表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私達!オカルトギフターズ〜オカルトが存在しない異世界に怪異を与える〜  作者: qp46


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

幕間〜夜語り

 日が落ちると、村の外れに小さな焚き火が灯る。


 最初は新田が一人で座っているだけだった。誰も気にしなかった。だが三日目の夜、村の子供が「何してるの」と聞いた。


「怪談を語っています」


「かいだん?」


「怖い話のことです」


「きかせて」


 それから毎晩、村人が数人集まるようになった。


 今夜も、焚き火の周りに人が集まっていた。子供が二人、大人が三人。


「新田さん、今日もお話聞かせてくれるんですか」


「はい」


「どんな話ですか」


「日本に伝わる話です」


「にほん?」


「遠い場所です」新田は焚き火を見つめた。「お岩さんという女性の話です」


「お岩さん」


「はい」


 子供が隣の大人にぴったりとくっついた。


「始めます」


 新田が静かに言った。


 焚き火が、ぱちりと音を立てた。


 その昔、ある武家に、お岩という女がいた。


 お岩には夫がいた。伊右衛門という男だ。伊右衛門は外に女を作っていた。お弓という女だった。


 伊右衛門は、お岩を疎ましく思うようになった。


 ある日、伊右衛門はお岩に薬を渡した。亡くなった父の供養のための薬だと言った。


 お岩はそれを信じ、毎日飲んだ。


 しかしそれは毒だった。


 お岩の顔は、少しずつ変わっていった。


 右目が腫れ上がった。


 髪をとくたびに、大量に抜け落ちた。


 お岩は、鏡を見た。


 鏡の中には、自分の顔だとは思えないものが映っていた。


 右目は腫れ上がり、垂れ下がっている。髪は半分以上抜け落ち、頭皮が見えている。


 お岩は、それでも、夫を信じていた。


 夫が、自分のために用意してくれた薬だと。


 その夜、お岩は伊右衛門が他の女と話している声を聞いた。


 お岩の名前を、二人で笑いながら口にしていた。


 お岩は、全てを理解した。


 毒を盛られたこと。


 顔が変わったこと。


 夫に、捨てられたこと。


 お岩は、部屋に閉じこもった。


 その晩、お岩の姿は、屋敷から消えた。


 以来、伊右衛門の周りで、奇妙なことが起き続けた。


 夜、誰もいない部屋から、櫛で髪をとく音が聞こえる。


 鏡を見ると、自分の顔の後ろに、誰かの顔が映る。


 長い髪の、片目が垂れ下がった、女の顔が。


 伊右衛門は、夜ごと、その音に怯えるようになった。


 ある夜、伊右衛門は鏡の前で、髪をとく音を聞いた。


 振り返った。


 誰もいなかった。


 鏡に視線を戻した。


 鏡の中に、お岩がいた。


 すぐ後ろに。


 息がかかるほど、近くに。


 お岩は、笑っていた。


 垂れ下がった右目で、伊右衛門を見つめながら。


 新田は、そこで言葉を止めた。


 焚き火の周りは、完全な静寂だった。子供は二人とも、大人にしがみついて固まっていた。


「これで、この話は終わりです」


 新田は静かに言った。


「ですが、ひとつだけ、注意してほしいことがあります」


 誰も動かなかった。


「今夜は、鏡を見ない方がいいです」


 子供が小さく声を上げた。


「もし見てしまったら」


 新田は一人一人の顔を、ゆっくりと見回した。


「そこには」


 新田は言葉を切った。


 焚き火が、ぱちりと音を立てた。


「……いえ。なんでもありません。今夜は、ここまでにします」


 新田は立ち上がった。


 誰も動かなかった。


「お気をつけてお帰りください」


 村人たちは、ゆっくりと立ち上がった。誰も一人にはならなかった。固まって、肩を寄せ合って、村へ戻っていった。


 その様子を、少し離れた場所から聡が見ていた。


「新田」


「はい」


「お前、語りの才能あるな」


「そうですか」


「最後の『鏡を見ない方がいい』、あれ余計に怖かったぞ」


「効果的だったなら良かったです」


 聡は新田を見た。


「……お前、本気でお岩さんが来るとか思ってないよな」


「分かりません」新田は静かに言った。「怪異とは、人の認識が生み出すものとも言われています」


 聡は少し黙った。


 なるほど、と思った。新田の言葉には、いつも嘘がない。だからこそ怖い。


 新田は焚き火に水をかけた。


 火が消えた。


 新田は静かに歩き出した。


 聡はその後ろ姿を見送った。


 夜風が、少し冷たかった。


 その夜。


 聡は寝る前に、トイレに行った。


 古い家のトイレには、小さな鏡があった。


 手を洗いながら、聡は何気なく鏡を見た。


 自分の顔が映っていた。


 いつも通りの顔だった。


 聡は水を止めて、顔を上げた。


 鏡の中の自分の、すぐ後ろに。


 何か、白いものが、見えた気がした。


 聡は、振り返った。


 誰もいなかった。


 トイレの扉も、閉まったままだった。


 聡は、もう一度鏡を見た。


 自分の顔だけが、映っていた。


 聡は静かに鏡から離れた。


 部屋に戻り、布団に入った。


 目を閉じて、しばらくしてから、思った。


 やべぇ、ちびった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ