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帰還勇者ミナトのVRMMO戦記 ~剣も魔法も本物を知っているので、ゲームでも最強です~  作者: バモス
第一章 帰還勇者、VRMMOを始める

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第13話 勇者でも、まずは装備を整えます

 冒険者ギルドの休憩スペース。


 俺――《ミナト》たちは、先ほど遭遇した《ゴブリンソルジャー》について話していた。


 俺たちはLv1。


 相手はLv4。


 普通のゴブリン二匹を連れていたとはいえ、依頼そのものは無事に達成した。


 だから撤退した判断を後悔してはいない。


 だが。


ユウキ「次は三人で倒したい」


 《ユウキ》のその言葉には、俺も賛成だった。


ミナト「じゃあ、そのために何が必要か考えよう」


ユウキ「レベル上げ?」


ミナト「それもある」


シルフィー「装備もですね」


ミナト「ああ」


 俺は腰の剣を見る。


『《初心者の鉄剣》』


 ゲーム開始時に支給された武器。


 使えないわけではない。


 むしろ初心者用としては扱いやすい。


 ただ、先ほどゴブリンソルジャーの剣を受けたとき、明確に力負けした。


 もちろん最大の原因はレベル差とSTR差だ。


 しかし武器そのものの性能差も無視できない。


ミナト「ゲームなんだから、装備を更新するのも大事なんだろうな」


ユウキ「なんかミナトからゲームっぽい発言が出た」


ミナト「俺だって少しずつ覚えてるんだよ」


シルフィー「私たちもこの世界では初心者ですからね」


 異世界では、装備を買い替える理由が少し違った。


 刃こぼれ。


 破損。


 身体の成長。


 戦う魔物の変化。


 戦場に合わせた武器の選択。


 俺自身、二十年間で何本もの剣を使ってきた。


 最後まで使っていた剣にたどり着くまで、何度も鍛冶屋の世話になった。


 だから装備を整えるという考え方そのものは理解できる。


 ただ。


 ゲームではそこへ《装備性能》という明確な数値が加わる。


ユウキ「今から武器屋に行く?」


ミナト「まず金が足りるか確認だな」


 午前中から受けた依頼の報酬を確認する。


 ホーンラビット。


 ヒール草。


 グリーンスライム。


 ゴブリン。


 それなりに金は増えている。


 だが、三人分の装備を一気に全部更新できるほどではない。


シルフィー「優先順位を決めましょう」


ミナト「そうだな」


ユウキ「私の杖はまだいいよ」


ミナト「いいのか?」


ユウキ「だって、私の仕事って回復と援護でしょ? さっきも《ホーリーライト》はちゃんと効いてたし」


 俺は少し感心した。


 最初は本当の初心者だったユウキが、もう自分の役割を考え始めている。


シルフィー「私の杖も、今すぐ交換する必要はないと思います」


ミナト「じゃあ俺か」


ユウキ「さっき剣で受けたとき危なかったもん」


ミナト「俺としては受けない方を優先したいんだけどな」


ユウキ「毎回避けられるとは限らないでしょ?」


 正論だった。


ミナト「……そうだな」


ユウキ「勝った」


ミナト「何にだよ」


 シルフィーが楽しそうに笑っている。


 とりあえず武器屋を見てみることにした。


 ギルドを出ようとしたところで。


リーナ「ミナトさん」


 受付から声がした。


 振り返る。


 エルフの受付嬢《リーナ》がこちらを見ていた。


ミナト「どうした?」


リーナ「先ほどの《ゴブリンソルジャー》について、少しだけよろしいでしょうか?」


ミナト「ああ」


 俺たちは受付へ向かう。


 リーナの隣には、先ほど俺たちを見ていた人族の女性が立っていた。


リーナ「こちらは受付主任のシエナです」


シエナ「初めまして。受付主任を務めております、シエナです」


ミナト「ミナトだ」


シルフィー「シルフィーと申します」


ユウキ「ユウキです」


シエナ「皆さんの依頼記録を確認させていただきました」


 何か問題でもあったのだろうか。


 そう思ったが、シエナの表情は穏やかだ。


シエナ「ゴブリンソルジャーと遭遇した地点を教えていただけますか?」


ミナト「東草原の外縁部。林に入って少し進んだところだ」


シエナ「ほかに通常のゴブリンが二体?」


ミナト「ああ。最初は三体だった」


シエナ「最初は?」


ミナト「その前に三体倒した。少し離れた場所だったけど、同じ群れだった可能性はある」


 シエナの表情がわずかに変わった。


シエナ「そう判断された理由は?」


ミナト「足跡」


シエナ「足跡?」


ミナト「林へ向かう複数の足跡があった。俺たちが最初に倒した三匹だけなら数が合わなかった」


 実際。


 最初に見つけた痕跡は三匹分より多かった。


 そのときは周辺に別のゴブリンがいる程度に考えていた。


 だが、あとからゴブリンソルジャーと二匹が現れた。


 なら。


ミナト「六匹くらいで動いてたんじゃないか?」


シエナ「……なるほど」


リーナ「そこまで確認されていたのですね」


ユウキ「私は全然気づかなかった」


シルフィー「ミナトは昔から痕跡をよく見ておりましたから」


シエナ「昔から?」


シルフィー「えっ」


 シルフィーが止まる。


 俺は苦笑する。


ミナト「こういうゲームに似た経験があるんだ」


シエナ「そうなのですね」


 ゲームのNPCへ異世界帰りだと説明するのも妙な話だ。


 シエナはそれ以上追及しなかった。


シエナ「情報提供ありがとうございます。念のためギルドから周辺調査を出します」


ユウキ「調査するんですか?」


シエナ「はい。ゴブリンは集団になることがあります。初心者の方が多く活動する場所ですから、危険が大きくなる前に確認する必要があります」


 そこまで作り込まれているのか。


 俺は少し驚く。


 プレイヤーが持ち帰った情報で、ギルド側の行動が変わる。


 ただ依頼を受けて報酬をもらうだけではないらしい。


ミナト「面白いな……」


シエナ「何か?」


ミナト「いや。ちゃんと冒険者ギルドなんだと思って」


シエナ「もちろんです」


 シエナは少し不思議そうだった。


 俺たちは二人へ礼を言い、今度こそギルドを出た。


 向かうのは武器屋。


 始まりの街の大通りを歩く。


 武器屋の看板はすぐに見つかった。


ユウキ「ここかな?」


 扉を開ける。


 金属と油の匂い。


 壁には剣。


 槍。


 斧。


 盾。


 棚には防具。


 奥には試し振り用らしき空間もある。


 俺の足が自然と止まった。


シルフィー「ミナト?」


ミナト「……懐かしい匂いだ」


ユウキ「匂い?」


ミナト「鉄と油」


 向こうの世界で何度も嗅いだ。


 鍛冶場ほど強くはない。


 それでも武器を扱う店特有の匂いが再現されている。


武器屋店主「いらっしゃい!」


 体格のいい人族の男性が声をかけてきた。


武器屋店主「武器を探してるのか?」


ミナト「ああ。剣を見たい」


武器屋店主「初心者向けならこっちだ」


 案内された棚を見る。


 何本もの剣が並んでいる。


 俺は一本を手に取った。


『《鉄の片手剣》』


『装備推奨Lv:1』


『初心者向けの一般的な鉄製片手剣』


 初心者の鉄剣より、わずかに攻撃性能が高い。


 握る。


 軽く持ち上げる。


 手首を返す。


 重心を確認。


ミナト「……悪くない」


ユウキ「それだけで分かるの?」


ミナト「剣だからな」


 次。


 少し長いもの。


 重い。


 俺の今のSTRでは、振れないわけではないが取り回しが悪い。


ミナト「これは今の俺には合わない」


ユウキ「強そうなのに?」


ミナト「強い武器と使いやすい武器は別だ」


 数値を見る。


 確かに攻撃力は高い。


 だが重量も上。


ミナト「当たらなければ意味がない」


シルフィー「ミナトは昔から武器を数値だけでは選びませんでしたね」


ミナト「数値なんてなかったけどな」


ユウキ「そこから違うんだ……」


 さらに何本か試す。


 その中で。


 一本。


 握った瞬間にしっくりくる剣があった。


『《軽鉄の片手剣》』


『装備推奨Lv:1』


 普通の鉄剣より少し細身。


 攻撃性能は《鉄の片手剣》よりわずかに低い。


 だが軽い。


 重心も手元寄り。


 今のLv1のSTRなら、こちらの方が細かく扱える。


ミナト「これだな」


ユウキ「攻撃力、一番高くないよ?」


ミナト「ああ」


ユウキ「いいの?」


ミナト「俺にはこっちの方が合う」


 剣を軽く構える。


 もちろん店内なので振らない。


 それでも分かる。


 止めやすい。


 方向転換しやすい。


 突きへ移りやすい。


 俺が今まで身につけてきた剣術なら、こちらの方が生かせる。


武器屋店主「ほう」


 店主がこちらを見ていた。


武器屋店主「そいつを選ぶか」


ミナト「何か変か?」


武器屋店主「いや。初心者は大体、攻撃力が一番高い剣を欲しがるからな」


ミナト「重すぎる」


武器屋店主「分かってるじゃねえか」


 店主が笑う。


武器屋店主「武器は持ち主が扱えて初めて武器になる。数字だけ高くても、振り回されちゃ意味がねえ」


ミナト「同感だ」


 少しだけ。


 向こうの世界で世話になった鍛冶師を思い出した。


 似たようなことを何度も言われた。


 俺は《軽鉄の片手剣》を購入する。


 さすがに所持金がかなり減った。


ユウキ「ゲームで初めてのお買い物だね」


ミナト「そうなるな」


シルフィー「よくお似合いです」


ミナト「ありがとう」


 初心者の鉄剣と入れ替える。


 腰へ装備。


 ほんの少し重さが変わる。


 その差を身体がすぐに認識する。


 悪くない。


 次に防具屋も確認したが、今回は見るだけにした。


 全員分を無理に更新するより、まず金を貯める。


 そして依頼をこなしながらレベルを上げる。


 方針は決まった。


ユウキ「じゃあ次は経験値稼ぎ?」


ミナト「ただ魔物を倒し続けるより、依頼を受けよう」


ユウキ「なんで?」


ミナト「金も入るから」


ユウキ「現実的!」


ミナト「装備を買いたいんだろ?」


ユウキ「そうでした」


 ギルドへ戻る。


 依頼掲示板を見る。


 そこで俺たちは、街道沿いの魔物を討伐する初心者向け依頼を見つけた。


 対象は《ウルフ》。


 街の東側。


 商人たちも利用する街道付近に現れるらしい。


ユウキ「狼か……」


シルフィー「群れで行動する可能性がありますね」


ミナト「ああ」


ユウキ「また二人の経験が生きそう」


ミナト「たぶんな」


 依頼を受注する。


 その瞬間。


 システム音が鳴った。


システム『一定の経験値を獲得しました』


システム『条件を満たしました』


システム『LEVEL UP』


ユウキ「えっ?」


 俺たち三人の前に光が浮かぶ。


『《ミナト》 Lv1 → Lv2』


『《シルフィー》 Lv1 → Lv2』


『《ユウキ》 Lv1 → Lv2』


 三人とも。


 同時だった。


ユウキ「レベル上がった!」


ミナト「これがレベルアップか」


 身体の感覚が少し変わる。


 ほんのわずか。


 だが分かる。


 力。


 身体の安定。


 動かしたときの軽さ。


 ステータスを見る。


 HP。


 MP。


 STR。


 VIT。


 INT。


 AGI。


 DEX。


 それぞれの数値が上昇している。


ミナト「……なるほど」


ユウキ「どうしたの?」


ミナト「今ならさっきより動ける」


ユウキ「一回レベル上がっただけで分かるの?」


ミナト「分かる」


 俺は指を握る。


 Lv1だった身体。


 Lv2になった身体。


 数値だけなら小さな違いだ。


 しかし。


 二十年間、自分の身体を限界まで使い続けてきた俺には。


 その小さな違いでも、はっきり分かった。


シルフィー「私もMPとINTが上昇しております」


ユウキ「私も!」


 ユウキが嬉しそうにステータスを見る。


ユウキ「これなら、さっきのLv4にも少し近づいた?」


ミナト「少しだけな」


ユウキ「よし!」


 拳を握る。


 まだLv2。


 相手はLv4。


 装備も十分ではない。


 すぐ再戦するつもりはない。


 だが。


 確実に。


 俺たちは強くなっている。


 異世界では、二十年かけて強くなった。


 血を流し。


 何度も死にかけ。


 仲間を失い。


 それでも前へ進んだ。


 でも。


 今度は違う。


 仲間と笑いながら。


 依頼をこなし。


 装備を買って。


 経験値を稼いで。


 一つずつレベルを上げていく。


ミナト「……ゲームって、こうやって強くなるんだな」


ユウキ「今さら!?」


シルフィー「ふふっ」


 俺は新しく買った剣の柄へ触れる。


 次はウルフ討伐。


 そして。


 もっと強くなったら。


 あのゴブリンソルジャーへ再挑戦する。


 Lv2になった帰還勇者の。


 本当の意味での《レベル上げ》が。


 ここから始まろうとしていた。

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