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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第31話 帰還勇者の高校生活と、妻の新たな挑戦

VRMMOからログアウトした俺――皆川隼人は、ベッドの上でゆっくりと身体を起こした。


時計を見ると、夕食まではまだ少し時間がある。東草原のゴブリン討伐は無事に終わったものの、拠点の奥で発見された地下通路のことが頭から離れなかった。


あの黒い石と薄紫色の光。異世界で二十年間冒険してきた俺には、どうしても気になるものがあった。


とはいえ、今の俺は十六歳の高校生だ。ゲームの中では剣士として冒険しているが、現実世界では学校へ通い、勉強もしなければならない。


「……まずは宿題か」


机の上に置かれた数学の教科書を見て、思わずため息が漏れた。


魔王軍との戦いなら多少の無茶もできるが、数学の問題となると話は別だ。異世界では剣術や魔法の研究ばかりしていたため、日本の高校で習う内容はすっかり忘れてしまっている。


教科書を開いてしばらくすると、部屋の扉が軽くノックされた。


「隼人、入ってもよろしいですか?」


「ああ、いいぞ」


扉を開けて入ってきたのは、妻のシルフィアだった。ゲーム内の魔術師のローブではなく、淡い水色のブラウスと膝丈のスカートを身につけている。


日本へ来てまだ日が浅いというのに、ずいぶん現代の服装にも慣れてきたようだ。


「お義母様から夕食のお手伝いを頼まれましたので、その前に隼人の様子を見に来ました」


「俺は宿題と格闘中だよ」


そう言って教科書を見せると、シルフィアは興味深そうに覗き込んだ。


「数学ですか。こちらの世界の学問は、まだ分からないことが多いですね」


「俺も二十年ぶりだからな。正直、かなり苦戦してる」


シルフィアはくすりと笑うと、俺の隣へ腰を下ろした。


「異世界では難しい魔法陣の計算も簡単にこなしていたのに、不思議ですね」


「魔法陣の計算と高校数学は別物なんだよ」


俺が苦笑すると、シルフィアは楽しそうに微笑んだ。


その後、彼女は俺の肩へそっと寄り添った。


「でも、こうして隼人と穏やかに暮らせるのは幸せです。以前は、いつ魔王軍が攻めてくるか分からない日々でしたから」


「そうだな。今は普通の生活を楽しもう」


俺がそう答えると、シルフィアは嬉しそうに頷いた。


しばらくして、階下から母さんの声が聞こえてきた。


「シルフィアちゃーん! そろそろ夕飯の準備をお願いできる?」


「はい! 今参ります!」


シルフィアは立ち上がり、俺へ微笑みかけた。


「それでは、隼人。お勉強、頑張ってくださいね」


「ああ。夕飯までには終わらせるよ」


そう約束して、俺は再び教科書へ向き直った。


翌朝、いつものように学校へ向かうと、通学路の途中で幼馴染の敷谷優花と合流した。


「おはよう、隼人!」


「おはよう、優花」


優花は元気よく挨拶すると、俺の隣へ並んだ。


「昨日のゴブリン討伐、すごかったね。あのホブゴブリン、私たちじゃまだ勝てないよね?」


「今のレベルなら厳しいだろうな。攻撃を避けられても、倒すまでには時間がかかるだろうし」


「やっぱりレベル上げが必要かあ」


優花は少し残念そうに肩を落としたが、すぐに顔を上げた。


「でも、私も少しずつ強くなってるよね?」


「ああ。最初に比べたら、ずいぶん動けるようになったぞ」


「本当? よかった!」


優花は嬉しそうに笑った。


ゲームを始めたばかりの頃は、魔物が近づくだけで慌てていた。それが今では敵の動きを予測し、仲間を守るために魔法を使えるようになっている。


俺としても、彼女の成長を見るのは楽しかった。


学校へ到着すると、教室では数人のクラスメイトがスマートフォンを囲んで盛り上がっていた。


「おっ、ミナト先生が来た!」


男子生徒の一人が俺に気づき、声を上げた。


「昨日のゴブリン討伐、見たか? ホブゴブリンめちゃくちゃ強かったよな!」


「ああ、見たよ」


「それでさ、最後に見つかった地下通路! あれ絶対ダンジョンだろ!」


別の男子生徒も会話に加わった。


「俺もそう思う。あの黒い石、何かのイベントアイテムじゃないか?」


「まだ分からないだろ。ギルドも調査中らしいし」


俺がそう答えると、クラスメイトたちはさらに盛り上がった。


「でも、ミナトなら攻略できそうじゃね?」


「いや、俺たちまだLv3だからな。まずは普通にレベルを上げるよ」


その言葉に、優花も頷いた。


「そうそう! 私たち、まだ初心者なんだから!」


すると、男子生徒の一人が笑いながら言った。


「初心者って言っても、ミナトの剣術はどう見ても初心者じゃないだろ!」


教室に笑い声が広がる。


俺は苦笑しながら自分の席へ向かった。


まさか異世界で身につけた剣術が、現代日本の学校でこんなに話題になるとは思っていなかった。


放課後、俺は優花と一緒に帰宅した。


玄関を開けると、台所の方から美味しそうな匂いが漂ってきた。


「ただいま」


「お邪魔しまーす!」


俺たちが声をかけると、エプロン姿のシルフィアが顔を出した。


「お帰りなさい、隼人。優花さんもいらっしゃいませ」


その手には、お玉が握られている。


「シルフィア、料理してたのか?」


「はい。今日はお義母様に教えていただいたカレーライスを、一人で作ってみたのです」


「おお、すごいじゃないか!」


シルフィアは少し照れたように笑った。


「まだ味付けには自信がありませんけれど、隼人に食べていただきたくて」


その言葉を聞いて、俺は思わず笑顔になった。


「それなら楽しみにしてるよ」


優花も興味深そうに鍋を覗き込んだ。


「いい匂い! シルフィアさん、もう日本の料理も作れるんだね!」


「まだ練習中です。優花さんも、よろしければ味見をしていただけませんか?」


「いいの? やった!」


シルフィアは小皿にカレーを少し取り分け、優花へ渡した。


優花が一口食べると、ぱっと表情を明るくした。


「おいしい! これ、すごくおいしいよ!」


「本当ですか?」


「うん! お店で食べるカレーみたい!」


シルフィアは嬉しそうに微笑んだ。


俺も一口味見をさせてもらう。


香辛料の香りと野菜の甘みがちょうどよく、肉も柔らかく煮込まれていた。


「うん、うまい。シルフィア、すごいな」


「ありがとうございます、隼人!」


妻が嬉しそうに笑う姿を見ていると、俺まで幸せな気持ちになってくる。


向こうの世界では、シルフィアは王女でありながら冒険者として俺と一緒に旅をしていた。料理を作ることもあったが、日本の家庭料理はまだ新鮮なのだろう。


その後、俺たちは母さんが帰宅するまでリビングで過ごすことにした。


優花はソファに座り、スマートフォンでゲームの掲示板を確認していた。


「あっ、隼人! 昨日の地下通路について新しい書き込みがあるよ!」


「何か分かったのか?」


「ううん、まだ調査中みたい。でも、黒い石の周囲で魔物の出現数が増えているって噂があるんだって」


俺は少し考え込んだ。


魔力の濃い場所。


魔物の移動。


そして、ゴブリン拠点の地下通路。


これらが本当につながっているのかは分からない。


だが、もし何らかの異変が進行しているのなら、冒険者ギルドもいずれ本格的な調査を始めるだろう。


「今は情報待ちだな。俺たちは焦らずレベルを上げよう」


俺がそう言うと、優花は元気よく頷いた。


「うん! 次はLv4を目指そう!」


シルフィアも俺たちの会話を聞き、穏やかに微笑んだ。


「では、今夜も三人で冒険ですね」


「ああ。でも、その前に夕飯だな」


俺がそう答えると、二人は楽しそうに笑った。


異世界では、魔王を倒すために二十年間戦い続けた。


けれど今は、学校へ通い、家族と食事をし、仲間と一緒にゲームを楽しんでいる。


そんな当たり前の日常が、俺には何よりも大切だった。


そして、この穏やかな時間の先に、また新しい冒険が待っているのだろう。


俺はそう思いながら、シルフィアの作ってくれたカレーの香りに包まれていた。


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