表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私達。オカルトギフターズ!  作者: qp46


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

井戸

 口裂け女が出てから三日が経った。


 村人は今や夜道を一人で歩かない。子供は日が暮れる前に家に帰る。酒場では毎晩、マスクの女の目撃談で盛り上がっている。


 オカルトが、根付いていた。


 聡はそれを複雑な気持ちで眺めていた。自分たちがやったことだ。しかし自分の能力が関わっているとなると、複雑さの質が変わってくる。


 窓の外を見ながらそんなことを考えていると、扉が勢いよく開いた。


「次行くわよ」


 清子だった。


「早い」


「善は急げよ」


「善じゃないだろ」


 作戦会議は宿の食堂で行われた。


 清子がテーブルに紙を広げ、羽根ペンを持って立っている。いつもの光景だ。


「次は貞子よ」


「貞子」聡は繰り返した。「テレビから出てくるやつ」


「そう」


「この世界にテレビはない」


「だから作るのよ」


 全員の視線が田中に集まった。


 田中は既にメモを取り始めていた。


「作れます」


 即答だった。


「テレビって、お前……構造分かるのか」


「錬金術は素材と完成形のイメージがあれば作れます。俺、テレビの構造は大体分かります」


「大体で大丈夫なのか」


「大体で大丈夫です」


 聡は不安だったが、田中の目が本気だったので何も言えなかった。


「ただ」田中が続けた。「電波がないので映像は映せません。砂嵐だけになります」


 清子が目を輝かせた。


「最高じゃない」


「最高か?」


「砂嵐だけ映るテレビよ?怖いじゃない」


 確かに、と聡は思った。電気もない世界で突然砂嵐だけ映るテレビが現れたら、それは普通に怖い。


「で、そこから貞子が出てくる設定にするわけだ」


「そういうこと」清子が頷いた。「まずテレビを村人に見せる。砂嵐だけ映る不思議な箱として広める。そこに怪談を乗せる。井戸から這い出る女の話を」


「井戸は?」


「この村にあるじゃない」


 確かにあった。村の中心に、古い井戸があった。


「吉田は?」


「井戸の周りの演出を担当します」吉田が答えた。「夜、井戸から音を出します。水音とか、引っ掻く音とか」


「新田は」


「テレビを見た人間から噂を広げます」新田が静かに言った。「砂嵐の中に顔が見えた、という話を最初に流します。そこから井戸の怪談へつなげます」


 聡は全員の顔を見回した。


 計画が、恐ろしいほど具体的だった。


「お前ら、手慣れてきてないか」


「二回目ですから」田中が笑った。


 田中がテレビを作るのに丸一日かかった。


 素材は村の市場で調達した。金属、ガラス、細い銅線。田中は一日中、宿の部屋に籠もって作業した。夜になって、完成した。


 木枠に囲まれた、小さな箱。前面にガラスが嵌まっている。


 田中が同時に作った太陽光バッテリーを繋ぐと、ガラスの中に砂嵐が映った。


 ザーッという音と共に、白と黒の粒が激しく動いている。


 全員が無言でそれを見た。


「……普通に怖いな」


 聡が呟いた。


「でしょう」田中が胸を張った。「この世界の人間は映像というものを見たことがない。動く絵が箱の中に現れるだけで十分怖い。そこに砂嵐だけというのが余計に不気味です」


「音も怖い」


「ザーッていう音、なんか嫌ですよね」吉田が頷いた。「俺これだけで怖いです」


「お前が怖がってどうする」


 翌日から田中はテレビを村の広場に持ち出した。


 最初、村人は不思議そうに眺めるだけだった。動く絵が入った箱、という説明に首を傾げていた。しかし砂嵐が映った瞬間、空気が変わった。


「なんだこれは」


「箱の中で何かが動いている」


「音がする」


 人が集まってきた。子供も、大人も、老人も。全員がテレビを囲んで、砂嵐を見つめた。


 その様子を離れた場所から見ながら、新田が動いた。


 人混みの端に立ち、隣の村人に静かに話しかけた。


「砂嵐の中に、顔が見えませんか」


 村人が目を凝らした。


「……見える、気がする」


「井戸から這い出る女の話、聞いたことありますか」


 村人が首を振った。


「夜、井戸の近くで音がするそうです。水を掻く音と、引っ掻く音が」


 村人の顔が青ざめた。


 新田は次の人間の隣へ移動した。


 三日後。


 村では二つの噂が同時に広がっていた。


 砂嵐だけ映る不思議な箱の話。


 そして、井戸から這い出る女の話。


 吉田は毎晩、井戸の周りで音を出していた。水を掻く音。石を引っ掻く音。濡れた足音。演出として完璧だった。


 夜、井戸に近づく村人はいなくなった。


「浸透率、八十七パーセントです」


 新田が報告した。


「今回は感覚じゃないのか」


「感覚です」


「やっぱりか」


 七日後。


 村人の間で、砂嵐と井戸の話がひとつに繋がった。


 誰が言い出したのかは分からない。


 砂嵐の箱を見ていたら、井戸から這い出る女が映った。


 そういう噂が立ち始めた。


「俺達、そこまでやってないぞ」


 聡が新田に言うと、新田は静かに答えた。


「人は、繋がりたい話を自分で繋げます」


「お前がやったんじゃないのか」


「今回は何もしていません」


 聡はしばらく黙った。


「……噂って、生き物みたいだな」


「そうですね」新田は少し間を置いてから言った。「だから面白い」


 その夜。


 田中が珍しく神妙な顔で聡のところへ来た。


「どうした」


「テレビなんですけど」


「なんだ」


「砂嵐の中に」田中が少し躊躇った。「顔、見えるんですよね。最近」


 聡は田中の顔を見た。


「……お前が作ったんだろ」


「俺は作ってないです」


 二人は黙って顔を見合わせた。


「清子に言うか」


「言ったら喜ぶだけです」


「……言わなくていいか」


「はい」


 翌朝、清子が言った。


「そろそろ仕上げましょう」


 聡は覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ