第39話 南街道の依頼達成と、冒険者ギルドからの新情報
ビッグスライムとの戦闘を終えた俺――《ミナト》たちは、南街道沿いの草原で休憩を取っていた。
今回の依頼は《スライム Lv3》八匹の討伐。すでに五匹を倒しているため、残りは三匹だ。
ただ、先ほど遭遇した《ビッグスライム Lv5》との戦闘で、シルフィーとユウキのMPがそれなりに減っていた。
「二人とも、MPは大丈夫か?」
俺が尋ねると、シルフィーはステータス画面を確認した。
「はい。少し回復しましたが、まだ余裕があるとは言えませんね」
「私も回復魔法を使ったから、ちょっと減ってるかな」
ユウキも自分のステータスを確認している。
「だったら、もう少し休んでから行こう。無理に急ぐ必要はないからな」
俺はそう言って、周囲を見渡した。
街道の向こうには、夕暮れが近づいた草原が広がっている。風に揺れる草の音が聞こえるだけで、今のところ魔物の気配はなかった。
異世界で冒険していた頃も、戦闘の合間にはこうして休憩を取っていた。
あの頃は命が懸かっていたが、ゲームの中でも油断すれば戦闘不能になる。経験値や装備のことを考えても、慎重に行動するに越したことはない。
「そういえば、隼人」
隣に座っていたシルフィーが、俺へ顔を向けた。
「先ほどのビッグスライムですが、通常のスライムより魔力が強かったように感じました」
「ああ。俺も気になっていた」
俺はアイテム欄から《大型スライムの核》を取り出した。
手のひらに収まる青い結晶は、光を受けて淡く輝いている。
「この素材も普通のスライムの核とは違う。ギルドに持ち込めば、何か分かるかもしれないな」
「うん! もしかしたら珍しいアイテムかも!」
ユウキが興味深そうに覗き込む。
「そうだといいな。ただ、今は依頼を終わらせよう」
十分に休憩を取った俺たちは、再び南街道沿いを歩き始めた。
しばらく進むと、草むらの近くに二匹のスライムを発見した。
「いたね!」
ユウキが小声で知らせてくれる。
「ああ。今度は普通のスライムだな」
俺は《鋼鉄の片手剣》を抜き、シルフィーへ視線を向けた。
「俺が一匹を引きつける。もう一匹はシルフィーに任せていいか?」
「はい。問題ありません」
「ユウキは後方で支援を頼む」
「了解!」
俺は一匹目のスライムへ接近した。
こちらに気づいたスライムが跳びかかってくるが、動きはすでに見慣れている。
半歩横へ移動して攻撃をかわし、着地した瞬間に剣を振り下ろした。
『HIT』
続けて二撃目を加えると、スライムは光の粒子となって消えた。
『《スライム Lv3》を討伐しました』
一方、シルフィーは《ストーンバレット》で相手の動きを止め、ユウキの《ホーリーライト》と連携して倒していた。
『討伐進捗:7/8』
「あと一匹だね!」
ユウキが嬉しそうに笑う。
「ああ。最後まで気を抜かずにいこう」
俺たちは周囲を確認しながら、街道沿いを進んだ。
やがて、小さな岩場の近くで最後の一匹を発見した。
今度は俺が前衛で注意を引きつけ、シルフィーが魔法で援護する。ユウキは周囲を警戒し、別の魔物が近づいてこないか確認してくれた。
スライムの跳躍をかわし、俺が剣を振り下ろす。
『《スライム Lv3》を討伐しました』
『討伐進捗:8/8』
『依頼達成条件を満たしました』
「やったー! 依頼達成!」
ユウキが両手を上げて喜んだ。
シルフィーも微笑む。
「無事に終わりましたね」
「ああ。じゃあ、街へ戻ろう」
俺たちはドロップアイテムを回収し、始まりの街へ引き返した。
途中、先ほど発見した草原の移動痕跡をもう一度確認したが、新しい魔物の姿はなかった。
念のため、地図に記録した位置を確認しておく。
ギルドへ報告すれば、調査の参考になるかもしれない。
街へ戻った頃には、ゲーム内の空が夕焼けに染まっていた。
冒険者ギルドへ入ると、受付にはリーナがいた。
「お帰りなさい、ミナトさん。皆さんもお疲れさまでした」
「ただいま。スライム八匹の討伐を終えたよ」
俺が依頼の達成記録を提示すると、リーナは笑顔で確認してくれた。
「はい、確かに確認できました。依頼達成です!」
報酬と経験値が加算され、俺たちのステータス画面に通知が表示された。
『経験値を獲得しました』
しかし、今回もレベルアップには至らなかった。
「うーん、Lv5まではもう少しかかりそうだね」
ユウキが少し残念そうに呟く。
「まあ、焦らず進めよう。経験値は確実に増えているからな」
俺がそう答えると、シルフィーも頷いた。
「はい。今のうちに連携を磨くことも大切です」
依頼の報告を終えたところで、俺はアイテム欄から《大型スライムの核》を取り出した。
「それと、今日は通常のスライムとは別に、ビッグスライムを倒したんだ」
「ビッグスライム、ですか?」
リーナの表情が少し変わった。
「ああ。Lv5だった。これがドロップした素材なんだけど、何か分かるかな?」
俺が結晶を差し出すと、リーナは慎重に受け取った。
「こちらは大型スライムの核ですね。通常のスライムより魔力を多く含む素材として知られています」
「珍しいものなのか?」
「素材としては一定の価値があります。ただ、南街道の浅い草原でビッグスライムが確認されることは、それほど多くありません」
リーナは記録用の書類を取り出した。
「出現した場所を教えていただけますか?」
「もちろん。それと、その近くに何かが移動したような痕跡もあったんだ」
俺は地図を開き、発見地点を示した。
リーナは真剣な表情で記録していく。
「ありがとうございます。最近、北街道でも大型の魔物らしき痕跡が見つかっていますので、こちらもギルドマスターへ報告いたします」
「北街道の件は、まだ調査中なのか?」
「はい。現在、経験豊富な冒険者による調査隊の準備が進められています」
なるほど。ジェイドも慎重に対応しているようだ。
その時、ギルドの奥から聞き覚えのある声が響いた。
「ミナト、ちょうどいいところに来たな!」
振り返ると、ギルドマスターのジェイドがこちらへ歩いてきた。
「ジェイドさん。何かあったのか?」
「ああ。お前たちにも関係する話だ」
ジェイドは俺たちを近くのテーブルへ案内した。
「東草原で発見された地下通路について、専門の調査員から新しい報告が届いた」
俺は思わず身を乗り出した。
「地下通路の調査が進んだのか?」
「入口周辺の安全確認が進んだ段階だ。奥まではまだ調べられていないが、あの場所が自然にできた洞穴ではないことは分かった」
「人工的に造られた通路、ということですか?」
シルフィーが尋ねる。
「そうだ。内部には古い石組みがあり、ゴブリンたちが掘ったものとは考えにくい」
ジェイドは一枚の地図を広げた。
そこには東草原の拠点と、地下へ続く通路の入口が記されていた。
「さらに、入口付近にあった黒い石から、通常とは異なる魔力反応が確認されている」
「その魔力が魔物の移動に関係している可能性は?」
俺が尋ねると、ジェイドは首を横に振った。
「まだ分からん。北東の森林で確認されている魔力の変化との関連も、現時点では不明だ」
俺は地図を見つめながら考え込んだ。
古い石組み、地下通路、特殊な魔力を帯びた黒い石。
どれも気になる情報だ。
「今後はどうするんだ?」
「まずは入口周辺の調査を完了させる。その後、安全が確認できれば、内部探索のための冒険者を募集する予定だ」
ジェイドはそこで言葉を区切り、俺たち三人を見た。
「ただし、参加には一定以上のレベルが必要になるだろう。少なくとも今のLv4では、まだ危険だ」
「なるほどな」
俺は納得して頷いた。
異世界でどれほど経験を積んでいても、今のゲーム内ステータスでは限界がある。
未知の地下遺構へ挑むなら、十分な準備が必要だ。
ユウキは少し興奮した様子で俺を見た。
「ねえ、ミナト! もしかして、あそこがダンジョンだったりするのかな?」
「可能性はあるな。でも、まだ決まったわけじゃない」
シルフィーも微笑んだ。
「もし探索できるようになったら、三人で挑戦してみたいですね」
「ああ。そのためにも、まずはLv5を目指そう」
俺がそう答えると、二人は嬉しそうに頷いた。
ジェイドはそんな俺たちを見て、満足そうに笑った。
「いい心がけだ。準備を怠らなければ、いずれ挑戦する機会もあるだろう」
こうして、俺たちは新たな目標を手に入れた。
東草原で発見された謎の地下通路。その先に何が待っているのか、今はまだ分からない。
だが、もしそこが未知のダンジョンなら、きっと新しい冒険が始まるはずだ。
俺は隣に立つシルフィーとユウキを見た。
「よし。次の目標はLv5だな」
「うん! 頑張ろう!」
「はい、隼人。私も楽しみです」
三人で笑い合いながら、俺たちはギルドを後にした。
始まりの街での冒険は、少しずつ次の段階へ進もうとしていた。




