではLv1ではない。


 残った二匹のホーンラビットが動く。


 一匹が俺へ。


 もう一匹がシルフィーへ向かう。


ミナト「シルフィー、右を頼む」


シルフィー「はい」


 俺は左へ出る。


 ホーンラビットの角がこちらを向いた。


 突進。


 今度は半歩下がる。


 相手の角が俺の直前を通過する。


 剣を下から斜めへ。


 必要以上に力を入れない。


『CRITICAL』


『《ホーンラビット》を討伐しました』


『クエスト進行:3/5』


 ほぼ同時。


シルフィー「《ストーンバレット》」


 小さな石弾が飛ぶ。


 ホーンラビットの進路。


 正確には、着地する場所へ。


 跳躍したホーンラビットが着地した瞬間。


 石弾が頭部へ直撃した。


『CRITICAL』


『WEAK POINT』


『《ホーンラビット》を討伐しました』


『クエスト進行:4/5』


 静かになった。


ユウキ「…………」


ミナト「あと一匹だな」


シルフィー「そうですね」


ユウキ「待って!」


 ユウキが声を上げた。


ミナト「どうした?」


ユウキ「私、まだ何もしてない!」


 言われてみればそうだった。


 最初の一匹は俺。


 次の三匹は俺とシルフィー。


 ユウキは見ていただけだ。


ユウキ「私もパーティーメンバーなんだから!」


ミナト「じゃあ最後はユウキ中心でやってみるか」


ユウキ「えっ」


 さっきまでの勢いが消えた。


ユウキ「私、僧侶なんだけど」


ミナト「別に倒せとは言ってない」


ユウキ「じゃあ何するの?」


ミナト「まず、自分に何ができるか確認しよう」


 ユウキがメニューを開く。


ユウキ「えっと……《ヒール》と、《ホーリーライト》」


シルフィー「攻撃魔法もあるのですね」


ユウキ「《ホーリーライト》は聖属性の初級攻撃魔法みたい」


ミナト「なら試してみればいい」


ユウキ「当たるかな……」


ミナト「外れても俺が止める」


シルフィー「私も援護いたします」


ユウキ「……分かった」


 しばらく歩く。


 やがて。


ミナト「いた」


ユウキ「どこ!?」


ミナト「正面。十メートルくらい」


 ユウキが目を凝らす。


 草の間から耳が見えた。


ユウキ「あっ」


 五匹目。


『《ホーンラビット Lv1》』


 ユウキが杖を両手で握る。


 明らかに力が入りすぎている。


ミナト「力を抜け」


ユウキ「無理!」


ミナト「呼吸」


ユウキ「呼吸?」


ミナト「息を止めるな。相手だけ見てればいい」


ユウキ「う、うん」


 ホーンラビットがこちらを見る。


 俺とシルフィーは一歩下がる。


 今度の中心はユウキだ。


ユウキ「……来た」


 ホーンラビットが姿勢を低くする。


 後ろ脚へ力を込めた。


ユウキ「えっと、えっと……!」


ミナト「慌てなくていい」


ユウキ「でも!」


ミナト「まだ来ない」


 俺には分かる。


 まだ跳ばない。


 一秒。


 二秒。


 そして。


ミナト「今から来る」


 ホーンラビットが地面を蹴った。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 杖の先から白い光が放たれる。


 しかし。


 少し早い。


 ホーンラビットが横へずれた。


ユウキ「外れた!」


 問題ない。


 俺が一歩前へ出る。


 剣を抜く。


 だが斬らない。


 刃ではなく剣の腹を使い、突進してきた角の側面へ軽く当てる。


 軌道を逸らす。


 ホーンラビットが俺の横を通過し、着地した。


ミナト「ユウキ、もう一回」


ユウキ「えっ?」


ミナト「次は少し待て」


 ホーンラビットが振り返る。


ミナト「魔法を敵に当てようとするんじゃない」


ユウキ「どういうこと?」


ミナト「敵が来る場所に置くんだ」


 ユウキがシルフィーを見る。


 先ほど彼女がやったことだ。


シルフィー「今のユウキなら、相手が跳んでからでも間に合います」


ユウキ「……やってみる」


 再びホーンラビットが構える。


 跳ぶ。


 今度はユウキがすぐに撃たなかった。


 敵の進む先を見る。


 杖を向ける。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 白い光が放たれた。


 直撃。


『HIT』


 ホーンラビットのHPが大きく減る。


ユウキ「当たった!」


ミナト「まだだ!」


ユウキ「え?」


 倒れていない。


 ホーンラビットが着地する。


 再びユウキへ向こうとした。


 俺が間へ入る。


 剣先で進路を塞ぐ。


 ホーンラビットが俺へ標的を変えた。


ミナト「もう一発!」


ユウキ「うん!」


 今度は落ち着いていた。


 杖を向ける。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 白い光が走る。


 命中。


『《ホーンラビット》を討伐しました』


『クエスト進行:5/5』


『《ホーンラビット討伐》達成条件を満たしました』


ユウキ「…………」


 ユウキが固まる。


 そして。


ユウキ「やった!」


 満面の笑みを浮かべた。


ユウキ「倒せた! 私でも倒せた!」


ミナト「おめでとう」


シルフィー「お見事です、ユウキ」


ユウキ「二人が手伝ってくれたからだけどね」


ミナト「パーティーなんだから、それでいいんだよ」


 前衛が敵を止める。


 後衛が攻撃する。


 回復役が仲間を支える。


 一人ですべてをやる必要はない。


 それがパーティーだ。


ユウキ「ゲームって、ちょっと楽しいかも」


ミナト「まだ最初の依頼だけどな」


ユウキ「だからだよ。これからもっと色々できるんでしょ?」


ミナト「ああ」


 俺も少し楽しみになってきた。


 命を懸けずに冒険できる。


 失敗しても、次がある。


 昔の俺にはなかった冒険だ。


 俺たちは素材を回収すると、始まりの街へ戻った。


 冒険者ギルド。


 受付へ向かうと、先ほど俺たちの登録を担当したエルフの女性が笑顔で迎えてくれた。


リーナ「お帰りなさいませ」


 長い耳。


 整った顔立ち。


 胸元には受付職員を示す徽章。


 受付嬢の《リーナ》だ。


リーナ「《ホーンラビット討伐》ですね。ギルドカードをお願いいたします」


ミナト「これでいい?」


リーナ「はい」


 三人分のギルドカードを差し出す。


 リーナが専用の装置へかざした。


 淡い光が走る。


リーナ「討伐数五体。達成を確認いたしました」


ユウキ「やった!」


リーナ「おめでとうございます。こちらが報酬になります」


 報酬がパーティーへ支払われる。


 初めてゲーム内で稼いだ金だ。


ミナト「本当に冒険者になったんだな」


リーナ「はい。これで皆様も正式に冒険者として最初の依頼を達成されました」


 リーナが優しく微笑む。


 だが。


 その視線が一瞬、俺とシルフィーの方で止まった。


リーナ「それにしても……」


ミナト「何か?」


リーナ「いいえ」


 リーナは首を振った。


リーナ「初めての依頼とは思えないほど、お早いお帰りでしたので」


ユウキ「この二人が変なんです」


ミナト「おい」


シルフィー「ユウキ?」


ユウキ「だって本当だもん!」


 リーナが小さく笑った。


リーナ「頼もしいお仲間なのですね」


ユウキ「頼もしすぎるくらいです」


 俺としては普通に戦っただけなのだが。


 その頃。


 《株式会社アストラル・リンク》運営監視室では、俺以上にシルフィーの戦闘ログが注目されていた。


美波「《シルフィー》の戦闘ログ、出ました」


宇喜多「見せて」


 映像が再生される。


 ホーンラビット。


 シルフィー。


 《ウィンドカッター》。


 だが魔法は敵の現在位置へ撃たれていない。


 移動先へ撃ち込まれている。


竹田「偶然じゃないのか?」


美波「次もあります」


 《ストーンバレット》。


 今度は跳躍後の着地点へ直撃。


『CRITICAL』


『WEAK POINT』


信田「二回連続……」


田仲「魔法の照準アシストは?」


美波「最低限のシステム補正のみです。着地点の予測機能なんてありません」


木田「つまり、自分で読んでるのか」


知子「そうでしょうね」


亮太「シルフィアさんも、本当に二十年間戦っていたってことか……」


知子「隼人の話が本当なら、彼女はずっと一緒に戦っていたんでしょう?」


 運営室が静かになる。


 Lv1剣士《ミナト》。


 Lv1魔法使い《シルフィー》。


 Lv1僧侶《ユウキ》。


 数字だけを見れば、どこにでもいる初心者パーティーだ。


 だが。


 そのうち二人だけ。


 中身がまるで初心者ではない。


木田「面白いな」


 GMを務める木田が画面を見る。


木田「もう少し様子を見てみたい」


 そしてゲーム内。


 報酬を受け取った俺たちは、再び依頼掲示板の前に立っていた。


ユウキ「次、何やる?」


 さっきまで戦闘を怖がっていた少女とは思えない。


 完全にやる気になっている。


ミナト「もう次か?」


ユウキ「せっかく冒険者になったんだから!」


シルフィー「ふふっ。私も賛成です」


ミナト「分かったよ」


 俺は依頼掲示板を見る。


 まだ俺たちはLv1。


 装備も初心者用。


 ステータスも低い。


 できることは限られている。


 けれど。


 俺には二十年間の経験がある。


 シルフィーにも同じだけの実戦経験がある。


 そしてユウキは、今日初めて自分の力で魔物を倒した。


 俺は自然と笑っていた。


ミナト「じゃあ、次の依頼を探すか」


 帰還勇者と異世界の王女。


 そして、本物の初心者である僧侶。


 三人のLv1パーティーによる冒険は。


 まだ始まったばかりだった。

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