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私達!オカルトギフターズ〜オカルトが存在しない異世界に怪異を与える〜  作者: qp46


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9/9

UMA、爆誕?

 朝食の席で、清子が言った。


「次はUMAよ」


「UMA」聡は繰り返した。「未確認生物」


「そう。ネッシーとか、ビッグフットとか」


「この世界、モンスターいるじゃないか」


「だからこそよ」清子は得意げに言った。「モンスターがいる世界に、モンスターじゃない何かがいるって噂を流す。それって最強の都市伝説じゃない?」


 聡は少し考えた。


 確かに、理屈としては分からなくもない。この世界の人間にとってモンスターは日常だ。だからこそ、モンスターでもない、未知の何か、という存在は新鮮に映るかもしれない。


「……まあ、いいか。やってみるか」


 聡はこの時、まだ甘く見ていた。


「新田、噂を流して」


「分かりました」新田が頷いた。「『森の奥に、未確認の生物がいる』」


「それだけでいいのか」


「シンプルが一番です」


 その日のうち、新田は村の広場で、酒場の常連と話していた。


「森の奥に、未確認の生物がいるらしいですよ」


 村人は首を傾げた。


「未確認、というのは」


「正体が分からない、ということです」


「ふむ」村人は少し考えた。「それは新種か。冒険者ギルドに報告したらどうだ。新種のモンスターは登録対象だ」


「……登録、ですか」


「報告すれば、ギルドが調査隊を出す。当然のことだ」


 新田は、その日初めて、何も言えなくなった。


 翌日。


 ギルドの掲示板に、新しい依頼が貼られていた。


『未確認生物に関する調査依頼/報告:新種の可能性あり/調査対象:森一帯』


「もう依頼になってる……」


 聡が掲示板を見ながら呟いた。


「早いな」吉田が言った。「俺たちまだ何もしてないのに」


「俺も足跡作っただけです」田中が言った。


「いや、その足跡もトロルだと判明してたよな」


「そうでした」


 清子は依頼書を見つめていた。


「これ、私達にとって都合いいんじゃない?」


「どこが」


「調査隊が来るのよね。森に」


「来るな」


「そこに本物のUMAを見せれば、調査結果に『新種確認』って書かれるじゃない」


 聡は少し考えた。理屈は通っている気がした。気がするだけで、不安は消えなかった。


「本物のUMAって、誰がやるんだ」


「私が変身するわ」


「お前が」


「ビッグフットなら、私の変身でいけるでしょ」


 聡は清子を見た。


「……今までみたいに、噂を流して、信じてもらって、固定化、っていう手順は」


「今回は手順踏まなくていいんじゃない?」清子は言った。「直接見せれば、信じるでしょ。だって本物を見るんだから」


「いや、それ普通に危なくないか」


「平気よ。ただ姿を見せるだけだから」


 聡は嫌な予感がした。


 ただ、その予感を言葉にする前に、清子はもう準備を始めていた。


 翌日の朝、調査隊が村を出発した。


 Cランクパーティー、四人編成。重装備の戦士、弓を持った斥候、杖を持った魔法使い、盾を持った僧侶。装備からして、本気の調査だった。


「思ったより本気だな」


 聡は森の入口で、それを見ながら呟いた。


「新種かもしれない、ですから」新田が言った。「ギルドとしては慎重になります」


「慎重ということは」


「強さが未知数なので、油断はしない、ということです」


 聡はその言葉を聞いて、嫌な予感がさらに強くなった。


「清子、本当にやるのか」


「やるわ」


 清子は森の奥で、すでに変身を済ませていた。


 全身を覆う、白い毛。二メートルを超える体高。長い腕。大きな足。


 ビッグフットだった。完璧な再現だった。


「……似合うな」


「ありがとう」


 ビッグフットの姿のまま、清子はにっこり笑った。表情だけが清子のままで、聡は少し寒気がした。


「いいか、姿を見せるだけだぞ。何もするな」


「分かってるわ」


「絶対だぞ」


「分かってるって」


 調査隊が森に入った。


 清子は木々の間に身を潜め、タイミングを待った。


 斥候が、足跡――田中が以前作ったものとは別の、今度は本物のビッグフットの足跡――を見つけた。


「足跡だ。新しい。デカいな」


「サイズは」


「人間の三倍くらいか」


 戦士が周囲を警戒した。


「気をつけろ。本当に新種なら、強さが分からない」


 清子はそのタイミングで、ゆっくりと木々の間から姿を現した。


 全身白い毛の、巨大な人型。


「いた!」


 斥候が叫んだ。


「未確認モンスター発見!」


 戦士が剣を抜いた。


「討伐対象だ!全員構え!」


「えっ」


 清子の声が、少し変わった。


「未知の生物は、危険度不明として最優先で討伐対象になる」戦士が叫んだ。「ギルド規定だ!」


「いや、ちょっと――」


 魔法使いが詠唱を始めた。


「タイプ不明の場合、最大火力で初撃を加えるのが基本だ!」


「ちょっと待って!」


 清子の声から、ビッグフットの低い声色が剥がれ始めた。


「火炎弾、撃ちます!」


「待って!話せばわかる――」


「喋った!?」斥候が叫んだ。「知性がある個体!?」


「ならば尚更、危険度は上だ!」戦士が叫んだ。「コミュニケーション可能な未知の生物は、最も警戒すべき対象だ!」


「なんでよ!?」


 清子の声が、完全に元に戻った。


 魔法使いの杖の先に、炎の塊が形成されていた。


「逃げろおおおおお!!!」


 聡は叫んだ。


 ビッグフットの清子が、全力で森の奥へ走り出した。


 火炎弾が、清子のすぐ後ろの木に直撃した。木が爆発するように炎を上げた。


「おいまだ撃つ気か!?」


 聡も全力で走った。新田、吉田、田中も後を追った。


 背後から、戦士の声が聞こえた。


「逃げたぞ!追え!新種が逃走中!」


「待って待って待って!!」


 清子の悲鳴が森に響いた。


 全員、村の家まで全力で走って戻った。


 清子は変身を解いて、息を切らしていた。普段の制服姿に戻っている。


「……死ぬかと思った」


「言ったよな」聡が言った。「絶対危ないって」


「まさか発見した瞬間に攻撃されるとは思わなかったのよ」


「この世界、未確認の存在に対する初動が完全に『殲滅』だったな」吉田が言った。


「ファンタジー世界、怖いですね」田中が頷いた。


「お前らが言うのか」


 清子はソファに倒れ込んだ。


「……UMAは、無理ね」


「うん」


「諦めましょう」


「賛成」


 新田が、静かに口を開いた。


「部長」


「なに」


「UMAは、この世界と相性が悪いようです」


「そうね」


「失敗でした」


 新田はそれだけ言って、窓の外を見た。


 森の方角を見ているようだった。


 翌日、ギルドの掲示板には、新しい貼り紙があった。


『未確認生物に関する調査結果:新種ではなく、既知の魔法生物による幻影・偽装の可能性あり。引き続き警戒を要する』


「……偽装って思われてる」


 聡が掲示板を見て呟いた。


「正解ですけどね」吉田が言った。


「正解なのが問題なんだよ」


 聡は掲示板を見上げながら、深く息を吐いた。


 この世界に来てから、何度目だろうか。


 自分たちのやることが、毎回、想定とは違う形で世界に刻まれていく。


 聡はそれを、もう数えるのをやめていた。

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