第19話 ギルドマスターからの呼び出し
《ワイルドドッグ》六体の討伐を終えた俺――《ミナト》たちは、東街道を始まりの街へ向かって歩いていた。
依頼は無事達成。三人とも大きな怪我はなく、HPとMPにもまだ余裕がある。何より今回の戦闘では、ユウキが自分で敵を観察し、移動先を予測して《ホーリーライト》を当てられるようになった。
ゲームを始めたばかりの頃は、目の前へ飛び出してきたホーンラビットに慌てていたのだから、かなりの進歩だと思う。
もっとも、本人は別のことが気になっているらしい。
ユウキ「……六百八十七人」
ミナト「まだ見てるのか?」
ユウキ「見るよ! だってもうすぐ七百人だよ?」
視界の端には、《LIVE配信》の情報が表示されている。
『現在の視聴者数:687』
その下を、相変わらず大量のコメントが流れていた。
男性視聴者『おかえりー』
女性視聴者『ユウキちゃん最後の魔法よかった』
女性僧侶『最初よりかなり上手くなったね』
男性剣士『ミナトの戦い方参考になるけど真似できない』
女性魔法使い『シルフィーちゃんの位置取りも見てて面白い』
男性視聴者『夫婦の馴れ初め聞きに来ました』
ミナト「最後のは無視しよう」
シルフィー「なぜですか?」
ミナト「シルフィーが答えると全部話しそうだから」
シルフィー「別に隠すようなことではありませんよ?」
ミナト「異世界の第二王女だったところから説明する気か?」
シルフィー「必要でしたら」
ユウキ「ストップ! シルフィー、今はゲームの配信だから!」
ユウキが慌てて止める。
シルフィーは少し不思議そうだったが、素直に頷いた。
俺たちにとっては本当にあった出来事でも、視聴者からすれば壮大な設定を作り込んでいるようにしか見えないだろう。それなら今は、それでいい。
俺自身、信じてもらおうとは思っていない。
それよりも。
ミナト「ユウキ」
ユウキ「何?」
ミナト「さっきの最後の一匹、よかったぞ」
ユウキ「……本当?」
ミナト「ああ。最初の頃より撃つのを待てるようになった」
魔法を当てようとして焦ると、どうしても敵の現在位置を狙ってしまう。相手が止まっているならそれでもいいが、走っている敵に同じことをすれば、魔法が到達する頃にはそこにいない。
だから敵を見る。
速度を見る。
進行方向を見る。
そして、敵がこれから来る場所へ魔法を置く。
シルフィーなら当たり前のようにやることだが、ユウキはまだゲームを始めたばかりだ。
ユウキ「ミナトとシルフィーを見てたからかな」
シルフィー「私たちを?」
ユウキ「うん。二人とも敵が動いてから攻撃するんじゃなくて、動く前から次に何をするか決めてる感じがする」
俺とシルフィーは顔を見合わせた。
意外だった。
もうそこまで見ていたのか。
ミナト「よく見てるな」
ユウキ「ミナトに敵を見ろってずっと言われてるからね」
少し得意そうにユウキが笑う。
俺も自然と笑った。
教えたことを覚えてくれるというのは、思っていた以上に嬉しい。
向こうの世界でも新人冒険者や兵士へ戦い方を教えたことはある。しかし、あの頃は失敗が死につながった。
教える側にも余裕なんてなかった。
でも今は違う。
これはゲームだ。
失敗できる。
やり直せる。
楽しみながら覚えられる。
俺が本当に欲しかった冒険は、もしかするとこういうものだったのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、始まりの街の城壁が見えてきた。
ユウキ「帰ってきた!」
ミナト「依頼報告までが依頼だぞ」
ユウキ「分かってます、先生」
ミナト「先生はやめろ」
シルフィー「では師匠でしょうか?」
ミナト「もっとやめろ」
女性視聴者『先生w』
男性剣士『ミナト先生の初心者剣術講座』
女性僧侶『ユウキちゃんの先生なら合ってる』
男性視聴者『シルフィーには?』
シルフィー「夫です」
ミナト「即答するな」
コメント欄が一気に流れた。
どうやら俺が何を言っても、この話題から逃げるのは難しいらしい。
東門を通過し、大通りへ戻る。
街の中には多くのプレイヤーがいた。こちらを見ている者もいるが、最初は特に気にしていなかった。
ところが。
男性プレイヤー「あれ?」
すれ違った男性が俺たちを見る。
男性プレイヤー「もしかして配信してる三人?」
ユウキ「えっ?」
女性プレイヤー「本当だ。ミナトとシルフィーとユウキだ」
俺は足を止めた。
ミナト「俺たちを知ってるのか?」
男性プレイヤー「今配信見てたから」
そう言って男性が笑う。
男性プレイヤー「ウルフ戦のところから見てる。面白かったよ」
ミナト「ありがとう」
女性プレイヤー「ユウキちゃん、最後のホーリーライト上手かったよ」
ユウキ「ありがとうございます!」
ユウキが嬉しそうに頭を下げる。
その間にもコメントが流れる。
女性視聴者『現地遭遇いいな』
男性視聴者『同じ街にいるの羨ましい』
男性剣士『俺も探そうかな』
ミナト「いや、依頼の邪魔にならない範囲で頼む」
男性視聴者『真面目w』
配信というものは妙だ。
さっきまで知らなかった相手が俺たちの名前を知っている。
俺たちが何をしたのかも知っている。
向こうの世界でも魔王討伐が近づく頃には顔を知られていたが、それは長い年月をかけて積み上げた結果だった。
こちらでは数時間。
技術の違いというのは恐ろしい。
やがて冒険者ギルドが見えてきた。
だが。
ミナト「……?」
俺は扉へ手をかける前に違和感を覚えた。
行きに比べて人が多い。
特に掲示板周辺。
冒険者たちが集まっている。
扉を開け、中へ入る。
すぐに理由が分かった。
『《緊急調査:東草原ゴブリン集団》』
『調査段階――終了』
『危険度――判定中』
『東草原外縁部・林周辺を立入注意区域に指定』
『冒険者ギルドによる対応方針を協議中』
ユウキ「変わってる……」
シルフィー「調査が終了したのですね」
俺たちがワイルドドッグを倒している間に、状況が進んだらしい。
掲示板の前では他のプレイヤーたちも話している。
男性戦士「二十体以上いるって噂だぞ」
女性剣士「ソルジャーも複数らしい」
男性魔法使い「レイドになるんじゃないか?」
男性戦士「まだ分からないだろ」
情報が広まり始めている。
俺は掲示板を見ながら考える。
ゴブリン二十体以上。
複数のソルジャー。
さらに運営側のことは知らないが、俺たちが最初に遭遇したときの状況を考えると、あのLv4が群れの最上位とは限らない。
ミナト「……指揮個体がいるかもしれないな」
ユウキ「指揮個体?」
ミナト「ああ」
俺たちが遭遇したゴブリンソルジャーは、普通のゴブリン二体を従えているように見えた。
だがソルジャーが複数いるなら。
それらをまとめる存在がいてもおかしくない。
シルフィー「ゴブリンの上位種ですか?」
ミナト「可能性はある」
ユウキ「二人の世界にもいたの?」
ミナト「いた」
ゴブリン。
ゴブリンソルジャー。
ホブゴブリン。
ゴブリンメイジ。
群れによって構成は違った。
そして、規模が大きくなれば。
ミナト「キングみたいな個体が出ることもあった」
コメント欄が反応する。
男性視聴者『ゴブリンキング?』
女性視聴者『このゲームにいるの?』
男性剣士『攻略情報にはまだ出てないぞ』
男性視聴者『また経験談みたいに喋ってる』
ユウキ「ミナト、配信」
ミナト「あ」
またやった。
どうも戦いや魔物の話になると、向こうの世界での経験が自然に出てしまう。
シルフィー「ですが、可能性として考えておくことは悪くありません」
ミナト「そうだな」
ゲーム内のゴブリンが、向こうの世界と同じとは限らない。
だから決めつけない。
ただし。
可能性は捨てない。
それでいい。
俺たちは先に依頼報告を済ませるため、受付へ向かった。
いつもの場所。
エルフの受付嬢が俺たちに気づく。
リーナ「ミナトさん、シルフィーさん、ユウキさん。お帰りなさいませ」
ユウキ「ただいま!」
リーナ「《街道の安全確保》ですね?」
ミナト「ああ。ワイルドドッグ六体、討伐完了だ」
三人のギルドカードを渡す。
リーナが記録を確認する。
リーナ「はい。討伐数六体。全員の帰還も確認しました。依頼達成です」
『QUEST CLEAR』
『《街道の安全確保》を達成しました』
『報酬を獲得しました』
『経験値を獲得しました』
身体の中に、わずかな変化。
だがレベルアップではない。
次までには、もう少し経験値が必要らしい。
ユウキ「Lv3にはならなかったね」
ミナト「そんなに簡単には上がらないんだろ」
シルフィー「次のお楽しみですね」
報酬を確認する。
これなら消耗品を補充しても余裕がある。
俺が次の予定を考えていると。
リーナ「それと、皆さん」
リーナの声が少し変わった。
ミナト「どうした?」
リーナ「ギルドマスターがお呼びです」
ユウキ「ギルドマスター?」
シルフィー「私たちをですか?」
リーナ「はい。《ジェイド》ギルドマスターが、三名全員とお話をしたいとのことです」
周囲のプレイヤーがこちらを見る。
当然。
配信のコメント欄も。
男性視聴者『ギルマス!?』
女性視聴者『何したのこの三人』
男性剣士『ゴブリンの件じゃない?』
女性魔法使い『イベント進行?』
男性視聴者『配信切らないでくれ』
俺も理由は分かっていた。
ミナト「ゴブリンか」
リーナ「はい」
やはり。
リーナ「皆さんが最初に持ち帰った情報と、調査隊が確認した状況について、直接お話を伺いたいそうです」
ミナト「分かった」
俺はすぐに答えた。
情報を持ち帰った以上。
必要なら説明するべきだ。
ユウキ「ギルドマスターって偉い人だよね?」
ミナト「普通はな」
ユウキ「緊張してきた……」
シルフィー「大丈夫ですよ」
ユウキ「シルフィーは王女様だったから平気なんでしょ?」
シルフィー「そうかもしれません」
ユウキ「否定してほしかった!」
リーナに案内され、俺たちは受付の奥へ向かう。
一般の冒険者が入る場所とは違う。
廊下。
階段。
二階。
そして一番奥。
重厚な木製の扉。
リーナ「こちらです」
扉の前で。
俺は足を止めた。
ミナト「待って」
リーナ「はい?」
俺は視界の端を見る。
『現在の視聴者数:814』
八百人。
さすがに。
ミナト「このまま配信していいのか?」
ユウキ「あ」
ユウキも気づいた。
ギルドマスターとの話。
場合によっては、まだ一般公開されていない情報が含まれる可能性がある。
俺たちの都合だけで流していいものではない。
ミナト「リーナ。俺たち、今《LIVE配信》っていう機能を使ってるんだけど」
リーナ「LIVE配信……ですか?」
やはりNPC側には直接認識されない機能なのだろう。
ミナト「簡単に言うと、俺たちが見たり聞いたりしているものを、ほかの冒険者も見られる状態になってる」
リーナ「まあ」
ミナト「ギルドマスターとの話を、そのまま流しても大丈夫か?」
リーナは少し考える。
リーナ「少々お待ちください」
扉をノックする。
リーナ「ジェイド様。ミナトさんたちについて、一点確認がございます」
ジェイド「何だ?」
中から低い声。
リーナが事情を説明する。
少しして。
ジェイド「構わん」
返事があった。
ユウキ「いいんだ……」
ジェイド「ただし、公開できない情報についてはこちらから伏せる。それでよければ入れ」
ミナト「分かった」
よくできている。
配信機能とNPC側の会話まで想定しているのだろうか。
それとも、その場で判断しているのか。
ますますこの世界の仕組みに興味が湧いてくる。
リーナが扉を開ける。
執務室。
大きな机。
壁には地図。
棚には資料。
そして。
机の向こうに一人の男がいた。
四十代ほどに見える。
大柄。
短い髪。
左頬に古い傷。
服装は派手ではないが。
立っているだけで分かる。
強い。
ゲームのNPC相手にそんな感想を抱くこと自体、不思議なのだが。
重心。
姿勢。
視線。
無駄がない。
俺は反射的に相手の身体を観察していた。
男も。
こちらを見る。
視線が一瞬。
俺の腰の剣へ落ちる。
そして。
俺の足元。
肩。
手。
目。
……見られている。
ジェイド「なるほど」
ミナト「?」
ジェイド「いや」
男が立ち上がる。
ジェイド「俺がこの冒険者ギルドのギルドマスター、《ジェイド》だ」
ミナト「ミナト。剣士、Lv2だ」
シルフィー「シルフィーと申します。魔法使い、Lv2です」
ユウキ「ユ、ユウキです。僧侶、Lv2です」
ジェイド「知っている。今日登録したばかりの三人組だな」
ユウキ「はい」
ジェイド「座ってくれ」
俺たちは机の前の椅子へ座る。
リーナは一礼し、部屋を出た。
ジェイドが机の上へ地図を広げる。
東草原。
街道。
林。
俺たちがゴブリンソルジャーと遭遇した場所。
さらに奥。
印がいくつも付けられている。
ジェイド「まず礼を言う」
ミナト「礼?」
ジェイド「お前たちがゴブリンソルジャーとの遭遇を報告しなければ、調査はもう少し遅れていた」
ジェイドが地図の一点を指す。
ジェイド「調査隊がここで足跡を発見した」
さらに奥。
ジェイド「その先で、粗末な柵と杭を確認」
別の印。
ジェイド「周辺にゴブリン二十体以上」
ユウキ「二十……」
ジェイド「正確な数はまだ分からん。林が視界を遮っているからな」
シルフィー「《ゴブリンソルジャー》もいるのですね?」
ジェイド「複数いる」
俺は地図を見る。
やはり。
小規模な群れではない。
ジェイド「そして」
ジェイドの指が。
さらに奥へ動く。
ジェイド「調査隊が大型の影を確認した」
ミナト「種類は?」
ジェイド「不明だ」
コメント欄。
男性視聴者『大型個体きた』
女性視聴者『ボス?』
男性剣士『ゴブリンキング説ある?』
俺は地図を見る。
普通のゴブリン。
ソルジャー複数。
大型個体。
拠点。
偶然集まっただけとは考えにくい。
ミナト「組織化されてる可能性は?」
ジェイドの目が少し細くなる。
ジェイド「なぜそう思う?」
ミナト「ソルジャーが複数いる。それに柵まで作ってる」
俺は地図の印を見る。
ミナト「ただ集まってるだけなら、こんなものを作る必要はない」
ジェイド「続けろ」
ミナト「大型個体が群れをまとめているなら説明がつく。あるいは、さらに別の指揮個体がいるかもしれない」
ジェイドは黙って聞いている。
ミナト「それと」
ジェイド「何だ?」
ミナト「二十体以上っていうのは、見えた数だけだよな?」
ジェイド「そうだ」
ミナト「なら、実数はもっと多い前提で考えた方がいい」
ユウキ「え?」
ミナト「林の中なら隠れる場所はいくらでもある」
地形。
木々。
茂み。
起伏。
洞窟でもあれば、さらに増える。
ミナト「確認できた敵だけを総数だと思うのは危険だ」
ジェイドが。
しばらく俺を見る。
ジェイド「……お前、本当にLv2か?」
ミナト「表示では」
ジェイド「今日登録したばかりだな?」
ミナト「ああ」
ジェイド「以前、別の土地で冒険者をしていたのか?」
俺は少し考える。
ミナト「似たようなことを、長くやってた」
ジェイド「なるほど」
深くは聞かない。
その代わり。
ジェイドはシルフィーを見る。
ジェイド「お前も同じか?」
シルフィー「はい。ミナトとは長く一緒に冒険しておりました」
ジェイド「僧侶の嬢ちゃんは?」
ユウキ「私は今日が初めてです!」
即答。
ジェイド「……そうか」
ジェイドが少し笑った。
ジェイド「一人だけ分かりやすいな」
ユウキ「どういう意味ですか!?」
緊張が少しだけ解けた。
だが。
ジェイドはすぐ真剣な顔へ戻る。
ジェイド「今、ギルドでは対応を検討している」
ミナト「討伐?」
ジェイド「その可能性が高い」
やはり。
ジェイド「調査だけで済む段階ではなくなった。放置すれば街道へ出てくる可能性がある」
商人。
旅人。
初心者冒険者。
東街道は俺たちも何度も使っている。
あそこへ二十体以上のゴブリンが出れば危険だ。
ジェイド「ただし」
ジェイドが俺たちを見る。
ジェイド「お前たちは参加させん」
ユウキ「え?」
俺は驚かなかった。
ミナト「Lv2だから?」
ジェイド「そうだ」
当然だ。
ジェイド「お前たちが最初に発見した。情報も持ち帰った。それは評価する。だが、それと討伐へ参加できるかは別の話だ」
ミナト「正しい判断だと思う」
ユウキ「ミナト、あっさりしてるね」
ミナト「俺たち、ゴブリンソルジャー一体から撤退したばかりだぞ」
ユウキ「あ……」
情報提供者だから。
主人公だから。
イベントを発見したから。
そんな理由で危険な場所へ行く必要はない。
強くなってから行けばいい。
あるいは。
もっと強い冒険者へ任せればいい。
ジェイド「話が早くて助かる」
ジェイドが腕を組む。
ジェイド「現在、参加条件を設定している。条件を満たす冒険者を集め、必要なら複数パーティーによる討伐隊を編成する」
ユウキ「複数パーティー……」
シルフィー「レイドですね」
ジェイド「そう呼ぶ者もいるな」
クラン。
レイド。
以前リーナから聞いた。
大規模な敵を相手にするため、複数のパーティーで戦う。
いよいよ。
ゲームらしくなってきた。
俺は少しだけ楽しみになった。
参加できないのに。
いや。
参加できないからこそかもしれない。
今の俺たちでは届かない。
なら。
強くなればいい。
ジェイド「ただ」
ジェイドが俺を見る。
ジェイド「お前たちにも頼みたいことはある」
ミナト「何だ?」
ジェイド「普段通り依頼を受けろ」
ユウキ「……それだけ?」
ジェイド「それだけだ」
ジェイドが笑う。
ジェイド「初心者が初心者の仕事をする。それも街を守るために必要なことだ」
俺は。
少しだけ目を見開いた。
その言葉。
向こうの世界でも。
似たようなことを言われた。
強い冒険者が大きな仕事へ出る。
その間。
誰が薬草を採る。
誰が街道の小型魔物を倒す。
誰が荷物を運ぶ。
誰が村人の依頼を受ける。
英雄だけで世界は回らない。
冒険者一人一人。
それぞれの仕事がある。
ミナト「分かった」
ジェイド「頼む」
俺は頷いた。
ユウキも。
シルフィーも。
そのとき。
システム音。
『冒険者ギルドより新規情報が公開されました』
俺たちの視界。
そして。
始まりの街にいる全プレイヤーへ。
同じ情報が表示される。
『《緊急討伐準備:東草原ゴブリン集団》』
『冒険者ギルドは東草原外縁部に形成されたゴブリン拠点の討伐準備を開始しました』
『参加条件・開始時刻・編成については現在調整中です』
『詳細は冒険者ギルドにて後ほど公開されます』
コメント欄が。
一気に加速した。
男性視聴者『きたあああ!』
女性視聴者『緊急討伐!』
男性剣士『レイドだろこれ!』
男性戦士『参加条件早く!』
女性魔法使い『大型個体気になる』
男性視聴者『ミナトたちは?』
男性剣士『今ギルマスに参加不可って言われたな』
女性視聴者『Lv2だもんね』
男性視聴者『でも発見者なんだよな』
ユウキが少し残念そうにする。
ユウキ「見てみたかったな」
ミナト「俺も」
ユウキ「ミナトも?」
ミナト「ああ」
大規模戦闘。
ゲームではどうなるのか。
興味はある。
だが。
ミナト「だから強くなろう」
ユウキ「……うん」
ミナト「次にこういうことが起きたとき、自分たちで参加するかどうか選べるくらいに」
シルフィー「そうですね」
シルフィーが微笑む。
シルフィー「今度は魔王を倒すためではありません」
ミナト「ああ」
俺も笑う。
ミナト「楽しむために強くなろう」
ユウキ「うん!」
その言葉と同時。
『現在の視聴者数:1,037』
ユウキ「……え?」
ミナト「どうした?」
ユウキ「千人」
ミナト「何が?」
ユウキ「視聴者! 千人超えてる!」
ミナト「……いつの間に?」
シルフィー「まあ」
どうやら。
ギルドマスターとの会話。
緊急討伐の情報公開。
それらを聞きつけ。
さらに多くの人間が俺たちの配信へ集まってきたらしい。
男性視聴者『1000人おめ』
女性視聴者『おめでとう!』
男性剣士『ゴブリン発見者配信になってる』
女性魔法使い『これからも見る』
女性僧侶『ユウキちゃんの成長楽しみ』
男性視聴者『ミナト先生次何狩る?』
ミナト「先生じゃない」
思わず答える。
コメント欄が笑いで埋まった。
ジェイドまで。
何がおかしいのか分からないまま。
少し笑っていた。
こうして。
俺たちは大規模討伐の参加者には選ばれなかった。
当然だ。
まだLv2。
ゲームを始めたばかりの初心者なのだから。
だが。
俺たちが最初に見つけたゴブリンの小さな群れは。
今や。
始まりの街を巻き込む《緊急討伐》へ変わろうとしている。
そして俺たち自身も。
知らないうちに。
ただのLv2初心者パーティーでは済まないほど。
多くのプレイヤーから注目され始めていた。




