第34話 Lv4になった帰還勇者と、新たな装備
北街道のウルフ討伐を終えた俺――《ミナト》たちは、冒険者ギルドを出て中央広場へ向かっていた。
今回の依頼で俺、シルフィー、ユウキの三人は揃ってLv4になった。ステータスも上昇し、これまでより少しだけ戦闘に余裕が生まれそうだ。
「ねえ、ミナト。せっかくレベルが上がったんだから、新しい装備を見に行かない?」
ユウキが嬉しそうに提案してきた。
「そうだな。今の装備にも慣れてきたし、一度武器屋を覗いてみるか」
俺が頷くと、シルフィーも賛成してくれた。
「私も杖を見てみたいです。今の魔法でも十分に戦えますが、少しでも威力や魔力効率が良くなれば助かりますから」
俺たちは広場の近くにある武器屋へ向かった。
店の扉を開けると、金属を磨く音が聞こえてきた。店内には片手剣や両手剣、斧、盾などが並び、奥には魔法使い用の杖も置かれている。
「いらっしゃい! 今日は何を探してるんだ?」
店主の男が気さくに声をかけてきた。
「俺たち、Lv4になったところなんだ。今の装備より少し性能のいいものがないかと思ってね」
「なるほどな。なら、初心者向けの装備から一段上のものを見てみるといい」
店主はそう言うと、壁に掛けられた剣を一本取り出した。
「こいつは《鋼鉄の片手剣》だ。軽鉄の剣より少し重いが、そのぶん攻撃力が高い。扱えるなら悪くないぞ」
俺は許可を得て剣を手に取り、重さを確かめた。
確かに今使っている《軽鉄の片手剣》より重量がある。しかし、重心の位置は悪くなく、片手でも十分に扱えそうだった。
「……なるほど。振りやすい剣だな」
軽く構えを取ってみると、店主が感心したように目を細めた。
「おっ、いい構えだな。剣術の経験があるのか?」
「まあ、少しだけ」
異世界で二十年間剣を振っていたとは言えないので、曖昧に答えておく。
すると、ユウキが小さく笑った。
「少しだけ、ねえ……」
「何だよ、その顔は」
「別に?」
ユウキは楽しそうに笑っていた。
店主はそんな俺たちのやり取りを見ながら、別の剣も取り出した。
「こっちは《鋼鉄の長剣》だ。威力は高いが、片手剣より扱いにくい。今のレベルなら無理に選ぶ必要はないな」
俺は二本を比較し、最終的に《鋼鉄の片手剣》を選ぶことにした。
剣術では威力だけでなく、取り回しや間合いの調整も重要になる。特に今の俺は、ゲーム内のステータスに合わせた戦い方をする必要がある。
「これを買おう」
「毎度あり!」
店主は嬉しそうに笑い、購入手続きを進めてくれた。
続いてシルフィーが杖を見始めた。
「こちらの杖は、どのような性能なのでしょうか?」
彼女が手に取ったのは、先端に小さな青い魔晶石が取り付けられた《魔晶石の杖》だった。
「それは魔法攻撃力が少し上がる杖だな。初級魔法を使う魔法使いには人気があるぞ」
シルフィーは杖を構え、感触を確かめた。
「魔力の流れを補助する装備なのですね。興味深いです」
異世界で魔法使いとして長く冒険していた彼女にとっても、ゲーム内の魔法装備は新鮮らしい。
「隼人、こちらを購入してもよろしいでしょうか?」
「もちろん。シルフィーが使いやすいなら、それが一番だ」
「ありがとうございます」
シルフィーは嬉しそうに微笑み、《魔晶石の杖》を購入した。
最後にユウキが僧侶用の杖を選ぶことになった。
「うーん、どれがいいんだろう?」
悩んでいるユウキへ、店主が一本の杖を勧めた。
「僧侶なら《祈りの杖》はどうだ? 回復魔法の効果が少し上がるぞ」
「回復魔法が強くなるの?」
「ああ。仲間を守る僧侶には便利な装備だ」
ユウキは杖を手に取り、嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、これにする!」
こうして三人とも新しい武器を手に入れることができた。
武器屋を出ると、ユウキは早速装備画面を開いていた。
「これで少しは強くなれたかな?」
「ああ。ただ、装備が良くなっても油断は禁物だぞ」
「分かってるって!」
ユウキが笑顔で答える。
その様子を見ていたシルフィーが、ふと思い出したように口を開いた。
「隼人、新しい装備の性能を確かめるのでしたら、街の訓練場へ行ってみませんか?」
「いい考えだな。実戦でいきなり使うより、安全な場所で慣らした方がいい」
俺たちは冒険者ギルドに併設された訓練場へ向かった。
訓練場では何人かのプレイヤーが木剣を振ったり、魔法の練習をしたりしていた。
俺は空いている場所を見つけ、新しく購入した《鋼鉄の片手剣》を抜いた。
まずは基本の素振りから始める。
上段からの振り下ろし、横薙ぎ、突き。そして、足運びを組み合わせた連続動作。
剣の重さに合わせて身体の使い方を微調整していく。
異世界では長年使い慣れた剣があったが、こちらでは武器を替えるたびに感覚を確かめる必要がある。
「……よし。悪くないな」
何度か振ったところで、俺は剣を構え直した。
すると、近くで練習していたプレイヤーたちがこちらを見ていることに気づいた。
「あれ、ミナトじゃないか?」
「配信で見たことあるぞ。あの剣士だ」
「やっぱり動きが違うな……」
そんな声が聞こえてきたが、俺は気にせず練習を続けた。
一方、シルフィーは訓練用の的に向かって魔法を試していた。
「《ファイアボール》!」
杖の先端から火球が放たれ、的へ命中する。
表示されたダメージを確認したシルフィーは、満足そうに頷いた。
「以前より少し威力が上がっていますね」
続いてユウキも《祈りの杖》を使い、回復魔法の練習を始めた。
「《ヒール》!」
訓練用の回復対象へ光が降り注ぎ、回復量が表示される。
「わあ! 前より回復量が増えてる!」
ユウキが嬉しそうに声を上げた。
「これなら、みんなが怪我しても前よりたくさん回復できるね!」
「頼もしいな。ただし、MPの管理も忘れないように」
「うん!」
三人でしばらく訓練を続けていると、訓練場の入口から一人の男性が入ってきた。
左頬に傷のある、がっしりとした体格の男。
冒険者ギルドのギルドマスター、ジェイドだった。
「おう、ミナト。ここにいたか」
「ジェイドさん。どうしたんだ?」
俺が剣を鞘へ戻すと、ジェイドは近づいてきた。
「リーナから話を聞いた。北街道でも魔物の大規模な移動を確認したそうだな」
「ああ。八匹以上のウルフが、北東から西へ向かって走っていた」
俺が説明すると、ジェイドは難しい顔になった。
「東草原の地下通路についても調査を進めているが、まだ詳しいことは分かっていない。どうも最近、街の周辺で妙なことが続きすぎている」
「俺もそう思う」
ジェイドはしばらく考え込んだ後、俺たちへ視線を向けた。
「そこで相談なんだが、今度、街道周辺の安全確認を行う予定でな。お前たちにも協力してもらえないか?」
「安全確認?」
「ああ。危険な地域へ踏み込ませるつもりはない。街道沿いの魔物の出現状況を調べ、異変があれば報告してもらう仕事だ」
俺はシルフィーとユウキへ目を向けた。
二人とも真剣な表情で頷いている。
「分かった。俺たちにできる範囲なら協力するよ」
ジェイドは満足そうに笑った。
「助かる。詳しい依頼内容は明日、ギルドで説明しよう」
そう言い残し、ジェイドは訓練場を後にした。
俺は新しい剣の柄へ手を添えながら、静かに息を吐いた。
東草原の地下通路、各地で続く魔物の移動。そして、ギルドによる新たな調査。
どうやら、俺たちの冒険も少しずつ新しい段階へ進もうとしているらしい。
「隼人、明日も忙しくなりそうですね」
シルフィーが微笑みながら声をかけてくる。
「ああ。でも、無理はしないさ」
俺がそう答えると、ユウキも元気よく頷いた。
「うん! 三人で頑張ろう!」
こうして俺たちは新しい装備を手に、次の冒険へ備えることになった。




