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私達!オカルトギフターズ〜オカルトが存在しない異世界に怪異を与える〜  作者: qp46


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2/9

私、きれい?

 朝だった。


 宿の天井を見つめながら、聡はぼんやりと考えた。


 異世界に来て二日目。昨日一日で分かったことがある。この世界にオカルトはない。幽霊もゾンビも吸血鬼も、全部普通にいる。そして清子は完全にやる気になっている。


 聡は起き上がり、窓の外を見た。村の朝は早い。すでに人が動いている。普通の村だ。普通の朝だ。


 ふと、思った。


 異世界、といえば。


 ステータスとかあるんじゃないか?


 王道ファンタジーなら絶対ある。転移したら必ずある。レベルとか、スキルとか、能力値とか。そういうやつだ。


 聡は少し迷った。恥ずかしいが、誰も見ていない。


「……ステータス、オープン」


 出た。


 本当に出た。


 目の前の空中に、薄く光る文字が浮かんでいた。


水瀬聡

レベル:1

能力:【空想の固定化】



 聡は食い入るように読んだ。レベルはともかく、能力が気になった。


 空想の固定化。


 なんだそれは。


 意味が分からない。とりあえず使ってみようと思った。


「……空想の固定化」


 何も起きなかった。


 本当に何も起きなかった。


 聡はしばらく待ったが、やはり何も起きなかった。説明もない。変化もない。ただ朝の空気があるだけだった。


 まあいいか、と思った。後で考えよう。


 食堂に降りると、全員すでに集まっていた。


「みんな、ステータス確認したか?」


 聡が言うと、清子が振り返った。


「したわ!」


 目が輝いていた。嫌な予感がした。


「私ね、変身できるのよ。どんな人にも。声も体型も顔も全部」


「……どんな人にも?」


「どんな人にも」


 聡は少し考えた。それは諜報員や暗殺者が持つべき能力だ。間違っても高校生の部長が持っていい能力ではない。


「田中は?」


「錬金術です」田中が胸を張った。「素材さえあればなんでも作れます。金属も、薬品も、複合素材も」


「……国家レベルの能力じゃないか」


「そうですね」


「吉田は」


「幻影です」吉田が静かに言った。「幻覚、人影、音、血痕。存在しないものを存在するように見せられます」


「新田は」


「概念の植え付けです」新田が淡々と答えた。「人の認識に、特定の考えや感情を浸透させられます」


 聡は全員の能力を聞いて、少し黙った。


 全員、チートだ。


 普通に考えたら世界を動かせるレベルの能力が四つ揃っている。これだけの力があれば、元の世界に帰る方法を探すことも、この世界で生き延びることも、なんだってできるはずだ。


「聡くんは?」


 清子が聞いた。


「空想の固定化、らしい」


「なにそれ」


「俺も分からん。使ってみたけど何も起きなかった」


「ふーん」


 清子はあっさり興味を失った。そして立ち上がり、テーブルの上に紙を広げた。


「じゃあ作戦会議始めるわよ」


「待て、俺の能力の話は」


「後でいいじゃない」


「お前が聞いてきたんだろ」


 清子はすでに羽根ペンを手に持っていた。聡の抗議は届いていなかった。


「手始めに何をやるか」


 清子が全員を見回した。


「口裂け女よ」


 即答だった。


「理由は?」


 聡が聞くと、清子は当然とばかりに答えた。


「私が変身できるから。シンプルが一番よ」


 確かにシンプルだった。シンプルすぎて頭が痛くなった。


「変身って、どこまで変身できるんだ」


「なんでも。背丈も、顔も、声も」


「……それ、普通に考えたら国家レベルの能力じゃないか」


「口裂け女に使うわ」


「もったいない」


「いいのよ。やりたいことやるのが一番」


 清子はそう言って紙に何かを書き始めた。聡は反論を諦めた。


「で、具体的にどうする」


 田中が前のめりになった。道具の話になると目の色が変わる。


「まず私が口裂け女に変身する」清子が言った。「夜、村の外れで出没する。それを村人に目撃させる」


「演出は俺が担当します」吉田が手を挙げた。「霧とか、不自然な影とか、足音とか。雰囲気作りは任せてください」


「小道具は?」田中が続けた。「マスクが必要ですよね。口裂け女といえばマスク」


「そうね。あとハサミ」


「ハサミ」


「『私、きれい?』って聞いてマスクを取ったとき、ハサミを持ってるのが口裂け女よ」


 田中は即座にメモを取り始めた。この男は本当に道具の話になると人が変わる。


「新田は?」


 清子が新田を見た。


 新田は静かに答えた。


「目撃情報が出た翌日から、噂を流します。『夜道で不気味な女を見た』『マスクをした女が立っていた』。数日で村全体に広がるように調整します」


「調整って、どうやって」


 聡が聞くと、新田は少し考えてから答えた。


「人には、信じたい話と信じたくない話があります。信じたい話は勝手に広がる。私はそのきっかけを作るだけです」


 聡はその答えの意味を考えた。考えたが、よく分からなかった。ただなんとなく、この男に逆らってはいけない気がした。


 準備に三日かかった。


 田中が村の鍛冶屋から素材を調達し、錬金術でマスクとハサミを作った。マスクの出来は本物だった。というより、本物以上だった。白くて滑らかで、見ているだけで不安になる質感がある。


「どうやって作ったんだ」


「錬金術です」


「錬金術でマスク」


「錬金術でなんでも作れます」


 聡は田中の持つ白いマスクを見た。国家レベルのチート能力がマスク製造に使われている。何か間違っている気がしたが、指摘する気力がなかった。


 吉田は三日間、村の外れを歩き回って地形を確認していた。どこで霧を出すか、どこに影を落とすか、足音をどこから響かせるか。演出家としての本能が全開になっていた。


「吉田、楽しそうだな」


「楽しいです」


 即答だった。


「お前、ホラー演出の才能あるんじゃないか」


「そうだといいんですけど」吉田は少し照れたように笑った。「幽霊とか怪異とか、本当は好きなんですよね。でも現実にいると普通じゃないですか。だからせめて、怖いものを作りたくて」


 聡は少し意外だった。吉田がそんなことを考えていたとは思わなかった。


「じゃあこの世界、辛くないか。怪異が普通にいて」


「辛いですよ」吉田は笑ったまま言った。「でも部長が作るって言うから。それなら俺、全力でやります」


 聡はそれ以上何も言えなかった。


 作戦決行は三日目の夜だった。


 深夜、村の外れの街道。民家はなく、街灯もない。月だけが道を照らしていた。


 聡は物陰から様子を見ていた。本当は参加したくなかったが、清子に「見張り役」と言われたので仕方なく来ている。見張り役が何を見張るのかは不明だった。


 吉田が先に動いた。


 街道に薄い霧が立ちこめ始めた。月の光が霧に散乱し、道全体が青白く染まる。どこからか、足音が聞こえ始めた。一定のリズムで、しかし近づいてくる方向が分からない。


 聡は思わず鳥肌が立った。


 怖い。普通に怖い。


 その時、街道の向こうに人影が現れた。


 女だ。


 白いコートを着て、白いマスクをつけている。長い黒髪が月明かりに光っている。立っているだけで、そこだけ空気が違う。


 清子だ、と聡は分かっていた。分かっていたが、それでも怖かった。


 やがて村の方から、酔った様子の男が街道を歩いてきた。


 男は霧の中の人影に気づき、立ち止まった。


 女が、ゆっくりと振り返った。


「……私、きれい?」


 声が低く、静かに響いた。


 男は固まった。


「き、きれいだ」


 女はマスクを外した。


 耳まで裂けた口が、月明かりに晒された。


「これでも?」


 男の悲鳴が夜の村に響き渡った。


 翌朝から新田が動いた。


 村の酒場、井戸端、市場、広場。人が集まる場所を静かに回り、会話に混ざり込んだ。余計なことは言わない。ただ一言だけ。


「夜道で、マスクをした女を見たそうですよ」


 それだけで十分だった。


 昨夜の男がすでに話を広めていた。新田はその火に、静かに油を注いだ。


「きれいかどうか聞いてくるらしい」


「マスクを取ったら、口が裂けてるって」


「夜一人で歩いたら危ない」


 噂は村人の口から口へ、瞬く間に広がっていった。


 その様子を酒場の端で見ながら、新田は聡の隣に座っていた。


「早いな」


 聡が呟くと、新田は静かに答えた。


「人は怖い話が好きですから」


「お前は?」


「私は」新田は少し間を置いた。「噂が広がる様子を見るのが好きです」


 聡はその横顔を見た。何を考えているのか、やはり分からなかった。


 五日後。


 村に新しい目撃情報が出た。


 清子たちが何もしていない夜だった。


「……あれ?」


 聡は新田を見た。


 新田は静かに頷いた。


「噂が、一人歩きを始めました」


 聡は少し嫌な予感がした。


 その予感が正しかったことを、聡はもうすぐ知ることになる。

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