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第十四話 中庭①

 


「夜が明けたか」


 移動の魔法を使い瞬時に、王城の中庭へと辿り着いた。王城を出た時は真夜中だった。何時の間にか夜が明け、フランス式庭園の様に整えられた中庭に降り注いでいる。

 本来ならば自室に移動するのが適切だ。しかし、王城に勤める臣下たちには、弟の存在は知られていない。俺の自室には、俺の世話を焼きたい者たちが押し寄せている。穏やかでのんびり生活希望の俺としては大変嬉しいのだが、色々と煩わしいものがあるのだ。それ故に毎日自室に結界を張り、誰も入れないようにしてある。

 加えて、今は大切な弟が居るのだ。無駄な詮索や混乱は避けるべきである。弟に王城を怖い所だと思われるのは大変よろしくない。国王となり、この国を治める弟が王城に苦手意識を持たれることは絶対に回避しなければならないのだ。


 しかし王城において人目に付かずに、弟に好印象を与えることが出来る場所は余り多くない。その様な理由があり、中庭に移動したのだ。廃墟にて弟は植物系の魔法に興味を持っていた。何か弟が王城を気に入る理由になれば良い。


 更に言えば、この後会う予定がある人物たちとの、集合場所も此処からの方が近いのだ。


「ヴィンセント、着いたぞ。目を開けてみよ」


 魔法を解き浮いていた足を地面に着けると、腕の中の弟に声をかける。


「……は、はい……」


 弟は初めての移動魔法の使用に多少、不安があるようだ。俺にしがみ付いたまま、顔を上げない。魔法に興味があるが、移動には少し抵抗があるのだろう。


 だが今回は弟に負担をかけない様に、弟に保護魔法をかけ移動魔法を使用した。通常の移動魔法は、使用者に空間移動の抵抗や空間把握に影響を及ぼす。簡単に言えば、乗り物酔いの様な症状に見舞われるのだ。魔法の使用者によって、その症状の度合いには差が出る。

 俺は弟を回収することを念頭に置いていた。その為、俺の移動魔法はそれらのデメリットを全て排している。その上、安全策として保護魔法をかけているのだ。そのことからも、弟が単に移動魔法のデメリットに影響を受けていることは考え難い。何故、顔を上げないのかは分からない。


 いずれにしても、弟は将来の国王になる身である。王座を狙う不届き者に命を狙われる可能性もあるのだ。そういう際には、移動魔法を使い窮地を脱する必要がある。今のうちに移動魔法に慣れていてもらわなくては困るのだ。

 勿論、弟が座るべき王座を狙ってくる不届き者は俺が排除する。しかし弟、自身で自衛と逃走手段を確保しておいて欲しいのだ。有事の際は俺が弟の下に駆け付けるが、非常事態を想定して動くのが正しい。念には念を入れておく必要がある。


「案ずるな、ヴィンセント。美しい花が咲いているぞ」


 弟の背中を軽く叩き、中庭の様子を伝える。庭師たちが丹精込めて育てた花々が咲き乱れ、朝日に照らされ光り輝いているのだ。クズな俺でも素直に美しいと思う光景である。


 本当に弟が草花に興味があるかは分からない。しかしこのまま、俺の腕の中で固まっていても仕方がないのだ。加えて、弟は肌が青白い。健康の為にも朝日を浴びた方が健康にいいのである。

 俺はニート生活を目指すことで頭が一杯で、子どもの関心を引くような話題を話すのは苦手である。


「……はい……っ!? すごい!」


 俺に促され、観念した弟が恐る恐る顔を上げる。そして中庭に咲く花々を見ると、喜びの声を発した。如何やら、弟は草花に興味があるようだ。それは良い傾向である。

 草花は薬草にもなり、いざという時は食料にもなるのだ。弟には何としても生きて、国王になってもらわなければならない。緊急事態の生きる術を身に付けさせるには、好都合である。

 更に植物系の魔法は、水魔法に続き汎用性が高い。優先させて習得させた方がいいだろう。弟が安全に生き残る条件が整っていく。


「気に入ったか?」

「はい! すごいです! あ! ちょうちょう!」


 年相応に目を輝かせる弟の頭を撫でた。元気で何よりである。俺は満足気に弟の小さな頭を撫でた。


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