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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第5話 三人目のLv1初心者

 剣士《ミナト》Lv1。


 魔法使い《シルフィー》Lv1。


 俺とシルフィアは、それぞれのプレイヤー登録を無事に終えた。


 あとは安全確認が完了すれば、実際にゲームへログインできる。


 魔王を倒して日本へ帰ってきた翌日に、今度はゲームの剣と魔法の世界へ行くことになるとは思わなかった。


 人生というのは分からないものだ。


 もっとも、異世界へ突然召喚された経験がある俺が言っても、いまさらという気もするが。


 VR機器を片づけながら、俺はスマートフォンを手に取った。


隼人「……さて」


 画面を見る。


 懐かしい。


 俺にとっては二十年ぶりのスマートフォンだ。


 昨日も少し触ったが、まだ感覚が戻りきっていない。


シルフィア「隼人様、その薄い板は何でしょう?」


隼人「スマートフォン。こっちじゃ、かなり身近な道具だよ」


シルフィア「すまーとふぉん……」


 シルフィアが俺の手元を覗き込む。


シルフィア「魔道具ではないのですよね?」


隼人「ああ。魔力は使わない」


シルフィア「では、何ができるのでしょう?」


隼人「電話したり、文章を送ったり、写真を撮ったり、地図を見たり、買い物したり、調べ物したり……」


シルフィア「少々お待ちください」


隼人「ん?」


シルフィア「その小さな道具一つで、今仰ったことがすべてできるのですか?」


隼人「できる」


シルフィア「…………」


 シルフィアがスマートフォンをじっと見つめる。


シルフィア「こちらの世界の方々は、本当に魔法を使えないのですか?」


隼人「使えないよ」


シルフィア「信じ難いです……」


 その反応が少し面白かった。


 異世界では、俺が魔法を見て驚く側だった。


 今度はシルフィアが現代科学を見て驚いている。


隼人「シルフィアにもそのうち一台必要だな」


シルフィア「私にも扱えるでしょうか?」


隼人「大丈夫だろ。魔法の術式を何百種類も覚えてた人間がスマホに負けるとは思えない」


シルフィア「では、頑張って覚えます」


 真剣な顔で言うことでもないと思うが、本人にとっては未知の技術だ。


 俺も笑わないでおこう。


 そんなことを考えながらスマートフォンを操作する。


 連絡先。


 メッセージ。


 見覚えのある名前が並んでいる。


 その中に、一人。


 俺にとって、とても懐かしい名前があった。


 敷谷優花。


隼人「……優花」


 小さく名前を呟いた。


 同じ高校に通う、同い年の少女。


 俺にとっては二十年前の友人だ。


 だが優花にとっては、昨日まで普通に話していた相手。


 家族との再会でも感じたことだが、この時間差にはどうしても慣れそうにない。


シルフィア「お知り合いですか?」


隼人「ああ。学校の友達」


シルフィア「女性の方ですか?」


隼人「……なんで分かった?」


シルフィア「隼人様のお顔を見れば」


隼人「そんなに分かりやすいか?」


シルフィア「二十年ご一緒しておりますので」


 笑顔だった。


 怒っているようには見えない。


 だが、なぜだろう。


 魔王と向き合ったときとは別の緊張を感じる。


隼人「ただの友達だからな?」


シルフィア「私は何も申しておりません」


隼人「そうなんだけどさ」


 そのとき。


 手の中のスマートフォンが突然震えた。


隼人「うおっ!?」


 反射的に手を引きかける。


 危うくスマートフォンを投げそうになった。


シルフィア「隼人様!?」


隼人「大丈夫! 着信だ!」


 画面には《敷谷優花》と表示されている。


隼人「噂をすれば……」


 通話ボタンを押す。


隼人「もしもし?」


優花『隼人!?』


 聞き覚えのある声。


 たったそれだけなのに、胸の奥に懐かしさが込み上げた。


 俺にとっては、本当に二十年ぶりの声だった。


優花『ちょっと、大丈夫なの!?』


隼人「大丈夫だけど」


優花『昨日から連絡しても全然返事ないし、学校にも来ないし! 先生から体調不良って聞いたけど、本当に大丈夫?』


隼人「……そうか。学校」


 完全に忘れていた。


 異世界から帰還した翌日に、普通に登校できるほど俺も器用ではない。


 両親が学校へ連絡してくれたらしい。


優花『そうか、じゃないよ!』


隼人「悪い」


優花『本当に何もない?』


隼人「ああ。ちょっと色々あっただけだ」


優花『色々って?』


隼人「説明すると長い」


優花『じゃあ会って説明して』


隼人「分かった」


 即答すると、電話の向こうで少し沈黙があった。


優花『……なんか今日の隼人、変じゃない?』


隼人「そうか?」


優花『うん。声が落ち着いてるというか』


隼人「色々あったからな」


優花『だから、その色々を説明してよ』


隼人「分かったって」


 俺は苦笑する。


 やはり家族以外にも分かるらしい。


 二十年という時間は、思っていた以上に俺を変えているようだ。


 しばらく話したあと、優花が家へ来ることになった。


 電話を切る。


シルフィア「優花さん、と仰るのですね」


隼人「ああ」


シルフィア「仲がよろしいのですか?」


隼人「学校じゃよく話してたな」


シルフィア「なるほど」


隼人「シルフィア?」


シルフィア「何でしょう?」


隼人「いや……なんでもない」


 笑顔だから大丈夫だろう。


 たぶん。


 それから一時間もしないうちに、玄関のチャイムが鳴った。


 俺が玄関へ向かい、扉を開ける。


 そこにいたのは、記憶にある姿と何も変わらない少女だった。


 敷谷優花。


 十六歳。


 同じ高校に通う友人。


 俺はその姿を見た瞬間、思わず黙ってしまった。


優花「……隼人?」


隼人「…………」


優花「どうしたの?」


隼人「いや」


 俺は小さく笑った。


隼人「久しぶりだな」


優花「……昨日学校で会ったよね?」


隼人「そうだったな」


優花「本当に大丈夫?」


隼人「大丈夫だ」


 俺にとっては二十年ぶり。


 優花にとっては一日ぶり。


 この感覚を説明するのは、やはり難しい。


 リビングへ案内する。


 そして。


優花「……え?」


 シルフィアを見た瞬間、優花が止まった。


 シルフィアも立ち上がる。


シルフィア「初めまして」


優花「あ……初めまして」


 互いに頭を下げる。


 優花が俺を見る。


優花「隼人」


隼人「ん?」


優花「この人、誰?」


隼人「シルフィア」


優花「それは今聞いた」


隼人「俺の妻」


優花「…………」


 沈黙。


 昨日から何度目だろう、この空気。


優花「……ごめん。もう一回」


隼人「俺の妻」


優花「はあああああああああ!?」


 やっぱりそうなるよな。


優花「なんで!?」


隼人「説明すると長い」


優花「さっきからそればっかり!」


 そこから、俺はもう一度説明することになった。


 異世界へ召喚されたこと。


 リント王国で勇者として戦ったこと。


 二十年間を過ごしたこと。


 魔王を倒したこと。


 シルフィアと結婚したこと。


 女神によって地球側の時間を調整され、ほとんど時間が経過していない日本へ戻ってきたこと。


 当然、優花は最初からすべてを信じたわけではない。


 だが、突然現れたシルフィアの存在。


 俺の変化。


 そして昨日からの出来事を一つずつ説明していくうちに、次第に冗談ではないと理解したらしい。


優花「……じゃあ隼人、本当に三十六歳みたいなものなの?」


隼人「経験した時間だけならな」


優花「うわあ……」


隼人「なんだよ、その反応」


優花「急に同級生が二十歳も年上になったような感じがして」


隼人「身体は十六歳だ」


優花「でも結婚してる」


隼人「まあ」


優花「王女様と」


隼人「まあ」


優花「魔王も倒してる」


隼人「まあ」


優花「情報量が多すぎるよ!」


 まったくその通りだった。


 その後、シルフィアと優花は少しずつ話し始めた。


 最初こそ互いに距離を測っているようだったが、シルフィアは人付き合いに慣れている。


 王女として外交の場にも立ってきた女性だ。


 優花も基本的には人当たりがいい。


 しばらくすると普通に会話が成立していた。


 そこで話題になったのが、父さんからもらったVR機器だった。


優花「えっ!? それって《アストラル・リンク》の新型?」


隼人「知ってるのか?」


優花「知ってるよ! 今すごく話題になってるじゃん!」


隼人「そうなのか」


優花「なんで隼人が知らないの?」


隼人「二十年間異世界にいたから」


優花「……その言葉、便利すぎない?」


 姉さんと同じことを言われた。


優花「でも、これまだ普通には手に入らないんじゃない?」


隼人「父さんの会社が作ってるからな」


優花「あっ」


 そういえば、と優花が頷く。


優花「隼人のお父さん、《アストラル・リンク》の社長だったね」


隼人「ああ」


優花「じゃあ、そのゲームもできるの?」


隼人「今日登録した。俺は《ミナト》って名前で剣士」


シルフィア「私は《シルフィー》という名前で魔法使いです」


優花「いいなあ……」


 明らかに興味を示している。


 すると、ちょうどリビングへ入ってきた母さんが会話を聞いていた。


知子「優花ちゃんもやってみる?」


優花「え?」


隼人「母さん?」


知子「予備機があるから」


隼人「予備機って、そんな簡単に出していいのか?」


知子「関係者用のテスト機よ」


 母さんがさらっと答える。


 俺は知らなかったが、優花は以前からVRゲームに興味があったらしい。


 少し悩んだ末、両親への連絡と確認を済ませる。


 そして。


優花「やります!」


 参加が決まった。


 母さんが持ってきた予備のVR機器を使い、優花も初期設定を始める。


 身体登録。


 アバター設定。


 プレイヤーネーム。


 俺たちは少し離れたところで待っていた。


 しばらくして。


優花「名前、《ユウキ》にしたよ」


隼人「ユウキ?」


優花「うん。優花の『優』から取って、ちょっと変えてみた」


隼人「いいんじゃないか」


シルフィア「素敵なお名前ですね」


優花「ありがとう、シルフィアさん」


 そして職業。


 優花が選んだのは《僧侶》だった。


優花「私、前で戦うの怖いし」


隼人「最初はそれでいいと思う」


優花「回復なら二人の役にも立てそうだから」


シルフィア「心強いです」


 こうして三人目のプレイヤーが誕生した。


『PLAYER NAME:《ユウキ》』


『LEVEL:1』


『JOB:《僧侶》』


 剣士《ミナト》。


 魔法使い《シルフィー》。


 僧侶《ユウキ》。


 全員Lv1。


 偶然ではあるが、パーティーとしての役割も悪くない。


 俺が前衛。


 シルフィアが後方から魔法攻撃。


 優花が回復と支援。


 六人まで組めるパーティーとしてはまだ半分だが、最初の冒険なら十分だろう。


 その日の午後。


 安全確認完了の通知が三台のVR機器へ届いた。


 いよいよログインできる。


 俺たちは皆川家の部屋を分け、それぞれのVR機器を装着した。


 ベッドへ横になる。


 視界にシステム画面が現れた。


システム『《ASTRAL LINK VR SYSTEM》起動』


システム『生体情報――正常』


システム『神経接続――正常』


システム『安全機構――正常』


システム『ゲームへのログインが可能です』


 目の前に《LOGIN》の文字が浮かぶ。


 俺は一度、息を吐いた。


 妙な気分だった。


 二十年前。


 俺は何の準備もないまま、本当の異世界へ放り込まれた。


 あのときは怖かった。


 帰れるかどうかも分からなかった。


 生き残れる保証さえなかった。


 けれど今回は違う。


 自分の意思で行く。


 妻と友人と一緒に。


 命を懸けるためではなく、楽しむために。


隼人「行くか」


 俺は《LOGIN》を選択した。


 視界が白く染まっていく。


 身体の感覚が一度遠ざかり、直後、別の場所へつながっていく奇妙な感覚が訪れた。


システム『プレイヤー認証』


システム『PLAYER NAME:《ミナト》』


システム『LEVEL:1』


システム『JOB:《剣士》』


システム『BODY:《リアル姿》』


システム『BODY ASSIST:《OFF》』


システム『ログインを開始します』


 白い光の向こう側に、青空が見えた。


 石造りの街並み。


 行き交う人々。


 遠くから聞こえる鐘の音。


 そして、腰には一本の初心者用の剣。


 地面へ足を下ろした瞬間。


 俺は目を見開いた。


ミナト「……すごいな」


 風が頬を撫でる。


 土と草の匂いがする。


 足の裏には石畳の硬さまで感じられる。


 偽物だと分かっている。


 それでも。


 あまりにも――本物に近かった。


 俺はゆっくりと右手を開き、握る。


 指が動く。


 手首を返す。


 肩を回す。


 腰を落とす。


 一歩、前へ出る。


 違和感がない。


ミナト「……なるほど」


 《リアル姿》。


 《身体操作アシストOFF》。


 父さんと母さんが説明していた意味を、ようやく理解した。


 これなら動ける。


 異世界で二十年間使い続けた、自分自身の身体とほとんど同じ感覚で。


 腰の剣へ手を添える。


 握っただけで分かった。


 重さ。


 長さ。


 重心。


 初心者用の安物ではあるが、剣として扱える。


ミナト「これなら――」


 剣を抜く。


 刃が鞘を滑る感触。


 その瞬間。


 二十年間積み重ねてきた感覚が、何の抵抗もなく俺の中でつながった。


 そして同じ頃。


 《株式会社アストラル・リンク》の運営室。


美波「テストプレイヤー三名、ログインを確認しました」


竹田「《ミナト》《シルフィー》《ユウキ》ですね」


信田「全員Lv1。初回ログインです」


田仲「しばらく動作ログを取っておこう」


宇喜多「初心者なら、最初は街を歩くだけでも時間がかかるでしょう」


木田「何か問題があればGM側で対応します」


亮太「よろしく頼む」


知子「ええ」


 この時点では。


 運営スタッフの誰も、その三人を特別なプレイヤーだとは考えていなかった。


 ただのLv1初心者パーティー。


 社長の息子と、その知り合いたち。


 それだけだった。


 だが。


 剣士《ミナト》の中身は、魔王を討伐した二十年の実戦経験を持つ帰還勇者。


 魔法使い《シルフィー》の中身もまた、本物の魔法と戦場を知る異世界の王女。


 そして二人とともに冒険を始める僧侶《ユウキ》。


 三人の物語は。


 ここからようやく、ゲームの世界でも動き始める。


 ――ただのLv1初心者パーティー。


 運営がそう呼べた時間は、そう長くはなかった。

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