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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第4話 リアル姿とアシストOFF

 父さんと母さんから誕生日プレゼントとして渡された、最新型のフルダイブVR機器。


 俺――皆川隼人は、その日の午前中には自分の部屋で初期設定を始めていた。


 机の上にはVR機器の説明書。


 ベッドの上には、箱から取り出したばかりの本体が置かれている。


 その隣では、シルフィアが興味津々といった様子で機器を眺めていた。


シルフィア「これを使えば、本当に別の世界へ行ったように感じられるのですね」


隼人「父さんたちの説明ではな」


シルフィア「魔法も使わずに……」


隼人「俺たちの感覚だと、こっちの技術も十分魔法みたいなものだけどな」


 異世界では転移魔法や空間魔法を何度も見てきた。


 遠く離れた相手と会話できる魔道具も存在していた。


 だから俺自身、多少の不思議には慣れている。


 だが、魔力を一切使わず、人間の意識へ仮想世界を認識させるという技術は別方向にすごい。


 シルフィアにとってはなおさらだろう。


 俺は説明書を確認してからVR機器を手に取った。


隼人「まずは俺からやってみる」


シルフィア「はい。何かございましたら、すぐにお呼びください」


隼人「初期設定だから危険なことはないと思うぞ」


シルフィア「それでもです」


隼人「分かったよ」


 こういうところは昔から変わらない。


 俺はベッドへ横になり、機器を装着する。


 電源を入れる。


 すると視界の中央に文字が浮かんだ。


『《ASTRAL LINK VR SYSTEM》へようこそ』


隼人「おお……」


 目を閉じているはずなのに、文字が見える。


 続いて、女性の機械音声が聞こえてきた。


システム『初回利用を確認しました。これよりユーザー登録を開始します』


隼人「分かった」


システム『楽な姿勢を維持してください』


 指示に従う。


システム『身体データの登録を開始します』


 視界の中に人間の身体を模した図が表示された。


システム『右手で左肩に触れてください』


 俺は左肩へ触れる。


システム『認識しました』


システム『続いて左手で右肩に触れてください』


 同じように指示へ従っていく。


 腕。


 肩。


 胸部。


 腹部。


 腰。


 太腿。


 膝。


 足首。


 自分の身体へ順番に触れながら、機器側が現実の身体感覚と位置情報を一致させていく。


 途中で指を一本ずつ動かし、腕を曲げ、脚を動かすよう指示された。


 なるほど。


 ただ姿を読み取るだけではないらしい。


 どの部位をどう動かしたとき、俺自身がそれをどう認識しているのかまで確認している。


システム『関節可動域を確認します』


隼人「結構細かいな」


 肩を回す。


 肘を曲げる。


 手首を動かす。


 足首まで確認される。


 その後、身体の寸法や姿勢まで読み取られた。


 しばらくして。


システム『身体データの登録が完了しました』


システム『ゲーム内で使用する身体を選択してください』


 目の前に二つの項目が表示される。


『《アバター》』


『《リアル姿》』


 説明も同時に表示された。


 《アバター》はゲーム内で用意された身体を利用し、顔、髪型、体格などを自由に調整できる。


 一方、《リアル姿》は先ほど読み取った現実の身体を基準に、本人の姿をゲーム世界へ再現する。


 多少の外見調整はできるらしい。


隼人「リアル姿でいいな」


 迷う理由はなかった。


 選択する。


 すると目の前に俺自身の姿が現れた。


隼人「……変な感じだな」


 鏡を見るのとは違う。


 自分自身が真正面に立っている。


 髪型などを多少変えられるようだが、俺はほとんど触らなかった。


 顔を別人にする理由もない。


システム『《リアル姿》を選択しました』


システム『続いて身体操作アシストを設定してください』


 《ON》。


 《OFF》。


 その二つが表示された。


 俺は迷わず《OFF》へ意識を向ける。


 だが、選択を確定する直前に警告が表示された。


システム『警告。《身体操作アシストOFF》では、移動・姿勢制御・武器操作などに対するシステム補助が大幅に減少します』


システム『VR初心者には《身体操作アシストON》を推奨します』


隼人「初心者、か」


 確かにVRゲームについては初心者だ。


 だが、身体を動かすことについてまで初心者ではない。


 剣を握り始めて二十年。


 平地だけではない。


 森。


 山。


 洞窟。


 沼地。


 雪原。


 城壁。


 魔王城。


 どんな場所でも自分の身体で戦ってきた。


 身体の動きを機械に補助される方が、俺には違和感がありそうだった。


隼人「OFF」


システム『《身体操作アシストOFF》を選択します。よろしいですか?』


隼人「YES」


システム『設定しました』


 次にゲームへの登録画面が表示された。


 父さんの会社が開発した新作VRMMORPG。


 剣と魔法の世界。


 正式なタイトルが目の前に大きく表示され、その下に新規プレイヤー登録の項目が現れる。


システム『プレイヤーネームを入力してください』


 名前。


 少し考える。


 本名の隼人をそのまま使う必要はない。


 だからといって、妙に凝った名前にする気にもならなかった。


隼人「ミナト」


システム『《ミナト》で登録します。よろしいですか?』


隼人「YES」


『PLAYER NAME:《ミナト》』


 続いて職業選択画面が開いた。


 いくつかの基本職が並ぶ。


 《剣士》。


 《戦士》。


 《魔法使い》。


 《僧侶》。


 ほかにも非戦闘系の職業について説明が表示されている。


 俺の視線は自然と《剣士》へ向かった。


隼人「まあ、これしかないよな」


 異世界でも最も長く使ったのは剣だ。


 今さら別の道を選ぶ理由もない。


システム『基本職《剣士》を選択します。よろしいですか?』


隼人「YES」


 選択が確定する。


 目の前に俺のゲーム内情報が表示された。


『PLAYER NAME:《ミナト》』


『LEVEL:1』


『JOB:《剣士》』


隼人「Lv1か」


 思わず笑ってしまった。


 二十年間戦い続け、最後には魔王まで倒した。


 それなのにゲームへ来ればLv1。


隼人「悪くないな」


 むしろ面白い。


 もう一度、最初から冒険を始める。


 今度は誰かの命を背負う勇者ではない。


 ただのプレイヤーとして。


システム『初期登録が完了しました』


システム『ゲームへのログインは、すべての安全確認完了後に可能となります』


隼人「今日は設定だけか」


 俺はログアウト操作を行った。


 視界が暗転する。


 次の瞬間。


 現実の自分の身体へ感覚が戻った。


隼人「……ふう」


 VR機器を外す。


 すぐ横にシルフィアがいた。


シルフィア「隼人様!」


隼人「大丈夫だよ」


シルフィア「お身体に異常は?」


隼人「ない。初期設定しただけだからな」


シルフィア「そうですか……」


 安心したように胸へ手を当てる。


隼人「次はシルフィアの番だな」


シルフィア「はい」


 俺と入れ替わる形でシルフィアがベッドへ座る。


 母さんから用意してもらった別のVR機器を手に取った。


 だが、装着する直前。


シルフィア「隼人様」


隼人「ん?」


シルフィア「これは……どちらが前でしょう?」


隼人「そこからか」


シルフィア「申し訳ありません……」


隼人「謝ることじゃないって。昨日異世界から来たばかりなんだから」


 俺は装着方法を教える。


 機器を着けたシルフィアが横になる。


シルフィア「少し緊張いたします」


隼人「大丈夫。俺もここにいる」


シルフィア「はい」


 電源を入れる。


 しばらくすると、シルフィアの身体から力が抜けた。


 初期設定が始まったのだろう。


 俺は隣で待つことにした。


 十分ほどして。


シルフィア「……まあ」


 小さな声が聞こえた。


隼人「どうした?」


シルフィア「声は聞こえております。ただ……目を閉じているのに、文字のようなものが見えます」


隼人「正常だよ」


シルフィア「こちらの世界は、本当に不思議です」


 異世界の魔法使いに不思議と言わせる現代科学。


 少し面白い。


 やがてシルフィアも身体登録へ進んだ。


システム『右手で左肩に触れてください』


シルフィア「左肩……こちらですね」


システム『認識しました』


 少し時間はかかったが、問題なく進んでいるようだ。


 そして。


シルフィア「隼人様」


隼人「どうした?」


シルフィア「《アバター》と《リアル姿》という選択肢がございます」


隼人「俺はリアル姿にした」


シルフィア「では、私もそういたします」


隼人「別に合わせなくてもいいぞ?」


シルフィア「私は私の姿で、隼人様と冒険したいのです」


隼人「……そうか」


シルフィア「はい」


 シルフィアも《リアル姿》を選択した。


 次に身体操作アシスト。


シルフィア「これは?」


隼人「身体の動きをゲーム側が補助してくれる機能らしい」


シルフィア「隼人様は?」


隼人「OFF」


シルフィア「では私もOFFにいたします」


隼人「いや、そこはちゃんと考えた方がいいぞ」


シルフィア「考えております」


 少しだけ間を置いてから、シルフィアは続けた。


シルフィア「私は長い間、自分の身体で戦ってまいりました。魔法を使用するときも、杖の動き、視線、足運び、距離の取り方はすべて自分で判断してきました」


隼人「……それもそうだな」


 シルフィアはただの王女ではない。


 俺と一緒に魔王軍と戦い続けた歴戦の魔法使いだ。


 後衛だから身体操作が必要ない、なんてことはない。


 敵との距離。


 射線。


 味方との位置関係。


 回避。


 魔法を撃つ瞬間の姿勢。


 すべて実戦の中で身につけている。


シルフィア「《身体操作アシストOFF》にいたします」


 こうしてシルフィアも俺と同じ設定を選んだ。


 しばらくして、プレイヤーネームの入力へ進む。


シルフィア「名前は……《シルフィー》にいたします」


隼人「シルフィー?」


シルフィア「はい。隼人様にも昔、そう呼んでいただいたことがございますから」


隼人「懐かしいな」


 まだ俺たちが若かった頃。


 王女と勇者という立場にも慣れていなかった頃の呼び名だ。


 そして職業。


 そこは迷う必要すらなかった。


シルフィア「《魔法使い》ですね」


隼人「ああ」


シルフィア「こちらの世界の魔法……楽しみです」


 シルフィアの声が少し弾んでいる。


 やがて登録が完了した。


『PLAYER NAME:《シルフィー》』


『LEVEL:1』


『JOB:《魔法使い》』


 俺と同じLv1。


 魔王軍との戦争を生き抜いた王女が、ゲームでは新人魔法使いだ。


 これもなかなか面白い。


 その頃。


 俺たちが知らない《株式会社アストラル・リンク》の社内では、すでに二人分の初期登録データが確認されていた。


美波「皆川社長。テスト端末二台から初期登録を確認しました」


亮太「隼人たちだな」


竹田「一人目、《ミナト》。剣士Lv1」


信田「二人目、《シルフィー》。魔法使いLv1ですね」


宇喜多「身体設定は?」


美波「二人とも《リアル姿》です」


田仲「なるほど。そこまでは珍しくないな」


美波「それと……二人とも《身体操作アシストOFF》を選択しています」


竹田「二人とも?」


美波「はい」


田仲「VR初心者なんだろ?」


亮太「隼人は初心者だ。シルフィアさんに至っては、昨日初めて現代の機械を見たようなものだな」


信田「それでアシストOFFですか?」


知子「本人たちが選んだんだから、いいでしょう」


宇喜多「まあ、安全上の問題はありません。ただ、かなり動きにくいと思いますよ」


亮太「最初は転ぶかもしれないな」


知子「その辺も含めてテストよ」


 その場にいる誰もが、ごく普通の反応をしていた。


 VR初心者。


 Lv1。


 アシストOFF。


 ならば最初はまともに動けなくても不思議ではない。


 少しずつ操作を覚えていけばいい。


 そんな認識だった。


 ただ一人。


 母さんだけは、昨日から見ている俺の動きを思い出していた。


知子「……まあ、普通にはならない気もするけど」


亮太「何か言ったか?」


知子「いいえ。何でもないわ」


 そして自宅では。


 初期設定を終えた俺とシルフィアが、VR機器を前にして話していた。


シルフィア「隼人様」


隼人「ん?」


シルフィア「また、一緒に冒険できますね」


 その言葉に、俺は少しだけ目を細めた。


 かつての冒険は命懸けだった。


 今日生き残っても、明日生きている保証などなかった。


 だが、今度は違う。


隼人「ああ」


 俺は笑った。


隼人「今度は楽しむための冒険だ」


シルフィア「はい!」


 こうして。


 剣士《ミナト》Lv1。


 魔法使い《シルフィー》Lv1。


 二人のプレイヤーが誕生した。


 運営から見れば、ゲームを始めたばかりの初心者が二人。


 ただし、その中身は。


 一人が魔王を討伐した帰還勇者。


 もう一人が、その勇者と長年戦場を駆け抜けてきた異世界の王女。


 そして二人とも。


 自分たちの二十年間の経験が、このゲームでどこまで通用するのか。


 まだ知らなかった。

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