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第十三話 呼び名②

 

「……お? おうじょう?」


 弟は俺の言葉に首を傾げた。俺は何か変なことを言っただろうか。流石に王城という言葉を知らないわけではないだろう。いや、この環境で育ったのだ。知らない可能性もあるが、今は説明を続けることにする。


「そうだ。私の名は、アレクサンダー・グランフェルツ。この国の第一王子だ」

「……え? ……」


 俺が自分の名前と、身分を告げた。すると弟は赤い瞳を大きく見開き固まる。俺も転生した際に王族であり、王子であると知った際には大きく驚いたものだ。


「そして……ヴィンセント、其方は第二王子である」

「……え……えっと……」


 理解力の高い弟には不要かと思ったが念の為、第二王子であることを加える。俺の言葉を聞きくと、弟は忙しなく小さな両手を動かし困惑と動揺を処理しているようだ。


「いい機会だ。名乗ってみよ」

「あ、あにうえ!? え、えっと……」


 早速、名前を名乗る練習を弟に提案する。しかし弟は驚きながら、困惑の声を上げた。


 学習には、学んだことを復習し理解させる必要がある。実際に発音することにより記憶の定着も促すのだ。一度も練習をせずに王城に帰り、名乗るイベントが発生する可能性もある。そういう状況になれば、弟の置かれた立場は良くない。

 誘拐され帰還した第二王子の存在を疑う者は出てくるだろう。大抵はそういう話を振るのは、その存在を良く思わない輩が多い。相手に恥をかかせたいか、存在を認めたくないかである。どちらにしろ、碌ではない理由だ。その様な悪意を持った者たちに、屈する必要も筋合いもない。

 だが、俺が牽制するのは簡単である。しかし、悪意を持った者たちは執念深い。弟自身に撃退させる方が、逆に弟の権威付けになり得策である。

 つまり、この名乗りの練習は大事だ。悪意ある者たちに名を訊ねられて、対応することが出来なければ何故練習をしなかったのか後悔するだろう。後悔など、弟を誘拐されたあの時だけで十分である。


「如何した? 自身の身分を知り臆したか?」

「え! ち、ちがいます……。い、いきなりで……その……」


 弟のことは褒めて伸ばす教育をする方針だ。だが弟の躊躇する様子に、俺は弟に圧をかけることにした。普通の優しい兄ならば、優しく手助けをするだろう。しかし俺はクズな兄である。上下関係は明確に教え込まなくてはならない。何せ弟はラスボスである。弟が本気になれば、クズな考えしか取り柄がない俺など瞬時に排除されるだろう。それでは困るのだ。 

 加えて、この国の第二王子と知ったからと、今更逃げ出すことは許さない。俺のニート生活には、弟の存在が不可欠なのである。


「何も案ずることはない。兄である私が付いている。ヴィンセント、弟である其方の名乗りを聞かせてくれ」


 もう一度、俺の存在を意識させる。そして名前を名乗る練習を再度要求した。


「……っ! は、はい! ぼくは、第二王子のヴィンセント・グランフェルツです。」


 弟は意を決した様に、赤い瞳を燃え上がらせると名乗りを一度で成功させた。一度しか聞いたことがない家名を、一回で言えるとは感心である。国名と同じであるから、言い易かったのかもしれないが兎に角、練習が上手くいったことに満足だ。矢張り弟は優秀である。


 俺のようなやる気もなく弟に全てを任せ、楽をしようと考えるクズよりも弟の方が国王に向いているだろう。


「良く出来た。さあ、王城に帰ろう」

「はい、あいにうえ!」


 名乗りの準備も整った。俺は弟を抱えると、移動魔法を使い廃墟を後にした。




ここまでお読みいただきましてありがとうございました!

物語はまだまだ続く予定なのですが、一旦ここで区切ります。

機会があれば続きをかけたらと思っています。

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