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二度目の揺れ

 高天原の商店街は地上の物と変わらない。

 ただし見たことのあるような店もあれば、京都の古いお店の様な所や、見たことのない不思議な店も在る。

 道はもちろんコンクリートではなく石。

 そんな商店街を、りょうから京子、樹、巽、羽華の四人は並んで歩いて来た。

 午前中は新入生の貸し切りで、新入生以外はお店の人しか姿を見ない。


「ねぇ、部屋に置いてあった手紙読んだ」


 京子が話を切り出す。


「制服の事とか、書いてあったやつだよね?」


 樹が聞き返す。


「そう。小(そで)が春秋用と夏用が二枚ずつ。それと褞袍どてらが二枚」

 

 京子がそう言うと、羽華が続ける


クラス別に、学年で期末テストのトップは色が変わるらしいけど……」

「それより、形代で本当に買い物出来るのかよ。コレ軽いけど、持ち歩くの面(どう)なんだよな」


 巽がそう話を変えたので、樹が巽にお願いする。


「ねぇ。その剣、ボクにちょっと持たせてくれない? 男としては、剣とか持ってみたいじゃん」

「良いぜ、ほら」


 そう言って巽は形代を、樹に投げ渡す。

 すると……


「うわ。ちょっと巽君、この剣、大きなジュースぐらい重いんだけど」


 受け止めた樹がそう文句を言い、巽は不思議に思い口に出して言う。


「本当か?俺は缶ジュースぐらいの重さしか感じないけど」

「それじゃ京子、私の剣持ってみて」


 巽の言葉を聞いて、羽華が京子に自分の形代を渡す。


「確かに、大きなジュースぐらいの重さは有りそう」


 京子がそう言って七星剣を返すと、樹も巽に宝剣を返した。

 その後、樹が言う。


「みんなのはともかく、ボクは形代落としそう」

「確かに、樹君のは大きな消しゴムぐらいしかないし」


 京子がそう言うと、羽華が京子に注意する。


「京子も気を付けてね。ポケットの中に入れておいても、こわれないとは思うけど。形代ないと買い物出来ないみたいだし」

「確か今は六千円分、点数が入ってるんだっけ。二千円分は文(ぼう)具と歯みがきセット用で」


 確認する様に京子がそう言うと、巽が他三人に聞く。


「オレ、こう言うの親任せだったんだけど。使える金額ってふつうなのか?」

「人によるんじゃない。女の子の方がお金かかってそうなイメージだけど」


 樹がそう答え、羽華はくすりと笑って言う。


「今日は十二時から食堂でご飯だし、早く買い物に行きましょう。実は私も子供だけの買い物って初めてで、ちょっと楽しみなの」

「それじゃ、最初は文(ぼう)具店に行かない」


 京子の提案に三人はうなずいた。

 しばらく歩いて四人は、文(ぼう)具店を見つけて入る。

 同級生たちがあちこちで商品を手に取り、楽しそうに話している子もいれば、なやんで固まっている子もいる。


「けっこう人いるね」

「思ってたより空いてるわね」


 文(ぼう)具店に入って樹と羽華が同時にそう言い、京子がまた提案をする。


「別々に見て回らない。趣味は違いそうだし」


 こうして四人は別々に文(ぼう)具を集める事にした。

 出入りぐちの近くに置かれた、小さいカゴを持って。


 各種ノート、シャープペンにしん、消しゴムや定規……

 基本的なものをそろえた後――


 樹が六色セットの色鉛筆(えんぴつ)に手に伸ばすと、同じく色鉛筆(えんぴつ)に手を伸ばした羽華と手が触れる。


「きゃぁ」


 女の子の悲鳴の様な声で驚いた樹に、羽華も少し驚いてたずねる。


「ゴメンなさい樹君」

「んんん。こっちも驚かせてゴメン」


 そう言った樹だが、顔や態度は誰が見てもテレていた。


 羽華は樹が自由帳を持っているのに気がつき聞く。


「絵、くんだ。でも学園から改めてクーピーもらえるわよね」

「ノート書くにも使うんだよ。それにクーピーは筆箱に入れておくと、よく折れてるし。羽華ちゃんは何で買うの?」

「私はコレに使おうと思って。もちろんノート取るのにも使うけど」


 そう言って羽華が樹に見せたのはプロフィール帳。


「女の子がたまに教室で回してるヤツだよねそれ。でも高いんじゃなかったけそれ?」

「出来るだけ安いヤツにしたの。それに私勉強得意だから、使った点数はテストで取り戻すつもり。他の子と話すきっかけにもなりそうだし、樹君も後で書いてね」


 そう言いながら羽華は、六色セットの色鉛筆(えんぴつ)を取って樹に渡し、自分も色鉛筆(えんぴつ)をカゴに入れる。

 その直後、会計を済ませた二人は京子、巽と合流し、四人は文(ぼう)具店を後にした。

 ちなみに商店街での会計方法は、黄緑の招きねこに商品を見せ、ねこの持っている小判に形代を近付けると、形代に貯められた点数で会計がされる。

 会計をせずに店を出た場合、どの店でも黄緑の招きねこが黒く変わり、容(しゃ)なくおそって来ると、新入生用のポスターが文(ぼう)具店にはられていた。

 その後、コンビニで歯みがきセットを買った四人は、まだ時間が有る事を確認し、そのまま商店街を見て回ることにする。

 商店街には色々な店が在った。

 電気屋から中古ゲームショップ。コンビニにお菓子かし屋さん。学園の職員のための食事処まで在る。

 中にはどう考えても個人経営のあやしいお店も在るが、そう言うお店は決まって閉まっていた。


 その後、四人は一度(りょう)に戻り、荷物を置いてから再び合流する。

 食堂へ向かうと、その広さは学校の体育館ほど。

 すでに多くの子供たちが集まっているし、ふつうに食事に来ている上級生や、手伝いに来ている上級生の姿もちらほら見える。


「新入生のみんな!」


 メガホンを持った食堂のおばちゃんの声が響く。


「今日はサービスでお昼はハンバーグ、夕食にエビフライを付けてあげる! でも明日からは点数払ってね!」


 そして食堂のおばちゃんは一度呼吸を整え、さらに説明を続ける。


「ごはん、ふりかけ、みそ汁は基本タダだよ。でも大きくなりたいなら、勉強ガンバって、点数でおかずを買ってちょうだい!」


 そんな説明を聞いた後、四人は一緒しょに昼食を受け取り空いている席に座った。


「「いただきます」」


 そして一口。


「おいしい」

「あぁ、ふつうに美味い」

「手作りハンバーグ何て、久しぶりに食べた」


 京子、巽、樹がそれぞれの感想を言う中……


「お肉、おいしい」


 羽華だけ、少し言い方が違った。

 4人の食事が終わった頃……


「ねぇ。この声、何の鳥の声かな」


 樹がそう言うと、京子が不思議そうに聞き返す。


「そんなの聞こえないけど」


 ――ん?


 樹が京子の言葉を不思議に思うと、近くを友達と、おぼんを持って歩いていた新入生の女の子が話し掛けて来た。


「君にも聞こえるの? 『チョッチョッ』って鳥の声」

「て事は、ボク以外にも聞こえてる子いるんだ」


 樹の言葉で安心した女の子は、うれしそうにお礼を言う。


「良かった。友達に成った子は、聞こえないって信じてくれなくて」

「それなら、ここに居るみんなに聞いてみましょう」


 羽華はそう言って立ち上がると、大きな声で質問をする。


「みんな聞いて。鳥の声が聞こえてる子は居る?」


 するとしばらくの沈黙の後、一部の新入生……

 正確には、玉(クラス)の子供たちから、鳥の声が聞こえると答えが返って来た。

 そして――


「「きゃぁぁぁぁ」」


 天磐船で起きたゆれがもう一度起きた。


  ガラン ゴトン


 床に落ちた食器はプラスチックなため、こわれる事はなかったが、食堂の床は悲さんな状態。

 不安が広がる中――


「大丈夫よみんな」


 明るい声がひびく。

 その声は中学生ぐらいの、かわいらしい女の子。


「だれかか意地悪で、イタズラしてるだけだから」


 ――!


 新入生たちがその言葉に驚いていると……


「たまに居るのよ、こう言う生徒。ねぇ、食堂のおばちゃん」


 その上級生は、食堂のおばちゃんにそう話しを振った。


「まったく、やんちゃもほどほどにして欲しいんだけどね」


 食堂のおばちゃんがそう答えたので、新入生たちの不安は少し落ち着いく。

 その様子を見て、羽華はこっそりほほ笑んだ。



   転 



 夕暮れ時。

 理事長室。

 理事長室は囲炉裏いろりのある静かな部屋。

 その内装はお寺の本堂の様であり、ご神体の代わりに聖徳太子の大きな肖像画がかざられている。


「ご報告します」


 小さな八咫烏が頭を下げる。


「新入生への制服は配布完(りょう)。ランドリーの使い方は教えました。食堂の清掃も完(りょう)していて、夕食には問題有りません。使徒たちも落ち着いています」

「では」


 安徳学園長がゆっくり口を開く。


「ゆれの件は?」

「天磐船のゆれについては、母上は関与していないとの事。お昼のゆれは、生徒たちに話しを聞いたところ、食堂でのみ起きた事案の様です」

「……なるほど」


 少しの沈黙。


「つまり、新入生の周りで事が起こっていると言う事か…… 天照あまてらす様の意見は?」


 安徳学園長が八咫烏に聞くと、八咫烏は首を横に振り答える。


「『私にも分からない』だそうです」


 困った安徳学園長は、聖徳太子の肖像画を見上げた。


「虚は実を引く。本当に悪戯いたずらなら良いのですが」


 そしてそう語りかけた言葉には、安徳学園長の不安が隠されている。



   転 



 木造平屋の男子(りょう)、樹と巽の部屋。

 午後八時過ぎ。

 夕食を終え、学年別の浴場とランドリーでお風呂と洗濯を終えた樹と巽は、テーブルを移動させて布団をしき、樹が持ち込んだゲーム機を、テレビモニターにつないでゲームを遊んでいた。


「やった、三勝目」

「くそっ、緑じゃなくて赤が出てれば外れなかったのに」


 その時。


「樹君、巽君。羽華だけど入れてくれない?」


 出入りぐちの向こうから声がした。


 ――え‼


 二人は驚くと、慌てて乾燥かんそうした洗濯物を勉強机の影に隠す。

 そして樹が羽華に返事を返す。


「いいよ!」


 すると出入りぐちの引き戸がひとりでに開き、パジャマ姿の京子と羽華が入って来る。


「何時だと思ってんだよ!」


 はずかしさを隠すため、巽が京子と羽華にそう怒ると、


「ごめんなさい」


 京子はすぐ謝るが、


「決まり破ってないでしょ?」


 羽華は平然としていた。


「なんで来たの?」


 樹の質問に羽華は答える。


「京子から、樹君がゲーム機持ってるって聞いて。やらせてもらおうかと思って」


 そしてプロフィール帳を差し出し続ける。


「コレ、書いくれるわよね」


 樹と巽は羽華に押し切られる形で、四人でゲームをする事に成った。

 しかしコントローラーは二つしかないため、ゲームをしていない二人は、昼食後の自由行動で、それぞれ何をしていたかを説明している。


 樹と巽は、近くの森を探検していたら上級生にそうぐう。

 その上級生から高天原を歩き回るには『それぞれの場所を守る妖怪ようかいをどうにかする必要が有る』、と聞かされたうえで、近くをなわ張りにしていた小鬼と話し合って、どうにかするを実(せん)して見せられた。

 京子と羽華は、制服の小(そで)を着て同級生の部屋をめぐっていた。

 小(そで)を理由に友達を作ろうと言う羽華の提案を建前に、京子は巽をビンタした事をみんながどう思っているか、探っていたのは秘密。


 京子が樹に自分たちの話しをしていると、羽華がゲームをしながら樹と巽に質問をする。


「そう言えば二人とも、制服の色は何。気に成るから教えて。私は白」

「私は空色」


 京子がそう続けたので、樹も巽も答える事にした。


「ボクは青緑」

「オレは黒」


 巽の答えを聞き、羽華がにやっと笑う。


「そうだ巽君知ってる?」


 羽華の突然の言葉に、巽は反射的き聞き返す。


「何だよ」

「黒って、中華だと女の子の色なのよ」


 ――⁉


 今までゲームで勝っていた巽だったが、羽華の言葉にショックを受け、操作をミスして負けてしまう。


「やった」


 羽華は嬉しそうにそう言うが、巽が余りにも落ち込んでいるので心配に成り、申し訳なさそうに聞く。


「巽君、もしかしてきれいな事気にしてた」


 その言葉に、樹は巽を心配する。

 しかし巽は少し考えてから、はずかしそうに説明を始めた。


 前の学校で、顔の事で同級生の男の子とよくケンカをしていた事。

 それを理由に男らし行動を取りたいと思っている事。

 アイドルをチャラいと思っている事。


 京子は何で巽が鏡(クラス)が嫌なのかを理解した。

 そして京子がアイドルの人たちも、何かを表現する為に頑張っていると巽を説得すると、巽はそれに『分かった』とだけ返事をする。


 羽華は立ち上がると言う。


「ゴメンなさい、そろそろ帰るから」


 自分の言葉が相手を傷付けた事を理解しているから。


「待った!」


 しかし巽がそれを呼び止めた。

 そして慌ててプロフィールを書いて羽華に渡す。

 それを見た樹も、書き終えていたプロフィールを羽華に渡した。

 羽華は二人のプロフィールに書かれているあるこう目を見て、プロフィールをプロフィール帳にしまう。

 それから笑顔で京子の右(うで)をつかみ、


「それじゃぁ、また明日。学園の校舎で会いましょ」


 と言って、京子と一(しょ)に部屋を出て行った。


 女子(りょう)への帰り道。

 京子が羽華に『どうしたの?』と聞くと、羽華は歩きながら京子に言う。


「少し自分で考える時間をあげましょう。女の子が二人もいたら困るだろうし」


 羽華は樹と巽の、プロフィールの夢の欄に書かれていた文字を思い出し、心の中でクスクス笑っている。

 

 ――かわいいわね。


 巽のプロフィールの夢の欄には、急いで書いたからか全部ひらがなで、


“おとこらしさをひょうげんできるようがんばる”


 樹のプロフィールの夢の欄には、


“友達を助けられる人に成りたい。”


 と書かれていた。




 こうして子供たちの、高天原での最初の一日は終わった。


 真面目だが、急な出来事に上手く対処できない京子。


 大人しいが友達思いで、感性の強い樹。


 容姿にコンプレックスを持つ巽。


 これから高天原学園での、本当の生活が始まる……。




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