メリーさん、爆誕
夜だった。
村の広場に、五人が集まっていた。
田中が電話機を抱えていた。清子が受話器を持っていた。吉田が目を閉じて集中していた。新田が周囲を静かに見回していた。
聡は空を見上げた。
星が多かった。元の世界では見えなかった数の星が、頭上に広がっていた。綺麗だと思う余裕が、今の聡にはなかった。
「村人は?」
「十八人、周辺で様子を見ています」新田が答えた。「噂を聞いて来た人間と、村長から話を聞いた人間です」
「村長また来てるのか」
「最前列です」
聡が見ると、暗闇の中に村長の顔があった。怖そうにしているのに、目が輝いていた。
「村長、完全にオカルトにハマってるじゃないか」
「いい村民です」清子が笑った。
「被害者だろ」
「準備はいい?」
聡は深呼吸をした。
口裂け女。貞子。そして今夜、メリーさん。
三度目だ。慣れるかと思っていたが、慣れなかった。むしろ回を重ねるごとに、何かが積み重なっていく感じがした。この世界に、自分たちが作ったものが増えていく感じ。
「やる」
「空想の固定化、お願いね」
聡は目を閉じた。
メリーさん。電話をかけてくる人形。今どこにいるか教えながら近づいてくる。最終的に目の前に現れる。
村人たちがそれを信じている。夜中の怪電話を、少しずつ近づいてくる声を、信じている。
「空想の固定化」
電話のベルが、鳴った。
田中が持っている電話機のベルが、誰も触れていないのに鳴った。
全員が固まった。
田中が震える手で受話器を取った。
音が聞こえた。
受話器から漏れる音が、聡のいる場所まで届いた。
声だった。
低くて、静かで、遠くから聞こえるような声だった。清子の声ではなかった。清子は聡の隣に立っていた。
「今、村の外にいます」
誰も動けなかった。
吉田が小声で言った。
「俺、何もしてないです」
足音が聞こえた。
吉田の幻影ではなかった。地面を踏む、本物の重さを持った足音だった。遠くから、少しずつ、近づいてくる。
電話のベルが、また鳴った。
田中が受話器を取った。手が震えていた。
「今、村の中にいます」
村人たちの間から、小さな悲鳴が上がった。
足音が近づいてきた。
広場の入口で、何かが止まった。
暗闇の中に、それはいた。
人形だった。
しかし人形の大きさではなかった。人と同じ大きさの、人形だった。陶器のような白い肌。ガラスの目。金色の巻き毛。白いドレス。
ガラスの目が、こちらを見ていた。
瞬きをしていなかった。
笑っていた。口の端だけが、上がっていた。
電話のベルが、三度目に鳴った。
誰も取らなかった。
ベルが止まった。
静寂だった。
メリーさんが、一歩踏み出した。
清子が叫んだ。
「でたーーー!!!」
田中が叫んだ。
「本物だああああ!!!」
吉田が叫んだ。
「怖いいいいい!!!」
村人たちの悲鳴が夜の村を揺らした。
村長が一番大きな声で叫んでいた。
聡は叫んだ。
「お前らが作ったんだろ!!!」
全力で逃げた。
今回は村人も一緒に逃げた。村長が先頭だった。
オカルトギフターズの家に飛び込み、扉を閉めた。
全員が息を切らしていた。
「……今回、村人も逃げてたな」
聡が言った。
「村長、速かったです」吉田が言った。「俺より速かった」
「鍛えてるんでしょ」清子が言った。
「そういう話か」
田中が電話機を見た。
「電話、持ってきちゃいました」
「捨ててこい」
「でもまた鳴ったら」
全員が電話機を見た。
誰も何も言わなかった。
「……部屋の隅に置いとけ」
「置いときます」
田中が電話機を部屋の隅に置いた。全員がそこから少し離れた場所に座った。
しばらくして、清子が口を開いた。
「メリーさんって、電話持ってるのかしら」
沈黙だった。
「持ってたらどうする」
聡が聞くと、清子は少し考えた。
「かけてくるんじゃない?」
「誰に」
「私達に」
全員が電話機を見た。
電話機は静かだった。
静かなままだった。
「……今夜は鳴らなそうだな」
聡が言った瞬間。
ベルが鳴った。
一度だけ。
全員が飛び上がった。
それきり、鳴らなかった。
誰も電話機の近くで寝なかった。
翌朝、清子が言った。
「次は八尺様ね」
聡は電話機を見た。
昨夜の一度だけのベル。あれが何だったのか、誰も確かめなかった。
確かめなくていいと思った。




