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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第18話 二十年一緒に戦った夫婦の連携

 《ワイルドドッグ討伐》。


 六体中、三体。


 残り三体。


 俺――《ミナト》たちは東街道から少し離れた草原を進んでいた。


 配信はまだ続いている。


『現在の視聴者数:438』


男性視聴者『まだ増えてる』


女性視聴者『初見です』


男性剣士『例の剣士ここ?』


女性魔法使い『シルフィーちゃん見に来た』


女性僧侶『ユウキちゃん頑張れ』


ユウキ「四百三十八人……」


 ユウキが何度目か分からない人数確認をする。


ミナト「気にしすぎじゃないか?」


ユウキ「だって四百人だよ!?」


ミナト「魔物じゃないだろ」


ユウキ「人数の基準が戦闘なんだよ!」


 そう言われても。


 四百人と言われて俺が最初に思い浮かべるのは、軍勢の規模だ。


 向こうの世界では、もっと多い敵と戦ったこともある。


 だが。


 四百人から同時に見られている。


 そう考えると、そちらの方が落ち着かない。


シルフィー「ミナト」


ミナト「ん?」


シルフィー「右前方です」


 シルフィーの声が変わった。


 俺も見る。


 草。


 低木。


 その向こう。


 小さな揺れ。


ミナト「いるな」


ユウキ「ワイルドドッグ?」


ミナト「たぶん」


 俺たちは足を止める。


 すぐには近づかない。


 まず確認。


 風向き。


 地形。


 周囲。


 逃げ道。


 そして。


 数。


ユウキ「……二匹?」


 ユウキが先に言った。


 俺は少しだけ笑う。


ミナト「正解」


ユウキ「やった」


 最初は俺やシルフィーが教えなければ、魔物がどこにいるのかさえ分からなかった。


 それが今は。


 自分から探している。


 草の揺れ。


 音。


 影。


 まだ俺たちほど早くはない。


 それでも確実に見えるものが増えている。


『《ワイルドドッグ Lv2》』


『《ワイルドドッグ Lv2》』


 二体。


 こちらにはまだ気づいていない。


ユウキ「どうする?」


ミナト「ユウキならどうする?」


ユウキ「私?」


ミナト「ああ」


 ユウキが考える。


 俺は答えを言わない。


 シルフィーも黙っている。


ユウキ「……先に一匹へ攻撃する?」


ミナト「どうやって?」


ユウキ「シルフィーの魔法」


シルフィー「私ですか?」


ユウキ「遠くから攻撃できるから」


 悪くない。


ミナト「そのあとは?」


ユウキ「二匹ともこっちに来る」


ミナト「たぶんな」


ユウキ「じゃあ……」


 また考える。


ユウキ「一匹をシルフィーが攻撃して、もう一匹をミナトが止める?」


ミナト「いいと思う」


ユウキ「本当?」


ミナト「ああ」


 ユウキの表情が明るくなる。


ミナト「じゃあ、それでやってみよう」


ユウキ「私が決めていいの?」


ミナト「三人のパーティーなんだから」


 俺だけが判断する必要はない。


 今は初心者でも。


 いつかはユウキ自身が判断しなければならない場面が来る。


 ゲームなのだから、失敗したっていい。


 そのための経験だ。


ミナト「シルフィー」


シルフィー「はい」


 それだけ。


 シルフィーが杖を構える。


 俺は剣の柄へ手を置く。


 視線。


 一瞬だけ合う。


 それで十分だった。


 シルフィーが右側。


 俺が左側。


 互いに何も言わず位置を変える。


男性剣士『ん?』


女性魔法使い『何も言ってないよね?』


男性視聴者『打ち合わせなし?』


 シルフィーの杖が上がる。


シルフィー「《ウォーターボール》!」


 水弾。


 右側のワイルドドッグへ飛ぶ。


『HIT』


 二匹が同時にこちらを見る。


 やはり来た。


 一匹はシルフィー。


 一匹は俺。


 俺は剣を抜く。


 左側の一匹が飛び込んでくる。


 牙。


 一歩。


 外す。


 斬る。


『HIT』


 まだ倒れない。


 俺は追わない。


 右を見る。


 シルフィーはすでに動いていた。


 自分を狙って走るワイルドドッグ。


 正面から魔法を撃たない。


 横へ。


 一歩。


 二歩。


 俺との距離を広げる。


 これなら。


 俺が戦っている敵と混ざらない。


 分かっている。


 昔から。


 ずっと。


シルフィー「《ウィンドカッター》!」


 風の刃。


 ワイルドドッグが横へ避ける。


 だが。


 避けた方向には。


 俺がいる。


 俺は自分の相手から一歩離れ。


 シルフィーが追い込んだ個体へ剣を振る。


『CRITICAL』


 斬る。


 すぐに戻る。


 俺を狙っていたもう一匹が来る。


 剣を振り切らない。


 手首。


 肘。


 肩。


 最小限。


 そのまま剣を返す。


 牙の軌道を外す。


『PARRY』


 少しだけHPが減った。


 やはり完全無傷ではない。


 だが十分。


シルフィー「《ストーンバレット》!」


 俺が弾いたワイルドドッグ。


 姿勢が崩れた場所へ。


 石弾。


『CRITICAL』


男性剣士『は?』


女性魔法使い『連携速っ』


男性戦士『今の打ち合わせしてないよな?』


 俺は前へ。


 一体目。


 剣。


『《ワイルドドッグ》を討伐しました』


『クエスト進行:4/6』


 同時。


シルフィー「ミナト、左です」


ミナト「ああ」


 振り向く。


 二体目。


 シルフィーの言葉を聞く前から。


 もう分かっていた。


 剣を横へ。


 踏み込む。


『CRITICAL』


 まだ。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 白い光。


 命中。


『《ワイルドドッグ》を討伐しました』


『クエスト進行:5/6』


 静かになる。


 俺は剣を下ろした。


ミナト「あと一匹だな」


 返事がない。


ミナト「ユウキ?」


 見る。


 ユウキが。


 俺とシルフィーを交互に見ていた。


ユウキ「……何、今の?」


ミナト「何って?」


ユウキ「二人ともほとんど喋ってなかったよね?」


ミナト「ああ」


ユウキ「なのに、なんで分かるの?」


 俺とシルフィーが顔を見合わせる。


シルフィー「分かりますので」


ユウキ「それ説明になってないよ!」


 そう言われても。


 どう説明したものか。


 シルフィーがどこへ動くのか。


 どの敵を狙っているのか。


 次にどんな魔法を使おうとしているのか。


 何となく分かる。


 逆も同じだ。


 俺がどこへ踏み込むのか。


 いつ敵を流すのか。


 どちらへ回避するのか。


 シルフィーも知っている。


 当然だ。


 十年。


 出会ってから。


 俺たちは冒険者として一緒に戦った。


 そして。


 結婚してから。


 さらに十年。


 夫婦として。


 仲間として。


 魔王を倒すその日まで。


 何度も。


 何度も。


 隣で戦った。


ミナト「長いからな」


ユウキ「何が?」


ミナト「一緒に戦ってた時間」


 しまった。


 配信中だった。


 コメント欄。


 当然。


 反応する。


男性視聴者『長い?』


女性視聴者『どれくらい?』


男性剣士『さっき剣歴20年って言ってたよな』


女性魔法使い『シルフィーも?』


ユウキ「ミナト」


ミナト「分かってる」


 これ以上は。


 ……と思ったのだが。


シルフィー「二十年ほどでしょうか」


ユウキ「シルフィア!」


シルフィー「はい?」


ユウキ「言っちゃった!」


 コメントが止まる。


 そして。


 一気に流れ始めた。


男性視聴者『20年!?』


女性視聴者『待って』


男性剣士『二人何歳なんだよw』


女性魔法使い『シルフィーちゃんどう見ても若いぞ』


男性戦士『設定?』


女性視聴者『ロールプレイ勢かな』


男性視聴者『夫婦で20年一緒にゲームしてるって意味?』


 俺は額へ手を当てる。


ミナト「シルフィー」


シルフィー「事実なのですが」


ミナト「そうだけど」


シルフィー「嘘を申し上げる必要もないかと思いまして」


 そういうところは昔から変わらない。


 王族として言葉を選ぶことはできる。


 交渉もできる。


 政治的な駆け引きだってできる。


 なのに。


 俺たちのことになると。


 妙に素直だ。


ユウキ「じゃ、じゃあ!」


 ユウキが慌てて話題を変える。


ユウキ「二人っていつから一緒にいるの?」


 変わっていない。


 むしろ。


 さらに危険な方向へ行った。


ミナト「ユウキ」


ユウキ「あ」


シルフィー「私が十六歳の頃からです」


ユウキ「シルフィー!」


 止まらない。


 シルフィーは少し懐かしそうに笑う。


シルフィー「あの日、王城で初めてミナトとお会いしました」


 俺の脳裏にも。


 昔の光景が蘇る。


 異世界へ召喚され。


 女神から力をもらい。


 王都近くの森へ放り出され。


 冒険者になった。


 最初は。


 本当に普通の冒険者だった。


 薬草を採った。


 弱い魔物を倒した。


 護衛をした。


 依頼をこなした。


 少しずつ。


 実績を積んだ。


 そして。


 王家に呼ばれた。


 そこで。


 出会った。


 リント王国第二王女。


 シルフィア・リント。


 当時十六歳。


 俺と同じくらいの年だった。


ミナト「初めて会ったとき、どう思ったんだ?」


シルフィー「今それを聞かれるのですか?」


ミナト「そういえばちゃんと聞いたことなかったなと思って」


 シルフィーが少し頬を赤くする。


 そして。


シルフィー「……ビビッときました」


ユウキ「ビビッと!?」


 思わず俺も笑った。


ミナト「何だよ、それ」


シルフィー「仕方ありません。そうとしか表現できないのですから」


女性視聴者『かわいい』


男性視聴者『馴れ初め始まった』


女性魔法使い『もっと詳しく』


男性視聴者『戦闘配信どこいった』


シルフィー「それから私は父と母を説得して、冒険者になりました」


ユウキ「王女様なのに?」


シルフィー「はい」


ユウキ「それ、かなり大変じゃない?」


シルフィー「大変でした」


ミナト「大変どころじゃなかっただろ」


 あのときの国王の顔。


 今でも覚えている。


 王女が。


 突然。


『私も冒険者になります』


 などと言い出したのだ。


 当然。


 反対された。


 王妃にも。


 護衛にも。


 側近にも。


 だが。


 シルフィアは諦めなかった。


 結局。


 条件付きで認めさせた。


 そこから。


 俺たちの長い冒険が始まった。


ユウキ「それで結婚したの?」


シルフィー「すぐではありません」


ミナト「十年かかったな」


ユウキ「十年!?」


シルフィー「十年間、一緒に冒険をいたしました」


 俺が十六。


 シルフィアも十六。


 そこから。


 二十六になるまで。


 十年。


 魔物を倒した。


 ダンジョンへ潜った。


 街を救った。


 戦争にも巻き込まれた。


 喧嘩もした。


 笑った。


 泣いた。


 何度も死にかけた。


 そうして。


 ようやく。


 結婚した。


ユウキ「……十年付き合って結婚って、すごいね」


ミナト「色々あったからな」


シルフィー「私はもう少し早くてもよかったのですが」


ミナト「え?」


シルフィー「何でもありません」


 聞こえたぞ。


女性視聴者『かわいい』


女性魔法使い『シルフィーちゃん完全に嫁』


男性視聴者『設定作り込んでんなあ』


男性剣士『いやこの連携見ると妙に説得力ある』


ユウキ「じゃあ、結婚してから?」


ミナト「さらに十年」


ユウキ「……十年?」


シルフィー「はい」


 結婚して。


 夫婦になった。


 だが。


 冒険は終わらなかった。


 むしろ。


 そこからが本番だった。


 魔王。


 その存在が世界へ与える影響は年々大きくなっていた。


 俺たちは仲間たちと共に。


 魔王との最終決戦へ向けて動き続けた。


 それでも。


 ずっと戦っていたわけじゃない。


 家へ帰った。


 一緒に食事をした。


 同じ部屋で眠った。


 街へ出かけた。


 夫婦喧嘩もした。


 仲直りもした。


 新婚と呼ぶには長すぎるくらい。


 俺たちは夫婦として暮らした。


 そして。


 三十六歳。


 ようやく。


 魔王を倒した。


ユウキ「二十年……」


 ユウキが俺たちを見る。


 今の俺たちの姿。


 十代。


 それなのに。


 話している時間だけなら。


 どう考えても合わない。


ユウキ「配信で話して大丈夫なの?」


ミナト「今さらだな」


ユウキ「それはそうだけど」


 コメント欄を見る。


 当然。


 半信半疑だ。


男性視聴者『壮大な設定で草』


女性視聴者『ロールプレイとしては好き』


男性剣士『でも戦闘技術はガチなんだよな』


女性魔法使い『魔法使いの動きも初心者じゃない』


男性戦士『20年一緒に戦ったって言われると連携は納得する』


女性視聴者『いや納得していいの?』


 別に信じてもらおうとは思わない。


 普通なら。


 俺だって信じない。


 十六歳の高校生が。


 異世界へ召喚され。


 二十年間戦い。


 王女と結婚し。


 魔王を倒し。


 女神の力で十六歳の姿へ戻って地球へ帰ってきた。


 そんな話。


 信じろという方が無理だ。


シルフィー「ミナト」


ミナト「ん?」


 シルフィーが俺を見る。


シルフィー「私は、こちらへ来ることができて幸せです」


 突然。


 何を。


シルフィー「魔王を倒したあと」


 シルフィーの表情が柔らかくなる。


シルフィー「ようやく二人でゆっくりできると思っておりました」


 ああ。


 そうだった。


 王城へ凱旋して。


 祝宴。


 褒賞。


 報告。


 色々終わって。


 やっと。


 何も考えず二人で過ごせる時間ができた。


 朝。


 隣にシルフィアがいる。


 昼。


 一緒に街を歩く。


 夜。


 二人で食事をする。


 そんな。


 当たり前の夫婦生活。


 それを。


 ようやく楽しめると思っていた。


 なのに。


 女神に呼ばれた。


 地球へ帰ることになった。


ミナト「俺もだよ」


シルフィー「はい」


ミナト「また一緒にいられてよかった」


シルフィー「私もです」


 少し。


 沈黙。


ユウキ「……あの」


ミナト「ん?」


ユウキ「今、配信中」


ミナト「……」


シルフィー「……」


 忘れていた。


『現在の視聴者数:623』


ミナト「増えてる!?」


ユウキ「六百人超えてる!」


女性視聴者『ごちそうさまです』


女性魔法使い『甘い』


男性視聴者『何を見せられているんだ俺たちは』


女性視聴者『夫婦配信だった』


男性剣士『戦闘見に来たのに夫婦の馴れ初め聞いてる』


女性僧侶『ユウキちゃん頑張れ』


ユウキ「なんで私を応援するの!?」


 俺は思わず顔を覆った。


ミナト「配信切らないか?」


ユウキ「今さら遅いと思う」


シルフィー「私は楽しいですよ?」


ミナト「シルフィーは強いな……」


 魔王より。


 ある意味。


 配信の方が手強いかもしれない。


 そのとき。


 シルフィーの表情が変わった。


シルフィー「ミナト」


 俺も同時に気づく。


ミナト「ああ」


ユウキ「何?」


ミナト「最後の一匹」


 草の奥。


 動く影。


『《ワイルドドッグ Lv2》』


 俺は剣へ手をかける。


 シルフィーが杖を持つ。


 ユウキも。


 今度は言われる前に杖を構えた。


ユウキ「私が最初にやっていい?」


ミナト「ああ」


シルフィー「お任せいたします」


 ワイルドドッグ。


 こちらへ気づく。


 低い姿勢。


 走る。


 ユウキは。


 すぐに魔法を撃たない。


 待つ。


 敵を見る。


 距離を見る。


 進行方向を見る。


 俺は何も言わない。


 シルフィーも。


 見守る。


 ワイルドドッグが加速。


 ユウキの杖が上がる。


ユウキ「まだ……」


 さらに近づく。


 そして。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 白い光。


 現在位置ではない。


 一歩先。


 ワイルドドッグ自身が。


 そこへ飛び込む。


『CRITICAL』


 大きくよろめく。


ユウキ「シルフィー!」


シルフィー「はい!」


 今度は。


 ユウキが指示した。


 シルフィーの杖。


シルフィー「《ウォーターボール》!」


 水弾。


 命中。


『HIT』


 まだ。


 ワイルドドッグが立ち上がる。


 俺へ来る。


ミナト「じゃあ最後は俺だな」


 踏み込む。


 牙。


 半歩。


 外す。


 剣。


 一閃。


『CRITICAL』


『《ワイルドドッグ》を討伐しました』


『クエスト進行:6/6』


『《街道の安全確保》達成条件を満たしました』


ユウキ「やった!」


 ユウキが両手を上げる。


 俺も笑う。


ミナト「今のはよかった」


ユウキ「本当?」


ミナト「ああ。ちゃんと待ててた」


シルフィー「狙う場所も、とてもよかったですよ」


ユウキ「よし!」


 最初は。


 ホーンラビットに魔法を当てることさえ難しかった。


 それが。


 もう。


 相手の移動先へ魔法を置けるようになっている。


 まだ初心者。


 でも。


 確実に。


 ユウキも強くなっている。


女性僧侶『上手くなってる!』


男性僧侶『最初のホーンラビット戦見てた人なら分かる』


女性視聴者『ユウキちゃん成長してる』


男性視聴者『このパーティー面白いな』


男性剣士『夫婦が化け物で僧侶が育っていく配信』


ユウキ「化け物夫婦だって」


ミナト「誰が化け物だ」


シルフィー「失礼ですね」


 そう言いながら。


 俺とシルフィーは。


 少しだけ笑った。


 魔王を倒した勇者と。


 その勇者と二十年近く共に歩んだ第二王女。


 そんな二人が。


 今はLv2。


 初心者装備。


 そして。


 本当の初心者であるユウキと三人で。


 ワイルドドッグ六匹を倒して喜んでいる。


 悪くない。


 こういう冒険が。


 俺はしたかったのかもしれない。


 だが。


 その頃。


 始まりの街の冒険者ギルドでは。


 新たな情報が届いていた。


シエナ「ギルドマスター」


 受付主任シエナが。


 一人の男へ報告書を差し出す。


 人族。


 冒険者ギルドを預かる男。


 《ギルドマスター・ジェイド》。


ジェイド「二十以上か」


シエナ「はい。さらに《ゴブリンソルジャー》を複数確認しております」


ジェイド「大型個体は?」


シエナ「正体不明です」


 ジェイドは報告書を見る。


 しばらく。


 沈黙。


ジェイド「調査隊を下げろ」


シエナ「よろしいのですか?」


ジェイド「十分だ。これ以上は偵察じゃなく戦闘になる」


 ジェイドが立ち上がる。


ジェイド「東草原外縁部への通常依頼を一時停止」


シエナ「はい」


ジェイド「林周辺を立入注意区域へ指定する」


シエナ「承知しました」


ジェイド「それと」


 ジェイドが。


 報告書の最初を見る。


 この異変を。


 最初に持ち帰った冒険者。


『ミナト』


『シルフィー』


『ユウキ』


 三人。


ジェイド「最初にゴブリンソルジャーを発見した三人が戻ったら」


 少し考え。


ジェイド「俺のところへ来るよう伝えてくれ」


 そして。


 ギルドの依頼掲示板。


 灰色だった表示が。


 ゆっくりと。


 変わり始める。


『《緊急調査:東草原ゴブリン集団》』


『調査段階――終了』


『危険度――判定中』


『冒険者ギルドによる対応方針を協議中』


 まだ。


 討伐依頼ではない。


 だが。


 俺たちが街へ戻る頃。


 始まりの街の冒険者ギルドは。


 すでに次の段階へ動き始めていた。

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