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私達。オカルトギフターズ!  作者: qp46


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3/9

口裂け女、爆誕

 噂というものは、転がり始めると止まらない。


 聡はそれを実感していた。


 最初の目撃から十日が経っていた。今や村人のほぼ全員が口裂け女の話を知っている。子供は夜に外へ出なくなった。大人は連れ立って帰るようになった。酒場では毎晩、口裂け女の話題で持ちきりだ。


 新田の仕事は三日目にはほぼ終わっていた。


 あとは噂が勝手に動いた。


「浸透率、推定九十三パーセントです」


 新田が朝の報告をした。数字が妙に具体的だった。


「どうやって測ったんだ」


「感覚です」


「感覚で九十三パーセント」


「だいたい合ってます」


 聡は追及するのをやめた。


 清子はここ数日、妙に静かだった。


 作戦を指示するわけでもなく、はしゃぐわけでもなく、ただ村人の様子を観察していた。何かを考えている顔だった。清子がこういう顔をしているときは、大抵ろくでもないことを思いついている。


「清子」


「なに」


「何考えてる」


「噂ってどこまで広がるのかなって」


「十分広がってるだろ」


「でも本物じゃないじゃない」


 聡は少し黙った。


「本物って」


「口裂け女よ。今いるのは私が変身したやつ。偽物」


「当たり前だろ。お前らが作ったんだから」


「でも」清子が聡を見た。「聡くんの能力、まだ試してないわよね」


 嫌な予感がした。


「……試してどうする」


「空想の固定化でしょ。みんなが信じているものを、現実に固定できるかもしれない」


「意味が分からん。何も起きなかったって言っただろ」


「あの時は誰も何も信じてなかったから」清子の目が光った。「でも今は違う。村中の人間が口裂け女を信じてる。その状態で使ったら、どうなると思う?」


 聡は清子の論理を頭の中で追った。


 空想の固定化。


 みんなが信じている口裂け女。


 それを現実に固定する。


「……待て。それって」


「やってみましょう」


「話を聞けよ!」


 夜だった。


 村の外れ、いつもの街道。


 清子、田中、吉田、新田、そして聡が集まっていた。


「やるの?本当に?」


「やるわ」


「何が起きるか分からないんだぞ」


「だから試すのよ」


 清子は全く怯んでいなかった。聡は全員の顔を見回した。田中は道具を抱えて待機している。吉田は演出の準備をしている。新田は静かに立っている。


 誰も止める気がなかった。


「分かった。やる。でも何も起きなくても知らないからな」


「起きるわよ、きっと」


 聡は目を閉じた。


 空想の固定化。


 村人たちが信じている口裂け女。夜道に現れる、マスクの女。きれいかどうか聞いてくる。マスクを取ると口が裂けている。ハサミを持っている。


 そのイメージを頭に思い浮かべながら、聡は静かに言った。


「空想の固定化」


 気温が、落ちた。


 一瞬だった。体温が奪われるような、内側から冷やされるような感覚。吉田の幻影とは違う。田中の小道具とも違う。


 音が、消えた。


 虫の声が聞こえていたはずだった。風の音も。それが全部、跡形もなく消えた。世界から音という音が抜け落ちたように、静かになった。


 街道の向こうに、いた。


 いつからいたのか、誰にも分からなかった。気づいたら、いた。それだけだった。


 白いコート。白いマスク。長い黒髪。


 風がないのに、髪だけが揺れていた。


 それは清子ではなかった。清子は聡の隣に立っていた。田中も、吉田も、新田も、全員その場にいた。


 女がゆっくりとこちらを向いた。


「……私、きれい?」


 声ではなかった。


 音ではなかった。


 頭の中に直接響くような、それでいて確かに耳から入ってくるような、そういう声だった。


 誰も動けなかった。


 女はゆっくりとマスクを外した。


 耳まで裂けた口が、月明かりに晒された。笑っていた。笑っているのに、目が笑っていなかった。


 田中が叫んだ。


「でたーーー!!!」


 吉田が叫んだ。


「本物だ!!!」


 清子が叫んだ。


「やったあああああ!!!」


 聡は叫んだ。


「お前らが作ったんだろ!!!」


 全力で逃げた。


 五人全員で村に向かって走った。口裂け女は追ってこなかった。ただ街道に立って、こちらを見ていた。それがかえって怖かった。


 宿に飛び込み、部屋の扉を閉めた。


 全員、息が切れていた。


 しばらく誰も喋らなかった。


「……本物だった」


 吉田が呟いた。


「本物でした」


 田中が頷いた。


「予想通りです」


 新田が言った。


「予想してたのかよ!」


 聡が叫ぶと、新田は静かに答えた。


「部長が言っていたので」


「部長は」


 清子はベッドに座り、目を輝かせていた。


「最高だった」


「最高じゃないだろ!!何が起きてるか分かってるか!!本物の口裂け女が外にいるんだぞ!!」


「でも出たじゃない」


「出ちゃったんだよ!!」


 清子は少し考える顔をした。そして静かに言った。


「ねえ、聡くん。さっきの能力なんだけど」


「なんだ」


「もしかして、みんなが強く信じているものを現実に引っ張り出す能力なんじゃない?」


 聡は黙った。


「口裂け女の噂が村中に広がって、みんなが本当にいると信じた。その状態で聡くんが能力を使ったら、本物が出てきた」清子は続けた。「空想を、現実に固定する。つまり、人々の想像が強くなればなるほど、それを具現化できる能力なんじゃないかしら」


 聡は清子の仮説を頭の中で整理した。


 確かに、筋は通っていた。


 誰も信じていない状態では何も起きなかった。村人全員が信じた状態で使ったら本物が出てきた。人々の想像が現実になる能力。


「……それって」聡は少し考えてから言った。「王道ファンタジーなら、伝説の英雄を召喚したり、神話の神を具現化したりするやつじゃないか」


「そうね」


「口裂け女を生み出す能力じゃないだろ、絶対」


「でも出たじゃない」


「そういう話じゃなくて」


「私達のためにあるような能力ね!」


 清子が笑顔で言った。


 聡は天井を見上げた。


 絶対違う、と思った。


 この能力は、本来もっと別の使い方をするはずだ。神話を具現化する。英雄を召喚する。世界の理を書き換える。そういう、スケールの大きい使い方をするはずの能力だ。


 少なくとも、口裂け女を生み出すための能力では、断じてない。


「次は貞子やりましょう」


 清子が言った。


「………………」


 聡は何も言わなかった。


 言える気がしなかった。


 その夜。


 聡は窓の外を眺めた。


 村の外れの街道に、かすかに白い影が見えた気がした。


 見なかったことにした。

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