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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第14話 Lv2になった三人、狼の群れと戦う

 初めてのレベルアップ。


 俺――《ミナト》たちは全員Lv2になった。


 たった一つ。


 数字が一つ上がっただけ。


 それでも、自分の身体を動かした瞬間に違いが分かる。


 俺は冒険者ギルドを出ると、大通りの端で軽く手を握った。


 開く。


 もう一度握る。


 肩を動かし、足首を確かめる。


ユウキ「……何してるの?」


ミナト「Lv1のときとの違いを確認してる」


ユウキ「そんなに違う?」


ミナト「少しだけな」


 ほんの少し。


 だが、その少しが大切だ。


 STRが上がったことで、身体へ力を入れたときの感覚が変わっている。


 AGIが上がった影響なのか、足を運んだときの反応もわずかに速い。


 DEXも上がっている。


 指先。


 手首。


 腕。


 剣を扱うときの細かな動きにも影響がありそうだ。


 HPとVITが増えたことで、耐久力も上がっている。


 俺にとっては不思議な感覚だった。


 向こうの世界では。


 身体を鍛える。


 剣を振る。


 走る。


 戦う。


 食べる。


 休む。


 それを何年も積み重ねて強くなった。


 昨日まで持ち上げられなかったものが、今日いきなり軽くなるなんてことはない。


 でも。


 ゲームでは違う。


 レベルが上がる。


 ステータスが上がる。


 その瞬間から、身体能力そのものが変化する。


ミナト「面白いな」


ユウキ「また始まった」


ミナト「何が?」


ユウキ「ミナトがゲームの仕組みを見つけて喜ぶやつ」


シルフィー「楽しんでいるようで何よりです」


ミナト「二人だって楽しいだろ?」


ユウキ「それは楽しいけど」


シルフィー「私も興味深く感じております」


 シルフィーが自分の杖を見る。


シルフィー「魔力……こちらではMPですが、それが増えるという感覚も不思議ですね」


ミナト「向こうじゃ違ったもんな」


シルフィー「はい。魔力容量は成長や訓練によって増えるものでしたから」


ユウキ「二人の会話を聞いてると、本当にゲームと現実の比較をしてるみたいなんだよね」


ミナト「実際そうだからな」


ユウキ「そうなんだけど!」


 そんな話をしながら東門へ向かう。


 今回の依頼は《ウルフ討伐》。


 東側の街道付近に出没する狼型の魔物を五体倒す。


 推奨レベルはLv2以上。


 ちょうど今の俺たちに合っている。


 街を出る。


 午後の草原。


 午前中より多くのプレイヤーが見える。


 剣を持った者。


 盾を構える者。


 杖を持った者。


 魔物と戦っているパーティーもいた。


 俺は周囲を眺めながら歩く。


ユウキ「どうしたの?」


ミナト「他の人の戦い方を見てる」


ユウキ「ミナトでも?」


ミナト「俺はこのゲームの初心者だって言っただろ」


 近くでは、剣士らしきプレイヤーがホーンラビットと戦っている。


 剣を振る。


 避けられる。


 また振る。


 今度は命中。


 少し離れた場所では、戦士が盾で攻撃を受け止め、後ろから魔法使いが攻撃していた。


 なるほど。


 ああいう戦い方もあるのか。


 俺が知っている戦闘とは少し違う。


 相手の攻撃を避けるだけではなく。


 VITや装備性能を利用して、あえて受ける。


 ゲームだからこそ成立する戦術もあるらしい。


ミナト「覚えることが多いな」


シルフィー「楽しそうですね」


ミナト「楽しいよ」


 知らないことを覚える。


 それは悪くない。


 二十年間の経験があるからといって。


 この世界まで知り尽くしているわけではないのだから。


 やがて。


 街道へ出た。


 馬車が通れる程度の幅を持った土の道。


 左右には草原。


 さらに先には小さな森が見える。


ユウキ「ウルフって、この辺にいるんだよね?」


ミナト「ああ」


 依頼情報ではそうなっている。


 俺は歩きながら周囲を見る。


 足跡。


 草。


 地面。


 糞。


 毛。


 異世界で狼系の魔物を追跡したときと同じように痕跡を探す。


 少し進んだところで。


ミナト「止まって」


ユウキ「いた?」


ミナト「痕跡がある」


 街道の脇。


 柔らかい土に足跡。


 四足。


 犬に近い。


 複数。


シルフィー「一頭ではありませんね」


ミナト「ああ」


ユウキ「何匹?」


ミナト「そこまでは分からない」


 同じ場所を何度も通っているようで、足跡が重なっている。


 ただ。


 少なくとも一頭ではない。


ミナト「ウルフは群れで行動する可能性が高い。気をつけよう」


ユウキ「うん」


 今度の返事には、午前中ほどの軽さがない。


 怖がっているというより。


 ちゃんと警戒している。


 成長しているな。


 俺たちは街道から少し離れる。


 ただし、離れすぎない。


 何かあれば街道へ戻れる距離を維持する。


 しばらく歩く。


 風が吹く。


 草が揺れる。


 その中に。


 別の音。


 カサッ。


 俺は止まる。


 シルフィーも同時に止まった。


 ユウキは一歩遅れて。


ユウキ「……いる?」


ミナト「ああ」


 前方。


 草の間。


 灰色の毛。


『《ウルフ Lv2》』


 一頭。


 いや。


ミナト「右にもいる」


ユウキ「えっ?」


シルフィー「左にもおります」


 俺たちは囲まれかけていた。


 正面。


 右。


 左。


 三頭。


 さらに。


 後ろ。


ミナト「ユウキ!」


ユウキ「えっ!?」


 俺はユウキの腕を引く。


 直後。


 さっきまでユウキが立っていた場所へ、草むらからウルフが飛び込んできた。


ユウキ「うそっ!」


『《ウルフ Lv2》』


 四頭。


 群れだ。


ミナト「シルフィー!」


シルフィー「はい!」


 俺とシルフィーは自然に動いた。


 ユウキを中央へ。


 俺が前。


 シルフィーが後方寄り。


 完全に囲まれないよう、三人で位置を変える。


ユウキ「四匹……」


ミナト「数ならこっちが一人少ない」


ユウキ「それ、大丈夫なの?」


ミナト「だから連携する」


 腰から《軽鉄の片手剣》を抜く。


 初めての実戦使用。


 やはり軽い。


 Lv2になったこともあり、午前中の初心者用の剣より明らかに扱いやすい。


 ウルフたちはすぐには飛びかかってこない。


 こちらを囲む。


 少しずつ動く。


 隙を探している。


ユウキ「来ない……」


ミナト「焦るな」


 俺は一頭だけを見ない。


 全体を見る。


 正面。


 右。


 左。


 後ろ。


 視線。


 耳。


 脚。


 呼吸。


 群れで狩る獣は、一頭に集中すると別方向から来る。


ミナト「ユウキ」


ユウキ「うん」


ミナト「俺だけを見るな」


ユウキ「え?」


ミナト「自分の周りを見ろ」


 僧侶がやるべきことは。


 前衛だけを見ることではない。


 自分。


 味方。


 敵。


 全体を見る。


 回復が必要な人間を見落とさないためにも。


 自分が襲われたとき逃げるためにも。


ミナト「全部を細かく見る必要はない。誰がどこにいるかだけでもいい」


ユウキ「……やってみる」


 ユウキが杖を握る。


 俺。


 シルフィー。


 四頭のウルフ。


 視線を動かす。


 その瞬間。


ユウキ「シルフィー、左!」


 シルフィーの死角。


 ウルフが低く身体を沈めていた。


 跳ぶ。


シルフィー「!」


 ユウキの声でシルフィーが反応する。


 一歩。


 横へ。


 牙が空を噛む。


シルフィー「《ファイアボール》!」


 振り向きざま。


 火球。


『HIT』


 ウルフが吹き飛ぶ。


シルフィー「ありがとうございます、ユウキ!」


ユウキ「見えた!」


ミナト「その調子!」


 来る。


 正面のウルフ。


 俺へ飛びかかる。


 牙。


 速い。


 ホーンラビットより速い。


 だが。


 直線。


 俺は半歩だけずれる。


 すれ違う瞬間。


 新しい剣を振る。


 首。


『CRITICAL』


 手応え。


 午前中の剣よりいい。


 軽い。


 刃の通りも違う。


 しかし一撃では倒れない。


 Lv2同士。


 相手にも相応のHPとVITがある。


ミナト「やっぱり装備を変えて正解だったな」


ユウキ「分析はあと!」


ミナト「分かってる!」


 着地したウルフが振り向く。


 だが。


ユウキ「右からもう一匹!」


 聞こえた。


 見なくても分かる。


 俺は前へ出る。


 後ろへ避ければ追いつかれる。


 なら、相手の跳躍の内側へ。


 右から飛んできたウルフ。


 身体を低く。


 牙の下を抜ける。


 剣を斜めに走らせる。


『HIT』


 浅い。


 無理に追わない。


 最初の一頭が来る。


 二対一。


 俺が引きつける。


ミナト「シルフィー、一頭頼む!」


シルフィー「承知しました!」


 魔法。


シルフィー「《ウィンドカッター》!」


 風の刃。


 一頭が避ける。


 だが。


 シルフィーは最初から直撃を狙っていなかった。


 避けた先。


 俺から離れる。


ミナト「助かる!」


 これで一対一。


 最初に傷を負わせたウルフ。


 俺へ飛びかかる。


 今度は。


 踏み込む。


 振り上げた剣。


 斬る。


『CRITICAL』


『《ウルフ》を討伐しました』


『クエスト進行:1/5』


ユウキ「一匹!」


 だが。


 その声と同時。


シルフィー「ユウキ!」


ユウキ「え?」


 後方。


 先ほどシルフィーが《ファイアボール》を当てたウルフが起き上がっていた。


 狙っているのは。


 ユウキ。


ユウキ「……っ!」


 ウルフが走る。


 ユウキが杖を構える。


 逃げるか。


 攻撃するか。


 一瞬迷った。


 その迷い。


 ウルフが飛ぶ。


ユウキ「きゃっ!」


 ユウキが身体を捻る。


 完全には避けられない。


 爪が腕をかすめた。


『DAMAGE』


ユウキ「痛っ!」


ミナト「ユウキ!」


 HPが減る。


 大きくはない。


 だが確実なダメージ。


 俺が向かおうとする。


 しかし。


ミナト「……!」


 別のウルフが進路を塞ぐ。


 行けない。


 なら。


ミナト「ユウキ、自分で動け!」


ユウキ「えっ!?」


ミナト「俺は行けない!」


 厳しいようだが。


 今は俺が助けに行けば、こちらのウルフまでユウキの近くへ連れていくことになる。


 もっと危険になる。


ミナト「敵を見ろ!」


 ユウキがウルフを見る。


 怖い。


 当然だ。


 牙。


 爪。


 唸り声。


 現実と変わらない迫力。


 それでも。


 ユウキは逃げなかった。


ユウキ「……見る」


 ウルフが身体を沈める。


ユウキ「来る……」


 脚へ力が入る。


ユウキ「今!」


 横へ。


 跳ぶ。


 ウルフも飛ぶ。


 今度は。


 外れた。


ユウキ「避けた!」


シルフィー「《ストーンバレット》!」


 石弾がウルフの横腹へ命中。


『HIT』


 吹き飛ぶ。


シルフィー「ユウキ、こちらへ!」


ユウキ「うん!」


 ユウキがシルフィーの近くへ移動する。


 これでいい。


 僧侶は一人で戦う必要はない。


 危険なら味方のところへ逃げればいい。


 俺も目の前の相手へ集中する。


 ウルフ。


 低い姿勢。


 牙。


 速い。


 だが。


 何度か見た。


 跳躍前に後脚へ力を溜める。


 耳が少し伏せる。


 視線が狙う場所へ固定される。


 来る。


 飛ぶ。


 避ける。


 剣。


 一撃。


『CRITICAL』


 もう一撃。


『《ウルフ》を討伐しました』


『クエスト進行:2/5』


 残り二頭。


 シルフィーが一頭。


 ユウキの近くに一頭。


ミナト「ユウキ! HPは?」


ユウキ「減ってる!」


ミナト「ならどうする?」


ユウキ「……回復!」


 そう。


 僧侶だ。


 ユウキが自分へ杖を向ける。


ユウキ「《ヒール》!」


 淡い光。


『HP RECOVERY』


 減っていたHPが戻る。


ユウキ「治った!」


ミナト「よし!」


 これも経験だ。


 傷を受ける。


 回復する。


 自分の役割を理解する。


シルフィー「ミナト!」


 シルフィーの声。


 一頭が彼女へ接近している。


 MPを確認。


 魔法を連発したことで減っている。


ミナト「代わる!」


 走る。


 Lv2。


 午前中より速い。


 新しい剣も軽い。


 シルフィーとすれ違う。


 俺が前へ。


 ウルフの牙。


 剣で受けない。


 身体をずらす。


 そのまま斬る。


『HIT』


 振り返る。


 もう一頭。


ユウキ「ミナト、後ろ!」


 声。


 反応。


 振り向かない。


 一歩前。


 背後を牙が通過する。


 振り返る。


 ウルフが着地。


ミナト「シルフィー!」


シルフィー「《ファイアボール》!」


 火球。


 直撃。


『CRITICAL』


 俺が斬る。


『《ウルフ》を討伐しました』


『クエスト進行:3/5』


 最後。


 ユウキを見る。


ミナト「いけるか?」


ユウキ「やる!」


 さっき攻撃された。


 それでも。


 逃げない。


 ただし無茶もしない。


 杖を構える。


 ウルフを見る。


 動く。


 狙い。


 跳躍。


 ユウキが少し早めに横へ動く。


 ウルフの軌道が変わる。


ユウキ「シルフィー!」


シルフィー「はい!」


 風。


シルフィー「《ウィンドカッター》!」


 命中。


『HIT』


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 続けて白い光。


『CRITICAL』


 まだ倒れない。


 ウルフがユウキを見る。


 走る。


ユウキ「来る!」


 今度は迷わない。


 横へ。


 回避。


 そして。


ユウキ「《ホーリーライト》!」


 至近距離。


 命中。


『《ウルフ》を討伐しました』


『クエスト進行:4/5』


 静かになる。


 四頭。


 全部倒した。


ユウキ「……はあ」


 ユウキがその場へ座りそうになる。


 俺は近づく。


ミナト「大丈夫か?」


ユウキ「怖かった……」


ミナト「ああ」


ユウキ「爪が来たとき、本当に怖かった」


ミナト「それでいい」


ユウキ「いいの?」


ミナト「怖くなくなる方が危ない」


 恐怖は悪いものじゃない。


 危険を危険だと認識するために必要な感覚だ。


 問題は。


 恐怖に飲まれて何もできなくなること。


ミナト「怖くても敵を見られた。避けられた。自分で回復できた」


ユウキ「……うん」


ミナト「十分だよ」


 ユウキが少し笑う。


ユウキ「先生みたい」


ミナト「二十年もあれば、人に教えることくらいある」


シルフィー「実際、向こうでも多くの方へ剣や戦い方を教えておりましたね」


ユウキ「やっぱり先生じゃん」


 俺は苦笑する。


 ただ。


 ユウキの戦い方を見て、一つ分かったことがある。


 俺が教えるべきなのは。


 剣術じゃない。


 俺と同じ戦い方でもない。


 ユウキにはユウキの役割がある。


 僧侶として。


 仲間を見て。


 敵を見て。


 危険を避けて。


 必要なときに回復する。


 そのために。


 俺の経験を使えばいい。


シルフィー「残り一体ですね」


ミナト「ああ」


ユウキ「次はもっと上手くやる」


ミナト「無理はするなよ」


ユウキ「分かってる」


 俺たちは少し休憩する。


 HP。


 MP。


 周辺。


 退路。


 すべて確認。


 それから最後の一体を探すことにした。


 だが。


 俺たちは知らなかった。


 先ほどの戦闘を。


 少し離れた街道から。


 何人ものプレイヤーが見ていたことを。


男性剣士「……今の三人、Lv2だよな?」


女性魔法使い「たぶん」


男性戦士「剣士の動き、何だあれ?」


女性僧侶「それより、あの僧侶の子……途中からウルフの攻撃、自分で避けてなかった?」


男性剣士「初心者パーティーじゃないのか?」


 そして。


 その中の一人が。


 ゲーム内メニューを開いた。


男性プレイヤー「これ……配信したら面白そうだな」


 《LIVE配信》。


 その機能が。


 俺たち三人の冒険を多くの人間へ見せることになるまで。


 あと少しだった。

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