表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私達。オカルトギフターズ!  作者: qp46


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

貞子、爆誕

 夜だった。


 村の中心にある井戸の前に、五人が集まっていた。


 田中がテレビを抱えてきていた。太陽光バッテリーも繋いである。砂嵐がザーッと鳴り続けている。その音だけで、周囲の空気が変わった。


「準備はいい?」


 清子が全員を見回した。


「いつでも」田中が頷いた。


「演出、始めます」吉田が目を閉じた。


「既に十二人が周辺で様子を見ています」新田が静かに言った。「噂を聞いて来た村人です」


「見物人がいるのか」


 聡が振り返ると、暗闇の中に人影があった。遠巻きに、しかし確実にこちらを見ている。


 吉田が動いた。


 井戸の周りに霧が出た。地面を這うような、低い霧だ。同時に音が始まった。井戸の底から、水を掻く音。石を引っ掻く音。濡れた何かが這い上がってくるような、湿った音。


 遠巻きに見ていた村人たちが息を呑むのが分かった。


「聡くん」


 清子が聡を見た。


「やるか」


「やるわ」


 聡は目を閉じた。


 貞子。井戸から這い出る女。長い黒髪で顔を覆っている。白い服。濡れている。テレビから出てくる。見た者は七日後に死ぬ。


 村人たちがその話を信じている。砂嵐の箱から這い出る女を、井戸の底にいる何かを、信じている。


「空想の固定化」


 テレビの砂嵐が、止まった。


 ザーッという音が消えた。


 静寂だった。


 誰も息をしていなかった。


 砂嵐の消えたテレビの画面が、暗くなった。真っ暗になった。


 その暗闇の中に、白いものが見えた。


 手だった。


 画面の内側から、手が押し当てられていた。


 ガラスが、内側から歪んだ。


 音もなく、ガラスが割れた。外側へではなく、内側から押し破るように。


 手が出てきた。


 腕が出てきた。


 髪が出てきた。


 長い、濡れた、黒い髪が。


 顔は見えなかった。髪に覆われていた。ただ、白い服が、濡れた白い服が、テレビの箱から溢れ出るように出てきた。


 それは床に落ちた。


 立ち上がった。


 髪の隙間から、目が見えた。


 こちらを見ていた。


 田中が叫んだ。


「でたーーー!!!」


 吉田が叫んだ。


「本物だああああ!!!」


 清子が叫んだ。


「最高ーーーー!!!!」


 聡は叫んだ。


「お前らが作ったんだろ!!!」


 村人たちの悲鳴が夜の村に響き渡った。


 全力で逃げた。


 方向は関係なかった。とにかく走った。気がついたら村の外れまで来ていた。


 五人全員が膝に手をついて息を切らしていた。


「……今回、やばかった」


 吉田が言った。


「やばかったです」


 田中が同意した。


「テレビ、壊れましたね」


「そんな話してる場合か」


「錬金術でまた作れます」


「そういう問題じゃない」


 清子は息を切らしながら、それでも笑っていた。


「最高だった」


「最高じゃないだろ!!」


「でも出たじゃない」


「出ちゃったんだよ毎回!!」


 聡は叫んでから、深呼吸をした。


 落ち着け。口裂け女の時も同じだった。出てきたけど追ってはこなかった。今回も同じはずだ。


「……追ってきてないよな」


 全員が振り返った。


 暗闇があるだけだった。


「来てないですね」吉田が言った。


「来てないです」田中が続けた。


「今のところは」新田が静かに付け加えた。


「今のところって言うな」


 宿に戻ってから、清子が言った。


「貞子って、テレビがなくても出られるのかしら」


 全員が黙った。


 田中が口を開いた。


「……テレビ、壊れましたよね」


「壊れたわね」


「貞子は、テレビから出てきました」


「出てきたわね」


「つまり」田中が少し間を置いた。「テレビがなくなったから、貞子は今、どこにいるんでしょう」


 沈黙だった。


 長い沈黙だった。


「………………田中」


 聡が言った。


「はい」


「明日、テレビ作れるか」


「作れます」


「作ってくれ」


「分かりました」


 理由は誰も言わなかった。全員、同じことを考えていた。


 貞子の帰る場所が、なくなっていた。


 その夜、聡は眠れなかった。


 天井を見つめながら、考えた。


 口裂け女は街道にいる。貞子はどこかにいる。自分たちが作ったものが、自分たちの手を離れて、この世界のどこかにいる。


 これから都市伝説を作るたびに、同じことが起きる。


 清子は止まらない。


 聡には分かっていた。


 そして自分も、たぶん止められない。


 窓の外で、何かが濡れた音を立てた気がした。


 聡は布団を頭まで被った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ